第1話・イレギュラーな存在

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「…うーん……あれ…?」
「あ、気がつきましたか…?」

 目を覚ますと見覚えのある風景が目に映る。アルトの両親が経営している旅館 カミナリの一室だった。

「…あれ…?ぼく、確か海岸でアルトと話してて…それで……」

 ゆっくりと朧げながらも覚えている範囲で記憶をたどっていく。少し身体を動かすと頭部に痛みが走る。

「…海岸でアルトと話してて…願い事を言って…何かに…ぶつかった…?」
 何かにぶつかった、そこまでは覚えているが何にどうやってぶつかったのか、そこまでは覚えていなかった。

「…そのぶつかってきたのがあの子だったんですよ」

 そばにあったもう一つのベットの方に目をやる。そこには1匹のポケモンが横になっていた。見た目的にポッチャマだろうか。

「ええっ!?ど、どこから…?」
「…多分…空から」

 空からポケモンが降ってきた?一体どういうことなのか、理解が追いつくわけもなくケイトの思考は混乱を招いていた。

「え、ええーっ!?な、なんで空から…?」
「…そこは私もわかんないんですよね…ロイド君はそのことを調べるって言って司書室に行ってますけど…」

 そうアルトが言うとドアの方からガチャリと開く音がしてロイドが部屋の中に入ってきた。手には何やら難しそうな本を持っている。

「あ、ケイト…!だ、大丈夫だった…?」

 おどおどした口調だが心配そうにこちらに声をかける。

「え、あ、うん、大丈夫…かな?」

 ぶつかった頭部にまだ痛みは残っているが気にしなければどうという事はない感じであった。ただ今のところは絶対安静の様子ではあったがとりあえず現状は大丈夫な様子であった。

「あ、ロイド君…どうでした?何か分かりましたか?」
「…うーん…よくは分からなかったかな……魔法で空から降ってきたのかな…とかも考えたんだけど…」
「…うーん…そうですか…でもこればっかりは本人に聞かないと分かりそうにないですね…」

 わからないことを深追いする必要はない、そうアルトが切り上げる。

「…ケイトさんも目覚めたことですし…あの子が目覚めるまで待ってみましょうか……あ、何か入れてきましょうか?」
「あ、じゃあぼくいつもので」
「…ぼ、僕も…」

 ケイトとロイドの“いつもの”というのは紅茶の種類のことである。ケイトはダージリンのホットティー、ロイドはアッサムのミルクティー、そしてアルトはセイロンのアイスティーが好みなのである。この世界に住むポケモン達は紅茶に一人一人こだわりというものが存在しているのだ。そしてここはアルトの両親が経営する旅館兼ケイト達が探検隊として宿舎としても利用しているのだ。アルトの両親はとてもポケ柄がよく、魔法探検隊のためにと旅館の一角を宿舎として解放してくれているのだ。

「分かりました」

 アルトがそう行って部屋から出て行く。部屋の中は暫しの沈黙に包まれる。

「…ねえ、この子が空から降って来たのって…ワープだったするのかな…?」
「…ワープの魔法…か…うーん…どうだろう…」

 ワープの魔法とはその名の通り好きなところに自在に行き来出来る夢のような魔法である。最近そのワープ理論が話題となり魔法学者達が実用化に向けて動いていたのだった。しかし夢の魔法というだけあって一回使うだけで莫大なマナを消費してしまう。数値でいうと約5兆TM(テラマナ)ほど必要とする。それはこの地に住む魔法使いの魔力を合計してギリギリ届くか届かないかというレベルであった。そのためとても実用化できずに夢半ばで廃れてしまった魔法なのだ。

「…うーん…でも…見た感じその子…多分僕たちと同じくらいの年だと思うし…そんな子が…そんな魔法を…使えるとは思えないけど…」

 ロイドの言うように進化していないところを見るに少なくとも子供であることは容易に分かる。そんな子がワープ魔法を使えるとは到底思えない。しかし、もしかしたらという期待も少なからず持っていたのも事実ではあった。

「……うーん…」

 ベットの方から聞こえた声。眠りが浅くなって来ているのだろうか。そのポケモンは声を漏らしながら起き上がる。

「……あ、あれ…?こ、ここは…?」
「…ぁ…お…起きた…のかな…?」
「あ、目が覚めたかな?君大丈夫?」
「……うわッ!?だ、誰だッ!!」

 そのポケモンは驚いてベットから飛び起き小さな翼で身構えている。

「あ、ごめん…驚かせちゃったかな…?ぼくはケイト…こっちはロイドって言うんだ」

 身構えるそのポケモンに向かって軽く自己紹介をするケイト。その後そのポケモンとの間に少しの沈黙が続く。

「………うわッ!!え、ポケモンが…ポケモンがしゃべったァー!!?」
「ど、どうしたの急に!?き、君だってポッチャマなんだし当たり前でしょ…?」
「…え…?ほ、本当だぽっちゃまになってるーーッ!!?」

