40話 その後ろ姿は

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読了時間目安:16分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「ふあ~、ねーむい...」
ラディは大きな欠伸をしながら、机の上のカルテを整理していた。
夜間に急病人が来た際に対応できるよう、医務室の担当者は必ず誰かは起きている決まりになっており、普段は2匹1組で交代しながら仮眠をとるのだが、レベルグに4匹しかいない医者のうち、タブンネのアイネとプクリンのカリンは、最近、頻発している救助隊を対象とした襲撃で怪我を負ったポケモンの治療ということで他の町に出張中だ。
2日で戻ると言っていたので、昨日はハクナ、今日はラディが夜間帯を1匹で担当している。
「昨日の夜は、ザント達が運ばれてきて、お姉ちゃんもバタバタしてたみたいだけど、今日は静かでよかったよ。 これ以上、運ばれてきてもベッドは全部埋まってるからね」
「その1つを占領しちまってわりぃな」
ラディの声に反応するように、ベッドで横になりながらも、顔だけはラディの方に向けるザント。
「あれ、起こしちゃった?」
「昼間っから、寝てるだけだったからな。 さすがにそんな寝れねぇよ」
「あ、確かに」
納得したようにラディが手をポンと叩く。
「イオはどうした?」
「いくら体が小さいからってクロネがイオと同じベッドだと、起きた時に文句いうだろうからって、今日はラプラが自分の部屋に連れ帰ったよ」
「......そうか」
夕方に帰って来た、チームスカイとチームマジカルズは、最近、救助隊を襲っているシャドーと戦闘になったらしく、みんな傷だらけで帰ってきた。
クロネはリルと同様の攻撃を受けてしまい、目を覚ますのにしばらくかかりそうということで、リルと同じく、この医務室のベッドに寝かしている。
イオも意識はなかったが、ラプラの話から、木に叩きつけられた衝撃で気を失っているだけだと判断した。 念のために『いやしのはどう』もかけておいたので、朝になれば、目を覚ますだろう。
「しかし、救う側のポケモンだけを狙うなんて、おかしな話だよね。 何が目的なんだろう?」
「さあな。だけど、あいつのあの目は..」
救助の依頼を受けて駆けつけた時、たまに怒り狂って、暴れまわるポケモンがいる。 そいつらがする目と同じ雰囲気をあいつの目に感じた。だけど、単純な怒りの目と表現するのも何か違う気がする。ザントがそんなことを考えていると、廊下から物音が聞こえた。
「ん? 急患かな?」
ラディが医務室の扉を開けるが、そこはまだ時間帯が夜中なこともあり、静まり返った通路が広がっているだけで、誰もいなかった。
「誰かいたか?」
「いや、ただの勘違いだった..み......」
バタンッ
「ラディ!」
急に倒れたラディの元に、傷で痛む身体を強引に動かしてザントは駆け寄った。
「おい、ラディ! しっかりしろ! ラ..ディ......」
バタンッ
ラディに駆け寄った直後に、ザントもその場に倒れ、意識を失ってしまった。

――――――――――――――――――――

(「いいか、青希。世の中には怖い人や悪い人が多くいるかもしれない。だけど、本当に悪い人はいないんだ。わかるか?」)

あれは、父さん?

(「ん~わかんない!どういうこと?」
「ハハハッ!まだ子供の青希には難しい話だったか!もっと大きくなったら教えてやるよ」
「もう!とうさんのいじわる!」)

ああ、そうか。 僕は夢を見ているんだ。
懐かしいな、あれは確か僕が4つぐらいの頃だったな。

(「こら、あなた! 青希が困ってるでしょ! それに、私は誰もがみんなあなたの言うように悪人ではないとは思えないわ...」
「そうかぁ? 俺は性善説好きなんだけどなー」)

そういえば、ここで母さんが乱入してきたんだっけ。 すっかり忘れていたな。
この後、どうなるんだっけ?

(「つまりどういうこと?」
「つまりだな、俺が言いたいのは..........)

