Episode 65 -Pitcher plant-

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読了時間目安:13分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 結晶の神殿目指して大平原へと動き出すえっこたち。イヴァンが運転する暴走モービルに揺られること半日、辿り着いた先に小さな小屋を見つけた一行は、中で宿泊できないかと探索を始めるのだった。
 ワイワイタウンの北門を意気揚々とくぐり抜けて出てくるえっこたち。昨日の会議で説明された通り、その先は果てしなく続く平原、平原、平原、そして平原の光景が広がっていた。


「うわぁ……地平線が見えそうな平原ですねこりゃ……。目的の神殿までどれだけかかるのやら。」
「まあ、これが使えるだけえっこたちのルートよりマシですよ。彼らは狭い山地の道を通るために、自らの足で踏破せねばならないのですから。」

デンリュウが合図すると、耳にギリギリと響くモータ音と共に、何かが猛スピードで接近してくる感じを覚えた。
その方向を見ると、何やらスノーモービルのような乗り物が迫ってくるのが見える。モービルはえっこの目前で急ブレーキをかけつつ前のめりになって停止し、その運転席からサングラスをかけたイヴァンが顔を覗かせる。


「やはりこうでなくてはね。平原でのミッションとあらば、私が存分に腕を振るうという訳だ、ははは!!」
「あー……リーダーの運転やだぁ……ものの2分で吐き気を催しますぅ…………。」

「な、何ですかこれ……!? 何やら変わった乗り物ですが……。」
「特注のモービルですよ。平原はもちろんのこと、湿地帯や悪路でも突っ切ることができる便利な代物でして。ワタシももう歳ですから、平原を歩いて進んだりすると腰が、ねぇ……。」

どうやらイヴァンが運転するこのモービルに乗り込み、道なき平原を進み続けることになるらしい。とはいえ、座席のシャルルは既に苦しそうな顔つきをしている上に、あのネロですら魂が抜けたかのように大人しく放心状態になっている。
イヴァンの運転の荒さは折り紙つきのようだ。


「だ、大丈夫なんですかこれ……。」
「うーん、多分ヤバい。まあ、死ななきゃ安い安い!!」

「あ、ある意味徒歩より過酷な旅になりそうですね……。」
「大丈夫……酔い止めと回復魔法はたくさんあるから……。」

「よ、酔うの前提か……。」

えっことローレルは揃って青ざめた表情だが、フローゼルやメアリ曰く一応死にはしないそうだ。渋々ではあるがえっこたちも座席に腰を下ろし、これでもかというくらいにシートベルトをきつく巻き付けた。

そんなえっこたちの様子を知ってか知らずか、イヴァンは突然エンジンを豪快に空吹かしすると、アクセルベタ踏み急発進でモービルを吹っ飛ばし、後方で聞こえるえっこやローレルやシャルルの阿鼻叫喚さえ聞こえぬ程に、耳をつんざくエンジン音を轟かすのだった。







 もう一体何百km走っただろうか? はるか彼方に見える岩や川を越えるとまた草原が姿を見せ、代わり映えのない景色に辟易した頃に、また山や大岩や川や小さな林などが出現する。

遠くに見えていたそんな景色が背後に消え去ると、目の前にあるのはまた果てしない草原と地平線。そんなことを何度も繰り返す内、太陽はすっかり低い位置までその光を落とし、やがて地平線へとゆっくりその身を沈めていくのだった。そんな折、突然イヴァンはモービルを急停止させる。


「うーん、真っ暗な中の運転はさすがに私も苦手でね。今日はこの付近で寝泊まりしようじゃないか。」
「うぐっ……苦手も何も、ただ力任せにアクセルベタ踏みしてただけじゃないですかーっ!!!! ヤバい、本当吐きそう……うげっ……。」

イヴァンがモービルの鍵を回して取り外すと、やっと解放されたえっこが、大きな目をぐるぐる回しながらそう答えた。
イヴァンの他、フローゼルとデンリュウは何とか無事らしいが、ローレルとメアリはぐったりと疲弊しており、シャルルは完全に失神していた。ネロに至っては、白目を剥いて泡を吹いている。


「ま、見ての通りなーんにもない草原のど真ん中だし野宿だなー。調査団ガジェットに水や食料は入れてきてるし、その点は心配ないぞ。」
「おや? あそこに見えるのは何でしょうか? 何もない草原にしては、少し奇妙ではありますが……。」