 そのポケモンは頭や翼をさすってみて再度驚く。

「…人間が…ポケモンになるなんて…」

 そうそのポケモンが呟くと次はケイトとロイドが驚き叫ぶ。

「ええーーっ!?人間だってーー!?」

 ポケモン達の叫び声は夜空にも届きそうな大声だった。
時刻はすでに朝方…明けの明星が輝き空には淡い陽の光がさしかかっていた。



* * *



「…え、人間ってのは本当なの?」

 紅茶を入れて来たアルトを含めて4匹で円状のテーブルを囲んでいた。

「…た、多分…」

 そのポケモンは自信なさげにそう言う。人間だったと言うことも驚きだがなぜ人間がポケモンになってしまったのか、なぜ空から降って来たのか…謎だらけのこのポケモンに質問したいことは山ほどあった。

「…あ、ごめんなさい…何か入れて来ましょうか…?…えっと…お名前は…」

 そういや肝心な名前を聞いていなかったことに気づく2匹。

「…名前…?…名前は…トト…」

「………!…ぁ…トトって言うんだ…ぁ…よろしくね…」
「…トト…さんですね。何入れて来ましょうか?」

 何か入れてくると言われたが特段飲みたいようなものを浮かばなかった。しかしここは恩にきて何か頼もうとする。

「…え、うーん……あ、コーヒーってある…?」
「コーヒーですね…ミルクとかは…?」
「ブラックでいいよ…あとホットで」

 その返答にケイトが口にしていたダージリンティーを吹き出す。その吹き出した紅茶がロイドに降りかかる。

「…ブーッ!…えッ!トトブラックコーヒー飲めるの!?」
「え、うん、てか俺苦いのが好きなんだよ」
「…ま、まあ、みんな紅茶とかには…一人一人こだわりが…あるからね…」

 ロイドがぶっかかったダージリンティーを拭きながらそう答える。本にかからなかっただけマシだと心の中で思うロイド。

「えっと、じゃあ急いで入れて来ますね…」

 そう言って駆け足で部屋を飛び出していった。3匹だけとなった部屋は暫しの沈黙に包まれる。

「…えっと、トトはどこから来たの?」
「…うーん…そこがわかんないんだよな…」

 トト曰く人間だったということと年齢以外の人間の頃の記憶などは覚えていないそうだ。年齢は12歳、ちょうどケイト達3匹組と同い年であった。

「へぇー!じゃあ12歳ってことはトトもなんか魔法が使えたりするの?」
「ま、魔法…?」

「えっと…魔法っていうのはこの世界に住むポケモン達が使う特別な技みたいなもので…12歳になると魔力が宿って魔法が使えるようになるんだ…」

 ロイドの補足で少しは理解した様子のトト。しかしまだ頭の中にははてなマークでいっぱいだった。

「え、でも急に言われても…」

 それもそのはずだ。トトはポケモンになったばかり。魔法どころかこの世界のことについてもよくわかっていないのだから。

「…そ、その前に…僕たち…詳しく自己紹介してないしね…」

 その時ちょうど扉の開く音が聞こえて来てアルトがコーヒーを持って帰って来た。

「あ、そうだね、アルトもちょうど帰って来たし…改めて自己紹介しよっか…」
「え、あ、そうですね…」

 アルトはそう言いながらトトにコーヒーを差し出す。ありがとう、と一言トトが言葉を述べる。

「じゃあ改めまして…ぼくはハリマロンのケイト!風の魔法使いだよ!」
「…え、えっと…僕は…メッソンのロイド…です…魔法属性は…氷…です…」
「改めて初めましてトトさん。私はピカチュウのアルトです。雷の魔法使いです。よろしくお願いしますね」

 あらかた自己紹介し終えたケイトが言葉を続ける。

「トトにこの世界のこととか色々教えてあげたいんだけど…」

 そう言って時計を見る。もうすでに朝の5時を過ぎていた。

「ぼくたち寝てないんだよね…少し寝てから色々話して街の方とか案内するよ」

 ケイトが大きなあくびをしながらそういう。トトとアルトもつられてあくびをする。

「そうですね。色々あって寝てませんでしたからね…」
「…あ、じゃあ…みんな先に寝といて…僕は本…返しに行ってくるから…」

 ロイドはそう言って部屋を出ていった。



「…ふぅ…」

 ロイドは部屋の外に出てため息を漏らし持っていた本をめくる。

「……トト…いや…まさかね……」

 そう小さく呟いてロイドは司書室へと向かっていった。

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