ブツン

その時、暖かな夢を見ていたハルキの世界は急に真っ暗になった。
そして、暗い空間に取り残されたハルキの足がどんどん地面に沈み始める。
これはまずいと思い、必死にもがいていると誰かがハルキの右手を掴んだ。
(「ぼくの手を強く握って。 大丈夫。 君はぼくが助けるから。 だから、早く起きてね」)
ハルキが顔をあげると、青くキラキラしたオーラを纏った存在が、小さく微笑み、顔は良く見えなくとも、その笑顔がなんだかとても懐かしいように思えた。

――――――――――――――――――――

「ハッ!」
テンプレ染みた台詞と共に目を覚ましたハルキ。
まだ外は暗く、ハルキ達が寝てからそんなに時間は経過していないように感じられる。
普段ならばここで「変な夢みたなー」と結論付け、2度寝をする状況だが、
「なんだろう? 何か...おかしい」
目を覚ましたハルキは、何かピリピリしたものを感じていた。
とりあえず、部屋の外に出てみることにし、扉を開けて外に出るとそこには、ハルキ以外のチームスカイのメンバーが揃っていた。
「あれ? みんなどうしたの?」
「たぶんお前とおんなじ理由だよ」
「何か、変です」
聞いてみるとアイトやヒビキも夢が悪夢になりかけた時、青くキラキラしたオーラを纏った謎の存在に助けられて目が覚めたらしい。
ただ、全員助けてくれた存在がなんなのか覚えていない。
僕もその存在が笑ったような気はしたけど、顔に靄がかかってよくわからなかった。
「ってことは、ヒカリも?」
「ん? ああー、そんなとこー。 それより、みんな気をつけて。 さっきから、空気がやたらピリピリしてるから」
ヒカリは赤い頬っぺから小さな電気をバチバチと出して、周囲を警戒していた。
「とりあえず、寮の外に出てみよう。 何かわかるかもしれない」
ハルキ達は、周囲を警戒しつつ寮の外に出た。
「いくら見慣れた建物とはいえ、真夜中だとちょっと不気味です…」
「あれ? 夜道でも俺と一緒なら怖くないんじゃなかったっけ?」
「もう! アイト君ってば、そういう意味で言ったんじゃないです! プンプンです!」
「おっ、その擬音は正しい使い方だな!」
アイトが暗い雰囲気を和らげようとしてくれているのは、ヒビキにもわかっているようで本気で怒っているようではなかった。
そんなやり取りをしていると、前方を歩いていたヒカリが急に止まった。
「みんな、あそこ」
ヒカリが指差す方角を見ると、ギルドの建物の屋根の上に、月夜を背景に赤いマントをなびかせる黒い影がこちらに冷たい視線を向けていた。
「...シャドー」
「青い目の奴...またお前か」
ハルキを見ながらそう言うと、屋根から飛び降り、ハルキ達の目の前に着地した。
「1つだけ聞かせろ。 ここにキリキザン、リザードン、ガオガエンというポケモンはいるか?」
シャドーがどんな意図をもってこんな質問をするのかはわからないが、ここ数日、救助隊として暮らしていたハルキの記憶の中には、シャドーの言ったポケモンの姿はなかった。
「......いない。 少なくとも僕は見かけた事はない」
「そうか...。 ならば今はお前らを倒すことに集中するとしよう」
シャドーの言葉をきっかけにお互いに戦闘体勢にはいる。
