8話ー1 訂正しろ。偽善者とは言わせねぇ

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読了時間目安:33分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

キャラクターの名前確認
・電気野郎(名前不明)
・カイト・ペイン
・ミル・コサイン
とある都市。
「今日こそ…今日こそは…。」
凛々しい顔をしたオスのサンドパンは銀行にいた。整理券を手に取り、自分の順番が来るのを待ちながら独り言を呟いていた。今日こそは、これで成功させて、彼女を幸せにしなければならない。その焦りが彼の表情から窺える。
「整理券305番の方お客様~どうぞ。」

きたっ。
断られないようにうまくやるんだ。
なんとかして…!
大丈夫…! 俺ならできるはずだ…!

心の中で自分を応援する。
そして窓口に立つ。
「ご用件は何でしょうか。」
銀行員のアシレーヌだ。女だ。クールな目つき。くっ、不安に押しつぶされそうだ…! しかし逃げるわけにはいかない。言うべきことは考えてある。行け。俺。
「融資をおねが…」
ドドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!

「…?!」
突然、銀行全体が大きく揺れる。そしてキャアアアァァ! うわあああ! と大勢の悲鳴の声が聞こえる。
何が起こったのかさっぱり分からない。突然…大きな破壊音が聞こえた。その音がする上を見上げると…銀行の天井がめちゃくちゃになって大きな穴が空いて…空が見える…! 天気は曇り… ! 今はそんな情報は必要ない! 破壊された天井が俺の近くに落ちてくる…! コンクリやら鉄骨も落ちてくるのか…!

くそっ…! よけなきゃ…
横っ飛びをしようと瞬間、
「キヤァァァァ」
声のしたアシレーヌのほうを振り向く。足がくすんで動けないのか…!
このままじゃ危ない…!
「くっ…!」
迷わずオスのサンドパンはカウンターテーブルを突き破り、アシレーヌを体当たりして突き飛ばした。3mほどアシレーヌは飛ばされ、安置に入ったようだ。…………………よかった。

(あぁ……………ごめんな…エリン……)
サンドパンは愛しき彼女の顔を思い浮かべた。


そして

ドザザザガガアアアアアアン!!!!
雷が目の前で落ちたかのように、破壊された天井の瓦礫が地面に落ちて、鼓膜が破けそうになるほどの大きな粉砕音を響かせて…地面が揺れる…。

………!!
状況を理解できず、アシレーヌは泣き出した。

ただ、理解できることが一つだけあった。

「「「銀行強盗だァァァ! 全員手を挙げろ! おとなしくしやがれェェェ!」」」
天井を破壊したのはオーダイル、サイホーン、バンギラス。こいつらだということを。






_______________________________


「電気! カイト! ミル! ちょっとこっちへ来なさい。」

ヤナッキー、ヒヤッキー、バオッキーら盗賊を逮捕して3日が過ぎた午後8時半。デデンネ、バシャーモに隊長室の呼び出しを食らってしまった。

うそだろ……何かヤバいことやらかしてしまったか…? ……あっ! カイトと真夜中に冷蔵庫の奥に潜んでた『さけるんチーズ』をつまみ食いしてたのがバレたのか…? やばいぞ……さけるんチーズは隊長の大好物だなんて知らずに食っちまったもん……!


「どうだ?首都のナイロシティに転勤してみないか?」
デデンネ隊長の唐突な発言であった。

「「「ふぇ?」」」

よかったぁ~。バレてなかった~!
ほっ、と電気野郎は胸をなで下ろす。

「今、首都は治安がすごく悪くなって強盗や盗賊逮捕の依頼が頭おかしいくらいに増えて人数不足なんだよね。警察もお手上げだそうだ。この前に盗賊ぶっ飛ばしたお前達なら十分任せれると思ってね。少しの間だけお願いしてもいいかな?」

「あ、俺は別にいいっすよ」
「私たちでよければ」
「いいよぉーん!」

盗賊を逮捕する活躍を認められた電気野郎たちは西大陸の首都であるナイロシティに転勤(一定期間)することになった。(ちなみに大都市の場合、タウンではなくシティと呼ぶ。)

「‥‥‥んで?ナイロシティってのはどんなとこなんだ? ここからどれくらいかかるの?」
電気野郎はギルドとマーズタウン程度しか場所は分からない。ここからどれだけ離れているのか。え? 遠いの?

