52杯目 だれにもわたさないもんっ!!

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 澄んだ空気。朝の静寂の中。
 とってとって、と。軽い足音が二つ、響く。
 街中に敷かれた石畳の道を踏み締めるそれは。
 茶と白の毛玉が並んで歩く音で。

―――ねえ、ラテ? どこにむかってるの?

 少し前を歩く白イーブイに茶イーブイは問いかける。
 るんるん、と小さな鼻歌を歌っていた彼女は振り返り、満面の笑みで答える。

―――わかんないっ!

―――だよね、そうだとおもった

 半目だ。
 茶イーブイの予想通りの答えで嘆息を一つ。
 いや、ある意味予定通りかもしれない。
 だって、前に彼女と街中を歩いた時にも、彼女は“まよった”と口にした。
 だから、自分がしっかりしなくちゃと思ったのを覚えている。
 彼女が考えるのを得意ではないと、もう、今の自分は知っている。
 ならば、それは自分の役割で。そうすれば、彼女の隣に立っていられる。

―――ばしょはわかんないけど

 白イーブイの声に顔を上げた。

―――イチおにいちゃんのおむかえにいかなくちゃってことは、ラテにもわかるのっ!

 にぱりと笑う彼女。

―――つばさおねえちゃんにわらっていてほしいもんっ

 これが彼女を突き動かす原動だ。
 と、茶イーブイは思う。
 考えるのは得意じゃない。
 それについては、彼女自身にも自覚があるらしい。
 そのことは、先程喫茶シルベを飛び出す前に知った。
 それでも、その向こうで彼女が抱えた気持ちは確かなもので。
 決して、見失ったりはしないのだろうな、とも思う。
 空。まだ淡い空を、一瞬見上げて。

―――ちょっとまって、ラテ

 歩き出そうとした白イーブイを引き留める。

―――え?

 不思議そうに顔だけ振り返った彼女に。

―――かくれてっ!

 慌てて彼女の尾を咥えた彼。
 近くに積み上げられた木箱。
 その一部が割れて出来た隙間。
 そこに身体を滑り込ませて。
 次いで。彼女の身体も引っ張り込む。
 急に何をするの。
 と、彼女が騒ぎ出す前に、茶イーブイは前足で彼女の口をふさぐ。
 もごもごと彼女がしている間。
 彼は隙間から空の様子を伺う。

―――あるばさんだ……

 隙間から覗く空。まだ、淡い色合いの空。
 そこに映える青。優雅に見えるその青。
 茶イーブイが呟いた名に、もごもごとしていた白イーブイもぴたりと動きを止める
 彼と同じように隙間から空を覗いて。
 どきどき、と。鼓動が響いた。緊張の音が響く。
 その音を抑えて、息を潜めた。
 なるべく、響かないようにと努める。
 別にここで、少しだけ音をたててしまっても。
 たぶん、空のハクリューにまでは届かない。
 それでも、妙な緊張感が漂っていて。
 自然と呼吸も大人しくしなければと、それが思わせる。
 どきどきと速まるこの緊張の音。
 それすら、ハクリューに届いてしまわないかと不安になる。
 だって、抑えているはずなのに。
 どきどき、と。この緊張の音は、とても大きく聞こえるから。
 それは。傍にいる茶イーブイにまで聞こえるのでは、と思ってしまう程で。
 だって、ここは狭い木箱の中で。
 互いの身体を密着させなければならない程、とても、狭くて。
 そう、とても狭くて。とても、狭くて。
 途端に意識したのは、この空間。その狭さ。
 触れ合う箇所が熱を持った気がした。
 それを自覚した刹那。

―――っ!!

 どかんっ、と。
 それなりの音を響かせて、木箱から飛び出した。突き破った。
 そして分かる。たぶん、意識したのは空間ではなくて。

―――ちょっと……ラテ……

 舞い散る埃や木屑。
 軽く咳き込みながら、非難気味な視線を向ける茶イーブイ。
 たぶん、意識したのは空間ではなくて。この、彼だ。
 ぶるりと身体を震わせ、埃や木屑を振り払うふりをして。
 白イーブイはそんな気持ちを誤魔化す。

―――はやく、イチおにいちゃんのおむかえいこっ!

