第九話 私は僕、僕は私

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:17分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 「――ファルツェアさん、最近リツァはどうですか? 」
 「……」
 「……ファルツェアさん? 」
 「ん? あぁすまない。リフェリスか……」
 「何か凄く思い悩んでるみたいですけど、何かあったんですか? 」
 「何か、か……。……リフェリス、私も話すのは辛いが、心して聞いてくれたまえ」
 「えっ? はっ、はぁ……」
 「毎日リツァは情報を送ってくれてはいたのだが……、この一週間、連絡が途絶えている……」
 「え……嘘……だよね……」





――
――――
――――――




 「……。……っ、……ここは……」

 “情報室六”でホムクスさん達に見つかり、多分私はそこで気を失う。あの後私はどうなったのか分からないけど、死角から何かを刺された、それだけは覚えてる。これは予想でしか無いけど、規則を破って研究区画に降りていたから、捕らえられてどこかに閉じ込められてるのかもしれない。

 多分その関係なんだと思うけど、私は何故か、左右に檻が並ぶ通路の真ん中で立った状態で目を覚ます。一瞬ここがどこなのか分からなかったけど、この造りからすると、“ルヴァン”の“大保管庫”だと思う。だけど薄暗くは無くて、何故かありとあらゆるモノがセピア色。謎の浮遊感もあって、見知った場所と気づくのにかなり時間がかかってしまった。

 「……? 何かしら? 」

 するとどこからか、何かがぶつかり合う衝撃音が聞こえてくる。この感じからすると、今私がいる場所からあまり離れていないと思う。……何でこう思ったのかは分からないけど、私はこの音がどうしても気になってしまう。だから私は導かれるようにして、その音がしているらしい檻の一つに向かう。するとそこには――

 「おるぁっ! 次行くぞ! 」
 「っくぅっ……! 」

 一つの檻の中に、五人のイーブイ達……。どういう状況かさっぱり分からないけど、今見た感じだと、三人のイーブイが一人のイーブイを取り囲んでいる、そんな感じ……。そのうちの外側の一人が声をあげ、何故かボロボロの一人に跳びかかる。だけどこの四人……、どこかで見たような……。

 「よっと」
 「っきゃぁっ……」
 「コイツはおまけだぁっ! 」
 「ぐぅっ……」
 「……っ! 」

 外側の一人が跳びかかったのを合図に、他の二人も一斉に攻撃し始める。最初の一人が頭から突っ込み、真ん中の……、多分女の子を派手に吹っ飛ばす。その先に先回りしていた二人目が、黄色のような黒のような気塊を作り出す。それを刃物状にして女の子に斬りかかる。集団で襲いかかってるから思わず声をあげてしまったけど、何も反応が無いから、中の五人は私には全く気づいてないのかもしれない。

 「……どうした01、もうおしまいか? 」
 「お前はこんなもんじゃないだろ」
 「流石03! やっぱ03は違うな! 」
 「01に03……? ってことは、ここは“大保管庫十六”? だけど……」

 明らかに集団リンチになってるけど、この二人の発言で、私はピンときてしまう。ここはマリー達、SE型が監禁されている檻がある、“研究三課”の“大保管庫”。それに今気づいたけど、五人いるイーブイのうち、四人を私は知っている。集中攻撃されていたイーブイの女の子は、この間私が話したマリーで間違いなさそう。その周りにいる取り巻きが、同じ檻に収監されているSE04と05。そして最初にマリーに手を出したのが、リーダー格の03。……だけど私がしっている03じゃなさそうで、彼の尻尾は四本じゃなくて一本しかない。

 「もしかして……、過去の“保管庫”? でも何で……? 」

 私がこういう結論に至るのに、殆ど時間がかからなかった。今目線を上に上げて札を確認してみると、そこには青色で“SE01”から“SE05”と書かれた札が五枚かけられている。私が知ってる“SE06”の札の代わりに“SE02”がかけられてるから、ここは最低何週間か前の“ルヴァン”で間違いないと思う。……ただ、何で私がタイムスリップしたのかだけは、いくら考えても分からないけど……。

 「おい立てよ? 」
 「……痛っ」
 「まっ、マリー! ……テレキネシス! 」

 今にも倒れそうなぐらいふらふらだけど、03はマリーに強い蹴りを入れる。もう見るのが耐えられなくなり、私は思わず声をあげてしまう。止めるために超能力を発動させ、03を浮かせて無理矢理離れさせようとする。だけど――