「そうねぇ、ここから北北西にだいたい170kmくらいかしら?ここからちょっと遠いわね。」
「ちょっと時間かかるよねー。丸一日使っちゃうから。」
「カイトったら丸一日って大げさよ」

へぇそうなんだ……ん???

「‥‥‥は?…170km?! ちょっとどころじゃねぇだろそれ! 名古屋から大阪までの距離とほぼ一緒じゃねぇかよ! そんなクソ遠い所にどうやって行くんだよ?! ってまさか…歩いて行くとか言わねぇよな?!」
人間だった時の知識がとっさに出てくる。
「んん? 何言ってるの? 」
「そんなの当り前じゃない。」
カイトとミルは言った。




「「電車で」」

いや、電車あったんかーい。
電車って、便利ですよねー。






“♪~♪まもなくーナイロシティ。ナイロシティでございますぅお忘れ物の無いようにご注意くださぁい。“
ガタンゴトォンと特急列車に揺られて3時間半。爽やかなメロディの音楽とアナウンスに、ふかふかのシートでうとうと寝ていた三匹は目を覚まして窓を見ると

「…こりゃぁ、すげぇ。」
にぎやかな街並みに電気野郎から声が漏れる。
「久しぶりね、この景色。私とカイトはここの出身なのよ。」
「それ初耳なんですけど」


ナイロシティで見たものはマーズタウンの比べ物にならないくらいに発展した都市だった。右を向いてもポケモンだらけ、左を向いてもポケモン。人口密度が高そうだ。道はアスファルトで完璧に整備されていて驚くほどに幅が広い。さらに新築な高層ビルが立ち並んでいる。あの鉄筋コンクリートのビルは何階くらいあるのだろうか。40?45?いやそれ以上ある。電気野郎たちが今まで過ごしてきたマーズタウンとは比べ物にならない。
そう、これが首都。これが大都市。
そしてナイロシティの中心には大きな桜の木が生えている。そこには多くのポケモンが木の周りで立っている。あの木は待ち合わせスポットなのだろうか。それにしても綺麗だ。
まるで田舎から上京してきた新人社員のような気分である。

ナイロシティには巨大な探検隊のギルドがある。大通りをまっすぐ進み、吐き気がするほどポケモン達で混雑している交差点を抜けた先にギルドがある。大きなドーム状をしており、巨大すぎる建物の中に入るとここは公園か? と思わせるような広すぎる大広間に数えきれないほどの救助依頼やお尋ね者の掲示板がずらりと。依頼の受付嬢もすごい数だ。
ここのギルドはデデンネのギルドとは大きく違って共同生活(全員で食事、朝礼など)は行わない。寝泊りができるギルド専用に宿を借りて個人またはチームで生活する。ギルドには大勢の探検隊がいて、指定された依頼をこなすデデンネギルドとは違い、掲示板に掲載されている依頼を自由に選んで受ける。自由気ままで楽そうに見えるがそうではなかった。依頼はすべて早い者勝ちである。依頼内容によって報酬が変化するが、割と簡単な依頼なのに報酬が高額という大変都合がよい依頼がある。逆に過酷で大変な内容なのに報酬が少ない依頼があったりもする。朝早くにギルドに来たら報酬の良い依頼や自分のレベルにあった依頼が受けやすくなる。来るのが遅ければ遅いほど報酬が少なく、自分にとって不向きな依頼しかないことだってある。つまり受けることができる選択肢が少なくなってしまう。

所詮、“金”がすべてなのだ。

ギルドの依頼掲示が朝の6時なのにもかかわらず1時間前の朝5時から多くの探検隊チームがギルドに集う。世は競争社会である。
例えるならば、男子高校の昼休みのようだ。昼休みのチャイムが鳴り、お目当ての焼きそばパンを買うために購買へ猛ダッシュするように、
デパートでおばちゃんたちが大安売りの服やバッグを奪い合うように、ナイロシティは朝から大騒ぎだ。
電気野郎たちがナイロシティに来た理由は治安の悪化による強盗や盗賊の急激な増加しており、そいつらの逮捕をするためである。ではなぜ治安が悪いのか。簡単に説明すると経済の急成長が原因である。経済が成長するということは富を得たもの、得ることができない者の経済格差が激しくなる。貧困層の不満が溜まりに溜まって盗賊や強盗が増えているのである。



ナイロシティでの生活5日目。
夕日が沈む前で外は暗くなり始めている。



…えっ? 初日はどうだったか だって?
あぁ……、あまり言いたくないなぁ。
だって俺ら、こんなに朝早くから仕事が始まるだなんて知らなかったし……。朝の9時にギルドに行けば……依頼は1つしか残ってなかったんだよね。
依頼内容?
メスのサンドパンからの依頼なんだけど、

強盗殺人をした許せない強盗を逮捕してください! どうかお願いします!