 くるりと身体の向きを変えて歩き始める。
 何だろうか、この気持ちは。
 朝の起きがけ。その時に、自分の中に在った気持ちに気付いた。
 熱を帯始めたこの気持ち。ずっと前から在ったものだと思う。
 けれども。気付いたからといっても。
 この気持ちをどう扱えばいいのか分からない。
 この気持ちの向き合い方が分からない。
 あれから気付いたことがある。
 茶イーブイという、“彼”の存在を意識してしまうと。
 途端に気持ちがむずむずして。そう、痒くなるのだ。
 “茶イーブイ”ならば、普段通り。
 けれども、“彼”を意識した途端に痒くなる。
 一旦は落ち着いたはずなのに。また気持ちが痒くなった。
 ああ、痒い。痒くて仕方がない。
 名も知らないこの気持ち。今は痒くて痒くて、仕方がない――。

―――ん

 吐息がこぼれて。
 不意に白イーブイの足が止まった。
 何かが、自分の中で引っ掛かりを覚えた。
 両耳が立ち上がって、周りの音を拾おうとそばだてる。
 朝の静寂に包まれた街。街はまだ眠っている。
 拾える音も、静寂の音以外にはなくて。
 何がそんなに引っ掛かるのか。両耳が垂れて、首を傾げる。
 引っ掛かりは覚える。けれども、それに不思議と嫌なものは感じない。
 以前も彼と二匹で街を歩いた。
 その時に感じた嫌なものを、今は感じない。
 その感覚が余計に、彼女に首を傾げさせる。

―――ラテ、どうしたの?

 ようやく彼女に追い付いた茶イーブイが問いかける。
 無意識に歩んでいた白イーブイ。
 気付かない間に早足になっていたらしい。
 追い付いてきた彼の呼吸が、何となく少しだけ上がっていた。
 心配そうに白イーブイの顔を覗き込む茶イーブイ。
 それがまた、気持ちを痒くさせる。
 白イーブイが無意識に、彼との距離を離そうと後ずさった時。
 茶イーブイの視線が白イーブイを通り過ぎて、その後方へ向けられた。
 その瞳に警戒の色が滲んだのを、白イーブイは確かに見た。
 ぴりりと痺れる雰囲気を彼から感じて。
 無意識下に緊張が走って、息が詰まる感覚を覚える。ひゅっと喉が鳴る。
 彼女が反射的に振り返った頃には。
 彼女を庇うように、彼が前へと一歩踏み出していた。
 同時に、彼の尾がぶわっと一回り大きく膨らんだ。

「白の毛玉お嬢ちゃんは、なかなかに敏感だな。俺様の気配に気付くなんて、さ。ま、あの親も敏感だからねえ」

 まるで静観するような呑気な口調。
 茶イーブイが体勢を低く落とす。

「それに、直感も優れてるとみた。そう、俺様は別に取って食おうってわけじゃない」

 笑みを形つくるそれの口元。
 茶イーブイの口からは、低く唸る声がもれて。完全な威嚇の姿勢だ。
 そう、彼は威嚇しているつもりだった。けれども。

「んな、ふみぃーって、可愛い声で威嚇されてもなあ……」

 くわあと呑気にあくびをしたそれ。
 家屋と家屋の間に置かれた樽の上。
 むくり、と。身を丸くして寝そべっていたそれが身体を起こせば。
 影が子イーブイ達に落ちる。
 一層低くなる茶イーブイの唸り声。
 否、彼は低くしたつもりでも。
 ふみぃ、と。鳴かれてしまえば、威圧も何もない。
 一つ、くすりと笑ったそれ。別に、嘲笑とかではなくて。
 ただ、可愛い幼子を見守る年長の穏やかなそれ。