デンリュウが指差す先には、暗がりの中にぽつんと何かの建物が見えた。よく目を凝らして見てみると、それは少し古びた小屋のようだ。


「おー、ツイてるじゃんか!! こんなとこに小屋があるなんてよ、まさか民家か? 万が一雨が降っても凌げそうだし、住民がいたら何かしら分けてもらえるかも知んないぜ!!」
「このような場所にポケモンの住む小屋があるなど、聞いたことはないが……。まあいい、廃墟なら廃墟で利用させてもらうだけだ。さあ、あそこまでもう少し、モービルに乗りたまえ。」

「やだー……歩いていきます…………おぇぇ……。」

えっこはその場に膝を付いて嘔吐し始めた。デンリュウは顔をしかめながらも乗り物酔いしたえっこを介抱し、後でえっこと共に徒歩で小屋へ向かうことをイヴァンに約束する。

フローゼル以外が生ける屍と化したメンバーを乗せ、再びモービルがフルスロットルで小屋へと突き進んでいく。


「シャルル、お前何とか歩けそう?」
「い、一応……気を抜いたら吐きそうですけど……。頭がぐるんぐるんしますぅ…………。」

「やれやれ、まだ若いのに情けないな。まあいいだろう、そこの建物に入るとしようか。ごめんください、誰かいますかなー!?」

モービルにもたれかかりながらもどうにかして足を進めるシャルルをよそに、イヴァンは小屋のドアを叩く。コツコツと乾いた木製のドアの音が辺りに軽く響いた後、しばらくの沈黙が辺りを支配した。

よく見ると、小屋には明かりも全く見えず、ぱっと見た感じでは誰かが住んでいるような形跡もない。フローゼルが痺れを切らしてドアに手をかけると、まるで発泡スチロールでできているかのように、ドアは抵抗感をほとんど感じさせることなくたやすく開いた。


「何だぁ? やっぱしこんなとこにポケモンが住んでる訳はねぇか。空き家だよなこれ?」
「うーん、分かりませんね……。入ってみます? 廃墟なら別に寝泊まりしても大丈夫ですよね?」

「一応建造物侵入罪だが、まあ誰も見てないしいいだろう多分。こんな廃墟に立ち入ったところで、誰が取り締まるでもない。」

イヴァンたちは互いに顔を見合わせて首を傾げると、ランプの明かりを点けて真っ暗な闇が大口を開けて待ち構える、廃墟の内部へと進んで行った。


「ひぇわっ!? な、何ですか今の音!!!!」
「おい!! ドアにノブがねぇぞ!! 内開きだから中からじゃドアが開けられねぇ、破壊して出るか?」

「ダメだ……。この扉、内部側は非常に頑丈そうな金属でできている上、刃のようなものがびっしりと付いている……。物理的に破壊することは叶わないかも知れない。それに先程の音、恐らく中からは開けられないように自動ロックがかかる仕掛けになっているみたいだ。」

背後でガタンと響く音に反応し、ランプを扉に向けると、外側のボロボロだった木製の面とは似ても似つかぬ、おろし金のような形の重厚な鉄板が入り口を塞いでいた。

どうやらこの小屋の中に3匹は閉じ込められてしまったらしく、たった今使用したドアはもう用をなさないものと思われる。


「仕方ない、外にいるメアリたちが起きるのを待つことにするか……。 おい、イヴァン? シャルル? どこ行ったんだよ? こんな状況でふざけて隠れても面白くねぇっつーの!!」

フローゼルが慌ててランプで周囲を照らす。しかし、先程まですぐ隣にいたはずの2匹の気配がぱったりと消えていた。

直情的な性格のフローゼルは、すぐに消えた2匹を探すために小屋の中を探索し始める。











 「おーーーい、ローレルー……? 大丈夫か、生きてる?」
「ううっ…………。ああ、えっこさんにデンリュウさん……。モービルの揺れが酷くて気を失っていたようです。いつの間にかすっかり暗くなってしまいましたね……。」

「やれやれ……ネロ君はまだもぬけの殻状態のようです。いい加減に起きてください、丁度いい小屋を見つけたんです、そこで寝泊まりできるかも知れませんよ?」
「あれ、そういえば団長やリーダーは……? それにシャルル君もいないです……。」