だってさ。
手配写真見たけど 、明らかに強そうな顔つきしてるよ、この強盗。オーダイル、サイホーン、バンギラスの三匹組。
それで? 報酬はオレンの実2個だけだって。
報酬金はゼロ。
びっくりするだろ?
『こんな報酬の少ない、命がけの依頼を誰が引き受けるんだよ!? 依頼者、馬鹿じゃねぇの?!』って思ったけど、カイトがやりたいとか言い出すからとりあえず依頼を受けた。
それで強盗殺人? 的な連中をギルドの情報班が現在位置を特定して、その場所へ殴り込みに行ったよ。現在位置を特定できるだなんて、ギルドの情報班は優秀だね。
それで?
逮捕したよ。
はぁ~体が溶けそうになるくらい疲れた。ベッドに飛び込んだら0.3秒で眠りにつける自信あるよ。たぶん。

犯人を警察にぶち込んで依頼したサンドパンに報告しに行った。
でもその前に、白い菊の花を買った。
それをサンドパンにあげた。
大損だよ。まったく。
え? なんで花を買ったかって?
あまり言いたくないなぁ……。
まぁ……ね。



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「ほんとうに……ありがとうございます……!!」
って、サンドパンが泣きながら言ってたよ。
だから俺は
「旦那さんの仇は討ったぜ」
って言ってやった。
カッコつけてたからカイトに笑われたよ。
……確かにあれはカッコつけすぎたな。ですよね。

依頼者のサンドパンの家に行ったときに気が付いたんだ。
ナイロシティを出て数分歩くと……古いというか、ボロボロの家が数百軒もある集落があった。まともな環境じゃなかったよ。
スラム街だったんだ。
貧しい生活をしてたんだ。
依頼したくても費用もないし困ってたんだって。
どうやら旦那は強盗事件に巻き込まれてしまった。
そりゃぁ…辛いよなぁ…。
どうしても旦那の仇討ちがしたかったらしく、ダメもとで依頼をお願いしたんだって。
ほぼタダ働きだけど無駄じゃねぇよなコレ。
依頼受けて正解だったよ。

俺ら、確実に損してるけどさ。損した気分にはならないね。


それで俺達、サンドパンから報酬のオレンの実を2つ貰う予定だったけど、遠慮したよ。
でも、どうしても受け取ってほしいって言ってきたから、1つだけ受け取ったよ。

ちなみにミルから聞いたんだけど、
菊の花の花言葉は
“ご冥福をお祈りします”
……だってさ。

その晩は大変だったなぁ。
ミルはずっと下向いて何も話してくれなかったし……。
そりゃぁ、ショックだよなぁ。
カイトは相変わらず元気だったけどね。




それからは普通の依頼を受けて普通にこなした。
どれも普通だったから言わなくてもいいか。




そして話は現在に戻る。
ナイロシティでの生活5日目。
夕日が沈む前で外は暗くなり始めている。

「はいっ!依頼の宝石強盗の逮捕、おめでとうございます!こちらが報酬になります」
受付嬢のサーナイトからそこそこの報酬をもらって依頼達成の書類を書いて三匹でナイロシティで大人気のうずまきアイスを食べながら宿舎(ギルド専用の宿)に帰ろうとした時だった。二匹のポケモンである
“リザード”、“カメール”とすれ違った直後、
「…!!!!!」
電気野郎はあることに気づいて立ち止まった。

「ほぇ?電気、どうしたの?急に立ち止まっちゃって」
ミルが気にかけて電気野郎を呼んだ。

「‥‥‥!!」
電気野郎は口をぽかんと開けて何も喋らない。っていうかなんで苛立ってるの? とカイトは首をかしげて。
「もしかしてアイスで頭痛くなったとか?」
と冗談気にバカは言う。

