第十話 抑え、駆け抜けて

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読了時間目安:17分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 「ファルツェア、ココがそうなんだな」
 「そのようだ」
 「……だけど門番にあんなことしちゃって、良かったんですか? 」
 「それが任務というものだ。……だが鍵がかかって――」
 「その事なら、私に任せてくれたまえ」
 「……何なんですか、それって……」
 「潜入中の情報屋が送ってきた代物なんだが、ココの認証キーだそうだ」
 「こっ、ここの? だがファルツェア? そんなものが何故……」
 「さっきも言ったが、ココに潜入中の情報屋から送られた物だ。今回はその情報屋の――」

――
―――
――――




 「……そうだ。どのみち話さないといけなんだ、けど、僕の事をもう少し、話すよ」
 
 私の一部になったらしいエーフィの彼、トゥワイスからいろんな事を教えてもらった私は、なんとなくだけど自分の置かれている状況を理解できた気がする。今の現実での私は“ルヴァン”に捕まって、生物改造されている真っ最中なんだと思う。それもつぅわいすとは違って、ごく一般的な戦闘型。彼の話によると、私は最低でもAB型。尻尾も最低でも二本になっていて、場合によっては能力も付けられるかもしれないらしい。もしそうなったら、私はトゥワイスと入れ替われるようにしてあげたいけど……。

 それである程度話のきりがついたから、トゥワイスはこう提案してくる。そういえば彼の事は殆ど聞けてなかったから、丁度良いのかもしれない。私も彼と一心同体? になるわけだから是非とも知っておきたい。情報屋だからSE型について知りたいだけじゃないの、って言われたら何も言い返せないけど……。

 「トゥワイスの? 」

 「うん。そう、だよ」

 するとトゥワイスは、自分の事を順を追って話し始める。この空間は私の意識の中みたいだから、イメージしたことがそのまま空間に反映されるらしい。だからここまで真っ黒な空間だったけど、トゥワイスがイメージし始めたのか、黒から変化が現れ始める。

 「……この研究所の“生産課”って、知ってる? 」

 「“生産課”? 初めて聞いたわね」

 するとその場所なのか、“ルヴァン”の“研究室”に似た風景になる。私はこの場所を知らないけど、彼の話によると、この施設のどこかにはあるんだと思う。……確かに見た事はないけど、つい最近、どこかで見たような……。

 「多分ここの研究員の殆どが知らない、からね。そこで僕達、SE型は創られたん、だよ」

 「つっ、創られた? 」

 私は彼の口から出た言葉に、思わず声を荒らげてしまう。てっきりどこかで捕まったかと思っていたから、かなりの衝撃を受けた。創られた、っていうのがどこからなのかは分からないけど、この言い方だと、少なくとも捕まって改造された、っていう範疇じゃないんだと思う。

 「うん。生み出された、って言った方が良いの、かな? 生まれる前に遺伝子を操作されてね……、他にも沢山のイーブイが創られた。生まれたイーブイ達のデータを取って……、これが厳選、って言うのかな? 性能が良いのだけ残して、残りは……、無理矢理進化させられて、部位を採取された後に解体された」

 「……」

 正直言ってあり得ない……、命を粗末に……、目を覆いたくなるような事だけど、トゥワイスが言った事は否定できない。今までずっと気になっていたけど、改造される子達に移植される尻尾とか……、そういうものの出所は何一つ分からなかった。だけど話して……こうして見せてくれている今、何故か心の中にかかっていたモヤが腫れたような気もしている。確かに今トゥワイスが、その厳選から漏れた子達をバラバラにしている場面を見せてくれている。尻尾とか耳、頭を切り落とされる時に言葉にならない悲鳴を上げてるから、耳と目を覆いたくなるけど……。

 「それで残った僕達……、今のSE型の五人がそうなんだ、けど、生育を早める液体に入れられて……、無理矢理育てられた……。だから、僕達の齢……って言うんだよね? どのくらい入れられてたか分からないから、リツァが思ってるよりも、僕達は凄く小さい子供なんだ、と思う」

 「液体……、ってことは、機械に入ってる緑色の液体が、それね? で、中のイーブイ達が……」

 「うん。それで生育が終わった順番に出された。……一緒のタイミングで育てられてるから、僕達SE型は兄弟みたいなもの。順番に番号が付けられたから、01は僕のお姉ちゃんになるの、かな? 」