「白の毛玉お嬢ちゃんを護る、茶の毛玉小僧騎士ってところか」

 それが、ぽつりと呟く。
 茶イーブイが訝しげな色を瞳に滲ませる。
 その後ろで、白イーブイも首を傾げていた。
 樽の上から見下ろすそれ。
 それが扱う言葉と姿が合致しないのだ。
 そんな二匹の様子に気付いたそれが、不思議に首を傾げる。

「ん? 俺様、何かおかしいのか?」

 そこではたと気付く。

「ああ、“言葉”のせいか」

 それが一つ頷いた。――刹那。
 子イーブイ達の視界からそれが消えた。瞬き一つだったと思う。
 何処に行ったのだろう、と。
 行方を追おうと茶イーブイが沈めていた姿勢を起こした時。
 尾に何かが触れて。思わず。

―――うひゃいっ?!

 妙な声が飛び出した。
 尾は駄目だ。急に触れては駄目だ。
 涙で少しだけゆれる瞳。
 いつの間にか、茶イーブイと白イーブイの間に移動していた――ニャース。

「ほお、毛並みはゆるふわ。触り心地も抜群。こりゃ、たまんねえな」

 けれども、ニャースが扱う言葉は――人。
 それが扱う言葉と姿が合致しない。
 無造作に尾をニャースに掴まれた茶イーブイは。
 涙でゆれる瞳をつりあげて、振り返り様に素早く尾を引く。
 そして、同時に跳躍一つ。ニャースの頭上を飛び越えて。
 白イーブイをニャースから隠すように対峙する。

「おおっ」

 思わずニャースから感嘆の声がもれて。

「やればできるじゃん、毛玉坊主」

 一人で勝手に頷く。
 けれども。子イーブイ達はニャースの意図がつかめない。
 それどころか、ニャースの発する言葉を理解出来ていなかった。
 だから、広がる困惑。このニャースに敵意みたいなものは感じ取れない。
 まだ、部分的にしか人の言葉は理解出来ない子供。
 普段つばさ達と意思の疎通が取れているのは。
 ブラッキーの特性があってのことで。

「ああ、そうか」

 納得したニャースが。

これなら、大丈夫か?

 言葉を切り替えた。
 ポケモンが使うそれに。
 ぱちぱちと目が瞬き、互いの顔を見合う子イーブイ達に。
 ニャースはふふっと笑い声をもらす。

まあ、俺様は“幻影さん”だからな。目に見えているものが、本物とは限らないのさ

 愉しげな笑みを口に浮かべるニャース。
 奇妙な存在なのは間違いない。けれども。
 なぜなのか。安心できるような、そんな優しさのようなものを感じる。
 敵、ではない。不確かな感覚。曖昧なそれ。
 でも、そう確信できる何かが在った。
 ああ、そうだ。気配だ。はたと気付いて、茶イーブイが瞬く。
 ニャースのまとう雰囲気が、慣れ親しんだものにとても似ているから。
 それが、警戒をゆるりとほぐすのだ。
 つばさと出会う前にお世話になったあの“お姉さん”に――。
 肌で感じたそれを言葉にしようと、彼が口を開きかけた時。

おっと。俺様は“幻影さん”だ。それ以外の何者でもないぜ?

 ニャースの言葉がそれを遮った。
 むっとしたのは茶イーブイで。
 その後ろでは白イーブイが首を傾げた。
 難しい話はよく分からない。
 それが何だかつまらなくて、口を尖らせた。
 とりあえず、怪しいけれども怪しくない。
 否。妖しいは妖しいけれども、怪しくはない。
 それが分かった茶イーブイ。
 彼が警戒の色を抜いていく。
 それを肌で感じた白イーブイは、無意識下でほっと息をこぼした。
 その様子を見ていたニャース。
 瞳を丸くして、面白そうにやりと笑う。
 彼女が彼を意識していると思える行動。
 ニャースの脳裏に過るのは。
 この街を旅立って行った少女と、傍らの一匹のグレイシア。

