玖漆 演じる二人の裏側で

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 モンスターハウスの野生も倒し終わって、ぼく達は一度集まって状況を整理する。
 何か気まずそうにしていたハクリュ-さんは、シルクさんの親友でけんか中だったらしい。
 だけどぼくが訊いたのがきっかけで本音を言い合えたらしく、二人は仲直りすることができていた。
 二人とも号泣しててぼくももらい泣きしそうになっちゃったけど、血を吐いたシルクさんでそれどころじゃなくなってしまった。
 [Side Spada]




 「ミストボール! ……スパーダさん、シリウスさん達の姿が見えないんだけど――」
 「シリウスなら多分、先に進んだと思うのだ」
 「先に? 」
 「そうなのだ。今からで追いつくか分からないのだけど、ハクを――」
 「隙あり! 背中ががら空――」
 「しまっ――」
 「神速! 」
 「くぅっ……! いつの……間に……」
 「スパーダ背中を見せるなんてらしくないわね」
 「りっ、リオリナ……。本当に……リオリナなのだ? 」
 「ええ。他に誰かいるかしら? 」
 「ってことはもしかして、この人が言ってた副親方なんですか? 」
 「そっ、そうなのだ! 」
 「ええ。アタイは死んだことになってるから副親方って言えるか分からないけど。それにラティアス……でいいのよね? 」
 「うっ、うん。メガ進化してるけど……」
 「あんたの事はクアラ……テトラから聞いてるわ。テトラの仲間の一人なのよね? 」
 「そっ、そうだけど、何でテトラのことを――」
 「あの日以来クアラがアタイのパートナーみたいなものだったからね。そうそうテトラは無事だから安心して」
 「ほっ、本当に? 」
 「ええ」




――――




 [Side Kinot]




