季節は春。始まりを告げるように桜が咲き、少年少女は夢と希望で胸を膨らませ、信頼するパートナーと共に目標目指して旅立つ時期。俺が経営するうどん屋時和は、トキワシティの湖の近くに店を構え、ポケモンリーグに挑戦するような自信に満ちたトレーナーがよく来店し、俺が手打ちしたうどんで腹ごしらえをして、トレーナーとしての最高の舞台へ出発する。ここはそんな人達の憩いの場といったところか。そしてこの店は、他の飲食店と一風変わった特徴がある。
「ララ、出前用に三人前うどんと青ねぎ切っといて!」
「ララ〜ン!」
「シウバ、予備のつゆだし温めといて!」
「バシャッ!」
「ペッタ、三番テーブルに温玉二つ頼んだ!」
「キシシ…」
従業員にポケモンを雇っていることだ。まぁ皆俺の手持ちだけど。
うどんなどの切り分け担当のラランテス
めんつゆや茹で加減担当のバシャーモ
配膳全般などが担当のジュペッタ
出前担当のフライゴンとカイリュー
そして俺は接客や盛り付け、皿洗い担当をしている。
お客さんには券売機で注文を決めてもらい、カウンターかテーブルでお待ちいただき、食べ終わったらそのまま退店するという流れだ。
当初はポケモン管理委員会(ポケ管)への申請諸々、立地の交渉やポケモンの教育など大変なことばかりだったが、最近ようやく軌道に乗り始めてきたという感じだ。どうやらポケモンと一緒に食事ができるというのが意外と反響を呼び、遠方からのトレーナーもやって来る程の人気店になった。そして俺は、ここに来る若いトレーナーによく聞かれる質問がある。
「店長って強そうなポケモン持ってますけど、やっぱりバトルは強いんですか?」
…まぁ聞きたくなるよね。一応皆とは進化前からの付き合いだし、昔はバッジ集めの旅に出たこともあったけど、今はもうトレーナーは引退してしまい、経営者として働いているからバトルする暇がないんだよなぁ…。
「いやいや、最近は仕事が忙しくてバトルどころじゃないからな…。昔集めたバッジもあるんだが、途中で諦めて六つしか持ってないんだ、はっはっは」
確か12才の頃にジム巡りの旅を始めて、何とか六つまでバッジを集めたけど、とある事情で旅を辞めちゃったんだよな。
それから色々あって10年後、再びカントー地方に帰ってきて、まさかうどん屋さんを経営するなんて想像してなかったな。本当、人生何が起きるか分からんな…。
そして、最後のお客さんも帰って閉店作業を終えた俺は、ポケモン達を労いながら家に帰ろうとした。すると、俺を待ち構えていたかのように、店の角から誰かがこちらへ声をかけてきた。