「ヴィヴィよ、あんたの息子に、いつか春が来るかもだぜ?」

 人の言葉を使ったのは、これは完全なる独り言だから。
 基本的にニャースは、同業者である彼女以外の存在に興味はない。
 それでも、少しだけ自分から干渉もした存在達には。
 干渉と言っても、街を旅立つときに見送っただけだけれども。
 それも、同業者に話を聞かせてやるために。
 それでも、少なからず興味は抱くもので。
 いつかの未来で――と言っていた。
 それなら、その“いつかの未来で”のために。
 土産話の一つでも用意しておいてやろう、と。

「優しい俺様は考えるわけだ」

 満足気に笑い、一つ頷く。
 自称優しいニャースがそう考えた時。

―――ヴィヴィ?

 人の言葉だったけれども。茶イーブイがその“音”を確かに拾った。

―――そのおと、ボクしってるよ? あおいおねえさんの“おと”だよ

 つばさや、あの女の子も呼ぶときに発していた“音”。
 聞き間違えはしない。ちゃんと覚えたのだから。
 ニャースに詰め寄る茶イーブイ。
 彼が一歩踏み出して、ニャースはその分を後退る。
 けれども、彼がニャースを見上げる瞳は真剣だった。

―――“げんえいさん”は、あおいおねえさんとおしりあいなの? あおいおねえさんはげんきなの? あおいおねえさんはまだいるの? あおいおねえさんは

 そこで、ニャースが茶イーブイの言葉を制する。

ち、ちょっと落ち着こうか、毛玉坊主

 頬を引きつらせる。
 幼子の勢いに圧されたニャースは、その顔に困った感情を滲ませた。
 けれども、彼の勢いは止まらない。

―――あおいおねえさんには……いつか、あえるの……かな?

 それでも、彼の言葉は少しだけ震えた声で紡がれた。
 ニャースの瞳が瞬く――もしかして、こいつは。
 感じたそれを確信に変えようと、ニャースが口を開きかけた時。

―――だめなのおおおーーっ!!

 ニャースの口から飛び出しかけた言葉。
 それを物凄い勢いで呑み込ませたそれ。
 光の速さのような。そんな速さに思えた。
 だって、瞬きした瞬間にはそれが眼前に在ったから。
 ニャースの眼前に迫った白イーブイはしかめ面で。
 自分は不機嫌です。それを思いっきり顔に貼り付けた顔だった。
 眉間に刻まれたしわは深くて。思いっきり口はへの字で。
 ニャースを睨むその瞳は、幼子ながらに確かな怒りをはらんでいた。

―――だめなのっ!! だめなのっ!! だめなのおおおーーっ!!

 ふんすふんすと鼻息は荒く。
 それだけを繰り返す白イーブイ。
 間に割り込まれ、押し退けられた茶イーブイは。
 何に必死なのか。彼女の行動する意図が読み取れなくて、掴めなくて。
 困惑気味に眉根を寄せて、首を傾げる。

毛玉お嬢ちゃん……?

 困惑しているのは、茶イーブイだけではない。
 ニャースだって困惑をしている。

何が駄目なんだ?

 白イーブイの目が、むきっと鋭くなった。
 瞬的にニャースから離れて。ふうーっと毛を逆立てて。
 興奮気味なのは察せられた。

―――ラテはその“おと”すきくないのっ!! ぜったいにだめなのっ!!

 次いで、勢いのままに隣の茶イーブイの首もとに飛び付く。
 抱え込むように自分に引き寄せて。

―――カフェはラテとかぞくになるのっ!! よやくもしたもんっ!!

 ぱちくり、と瞬くのはニャースで。
 茶イーブイは白イーブイに抱えられた中で。
 急な彼女の行動に、ぴしりと音を立てて固まっていた。

―――カフェはだれにもわたさないもんっ!!

 ぷくりと膨れる彼女の両頬。
 ぎゅっと抱える力が込められる。
 ぽんっと温度を上げたのは彼で。
 湯気がのぼりそうだなあ、と。
 呑気な感想を抱いたのはニャースだ。

あ、あのな……毛玉お嬢ちゃん……

―――だめだもんっ!!