 「なっ、何で? 」
 「もうへばったか? んじゃあ目覚ましにもう一発! 」

 何故か技は発動せず、無情にも蹴り上げられたマリーに03の頭突きがヒットしてしまう。

 「03やっちまえー」
 「ぅっ……」
 「何で……、何で? 」

 もう何が起きたのか分からなすぎて、私は声をあげて取り乱してしまう。それなのに檻の中の五人は、こんな私に気づく様子すらない。それどころか三人はマリーに攻撃し続――

 「03、何で君はいつもこう、なの? 」
 「うるせぇ! 02は黙ってろ! 」
 「俺たちより性能良いからって、ヒーロー気取ってんのか? あぁん? 」

 だけどそんな私とマリーにある意味救世主が現れる。それは私が唯一知らない、イーブイの男の子。今にも跳びかかろうとしている03との間に立ち、気絶寸前のマリーを守ろうとしてくれている。それがよっぽど気にくわないのか、取り巻き二人は荒々しく声をあげてるけど……。

 「……0……2……」
 「邪魔だ02。お前も01みたいになりたいのか? 」
 「……はぁ、本当に君たちって懲りない、よね」
 「02、お前もな」

 02は優しく03を説得してるけど、その表情は険しい。相当怒っているのか、どこか言葉に力強さがある気がする。その彼は盛大なため息をつくと、今にも跳びかかりそうな03を冷静に制する。だけど03には全く効き目が無いらしく――。

 「気に入らねぇ。……まずはお前からだぁっ! 」

 問答無用で02に跳びかかる。

 「はぁ……」
 「えっ……? 」

 だけど回避するどころか、02は盛大なため息。……かと思うと、02は鋭い目つきで03を睨む。すると03は勢いそのままに、顔から地面に転げ落ちる。その03は声をあげる事無く、すぅすぅと寝息をたて始めていた。

 「02、卑怯だぞ! 」
 「機能を使――」
 「君たちも同じ、だよ。三人で01をリンチにするなんて、そっちの方が卑怯だってまだ、思わないの? 」

 これだけで怒りが収まらなかったのか、02はその矛先を04と05にも向ける。心なしか02の目が緑味を帯びてるような気がするけど、同じような感じで02は二人に目を向ける。すると取り巻き二人も、為す術無く眠りに落ちてしまっていた。

 「……01、大丈夫? 」
 「……うん。02……、いつも……ごめん」

 やっと怒りが収まったのか、02の表情は次第に穏やかな物になる。黒緑色の目をした彼はマリーの側に寄り添い、優しく声をかけてあげている。

 「気にしないで。それに前から言ってるでしょ、01は僕が守る、って」

 さっきの光景が目に浮かんでしまうけど、02は別人じゃないかって思わせるぐらい優しい声で話してる。だから私は、さっきとのギャップがありすぎて思わず言葉を失ってしまった。

 「……ありが……――」
 「……っ! こっ、今度は何? 」

 このまま穏やかな場面が続くのかなって思ったけど、私の予想に反して急に周りが暗転してしまう。本当に真っ暗になって、私だけが黒い中に取り残されたような……、そんな感じになってしまう。変化は視覚的なモノだけで無くて、今さっきまで聞こえていた二人の声まで聞こえなくなっている。本当に訳が分からなくて、私は完全に――

 『――の声、聞こえてる? 』
 「えっ、だっ、誰? 」

 かとおもうと突然、どこからか暖かい声が響いてくる。どこかにいるかもしれないから見渡してみたけど、そこにあるのは黒一色だけ……。それに聞こえてくる声も、エコーがかかったみたいに響き渡ってる。

 『急に暗くなってビックリした、よね? 待ってて、今姿見せる、から』

 さっき気の声が私に話しかけてくると、これを合図にしたかのように、私の前に緑色の光が集まってくる。すぐに収まったけど、そこには――。

 「はじめまして、だね」

 私と同族の、エーフィの男の子。優しい表情の彼は、包み込むような声で私の方に歩み寄ってくる。

 「そっ、そうだけど……、あなたは? 」
 「僕はSE02。さっき見せた中にいたイーブイのうちの一人、だよ。ほら、僕の目、緑色、でしょ? 」

 その彼の言うとおり、目の前のエーフィの目は緑色をしている。毛並みは普通の色だけど、両方の目だけが黒が混ざったようなその色に変色してしまっている。

 「言われてみればそんな気がするけど……、えっ、SE02? でもSE02って……」
 「そうだよ。リツァ、君が思ったとおり、僕は解体されて既に、死んでるよ」
 「しっ、死んでるって……えっ? ええっ? 」

