第121話 男子会!

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 今日の舞台はワカバタウンではなくヨシノシティ。花や木で囲まれたワカバタウン以上に自然で溢れている街。
 今日はここでとある人物とゴールドは対面すべく小さいながらも洒落た喫茶店訪れていた。
 扉のカウベルが鳴る。誰か来たようだと顔を上げればそこには。

「お待たせー、ゴールド君」
「ソラ先輩!」

 男二人。周りに客の姿はあるものの特に二人を気にする目など存在しない。一人ずつ向かい合わせに座れる木製の椅子に座っていたゴールドは手を軽く振り、ソラを目の前の席に座らせる。
 ゴールドは既にコーヒーを頼んでいたのでソラにメニュー表を渡す。慣れたように店員を呼び「ブラックコーヒー、ぬるめで」と頼む。店員さんは困惑顔で「ぬるめですね」と復唱した。

「俺を呼び出すなんて珍しい事もあるんだなぁ。はは~ん? さては、マイちゃんと何かあった?」
「いや別にマイとは何も……。それより、トーナメント表見ましたよね? 一回戦の相手!」
「ああ~やっぱりなー。何何探りか~?」

 喫茶店の空気は小さなしゃべり声と有線のジャズ音楽のみで、ゆったりとした過ごしやすい雰囲気だ。客の数もゴールド達を含めてわずか四組。
 そんな中の空気も気にせずソラは茶化すように声を出した。

「違うっスよ。マイにソラ先輩とバトルだって言っても驚かなかったっつーか、ビビんなかったつーか……いつもなら『え~! ゴールドどうしよ~! わたし困ったよ~! えーん!』とか言うんすよ。けど、あいつ今回は何も……普通の顔だったというか……」
「あ~。俺なら勝てるとか思ってるって油断してる~みたいな?」
「そうじゃないと思うんすけど……。知らないマイが出てきたと言うか」

 ゴールドは目を閉じ、眉間にしわを寄せ、テーブルに肘をつくとおでこに絡めた手を当てて何か上手い言葉を見つけようとしているのか唸っている。
 その間に店員さんは、ぬるめのブラックコーヒーを運んできてくれて、ソラは口に一口だけ含むと、癖のないまろやかにすら感じるブラックコーヒーを喉に通した。

「つまり知らないマイちゃんに戸惑っているという訳だね、ゴールド君! それは恋だよ!」
「ほんっとマイと同じような台詞言うんすね……。まあ否定はしないっすよ」
「おわっと意外だな。もっと恥ずかしがるかと思ったのに。つまらないなぁ青い春だねぇ」

 ソラは右手をテーブルに当て、左手人差し指をゴールドに向けてウィンクしながらお茶目に言うが、期待していた反応とは違ったのか両手を膝に置き、目を丸くした。

「ソラ先輩! マイって昔はどんな奴だったんすか? 俺、どこまで聞いていいのか分からなくて昔の事聞けないんすよ」
「昔って孤児院の時代? って孤児院にいた事は知ってるか?」
「孤児院にいたのは知ってますけど、それ以外は何も……」

 身を乗り出して聞いてきたゴールドは言葉が終わる頃には椅子に座った。そして、シュンと項垂れているようにも見えた。ソラが平然の構えて聞いているのが少し悔しくも感じる。
 ソラは椅子の背に持たれるように座って、どこから何を言おうかと目線をあっちこっちで彷徨わせていたが考えがまとまったのか背を伸ばして口を開く。

「マイは今の性格のままだったよ、今と同じ楽しい事だけ考えてる奴だったなぁ」
(そんな風に見えてるのかこの人には……俺はいつもボーっとしてるように見えてたけど……)