えっこに揺さぶられ、気絶していたローレルたちがようやく目を覚ました。一方のネロは魂ここにあらずな状態になっており、しばらくは起きなさそうだ。


「既にそこの小屋に入ったんじゃないですか? でも妙だな……全く明かりが点いてないし、様子がおかしい……。」
「きっと廃墟なんだと思います。先に中を探索して、泊まるのに適した設備を見つけようとしているのではないでしょうか?」

えっこが小屋の様子を訝しがる中、ローレルは冷静にそのように告げた。しかし、デンリュウは腕に着けた調査団用ガジェット端末を覗き込んで、険しい表情をしている。


「あの……デンリュウさん…………? ど、どうしたのですか……?」
「メアリ、君も自分のガジェットをご覧なさい。イヴァン君とシャルル君の端末からSOS信号が出た後、通信が途絶えています。それにフローゼル君も音信不通のようです。これは何かがあったに違いありません……!!」

「デンリュウさん、中の様子を確かめましょう!! 3匹が危険に晒されている可能性が高い。この小屋、直感的に何かヤバいものを感じるんです。こんなとこに小屋があるなんておかしすぎる、やはり警戒して避けるべきだった……!!!!」
「えっこ君、ワタシに力をお貸しいただけますか? しかし全員で入るとリスクが高い。だから今ここにいるメンバーの内、ワタシと君で突入し、残りは外で待機します。いいですね?」

「えっこさん、デンリュウさん、僕も中に入ります。リスクヘッジは大切にしても、戦力は少しでも多い方がいいでしょう。動けそうにないネロさんと、回復の最後の砦になるメアリさんはここで待機していただき、残りで内部に潜入する。それが戦力バランス的にもベストだと思いす。」

ローレルの提案を聞き、えっことデンリュウは少しためらいの表情を見せたが、えっこがデンリュウを見つめながら無言で頷くと、デンリュウも納得したように頷き、ローレルの方を向いた。


「分かりました。えっこ君や君の申し出、ありがたく受けさせていただきますよ。では中に入りましょう。」
「ドアの向こうに何がいるかも分からないですね……。ここは慎重に行かないとだ……。」

デンリュウとローレルが扉の両脇に張り付くようにして待機する中、えっこがゆっくりとドアを押し開けた。
フローゼルたちのときと同じようにすんなりと開いたドアの向こうには、草原の夜闇よりもさらに黒く深い闇が広がり、思わず足を踏み入れるのをためらいたくなるような不気味さを外にまで漂わせていた。

意を決したえっこがそろりと足を踏み出すと、古びた木材でできた床がミシミシと音を立てる。そのとき、デンリュウが何かに気付いたかのようにえっこの前に飛び出し、腕を突き出してえっこを制止する。


「お待ちなさい、この床の鳴り……。恐らく下手に足を踏み込まない方がいい……。ワタシの勘が正しければ、恐らく入り口のこの辺り……ここに……。」
「うわっ!? 何だこりゃ、床が開いてすっぽ抜けた!?」

「やはり……。床を踏んだときの反響音からして、下に空洞があると勘付きましたとも。空洞があるとするならば、そこには高確率で落とし穴のような仕掛けが存在する。」
「すげぇ……そんなの全く気付かなかった……。やっぱりこの道の経験の量が違うな、デンリュウさん……。」

その直後、ローレルがえっこたちの横に突然やってきた。ランプの光を床に向け、何かを指さしている。


「何でしょうこれ……一瞬お二方のランプの明かりにきらりと反射したのが見えたのですが、何かの石ころですか?」
「なっ、これは鉄鉱石……!! こんなものを持ち込む者など、1匹しかいません……!!」

「まさか、イヴァンさん!? 確かその鉄鉱石って、昨日の会議で嬉しそうに見せびらかしてた奴ですよね? イヴァンさんやシャルルさん、フローゼル団長も落とし穴の先に……!?」
「可能性は高いですね。ロープを使って下に降りてみましょう。何があるか分かりませんから、先にワタシが偵察に行きます。合図をしたら、2匹も降りてきて下さい。」

デンリュウは落とし穴のへりに鉤爪付きのロープを食い込ませ、ゆっくりと穴の底へと降下していった。

やがてデンリュウが2匹にも来るようにと促したため、えっことローレルも覚悟を決めて1人ずつロープを手に取る。


大平原の闇に佇む謎の1軒の小屋。その小屋は見た目の小ささとは裏腹に、その闇の奥に次々とえっこたちを飲み込んでいくようだ。
果たして、小屋の内部にはどのような秘密が隠されているのだろうか……。


(To be continued...)

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