 「ということは、私も……? 」

 「うーん、どうなんだろう、ね」

 兄弟なんて驚いたけど、まさかそんな風にして育ってきたなんて思わなかった。“ルヴァン”で生まれたならデータがありそうだけど、私が配属された研究三課の情報室では見つけられなかった。……確かにトゥワイスとマリー達、SE型のデータはあったけど、どれも性能とかそういう数値ばかり……。私の探し方が悪い、って言われたら何も言い返せないけ――。

 「……っ! うぅっ……! 」

 「リツァ! そっ、どうし、たの? 」

 ここ最近見たデータのことを思い出そうとしたけど、急に頭が割れるように痛くなってきた。思わず私は両前足で頭を抱え、伏せるような感じで痛みを堪える。本当に何でこんな頭痛がし始めたのか……、分からないけど……、少なくともトゥワイスが……イメージしたのではなさそう……。

 「分から……ない……」

 「まっまさか……、“狂化”が始まったん、じゃあ……」

 「“狂化”……、これ……が……? 」

 まさかとは思ったけど、トゥワイスが頭痛の正体を教えてくれる。“狂化”自体は知ってるけど、もっと早く気づくべきだった……。確か“狂化”はAC型、AB型に施される最終処理で、いわばポケモンを凶暴に、兵器たらしめる最終工程。……これで私がAB型だって分かったけど、今はそれどころじゃなさそうね……。

 「そう、だよ! ……リツァ、今から僕が“思念”で干渉して、みる! その間にリツァは……“起きて”! 」

 「起きる……、って、どうやって……? 」

 「意識を集中、させるんだ! ……早くしないとリツァ……、僕達は戻って来れなく、なる! 」

 「ってことは……っ」

 トゥワイスが必死に説明してくれたから、やり方だけは分かった。……だけどその分、私もこの状況に耐えられなくなってきた。今更“狂化”の怖さが分かってきたけど、暴れたい、殺めたい……、今にも暴れ出しそうな気持ちが溢れてきてる。……なら一刻も早く――。

 「……っ! 」

 “起き”ないと!

