Eight-Seventh 潜入時のタネ明かし

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 ハクの実家の前で戦う自分は、変わらない状況に対してある事を決心する。
 この戦場をスパーダやライトさん達に任せ、ミナヅキさんと二人で強行突破する事にします。
 状況が状況なだけに少し苦労しましたが、何とか二人揃って突破する事が出来ました。
 おそらく屋敷自体ダンジョン化していますが、そこでも変わらず強行突破する事にしました。
 [Side Haku]




 『それじゃあ、打ち合わせ通り頼んだわ』
 「はい! 」
 「フィフもな」
 『ええ』
 ウチは大してする事無いけど、問題なんはあの暴君がどう動くかやんな……。あれからそれなりの時間戦い抜いて、ウチらはようやくダンジョン地帯を突破する。ダンジョンを抜けても趣味の悪い装飾が続いとるのは変わらへんけど、気が滅入りそうやから何とか気にしないようにする。そんでけんか中やったシルクとも仲直りできたわけやから、こんな事思う時やないけど割と気分は軽い。
 でダンジョンを抜けた後のエリアは、良くも悪くもウチが知っとるそのままの状態やった。もしウチが家出する前の十年前のままなら、今おる場所三階の暴君の部屋の辺り。そこは趣味の悪い装飾の中でも特に高価なもんが多いから、少なくともウチは目的地が近づいとる事が手に取るように分かる。今ウチらがおる両開きの扉が暴君の私室やから、ウチの予想が正しければこの中におるはず……。
 「そやな。じゃあシルク、頼んだで」
 この場所で作戦会議も済ませたで、親友のかけ声でウチらは動き始める。作戦自体はシルクが即興で考えたものやけど、暴君さえ予想通り動いてくれればうまくいく、ってウチは思っとる。ウチはサードさんとキノト君に続いて大きく頷いてから、親友の彼女に短く合図を送る。
 『ええ』
 「……」
 すると彼女はすぐに技を発動し、見えない力でウチを浮かせてくれる。浮かされるのは凄く久しぶりやけど、シルクはいつも痛くないように加減してくれる。サードさんとキノト君は扉の陰に身を隠すことで、ちゃんと配置についてくれた。
 「ん、誰だ? 」
 「……」
 「死んだと聞いていたが、フォス、生きていたか」
 もう一生無いって思っとったけど、こんなかたちでまた会う事になるなんて思わんかったよなぁ……。ウチを浮かせたままのシルクは、右の前足で扉を開けて部屋に入る。静かやったで少し不安やったけど、それはウチの杞憂で終わってくれる。まさか揃っとるなんて思わんかったけど、部屋の中には事件の首謀者の二人。ひとりはこの屋敷の主で、ウチが今までずっと恨んできたカイリュ-。もうひとりは初めて会うけど、リクとシルク達の話しによると、“月の次元”の首領らしいグソクムシャ。後者がシルクを見るなりぽつりと呟いていた。
 「いい誤算だが……、ん? そのハクリューは……」
 流石にこの状況で気づかないはずも無く、例の暴君は浮かされているウチに目を向ける。一瞬訳が分からないような表情をしていたけど、すぐにウチが実の娘、って気づいたらしい。
 「まさかとは思うがフォス、あの家出娘を連れ帰るとは、お手柄だ」
 「……」
 「父上……、お久しぶり、です」
 「父娘の感動の再会か、泣ける展開だな」
 そういゃあ昔はこんなしゃべり方しとったっけなぁ……。何となくこうなるような気はしとったけど、ウチはつい言葉に詰まってしまう。長年妬み嫌ってきた相手やけど、いざこうして面と向き合ってみると何も言葉が出てこない。やからぎこちない返事しかできんかったけど、暴君は暴君でウチの事なんて興味ないらしい。十年ぶりに再会した娘やなくて、連れてきた事になっとるエーフィの方に賞賛の言葉を与えていた。