先手必勝と言わんばかりに、アイトは深く息を吸うと『かえんほうしゃ』をシャドーめがけて放つ。
シャドーはそれを難なく避けると、先程の戦闘でもよくしていた『シャドーボール』を放ってきた。
チームスカイは後ろに下がりながら、その攻撃を回避する。
当たりどころを失った『シャドーボール』は地面に当たり、激しい破裂音を深夜のギルドに響かせる。
「そうか! おい、みんな! なるべく、派手な攻撃をしろ! 寝ているみんなにこの戦闘を気づかせるんだ」
「フッ、そんなことしても意味ないがな」
「強がっても無駄だぜ。 いくぞ!」
さっそく、派手な攻撃をぶちかまそうと構えたアイトをハルキが制止した。
「まって!」
「な、なんだよ?」
「僕達が目を覚ました経緯を思い出して」
アイトは「なんでこんな時に?」とでも言いたげな表情をしたが、ハルキの言う、自分達が目を覚ます前の光景を思い出し、表情が曇った。
「お、おい。 まさか....」
「うん。......あんまり考えたくはないけど、たぶんこのギルドにいる、僕達以外のみんなは、幻覚世界に落とされている可能性が高いと思う」
あの時__夢の中で地面に呑み込まれそうになった時、どういうわけか僕達チームスカイには助けてくれた存在がいた。
そのおかげで、幻覚世界に落とされずにすんだのだ。
だが、他のみんながそうとはかぎらない。
「そいつの言うとおりだ。 今頃、ここのやつらは幻覚というなの迷宮に迷い混んでいるだろう」
「そ、そんな....」
「どういう訳か、お前達はまたあの世界から抜け出してきたようだな。 だが、それならここで倒せばいいだけの話だ」
そう言うなり、シャドーが影の中に潜った。
「アイト! ヒカリ!」
「わかってる!」
「まかせて!」
アイトとヒカリは、飛び上がると地面に向かって『かえんほうしゃ』と『ほうでん』を繰り出し、辺りを明るくした。
影が少なくなったことでシャドーが陰から出てくる。 そこをヒビキとハルキが『スピードスター』と『バブルこうせん』による合わせ技をシャドーに喰らわせた。
「くっ! 対策をしてきたか。 なら、真っ向から叩き潰す!」
「ヒビキ。 お前は下がってろ!」
「えっ...」
ヒビキを強引に突き飛ばして後ろに下げると、アイトは接近してきたシャドーに『ほのおのパンチ』を放った。しかし、
「俺が同じ技しか使わないと思ったか?」
「なっ!?」
シャドーが放ってきた技は『シャドーパンチ』ではなく、手に冷気を纏う攻撃、『れいとうパンチ』であった。
「くっ! そんな氷、俺の炎で溶かしてやるよ!」
「!? ダメだ! アイトッ!」
ハルキの制止も無視し、アイトは『れいとうパンチ』に真っ向から『ほのおのパンチ』をぶつけた。
それにシャドーは薄い笑みを浮かべた。
「確かに、氷は炎に弱い。 そして、お前はほのおタイプ。 相性の上でも競り勝てると思ったんだろうが、残念だったな」
「なっ!?」
ぶつかり合った拳は、最初こそ拮抗していたが、徐々に炎が弱まり、アイトの右腕は凍ってしまった。
怯んだ隙に『まわしげり』をもろに喰らったアイトは数メートル吹き飛ばされ、寮の壁に叩きつけられた。
「ぐわあああッ!」