 『それじゃあ、打ち合わせ通り頼んだわ』
 「はい! 」
 ぼくもサードさんもあまりする事が無いけど、大切だから間違えないようにしないと……! あの後合流したハクさんも一緒に進んだぼく達は、ひとまずダンジョンを突破する事ができた。ミニリュー、それからハクさんのハクリューも出てきたからややこしかったけど、その二種類だけはハクさんが倒してた。シルクさんはシルクさんで吐血してたから凄くビックリしたけど、そんな状態なのに簡単に野生の人たちを倒してた。それも技じゃなくて“尾術”を使ってだったから、本当に凄いよね!
 それでちょっと前にダンジョンは抜けたから、一番奥に歩きながらちょっとした作戦会議。シルクさんが即興で考えた作戦だからどうなるかわからないけど、仲直りしたハクさんが凄く褒めてた。ダンジョンで会った時は微妙な感じだったのに話してるのを見ると、本当に仲が良いんだね、って思えてくる。ぼくも地元にそういう友達は何人もいるけど、ししょーに弟子入りしてから殆ど会えてないからなぁ……。
 「フィフもな」
 『ええ』
 「そやな。じゃあシルク、頼んだで」
 「……」
 ちょっと話がそれたから元に戻すと、今ぼく達がいるのは大きな扉の前。ダンジョンの中もそうだったけど、あの“リナリテア家”の邸宅だから、凄く豪華な鎧とか飾りとかが沢山ある。考古学者見習いのぼくでも凄く興奮するけど、今はそういう時じゃない。この扉の先に事件の犯人、ルーンさんから“月の笛”を奪った人がいるみたいだから、声を潜めて大きく頷く。サードさんも首を小さく縦に振ってたけど、ハクさんはシルクさんのサイコキネシスで浮かされる。これも作戦のうちの一つだけど、ハクさんを浮かせたシルクさんはそのまま扉の先へと入っていった。
 「サードさん、いよいよって感じですね」
 「そうだな、うん」
 ぼくの出番はまだだけど、もう緊張してきたよ……。シルクさんは扉を少し開けたままにしてくれたから、ぼく達はその隙間からのぞき見る。この部屋にはサードさん達の予想通り、事件の主犯らしい二人の姿がある。一人は何となく予想できたけど、この屋敷の主人で多分ハクさんのお父さんのカイリュー。それからもう一人が、威圧感が凄いグソクムシャ。これはぼくの予想だけど、この人がルーンさんから“月の笛”を奪った張本人だと思う。
 「キノト、今だから聞いておくが、本当に戦う気なんだな? 」
 「えっ、はい」
 今部屋の中でグソクムシャが笑ってるけど、作戦の真っ最中のぼく達はそれどころじゃない。ぼくの中で心臓の音がうるさいぐらいに鳴ってるけど、もしかするとサードさんもそうなのかもしれない。今までとは違って凄く険しい表情をしてるけど、サードさんは表情を崩さず、それも急にぼくに話しかけてきた。いきなりだったから、少しびっくりしたけど……。
 「ルーンさん……、“月界の統治者”に約束したんです、“月の笛”を取り戻す、って。だけどししょーが“チカラ”を暴走させて倒れちゃったから、ぼくが取り返さないといけないんです。アグノムさん達が調べてくれてたから、いいとこ取りすることになっちゃったけど……」
 「そんな事はない。元はと言えば俺が頼んだ事だからな、うん。本来なら俺が“ビースト”を討伐するべきだったのだが、“エアリシア”の件で手が放せなかった。他にアクトアのギルドも討伐してくれていたが、キノトとウォルタがいなければここまで早く討伐できなかっただろうな、うん」
 ぼくも部屋の様子を見てるから目は合わせてないけど、サードさんに心の底で思ってる事を話す。出来ればぼく達が“月の笛”を探したかったんだけど、ししょーが出席した“会議”で決まった事だから、出来ないのは仕方ないって言い聞かせてきた。……だけどサードさん、保安協会の代表で伝説側の立場でもある彼にこう言ってもらえると、ししょー……、それからフィリアさんとかライトさん、関わってきたみんなの力を借りたけど、ここまで頑張ってきて良かった、って思えてくる。
 「ジク殿も冷酷――」
 「だからキノト、お前はもう少し自信を持っても良いと思うな、うん。俺はあまり深くは知らないが、もし俺がキノトの師匠なら、同じ事を言うだろうな」
 「自信……はい」
 自信、かぁ……。
 「キノトはその場にいなかったが、フィフもお前の事を褒めていたな」
 「シルクさんがですか? 」