 頭に浮かんだ考えを整理するかのように呟き続ける。

「昔のマイを知ってるのは俺も五歳までだったから今のマイを見てスゲー驚いたよ。あの頃のマイはいつも部屋の中にいて、外を眺めてたなぁ」

 頬杖をつきながら思案にふけるソラを尻目にゴールドはコーヒーカップを持ち上げた。甘ったるい香りが湯気と一緒に鼻に入って伝わる。

「部屋にいないと思ったら勝手に外に出てたりして、みんなを巻き込んでみたり。あ、俺との出会いはー」
「おう……」
「なーに心配するなって! 元カレとの話を聞くような顔をするなって! 甘い事はなんもないよ。昼の食事の時間になぜか俺の元へ来てデザートを欲しがったのがはじめかな」
「っふ」

 ソラとの出会いにしわを無意識に寄せていたゴールドは気づかされて目線を下にした。でも、ソラの言葉に飲んでいたコーヒーを吹きだしてしまった。

「おにーちゃんそれなぁにって、俺のプリンをあげたのが始まりだったな。俺はあの中でも一番年上だったし、一番身長も高かったのにビビらずに声を掛けてきたよ」
「本能的に頼れる人を感じ取ったんすかね」
「どうだかなぁ。俺、結構のんびりしてる方らしいから暇つぶしに来たんだと思ったよ」

 なんとなく想像して見てゴールドはほくそ笑む。

「ゴールド君の前だとずいぶん大人しい子だけどな~」
「そうすか? まぁそりゃ、はじめこそは話もしてこない奴だったけど……あ」

 喜びをまぶたに浮かべてニヤけてまた茶化す。うまくスルーすると今度はゴールドが思い出したように、口を「あ」のままにして止まってしまう。

「そういえばマイと他の連中含めて遊ぶ時はずっと俺の隣にいたっけな~。普段はちょっと距離置くのに。そう言う時だけはぴったりくっついて来たなァ」
「はは~ん。やっぱりさっきの訂正! マイは本能的に頼れる人を感じ取れるタイプだ!」

 自慢気に鼻をこすってソラが陳ずる。

「俺の事頼ってんのは分かったすけど、それだと解決はしてないっすよ」
「え? なんの話してたんだっけ?」

 すっかり冷めたコーヒーのおかわりも忘れてゴールドは口に含んで内心「不味い」と感想を持つ。しかし、ソラの言葉の返しに肩をがっくり落として不味い感覚を忘れてまた口に含んでしまう。

「いや俺も訂正します。何となくっすけどマイが、ああいう態度なのが分かった気がします。ソラ先輩だからこそ緊張してないというか心の底から楽しんでそうというか……」
「分かってくれたか~。ならよかったよ~」

 安堵させるような口軽な言いぶりに話はついた、という訳でもなくゴールドは別の話題を出す。

「マイってコウとかアヤの前だと妙に態度が違うって言うのは気づいてるんスか?」
「あー……あれはねー。マイちゃんは身体弱いから同い年の子に負けないように気を張ってるだけだよ。まぁ後は年上の人に可愛がられるのが上手だから、その人を取られたくないみたいな~ってそこまでは考えてないかな~」

 そう。マイはコウやアヤノと言った同年代の二人の前だと態度が百八十度変わる。気の強い女の子に変身するみたいに。それを疑問に思っていたらしい。
 ソラは目をつむって考えたようだが、すんなりと答えが出てきたらしく答えた。

「気を張ってる? あーなんかスッと来た! ん? あ、もうこんな時間か」

 その答えにゴールドはひらめきに近いような顔をして時計を見ると、席を立ちあがって店を出る事を察しさせた。

「あれ、もう行くのか?」
「ウッス。マイ待たせてんで。特訓の時間なんスよ!」
「そっか。また話そうな! 今度はコイバナとかしような~!」
「しないっすよ!! じゃ、会計しとくんで!」
「え!? あっいや俺年上……はえー……もう行っちまったよ~」

 鈍いソラは気づかない。この人にはある意味勝てないとゴールドは踏んで会計だけ済ませるとさっさとワカバタウンに向かってスケボーに乗った。

「マイちゃんはゴールド君の事好きだ~って言ってたって言うの忘れてたー。まぁいっか!」

 ブラックコーヒーを飲んだにも関わらず、水辺で休んでいる水ポケモンのようにのんびりとした口調でソラは独り言をつぶやいた。

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