 彼の事には驚いたけど、私はそれ以上に名前を言い当てられた事にビックリしてしまう。フロルから聞いた話によると、エーフィの彼は私が潜入する前に解体されたはず……。なのに今確かに、一言も教えてない……、知れるはずが無いのに、私の本名を言い当てた。

 「やっぱりビックリする、よね? 眠ってる間に君の事、色々見させてもらったけど、君はここの職員じゃないみたい、だね? 」
 「そう、だけど……、何でその事まで……」

 もう驚きすぎて呆然とするしか無いけど、黒緑色の目の彼は平然と下様子で教えてくれる。

 「今の君には意味が分からないかもしれないけど、僕は君の一部になったから、だね」
 「私の……? 」
 「そう。機能の一つなんだけど、僕は他の物に思念を移す事が、出来るんだよ」
 「思念……? 」
 「うん。だから尻尾を切られる前に移してね、それを通して今も話してるって感じ、かな? 全部移す前に、頭切り落とされて死んだから、間に合わなかったんだ、けど……」
 「……」
 「……こうして言うと、やっぱり想像しちゃう、よね」

 ……何故かしら? 私の事じゃないはずなのに、凄く鮮明に思い浮かんでくる……。多分“ルヴァン”内だと思うけど、見覚えの無い施術台に無理矢理乗せられる……。厳重に縛り付けられているらしく、身動きが全くとれない……。照明が明るすぎて見づらいけど、刃物を持った誰かが私の耳に手をかける……。

 「……っ! ……? 」

 その瞬間強烈な痛みが、右耳の根元に襲いかかる。思わず声をあげそうになりながらも、何とかそこに、縛られていない前足を伸ばす……。確かに切り落とされた感覚はあったけど、そこには変わらず、私の耳がある……。

 「……なに……、これ……」

 私の事じゃないはずなのに、リアルすぎるぐらい、痛みまで再現される……。

 「ってことはもしかして……、02、あなたの……」
 「そう。さっきのは、僕が解体される時の光景、だよ。さっきも言ったよね、僕は君の一部になった、って」
 「そう聞いてるけど……、全然意味が分からないわ」

 分からない事だらけだけど、分かってきた事もある。今私がいるこの場所は、現実じゃない。現実離れしてるから、もしかすると私の夢の中なのかも知れない。何しろそうと分かった瞬間に、見えていた光景と痛みが嘘みたいに消えていった。だから多分、そうなんだと思う。

 「……どのみち言わないといけないんだけど、リツァ、僕の“思念”が流れ込んでるって事は、僕の尻尾が移植された、ってこと」
 「あなたの……尻尾が? 」
 「そう。多分リツァ、君はA型に改造されてる。君の意識がまだハッキリして、僕の事もしっかり見えてるみたいだから、AA型かAB型だと思うよ」
 「私……が……? 」

 そういえばいろんな事がありすぎて忘れてたけど、私は潜入がバレて、ホムクスさんに捕まった。その後どうなったのか分からないけど、フロルの事を考えると、あり得ない事じゃないのかもしれない。だから02が話してくれた事も考えると、私も彼女みたいに生物兵器にされている可能性が高い。そういう事なら、02が私に話しかけれている事も説明できる気がする。

 「うん。SE型の僕の尻尾が移植されてるから、A型って言えないかもしれない、けど」
 「……なんとなくだけど、そんな気はしてたわ。……だけど02、でいいのかしら? 」
 「呼び方なんて気にした事ないけど、何て呼んでも、いいよ? 僕は生物兵器で、名前なんてない、から」

 今までうっかりしてたけど、02の本当の名前を聞いた事が無かった。フロルは私と一緒で捕まったから話は別だけど、マリーの存在はあの日、それから名前はファルツェア三から聞いて初めて知った。だから“騎士団”のこの二人の事だけは、“ルヴァン”に来る前を知っている。だけど今私の目の前にいるエーフィの彼は、私が潜入した時には既に亡くなってた。だからもしあったとしても、知る方法が無い。今名前なんて無いって言われて、凄くビックリしたけど……。