 「あぁそうだ。短期間で新しい技を二つも教えたのは流石にやり過ぎた、と言っていたが、それでもキノトは完全に習得したからな、うん」
 「ですけどサードさん? 技を連続で習得する事って、上位の探検隊とかなら頻繁にありそうなんですけど……」
 スーパーランクとかハイパーぐらいの種族なら、ダンジョンによって技を変えてる、ってイメージがあるけど、そこまで凄い事なのかな……? サードさん、それからシルクさんもぼくの事を良く見過ぎだと思うけど、多分昨日のうちに話したらしい事を教えてくれる。横目でサードさんの方をちらっと見てみると、険しかった表情が少しだけ緩んでいるような気がする。多分サードさんはシルクさんと話した事をそのまま言ってくれたんだと思うけど……。
 「いいや、俺が知る限りでは殆ど無いな」
 「そっ、そうなんですか? 」
 「そうだ。どのランクでも言える事だが、短期間で複数の技を習得しようとすると、どうしてもイメージが混同してしまう。混ざらなければ言う事はないのだが、聞くところによるとマスターランクの救助隊員でも最低一ヶ月は空けるそうだ」
 「いっ一ヶ――」
 マスターランクでもそうしてるの? サードさんはぼくに語りかけるように、長年で聞いたりしてきたらしい事も交えて教えてくれる。救助隊といえば“導かれし者”のアーシアさんの事が浮かぶけど、そんな凄い人でも一ヶ月も空――。
 『ハク、準備は良いわね? 』
 「……と、話の途中だが、そろそろみたいだな、うん」
 「そっ、そうみたいですね」
 本当に話の途中だったけど、ぼく、多分サードさんの頭の中にも、シルクさんの声が響いてくる。あらかじめ教えてくれたから凄くありがたいけど、そのお陰でぼくは気持ちを作戦の方に切り替える事ができた。
 「構わん、殺れ」
 改めて部屋の中に目を向けてみると、丁度カイリューが浮かされてるハクさんの方を見下ろし、冷酷な表情で呟いてるところだった。流石にこれにはグソクムシャも驚いたらしく、コレを聞いて言葉を失ってしまっていた。
 だけどぼく達はそうするわけにもいかないから、気を引き締めて部屋の中の様子を伺う。同時にシルクさんから預かっている道具、二本目の“依属の針”を鞄から取り出し、すぐに投げられるように口に咥える。もう一度サードさんの方を視界の端で捕らえると、彼は合図するかのように小さく頷く。準備は良いな、目でこう語ってきたような気がしたから、ぼくも同じようにこくりと首を縦にふる事にした。
 『サードさん、キノト君、今よ! 』
 はい! すぐに合図のセリフが響いてきたから、ぼくは咥えている針を大きく振りかぶる。右から左に向けて首を大きく振り、左を向ききったところで顎の力を緩める。するとサードさんのそれと全く同じタイミングで、ぼくの針も真っ直ぐと飛んでいく。
 「――っ! 」
 それを犯人二人と対峙してるシルクさんが見えない力で受け取り、一瞬のうちに針に属性を纏わせる。本当にまばたきするかしないかぐらいの短い時間だったから、エネルギー体がどんな動きをしたのかだけは見れなかった。暗い青色をしてるから、多分シルクさんはドラゴンタイプの目覚めるパワーを発動させたたんだと思うけど……。
 「なっ……! 」
 「フォス、貴様……、何のつもりだ! 」
 「上手くいったみたいですね」
 「そのようだな」
 よかった……! シルクさんの技で竜の長針になった二本の針は、カイリューとグソクムシャ、二人に向けて真っ直ぐ飛んでいった。その短い間でも操っていたらしく、それぞれの針は敵の首元、スレスレでぴたりと制止する。針を突きつけられた二人は物凄く驚いてるけど、これがシルクさんが考えた作戦の一つ。順調にいってホッとしたけど、サードさんもふぅと小さく息を一つついていた。
 「そういえば一つ思ったんですけど――」
 「ん? 」
 今訊く事じゃないかもしれないけど……。
 「サードさんってシルクさんの事、フィフ、って呼んでますよね? 」
 「その事か。俺は“無名の泉”で初めて知ったが、シルクとフィフ、どちらも彼女の名前だそうだ、うん」
 「りょっ、両方ともなんですか? 」
 名前が二つあるって、どういうこと? ぼくはふと気になって訊いてみたけど、まさか両方をも彼女の名前なんて思いもしなかった。ぼくはてっきりあだ名か何かだと思ってたから、思わず言葉になりかけた声をあげてしまう。
 「“終焉の戦”以前ではよくあった事だが……、フィフが産みの親から貰った名前、シルクが育ての親から付けられた名前だそうだ」