「……すまん、ちょっと先に帰っててくれ。用事思い出したわ。」

「は? 用事って何?何かやり残したことあったかしら?」

「…まぁ、今日こなした依頼の書類に書き忘れがあったような…」
「はぁ?! 書き忘れ?! 早くギルドに戻って書いてきなさいよー! 私たち先に帰ってるからね!」
とガリ勉ゴリラきんに君が言う。
「早く帰ってこいよ! あーほ!」
とバカは叫ぶ。
「はいはいはいはいはい~わっかりぁっした~アホでどうもすみませんでした~」
「アホなんて言ってないよー! 僕は“あーほ!”って言ったんだよぉー!」
「細けぇな……」
電気野郎は一瞬、こっちを向いて苦虫を噛んでいるかのような顔をした。そして一目散にギルドとは違う方向へ走って行くのを僕は見た。
「……。」





電気野郎はギルドに向かっていない。“アイツ”を追っていた。場所はマンションがありシャッターの閉まった食料品店と医療品店の間に幅1.5mほどの暗い隙間の先を進む。電気野郎は裏路地にいた。先ほどまで太陽は夕焼けのオレンジ色に染まっていたがだんだん雲行が怪しくなって夕日が隠れ始めた。だんだん暗くなっていく。太陽の光を遮る路地裏はさらに暗くなっていく。明かりが欲しいな。そう思いながらも電気野郎は路地裏を進む。………。……いた!さっきのリザードとカメールだ。二匹で馬鹿みたいに笑いながら歩いてやがる。
このクソ野郎が…!

「おい待てよ」
電気野郎は追っていた奴に大きな声で、低い声で怒りをあらわにして言った。

「は?」「誰?」
リザードとカメールは舌打ちをしながら電気野郎の方に振り向いた。
リザードは“左頬に目立つ傷跡”があり、カメールと一緒に睨んだ眼をしていた。


「…さっきの発言、訂正しろよクソが。」
電気野郎は冷怒する。


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依頼を終えてカイト達とうずまきアイスを食べながら宿舎に戻ろうとした帰り道、リザードとカメールにすれ違った直後。

「オイ、あれってカイトじゃね?」「まじかよ。」
「まじだよ。」「うわ、ほんとだ。」
「なんでアイツこんなとこにいんの?意味わからん。」「チッ、死ねばいいのに。」
「ほんとそれな。すぐにでも消えてほしいww」「横で歩いてたポッチャマとピカチュウがすげぇ可哀そう。」


左頬に傷があるリザードとカメールの内緒話の内容を電気野郎は聞いていた!ピカチュウというのは耳が大きいからか音に敏感である。たとえ50m離れた遠くの内緒話、悪口が聞こえるくらいに電気野郎は地獄耳だった。

陰口だぁ? 許せねぇ。それくらい表で堂々と言えよチキンが。ぶっ殺してやる。

だから電気野郎はとっさにカイトとミルに適当な嘘をついてリザードとカメールの後を追ったというわけである。コイツらをぶっ飛ばすために。
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薄暗い路地裏に薄気味悪い風がなびく。両者にらみ合ってピリピリとした雰囲気に包まれる。

「ハッ、取り消せだぁ?…関係ない奴にそんなこと言われたくないね。そもそも初対面でクソとか言って失礼とは思わないの?」
リザードが言い返す。

おうよ。確かに失礼だ。でも失礼なのはお前らの方。

「俺はこういうのが聞こえるとはらわたが煮えくり返るんでね、お前らを一発ぶん殴っておかないと気が済まねぇんだ。」
「ふーん…………。  で?」
左傷の野郎…煽ってきやがる…。
「訂正しろって言ってんのが分かんねぇのかクソが。俺のダチを馬鹿にしやがって。くたばれ。」
電気野郎は親指を真下に突き出して『地獄に落ちろサイン』をする。
「知るかよ。関係ねぇ奴が首を突っ込むな。」
「親友ねぇ。‥‥‥アイツ(カイト)とは友達にならない方がいいぜ。」



「………は?」
電気野郎は目尻を険しく吊り上げて睨む。
「カイト・ロッツォはクソだからな。友達になって絶対後悔するよ。」

リザードとカメールが鼻で笑って馬鹿を見るような目で見てきやがったから言い返してやるぜ。

‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
電気野郎は大きく息を吸って
「あぁそうだな!あいつは勉強ができねぇ単細胞バカで単純ですげぇ雑でめんどくせぇ奴だ! でもなぁっ! これだけは言わせろ!! 根っこはすげぇいい奴なんだ。誰も馬鹿にはしないし(俺以外のヤツにだけど)悪口も言わない聞いたことねぇ。優しい奴なんだよッ!! 見えないところで誰よりも努力してる。俺が体調不良の時も一番心配してくれたのはカイトだ。カイトは誰よりも優しいし陰でいつも支えてくれる。すげぇぜ、まったく。あんないい奴をクソ呼ば…」
「なぁ、テメェが言ってるクソいい奴のことを何て言うか知ってる?」
途中でリザードが話を切ってくる。