 「リツァ! 早く! 」

 私は割れるような痛みに耐えながら――

 「今……やってるわ……! 」

 意識を活性化……させてみる……。

 「……急いデ! 」

 暴れたい衝動を……、抑えながら……。

 「分カってル……! 」

 すると――


――――
―――
――




 「……っ」
 「なっ……嘘だろぅ? 」
 「何でこんな時に! 」
 意識を活性化させた私ハ、彼の説明通りに目を覚ます。今私はどこかに寝かされているみタいだけど、ここは多分、どこかの“研究室”だと思う。マだ目を開けて見てみた訳じゃないけど、他の子達と一緒なら、多分私の頭トか足……、全身に電極が着けらレていると思う。寝かされているはずの私が動いたから、ここの課員達は騒然としてるけど……。だけどまだ“狂化”を止められた訳じゃないから――
 「……テレキネ……シス! 」
 業務で覚えた配置を頼りニ、手当たり次第にコードを引き抜いていく……。
 「いっ、今すぐ緊急停止だ! 」
 慌てる声はどれも訊いた事がないから、少なくとモ三課の研究室じゃないと思う。……まだ頭が割れるように痛いけど、それでも私は何トカ立ち上がる。粗方“狂化”に関係するコードは引き抜けたはずだから――
 「……アイアン……テール! 」
 目を開けながら立ち上がり、一気に跳び出す。すぐに尻尾を硬質化させ、一番近くにいたコロトックを叩く。尻尾でたたきつけた時にコロトックを蹴り、立て続けにマッスグマにも攻撃を仕掛ける。
 「“AB588”、まさか眠――ぐぁっ! 」
 「ごめん……ナさい。だけど、許しテ……! 」
 すると二人とも、軽い脳しんトうを起こして崩れ落ちる。私ハ本当は穏便に済ませたかったけど、今はとにかくこの場所から逃げたい。何で課員が二人しかいないのか分からないけど、着地した私は、ひとまず自分の状態を確認する。近くのパソコンに表示されているはずだからそこを見ると、ある意味見慣れた表示がいくつかある。
 「“AB588”、これが私のコード番号ナノね……」
 私の管理番号以外に、エラー表示が出てるけど行程が事細かに記されている。この画面の表示によると、トゥワイスの予想通り、私は戦闘乙型に改造サれたらシい。本当に“狂化”処理がされている途中だったのか、進捗を表すパーセンテージが表示されている。その表示によると、私の“狂化”は四十五パーセントで中断されたらしい。確か五十パーセントで自我が喪失するはズだから……、本当にギリギリだったのね……。
 『リツァ、無事? 』
 「この声は……、トゥワイス! えエ、私は何とか無事よ! 」
 すると私の頭の中に、トゥワイスの焦った声が響いてくる。一瞬何が起こったのか分からなかったけど、よく考えたら普通の事だと思う。トゥワイスの“思念”が移った尻尾が移植されてるから、文字通り彼は私の一部になってるはず。まだ直接見たわけじゃないけど、しっぽの感覚に違和感があるから、本当に尻尾の本数が増えてるのかもしれない。
 『よかった……。だけどごめん。僕の本体が無いからなのかな……、干渉、出来なかった』
 ひとまず危機は脱したと思うけど、このタイミングで彼の申し訳なさそうな声が響いてくる。本体ってことはトゥワイスの体の事だと思うけど、これは彼も想定外だったらしい。
 「気にしないデ」
 だから私は、彼に心配かけまいとこう声をかけた。
 「……トゥワイス、ひとまずここから逃げましょ? 」
 『逃げるって、どうやって』
 とりあえず私の事はどうにかなったから、次の事を考えないといけない。何で課員が二人しかいなかったのかは分からないけど、それは昼休み中だから、って事も考えられる。そうなるとすぐ誰かが戻ってくるから、逃げようにも逃げられなくなる。生物兵器の私が処理中に暴れるのは大問題だけど、そうも言ってられないわね。
 「分からないけど……やルしかないわ! 」
 これといって何も考えてないけど、このチャンスを逃すと逃げられなくなりそう。だから自分に言い聞かせるって言う意味を込めて、大きな声をあげる。それからすぐに四肢に力を込め、唯一ある研究室の出口めがけて駆けだした。
 『分からないって、どうするの? 』
 確かに彼の言うとおり、扉が閉まってるからここから出られない。だけど流石にコレは、一応考えてあるつもり。
 「見てて。……“Rehydle”」
 課が違うから分からないけど、私はダメ元で習った魔法を唱えてみる。すると生物兵器にされてもちゃんと使えるらしく、ひもを通した社員証が現れてくれる。それをテレキネシスで浮かせ……。
 「……良かった、開いたわ! 」
 扉の側の端末にかざす。するとピッと短い音がし、すぐ後に錠が外れる音も聞こえてきた。
 『凄い……。捕まったら持ち物全部回収されるはず、なのに、どこに隠し持って、たの? 』
 「“リフェリア”の古い魔法でね、見えないところに隠してたのよ」
 ロックが外れたから、私はすぐに研究室から跳び出す。出る時に扉の文字を確認したら、そこには“第二研究室”って書かれていた。ということはつまり、私が処理されていた場所は九時の位置。私が配属された研究室の二つ隣になるわね。
 『魔法……? 』
 「ええ。脱出してから話すわね」