 「……トゥワイス。トゥワイスはどうかしら? 」
 「トゥワイス……って何、なの? 」
 「思いつきだけど、あなたの名前。あった方が困らないでしょ? 」
 「名前……、僕の……? 」
 「そうよ? トゥワイスは私の一部になった、って言ってたけど、あなたはあなたでしょ? 折角こうして話せるんだから」

 確かこれは古い言葉で、二回目の、とか、そういう意味だったような気がする。うろ覚えだけどパッとがこの単語。彼のコード番号のSE02と同じ“2”に関係する言葉のはずだから、ある意味彼にぴったりの名前なのかもしれない。自分で決めて満足してない? って聞かれたら何も言い返せないけど……。

 「……うん。リツァ……、ありがとう。本当に、ありがとう! 」
 「どういたしまして」

 相当嬉しかったのか、02……、いえトゥワイスは満面の笑みで答えてくれる。心なしか黒緑色の目も輝いて見えるし、耳もパタパタと揺れてる気がする。

 「……あっ、そういえばトゥワイス? 一つ聞きたいんだけど、いいかしら? 」
 「うん。失敗作の僕には何も無いけど、僕の事なら何でも、聞いて」
 「じゃあ……、見せてくれた映像で、トゥワイスって03達を眠らせてたわね? あれって何かの技だったり……」

 私はふと思う事があって、トゥワイスに質問してみる。もっと早く訊いた方がよかった気もするけど、ずっと気になってた。他の事二期をとられすぎじゃないの、って問いただされたら、何も言い返せ……ない事もないわね。

 「あっ、そのこと、だね? あれはリツァ達が使ってる技じゃなくて、僕の探査型としての機能の一つ、なんだよ。思念を移すのも機能の一つなんだけど、眠らせるのは役員も、知ってるよ」
 「……ってことはトゥワイス? もう一つの方は――」
 「君以外誰も知らないよ。01にも言った事無いから、ね。今思うと見せたら解体されなかったのかも、って思ってるけど、教えてたらここまで研究室の事知れなかったから、ね。……ちょっと話が脱線したけど、眠らせたり機能使ってるとき、僕達SE型は目の色が変わる、みたいなんだよ。リツァも見たよね、01の目が黒紫色になってた、ところ」

 言われてみれば、あの時のマリーの目は黒紫色になってた気がする。それから目だけじゃなくて、首元から生やしていた翼も黒紫色だった。そういう事を考えると、マリーのあの翼も、SE型としての能力の一つなんだと思う。他の探査型の子にあった事が無いから分からないけど、少なくとも戦闘型の子は、目の色とかは変色してなかった。

 「えっええ」
 「それに機能の事なんだけど、AA型だったら、もしかしたらリツァも何か使えるんじゃない、かな? 」
 「私も……? 」
 「うん。それに僕の尻尾が移植されてるから、探査型でもあると、思うよ? 他の人に思念を移して覗き見た事もあるんだけど、こうして話せたの、リツァが初めて、だから」
 「ってことはもしかすると、私は戦闘型としての能力以外にもあるのかもしれないわね。……もし他に能力があったら、トゥワイスと入れ替われるようになりたいわね」
 「……リツァって優しいん、だね。僕の尻尾が移植されたのがリツァで、よかったよ」

 型と能力の話になったから、私は自分の考えを口にしてみる。他人の部位を移植されるのは、私が仕入れた情報の中では戦闘型だけ。戦闘型の能力の殆どが性能の強化、それから“暴走”させるためのトリガーに使われる。フロルのAC型が後者だけで、ABには前者も入る。場合によってはABにも能力が使える事があるみたいだけど、それはものすごく希。昨日……って言えるのかどうか分からないけど、“研究三課”の製造記録を見た限りでは、六件しかなかった。だからトゥワイスが言う事も、間違いじゃ無いのかもしれない。

 もしそうだとしたら、私の一部になってしまったトゥワイスをどうにか出来るかもしれない。シャサによるとAA型の能力は、機体次第で任意のものを発言させられないらしい。SE型は最初から遺伝子を変質させて機能を持たせる、って聞いたような気がするけど……。でもこれは社員側の都合の話だから、もしかすると、トゥワイスの思念みたいに、自分が持ちたい能力を持てるのかもしれない。だからそれが出来たら、トゥワイスに外の景色を、私の記憶? 思念? を通してじゃなくて、ちゃんと経験してもらいたい。さっき名前が無いって言ってたから、多分トゥワイスが捕まったのは、彼がまだ幼い頃、そんなような気がする。聞こうかどうか、迷ってるけど……。




  続く

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想