「そういう奴を“”偽善者“”って言うんだぜ。ヘッ。」

その瞬間、全身に力が入る。特に足。やるしかねぇ。静電気を身にまとった電気野郎は‘でんこうせっか’を繰り出す! 抑えられない怒りが込み上げてくる。豪速。すぅぅぅぅぅぅと一瞬で、エンジン全開のバイクで急発進するかのように近づいた。力いっぱい拳を握りしめた左手でリザードを顔面にぶち込むッ!‥‥‥が、こうも簡単に両手で受け止められてしまう。受け止められた左手はリザードにがっちり掴まれて引き抜けない…!クソッ…!
それなら右手で…! と思った瞬間、リザードが電気野郎の脇腹に蹴りを入れる!
「ゔっ!」
蹴りを入れる直前にリザードは掴んでいた左手を離していた。体が軽い電気野郎は簡単に吹き飛んでしまう。しかし、受け身を取って脇腹を抑えながらも素早く立ち上がる。そこにリザードが追撃しようと迫ってくる。電気野郎は右横っ飛びでリザードが放つ‘炎のパンチ’をかわす。追撃は続く。かわす。スキを与えずリザードは攻撃を仕掛ける。火炎放射を横っ飛びでかわし、連続でとばしてくるパンチを電気野郎は避け続ける。電気野郎は攻撃のスキをつき、バックステップで後ろに下がりながらエレキボールを投げるがあっさり避けられてしまう。電気野郎は舌打ちする。

しかし
いける。
この程度の攻撃なら余裕で避けれる。勝てる。

そう確信していた。
電気野郎は攻撃を避けることには自信がある。カイトとよく揉め事をするたびにケンカになって殴り合いをよくしている。(大抵カイトが圧勝するけどね)そこで攻撃をよける技術を習得したのだ。一番新しいケンカといったら、買ったプリンは誰が買ったプリンなのかを俺だ僕だと言い争って「じゃぁケンカでケリをつけようじゃないか!」となり、激しい戦いをした。結局のところ電気野郎とカイトで仲良く二人で分けて食べたのだが、そのプリンはミルが買ったのだとわかり、ボコボコにされた。(今この話は必要じゃない)


攻撃を小柄な体で横っ飛び、バックステップやバク宙で華麗にスゥッと避け続ける電気野郎にリザードは‥‥‥

にやりと笑う。
なぜ笑う。
「!!」
その瞬間!電気野郎の左真横からドザッと一瞬だけ激しい音が聞こえる!!!
しまった。
リザードの攻撃を避けることに集中しすぎていた…!
左を向くと、カメールの勢い余った‘ハイドロポンプ’が襲い掛かかってくる!気づいた時には顔面近くまで迫っていた。距離はわずか1.5m! 避けられない!
電気野郎はとっさに左腕で顔を守る。
ハイドロポンプが左腕に直撃してパァンと水がはじける音がする。‥‥‥“グシッ”というきしむ音が聞こえたと同時に左手首に激痛が走った。「だっ……!」と思わず声が漏れてしまう。捻挫か?!顏への衝撃は少々守られたが左手首が使いものにならない。少し動かすと痛みが止まらない。クソッタレ、エレキボール投げれねぇじゃねぇか。
そして弾けた水が少量、目に入る。不幸にも両目。
反射的に瞼を閉じてしまう。
くぅぅっ…
弾けた水とはいえ、勢いがある。両目に当たって目の奥がツーンと突き刺すように痛い。ツーンと爽快目薬なんて比じゃねぇ。
クソッッ!! 視界がッ…!
必死に目をこする。
舌打ちをする。
目が痛い。
「なぁ、1対2ってことを忘れてねぇかい?」

舌打ちをする。
リザードがぼそっと呟く声が鮮明によく聞こえる。左腕は動かすと痛い。目は開けられず視界はぼやけて真っ暗に近い。ハイドロポンプを食らって体がよろめく電気野郎にリザードがトドメを刺しにくる。かわすことも守ることすらできない状態で連続攻撃(パンチ)をまともに食らった電気野郎はすさまじく吹き飛んで地面に叩きつけられて地面にバタンと伏せて動けなくなってしまう。