 ニャースを睨んで。
 ぎゅうっと彼を抱える彼女。
 その力はどんどん増していく。
 ニャースが身動ぎする度に、彼女はふうーっと毛を逆立てて。
 ぎゅうっと彼を抱える。
 家族になるのは自分だ。それは絶対に譲らない。

なあ……?

 ニャースの呟きも。
 警戒も滲ませた瞳で睨み付ける。
 それでも、ニャースは遠慮がちに続ける。

いや、そろそろ離してやらないと……

 ん、と首を傾げて、はっとする。

―――あ、ごめん、カフェ

 力を緩めて、ぱっと身体を離すと。
 顔を青くした彼がぱたりと倒れた。
 一生懸命に酸素を取り入れようと、すーはーと呼吸を繰り返す。

―――だい、じょーぶ?

 心配気に彼の顔を覗き込む白イーブイ。
 眼前に迫った彼女の顔。瞳に映る自分の姿。
 茶イーブイはその近さで瞬時に熱を取り戻す。
 取り戻しすぎて、頬が朱に染まった。
 それをさらに心配する白イーブイが。

―――カフェ、おねつある?

 こつん、と。慌てた様子で。
 彼の額に自分のそれを重ねて、熱を確かめようとするものだから。
 ぼっとさらに火照る彼。触れる額からじゅっと音がした気がした。
 彼女は慌てて額を離す。

―――カフェ、あっちっちっ!!どうしよっ!!

 本当に慌てていた。本当に心配をしていた。
 そんな彼女を眺めながら、むくりと身体を起こした茶イーブイ。
 頬を朱に染めながら、半目で彼女を睨んだ。悔しそうに。
 誰のせいなのだろうか。誰の言葉のせいなのだろうか。
 あんなことを軽々しく言葉にしないで欲しい。
 ふいっとそっぽを向いて不貞腐れる。
 茶イーブイは知っていた。
 たぶん、自分の気持ちに“きちん”と気付いているのは。

―――カフェ、おきあがってもだいじょーぶ?

 起き上がった彼に気付いた白イーブイ。
 そんな彼女が心配そうに首を傾げる。
 ちらり。目だけを彼女に向けて。
 こくり。彼が一つ頷けば。
 ぱあっと顔を輝かせて。そして。

―――そっか、よかった

 と、安心したようにふわりと笑った。
 そう。安心したように、ふわりと。
 たぶん、芽生えた――否――芽生えていた気持ちに“きちん”と気付いているのは。

―――ボクだけだよねー……

 投げやりに呟いた言葉。
 彼女と交わした約束。
 彼女の言葉を借りるのならば――“よやく”。
 それを彼女がどんな意味で言ってくれたのか。
 それはまだ分からないけれども。
 それでも、少なくともそう意味だとは思っている。
 だから、そんな彼女に返した言葉は。
 “いまよりもおおきくなって、そのときもおなじきもちでいてくれたら、また、いってくれる?”
 だから、これは賭けだ――。
 彼女の中に、自分と同じ気持ちが在るという――賭け。
 横目で彼女に視線を投じながら、ふふん、と小さく鼻で笑った。
 勝つのは、たぶん自分だ。たぶん。

―――まけないからね

 茶イーブイの視線に気付いて、白イーブイはこてんと首を傾げた。


   ■


 そんな幼子を眺めやるニャースは。
 愉しそうに、その気持ちを口にうかべる。
 ヴィヴィよ。“いつかの未来で”会ったときに、いい土産話が出来そうだ。
 だから、まあ。遠くから見させてもらおうか。
 この変わり行く“繋がり”とやらを。
 自分は“幻影”。
 影のように寄り添いながら。
 けれども、“自分”は干渉をせずに。
 だって、“幻影”だから。
 だから、影からひっそりと、静かに眺めよう。
 それが、自分の関わり方だから。
 細めた瞳が一瞬蒼く移ろいで、穏やかに笑んだ。


 自分の周りには、可愛くて楽しい存在が転がっている。

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