 ひとまず今いる場所が分かったから、私はすぐに走り始める。これと言って行く当ては無いけど、知っている三課の区画ならどうにかなると思う。出来ればホムクスさんには見つかりたくないから、最悪戦う事もいとわないつもり……。六時の位置にある出口目指して――
 「りっ、リツ? 」
 「シャサ! 」
 目指してはいたけど、私はよく知った人物と鉢合わせになってしまう。丁度三課の情報室の前に来たところだけど、何故かそこには一人のエネコロロ……。私の指導役のシャサが、何故かその扉の前で立ち塞がっていた。彼女はまさか私がいるなんて夢にも思ってなかったのか、マメパトが豆鉄砲を食らった時みたいな顔をしてる。もちろん私もそうだけど、出来れば、会いたくはなかったわね……。
 『えっ、このエネコロロ、まだいたの? 』
 「リツ、病気で寝込ん――」
 「びょっ、病気っ――」
 この感じだとトゥワイスも同じなのか、驚いたような声が私の頭の中に響く。何か凄く嫌そうな感じがしてるけど、もしかしたら彼が生きてる時、何かあったのかもしれない。
 だけどそんな彼とは逆に、私はシャサの事がずっと気がかりだった。いつも優しく教えてくれてたから、潜入中とはいえ凄く助かってた。多分シャサ自身は気づいてないと思うけど、“ルヴァン”の機密になるような事まで話してくれたりもしてた。……確かに騙す事になって申し訳ないけど――
 「寝込んでるはずよね? 出てき――」
 『知り合いみたいだけど、ごめん! 耐えられ、ない! 』
 「て……」
 「……えっ? 」
 シャサは私を問いただそうとしてたけど、何故か急に、私の中から力が沸いてくるような感覚がある。一瞬何が起きたのか分からなかったけど、次の瞬間、シャサはしゃべってる途中なのに崩れ落ちる。二秒と経たないうちに規則正しい寝息が聞こえたから、眠らされたのかもしれない。
 『……“催眠”は使えるみたい、だね』
 「もしかしてトゥワイスが……? 」
 『うん』
 何となくそんな気はしてたけど、シャサはトゥワイスの能力で眠らされたらしい。声が何か凄く辛そうな感じだから、彼が生きてる時に相当辛い事があったのかもしれない。だからもしかすると、これ以上声を聞きたくない、顔を見たくない……、そういう想いで眠らされたのかもしれない。
 『……リツァ、このエネコロロを人質に脱、出しよう』
 「えっ、ええ……」
 私は急な事で戸惑ったけど、この状況で人質を取るのは有効かもしれない。私は今回が初めてだけど、人質は優位にすすめるための条件になる、って情報屋仲間から聞いた事がある。それに偶然だけど、シャサは“ルヴァン”では結構影響力のあるベテラン社員。だから“ルヴァン”とかホムクスにとっても失いたくないはずだから、もし彼と出会っても、シャサを盾にすれば上手くいくかもしれない。恩を仇で返すようで、凄く申し訳ないけど……。凄く後ろめたいけど、私は――。
 「……テレキネシス」
 すやすやと眠るエネコロロを、見えない力で浮かせる。それからすぐ止めていた足に力を入れ直し、一気に駆け出した。
 『リツァ。もしかするとリツァも、僕の機能を使えるかも、しれないよ』
 「わっ、私も? 」
 するとシャサの事で何かを感じたのか、頭の中で彼がこう声をあげる。確かに誰かを眠らせる能力は、トゥワイスがSE型として持っているもの……。だけど無意識とはいえ使ったのは、私。何で作動したのかは分からないけど、この感じだと、トゥワイスが何かをしたのかもしれない。……そういえば今浮かせているシャサが眠らされる直前、急に力が沸いてくる感覚があった。だから多分、そのときにトゥワイスが能力を使ったんだと思う。
 『うん! 今から作動のさせ方を教えるから、よく聞いて? 』
 「ええ」
 『意識を活性化させて、目に力を、入れる。その状態で眠らせたい人の目を見ると、眠らせ、られるよ』
 「……それだけ? 」
 私は技みたいにエネルギーを使うんだと思ってたけど、この様子だとそうではなさそう。普段からテレキネシスを発動させてるからよく分かるけど、技を発動させるのは結構疲れる。だけど聞いた感じだと、トゥワイスの能力は意外と簡単かもしれない。
 『うん。“催眠”が僕が使える機能の中で、一番簡単、だからね。……あっ、そうだ。僕の“催眠”は、好きな時に眠らせた人を起こせる、んだよ』
 「……中々便利そう……? 」
 好きなタイミングで起こせるって事は、使い方によってはかなり役立つかもしれない。これから先あるかどうか分からないけど、情報屋の私にとっては、喉から手が出るくらい欲しい能力かもしれない。リフェリスなら特にそう思うかもしれないけど、今の私みたいに敵に見つかったら、すぐに眠らせて逃げる事が出来る。……本音を言うと、あの日の夜に使えたら、結果が変わっていたかもしれないわね……。
 だけどそう思った矢先、走る視線の先の何かが目に入る。まだ遠いから少ししか見えないけど、あの後ろ姿はどこかで見た事がある。だから私は、その場所へ急ぐために走る足にさらに力を込める。そこにいたのは――




  続く

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