 「そっ、そうだったんですか? 」
 「らしいな。キノトはウォルタの弟子なら、フィフの事は聞いているな? 」
 「はい。お父さんもお母さんも大地震で亡くなって、“ニンゲン”に拾われて育――」
 ししょーから聞いたことしか分からないけど、そう言ってたよね、確か。シルクさん達の時代のことは全然想像できないけど、シルクさんのことはししょーから聞いたことがあった。“終焉”の前だから今とは凄く違うけど、それでも同じ事も多いとも言ってた。おとぎ話とかそのぐらい時代が違うけど、ぼくは――。
 「――知らへんみたいやな。……それにここに来とるのも――」
 「キノト! 」
 「はっ、はい! 」
 「いくぞ! 」
 「はい! 」
 また話の途中になっちゃったけど、流石に今度は出番に気づくことが出来た。部屋の中の話しもシルクさん以外の声は聞いてたから、心の準備もちゃんとしていた。だからぼくは今度こそ、変な声を出さずにサードさんの呼びかけに返事することが出来た。大きく頷きながら扉に前足をかけて――。
 「サードさん、キノト君! 」
 ハクさんの合図で一気に飛び出した。
 「ああ、この作戦には俺も参加している、うん」
 「だからシルクさん二人じゃなくて、四人です! 」
 サイコキネシスを発動させ続けてるシルクさんの横に並んで、サードさんは落ち着きながらも力強い声で言い放つ。ぼくもサードさんに続くような感じで、即興で考えたけどそれらしいことを大声で言っ――。
 「表立って行動するのは性に合わんが、今回は保安協会代表として――」
 「いいえ、四人ではなく六人です! 」
 ぼくが言った後でサードさんは続けてしゃべってたけど、それはこの場にはいない誰かの声で遮られてしまう。テレパシーじゃないのに声が響いてるけど、この声はどこかで聞いたような気がする。
 「シリウス! 」
 急だったからビックリしたけど、扉の方に振り返るとアブソル……で、いいんだよね? それよりもぼくは……。
 「俺の存在をわすれたとは言わせねぇぞ」
 その人と入ってきたもう一人に驚いてしまった。何故ならその人は……。
 「みっ、ミナヅキさん? 」
 “月の次元”の同族で、今思い出したけどシリウスさんに囚われてる事になってるミナヅキさんだったから……。捕虜みたいなものだ、っていってたからここにいるはずが無いんだけど、姿が違うシリウスさんの隣……、ぼく達の前に颯爽と躍り出る。
 「ミナヅキ、丁度良い、今す――」
 「ムナール様……、いや、ムナール!俺にとってお前は師の敵。今までは大人しく従ってきたが、俺は何年もこのときを待っていた。んだからお前に指図される筋合いはない。寧ろ敵として討ち取らせてもらう! 」
 てっ、敵としてって……。もしかしてミナヅキさん、“月の次元”の出身なのにぼく達の仲間になったったの? グソクムシャは何かを言おうとしていたけど、部下のはずのミナヅキさんに遮られてしまう。そういえばミナヅキさんのことは詳しくは知らないけど、師匠のかたき、って言ってるから、少なくとも元の世界で何かあったんだと思う。仲間になったのかもしれないっていうのはぼくの想像だけど、よく考えたらあの時……、シオンちゃんに提案された時も、“術”を快く教えてくれた。あの時はなんとも思わなかったけど、捕虜とはいえそう簡単に“太陽の次元”のぼく達に“術”は教えないと思う。だからきっと、生まれた世界……、っていうよりは君主? を敵に回すぐらいのことがあったんだと思う。
 「師……、あのエセ史学者の事か。まぁいい。貴s間がそのつもりなら、此奴ら諸共屍に成り果てるがいい! 」
 「臨むところだ! 」
 『まさかここまで揃うなんて思わなかったけど、念のためもう一度訊くわ。戦うか、降伏するか――』
 「愚問だな。学者だかなんだか知らんが、そんな物関係ない。儂刃向かう物は全て敵だ。何人来ようと、関係ない。お前等まとめて消し去ってやるぁ! 」
 「ウチも最初からそのつもりや! “エアリシア”市長のジク=リナリテア。あんたには事件の首謀者、零級のお尋ね者として捕まってもらうで! 」
 「あぁ。この出来損ないが、捕まえれるものなら捕まえてみるがいい。この儂がまとめて返り討ちにしてしてくれる! 」




  続く

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