「ケッ、偉そうに言ってたくせにこの程度かい。完全にKNOCK OUTじゃねぇかよ。3分も経ってないのにこのザマァだぜ。それにしてもナイスなハイドロポンプだったぜウォルズ。」
「ありがとナスビ。もうアイツ動けないだろうしさっさと帰ろうぜ。はぁ、腹減ったぁ」
「ほんとそれな。」
リザードとカメールはざまぁみろと電気野郎を睨み、背中を向けて帰った。




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「!?!?!?!?!?!?」
無音ッ! 爽音ッ! 風の音しか聞こえなかった! 風音しかしなかったのにリザードは背後から襲い掛かる気迫に恐怖を感じ取った! 何か危険を感じる!とっさに180度旋回して思い切り握り拳を作る。リザードは反射的に攻撃態勢に入っていた!

電気野郎とリザードの一騎打ち。勝敗は一瞬で決まった。時間は僅か2秒である。
リザードの顔面に向かってエレキボールが襲い掛かる…‥‥ッ!
「くッ…!!」
リザードは首を折れるのではないかというくらいに、右へ強引に曲げて…エレキボールを

ギリギリで避けたッ!

「っ…?!」
電気野郎は思わず声が漏れる…。そして隙だらけの電気野郎に

ガゴッッッ!!!
リザードの右拳から繰り出す渾身の“ほのおのパンチ”が電気野郎の眉間に直撃ッ……!!

受け身を取ることもできない。
吹き飛ばされ、
地面に頭を強く打ち、

電気野郎は白目をむいて動かなくなった。

完全敗北。



電気野郎は左手首を怪我していたため左手でエレキボールを投げることはできない。右では狙いが定まらないから投げられない。だから右手で作ったエレキボールを近づいて直接ぶち込む奇襲を仕掛けた。電気野郎は倒れたフリをしていたのだ!! 奇襲はあまり正当なやり方ではない。でも! コイツらだけはぶっ倒したいというプライドがあった。ズルをしてでも倒したい意思があった。しかし!リザードに気付かれた…!


ハァ…ハァ…ハァッ…。
リザードは荒い呼吸が止まらない。
深呼吸…深呼吸…深呼吸‥‥‥‥‥‥できないッ!クソッ…! 酸素ッ! どうして空気中には酸素が20%しかないんだよ!! 窒素とか必要ねぇだろ! 全部酸素にしやがれ…! ……ハァハァ…ハァ…クソッ!
どうでもいいことしか考えられず、無駄に酸素を使ってしまう。
頭ではわかっていても体がいうことを聞かない! 口が言うことを聞かない! 汗が言うことを聞かない!
……怖かった…。
殺されるんじゃないか?! と思うほどだった。背筋が震える…!
あんな殺気を放つ野郎に背を向けていたのか俺は?!
手も震えがやっと治り始め、呼吸も落ち着いてきた。

なぁ…。どうしてなんだよ…。どうしてなんだ!

「ウォルズ!!!!」
「ん? どうしたの? 何かあったの? てかさっき変な物音しなかった?」
カメールはすっとぼけたような顔で振り向く。
「どうして何もしなかったんだ?!」
「え? なんのこと言ってんの? “する”って何を?」
……………!?
リザードは口がぽかんと開いてしまう。
?! まさか…気が付かなかったのか?!
本当に何も気が付かなかったのか?!

気が付かなかった?!

「さっきから変なこと言ってどしたの?早く帰ろうぜ~。あ、晩御飯は茄子のおひたしの日だぜ! やったぁ~! るんるるんるるん~」
カメールはスキップをして家に帰る。

……あんな奇襲野郎なんざ……オレは大嫌いだぜ……クソッ。
リザードは舌打ちをして帰る。









____________________________
なにやら人間の姿が見える。泥だらけの野球の練習着を着ている。黒髪は目にかかるほど長い。背が高く175以上あるだろう。細い目、眼鏡をかけた中学生くらいの男だ。人間が野球の硬式ボールを力強く握りしめて短髪と坊主頭の人間2人に言った。部活帰りの夕焼けが眩しい5時半。
「実はな…お前らに言わなくちゃいけないことがある。」
「なんじゃ急に、熱でもあんの?」「はよ言えやー」
人間二人は冗談気に笑う。