「「アイト!」」
「アイト君!!」
ヒビキが慌ててアイトの元に駆け寄る。
「くっ..ま...まだ、だッ!」
アイトはなんとか体を起き上がらせようとするが、その健闘むなしく、体は動いてはくれなかった。
「なぜ、体が動かないのか不思議そうだな? 簡単なことだ。 今のお前は最初からほぼガス欠状態だった。 それだけのことだ」
思い返せば、シャドーと1度目の戦闘をしてから、まだ時間はそんなに経過していない。 あの戦闘でアイトは動くことすらきついダメージを受けていた。
それでも、ヒビキに手伝ってもらいながら、発動した[もうか]で、強力な『かえんほうしゃ』を手のひらから打ち出すという芸当を2度もした。
ギルドに戻ってからは、オボンの実を食べてどうにか動くことはできるようになったが、
最低限、動けるようになっただけで体力はほとんど無いに等しく、最初からとても戦闘できるような状態ではなかった。
さっき、ハルキがアイトを制止しようとしたのも、これに気づいていたからだろう。
「...くそっ!」
アイトは悔しそうに、凍ってしまった右手の代わりに、まだ辛うじて動く左手を強く握って、地面を叩いた。
「ここからは僕達に任せて、アイトは休んでいて。 ヒビキはアイトの側にいて、アイトを守ってやってくれ」
「そ、そんな! わ、わたしも、た、戦えるです!」
ヒビキが精一杯声を張り上げるが、その声は震えていた。
震えるヒビキの手をヒカリが両手で優しく包み、微笑みながらヒビキに言った。
「手、震えているね。 でも、それはおかしい事じゃないよ。 まだヒビキは子供だし、さっきよりも厳しい状況下での戦闘だ。 怖くて逃げたくなるのも当然だよ」
「な、なら!」
ヒビキが「逃げる」という言葉を紡ぐ前に、ヒカリは無言で首をふった。
「それはできないよ。 私達が逃げたら幻覚世界に迷い混んだみんなを救えなくなる」
ヒカリに言われなくても、ヒビキは頭の中で、本当はわかっていた。逃げてもなにも解決しないと。だが、初めてシャドーと戦った時、目の前で自分よりも頼もしく、強いポケモン達が倒れていき、どれだけシャドーが強いのかを目の当たりにした。
そして、今、ここにはチームスカイ以外のポケモンが助けに来ることはほぼない。
その事実がどうしようもなく、怖かった。だけど、みんなとならなんとかなると思って、無理やり心を奮い立たせていた。
しかし、アイトがやられてしまったことでヒビキの心は完全に怯えきてしまっていた。
「大丈夫。 私とハルキが何とかするから」
優しい言葉をかけるヒカリに、ヒビキは泣きながら答えた。
「わ、わたしはッ!....ただ情けないんです......。 どうして....どうして、わたしはッ! こんなにも無力なんですッ!?」
ヒビキが泣きながらハルキとヒカリに話し始めた。
「アイト君がこんなにボロボロになったのだって、全てわたしが悪いんです! わたしが....わたしが、ちゃんと攻撃を回避できていればッ!! アイト君がわたしを庇って、こんなにも傷つくことはなかったんですッ!! 全部......ぜんぶ、わたし...のせいで....」
「バカ野郎ッ!!」
「ッ!?」
ヒビキは両目いっぱいに涙を溜めた状態で、声のした方向に恐る恐る視線をむけると、体は動かなくても視線だけこちらに向けているアイトの姿がそこにあった。
「誰がお前のせいだって言った!? ハルキか? ヒカリか? それとも俺が言ったか!? そんなこと言う奴なんて、ここには、誰一人としていないぞ!! 」
「で、でも...」
「でもじゃねぇ! 俺がこうなったのは、俺が自分の体力をちゃんと把握してなかっただけだ! お前のせいじゃない!」
「だけど...だけど!!その原因を作ったのはわたしです! わたしが....わたしが弱いから、アイト君はッ..!!」
「ヒビキ....」
まさかヒビキが自分の行いでこんなにも傷ついているとは、夢にも思わなかったアイト。
ヒビキは女の子でまだ子供。
だから、大人である俺が守らなくちゃいけない。
そう思って、ずっと前に出ていた。
目の前で自分のために傷ついていく、姿をひたすら見せられる側の気持ちなんて考えずに...
「ごめんな、ヒビキ。 俺、お前の気持ち...。ちゃんと考えられてなかったよ」
「わ..わたしも....言いすぎた.....です」
涙声で途絶えながらも、アイトに謝るヒビキ。
「水を差すようで悪いけど、二人とも話はここまでにして下がっていて!」
その言葉に慌てて、ヒビキがアイトを守るために下がり、代わりにヒカリとハルキが前に出た。しんみりした空気になって、忘れかけていたが今は戦闘中だ。感傷に浸っている場合じゃない。
「ごめん。 ハル..キ...?」
アイトは慌てて、ハルキの方に視線をうつすと、ハルキはこちらを一切向かずに目の前のシャドーをずっと見ていた。
その後ろ姿は、いつも以上に気迫があり、頼もしくも、少し怖くもある。
そんなハルキの背中にアイトも思わず言葉を詰まらせた。
「待ってくれるなんて、随分と気前がいいね」
「俺をお前達、救助隊の様な卑劣な連中と一緒にするな」
シャドーはキッと目つきを鋭くすると、先ほどよりも強くこちらのスカーフを睨んできた。
「ヒカリ、君はサポートに回って。あいつが影に潜れるチャンスを潰すように立ち回ってくれ。 前衛は僕がやるッ!」
「わかったよ、ハルキ」
「いくぞ! 救助隊!」
そう言うと同時に、シャドーはハルキとヒカリ目がけて駆け出し始めた。
ハルキとヒカリの長い夜の戦いが始まった。
俺達の戦いはこれからだ!!
(※最終回じゃないです。本当にこれからです!)

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