「わりぃな、ハ……、ヨ……。ずっと嘘ついてたんだ。…俺は………」
「***じゃねぇ。俺は*****なんだ。」
「はぁ? *********?」

瞬間、黒長髪の少年の顔が険しくなった…
____________________________


「ふぁっ?!」
電気野郎はバッと目を覚まして起き上がった。
‥‥‥夢?
頭を抱えてさっき見たものを思い出そうとする。
さっきのはなんだ?!‥‥‥人間?! 野球! 関西弁! クソッ! 聞き取れなかった! ハ……、ヨ……って! おそらくあれは…名前…!もう少しで…分かったのにッ…! ……なんて言ってたんだ‥‥‥聞こえなかった‥‥‥最後に言いたかったことも聞き取れなかった。

…ってちょっと待ってなんで俺こんな裏路地で寝てたの?! 周りがすげぇ暗くなってるし、ちょっ…左手首痛ァぁァぁァ! 真っ暗じゃんもう午後7:30?! やっべ早く帰らないとカイトとミルにぶっ殺される!
あれ? そういえば何してたんだっけ?

‥‥‥‥。思い出した。
………………………。そうだ。俺は。クソ共にぶっ倒されたんだ。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
言葉にできない悔しさがこみ上げる。悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい。クソクソクソクソクソクソクソ。あんなゴミに負けるなんて。クソが。情けねぇ。あぁぁぁ!!!クソが!!
前髪を掻きむしる。
雨がぽつぽつと降り始めた。これから雨が強くなるだろう。早く帰らなければ。

電気野郎は置かれている自分の体より大きな空のプラスチック製のゴミ箱を力任せに蹴った。蹴った足が痛い。歯を食いしばる。右手でエレキボールを作ってゴミ箱に投げる。空のゴミ箱はくしゃっと凹む。そしてエレキボールがバチッ!と弾ける。ゴミ箱には大きな穴が開いた。

ハァ…ハァ…ハァッ…

自分ですらこの取り乱した呼吸をしていることがわかる。
電気野郎はエレキボールを足元の地面に叩きつける。ずぅぅんと少し地面が揺れて少量の砂が舞い上がる。衝撃で地面のコンクリートの破片がはじけて飛んで頬をかすめる。両手に拳を作って地面に叩きつけてしゃがみ込む。左手がズキズキ痛い。痛い。歯を食いしばる。

電気野郎は、目をぎゅっと閉じて、
「こんんんんのチキショーがーーーーッッ!!!! 度会ったときは覚えてろよ!!!!! 300万倍返ししてやるからなぁぁぁ!!!! くそーーーーー!!!!!」

街中の路地裏で思い切り叫んだらほんの少し気がまぎれた。ふぅ、スッキリしたぁ。

突如、窓をガランと開けたような音がした。
「さっきからうっせぇぞクソッたれが!!! 俺ん家の近くでドンチャカドンチャカやりやがって! 黙ってろ!! 死ね!!」
‥‥‥近くのアパートの4階に住んでいるリングマが窓をぱっと開け、怒鳴られてしまった…。
「………ごめんなしゃーい。気を付けまーしゅ。」
謝りたくなかったが、ちゃんと謝った。えらい。俺。



「…はぁ。」
裏路地を抜けて商店街へ出る。今日は本当にツイてない。電気野郎は大きくため息をついた。まぁ過ぎたことはしょうがない。悔やんだって別にいいことがある訳でもないし。
はぁぁぁあ疲れた。雨がひどくならないうちに帰るか。

そう思った瞬間に雨はざぁざぁと勢いを増した。
電気野郎は「はぁぁぁぁぁ、まじかよ」とため息をついて歩き始めた。






「ただいま。」
電気野郎は自宅(ギルドの借家)のドアを開けると玄関ではミルが腕組をして待っていた。
「遅い! 遅い遅い遅い! もう晩御飯出来てるよ!何で書類を書くのに3時間も4時間もかかってるのよ! あと3秒帰ってくるの遅かったら先に食べちゃってたわ! ほんっとに馬鹿じゃないの?! あんたこんな時間まで何やってt‥‥‥ってえええええええ?! なんで顔に何発も殴られた跡があるの?! その左腕はどうしちゃったの?!捻挫?! 骨折?! 傘ささなかったの?! びしょ濡れじゃない! はああああああ!? ほんとに馬鹿じゃないの?! 」

「………いろいろあった。」
「いっ‥‥‥いろいろ??!! そんなんで分かるわけないでしょ???!!! いろいろって言っても具体的に何かあるでしょ?! ……っとっ…とにかく手当…」
「………風呂。」
「………………はぁ風呂が先ですか。はいはい分かった分かったから早く入ってきなさい。上がったら手当てするから逃げるんじゃないわよ。」
「うぃー。」

電気野郎は汚れた足を拭いて風呂までの短い廊下をぺたぺたと歩く。風呂(この世界ではシャワーのことを指す)に入ろうとした電気野郎にカイトが近寄る。ご飯を待っているのだろうか。よだれを垂らしながら米を山盛りに盛ったお椀としゃもじを持って話しかけてきた。
「電気! おっか!(お帰りという意味)えっ怪我したの?! お腹すいたの?! いったい何があったの?! あとで教えてねー。それとご飯は大盛りにする? 特盛にする? 」
「特盛で。」
「アイアイサーー!!」
「うぃー。」



軽くシャワーを浴びて気分爽快♪…ではなかった。
すっきりはしたのだが…シャワー(持つタイプのもの)を持つときは左手が怪我してるので右で持たなければならないが、いつもの癖で左手で掴んで持ち上げた。案の定左手に激痛が走り「ぎやああああ」と唸る。痛さのあまり、掴んでいたシャワーを離してしまう。それが右足のつま先に落ちて「うげえええええ」と唸る。反射的につま先を押さえようとした手が左手。激痛が走って「うがああああああ」と唸った。
風呂でこんな災難に会うのは初めてだ。今日は不幸すぎるからまじで死にたい。(冗談ですのでご安心ください)



「ふぅ。全然さっぱりしなかった。」
風呂から上がってタオルで体を拭いた電気野郎に待ち構えていたのはミルだ。あ、テーピング持ってる。それを手首に巻くのか?痛くないよな?委託しないように加減してくれるよな? まさかだけどキッツキツのガッチガチに固定するんじゃないだろうな?
「さぁ、覚悟はいいかしら?」
ミルの企んだ声。あっ
や  ば  い。


結局テーピングで手首を固定するのはご飯を食べてからになった。
理由はカイトの腹の鳴りが“ぐうぐぎゅるるごろろろろ~”と隕石でも落ちたかのようなうるさい音だったから。
ご飯を食べるときは3匹いつも一緒が俺たちのルールである。カイトは単細胞バカでアホで面倒な奴だがこういうルールはしっかり守る。意外と真面目な奴だ。
ご飯を食べ終わってからテーピングをさせられて痛くて声が漏れたが話は本題に入る。



「それで?いったい何があったの?喧嘩でもしてたの?」
「……まぁ、その通りです。」
ミルにはすべてお見通しのようだった。

「んで?誰と喧嘩してたの?あんたがボコボコに負けるって珍しいんじゃないかしら?」

「………。一つだけ質問していいか?」
電気野郎は質問を質問で返す。
「はぁ? ちゃんと答えなさいよ」
「ケンカで二度負けないように僕とタイマンする? 左手が痛くて使えないなら僕は両手で相手をするよ♪」
カイトの意味不明な発言がツボって普段よく笑ってしまう。だが今は全く笑えない。

「なぁ、一つだけでいいから聞かせてくれ。」
「だぁーかぁーらぁー!質問を質問で返すなって言ってんの!!!」
「ご飯食った後は元気255%なんだよ! いつでもかかってきていいよ! カモン!」
「答えてくれないならもっとキツく手首巻いてもいいのかしら? ん?」

ミルが電気野郎の左手首を触ろうとする。
「あ! いいなぁ~僕も触りたい~!」





「………カイト・ロッツオ。」


「「…!!!!!!!」」
カイトとミルはびくっとして動きが止まった。


「………カイト・ロッツォって誰?」
俺が言うと

「「……………。」」
カイトとミルは冷や汗を流して何も喋ろうとしない。

「通りすがったカメールと左頬に傷があるリザードが“どこかの誰かさん”を侮辱してきやがったから頭にきてケンカ売ってたんだけどさぁ。」



_________________________
カメール「親友ねぇ。‥‥‥アイツ(カイト)とは友達にならない方がいいぜ。」
電気野郎「………は?」
リザード「カイト・ロッツォはクソだからな。絶対後悔するよ。」
__________________________



「カイト。お前の名前は『カイト・ペイン』だよな?」

「…………。」
カイトはゆっくりと、そして小さく頷く。

「お前のことをカイト・ロッツォって言ってたけど? それが本名か? ペインは偽名?」

「…………………。」

「何も言わないならこれだけは教えてくれ。」









お前は誰なんだ?

電気野郎 左手首捻挫。 全治3週間。

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