 「泣ける、か。この程度の娘などに泣く涙は無い」
 「フッ、息子にもそうだったが、ジク殿も冷酷だな。だがそういうのは嫌いじゃあない」
 何がおかしいのかは分からへんけど、グソクムシャの方は暴君とは真逆の反応をする。一瞬鼻で笑ったかと思うと、表情を緩めて盛大に声を上げていた。
 「ムナール殿も儂のことはよく知っているだろう? 」
 「ジク殿はそういうカイリューだったな」
 「あぁそうだ。不良品の娘などに興味はない」
 『実の娘なのに、ハクの事を不良品だなんて……、考えられないわ』
 シルク、これがウチの父親なんやから、仕方ないよ……。このやりとりを無表情で見ていたシルクは、ぽつりとウチに心の声を伝えてくる。この様子だとウチにしか語ってないんやと思うけど、世間一般からするとそうなんやと思う。やけど生憎ウチの父親は、力と権力にしか興味が無い。母親は母親で、カネにしか目が向いとらんかったけど……。
 「……本来なら儂が直接手を下すところだが――」
 「父上、手を下すとは一体どのようなこ――」
 「フォス、不良品の娘を捕まえた褒美だ。力のあるお前が始末することを許可する」
 この流れやと、案外うまくいきそうやな。一応暴君の出方を伺うためにこんな事を言ってみたけど、当の本人は聞く耳を持ってなさそう。ウチのセリフなんて最初から聞いてないかのように、気にする事なくシルクに話しかける。
 「……」
 相変わらずシルクは表情一つ変えてへんけど、暴君とグソクムシャは何も気にしとる様子はないで、シルクは潜入中こんな感じやったんかもしれへん。
 『ハク、準備はいいわね? 』
 シルクもウチと同じ事を思ったらしく、声に出さず直接語りかけてくる。準備っていう事は作戦のことを言っとるで、多分身を隠しとるサードさん達にも同じ事を伝えとると思う。本当はええよ、って答えたいところやけど、生憎ウチはテレパシーは使えへん。ここまで来てシルクとウチが知り合いだなんてバレる訳にはいかへんで、心の中だけで大きく頷く事にした。
 「……」
 「ジク殿、本当に――」
 「構わん、殺れ」
 これから作戦開始やな! シルクが無表情でこくりと頷くと、これを見た暴君が待ちに待ったセリフを言ってくれる。まさかここまで上手くいくなんて思わんかったけど、これでやっとウチ等、特にサードさんとキノト君が動き出す事ができる。
 「……」
 指示されたシルクは口元にエネルギーを溜め始め、それをウチの弱点である竜の属性に変換する。
 『サードさん、キノト君、今よ! 』
 同時にウチらだけに合図を出し、溜めていた球体も解き放つ。
 「――っ! 」
 するとどこからか……、というより部屋の扉の方から、二本の針がウチらの方に撃ち出される。それを一瞬のうちにシルクがサイコキネシスで拘束し……。
 「なっ……! 」
 それらの針……、オリジナルの“依属の針”に纏わせる。ヒュンッって音をたててウチの耳元を通過したぐらいに、二つに分かれて纏わりついた暗青色のエネルギー体は針状に姿を変える。まばたきするかしないかの一瞬のうちに、暗青色の長針を事件の首謀者二人の首元に突きつけた。
 「フォス、貴様……、何のつもりだ! 」
 一瞬の事で訳が分からないって感じやけど、それでも暴君は驚きで声をあげる。多分暴君とグソクムシャは自分たちの部下やって思っとるで、本人からするとあり得ん事が起こっとることになる。やからウチの予想通り、暴君の表情に怒りの色が出てきている。
 『何って……、見たそのままよ』
 「なっ……、フォス! 喋れたのか」
 『ええ。確かに私は喋れないけど、<u>話せない</u>なんて一言も言ってないわ』
 ってことはシルクって、潜入中は何も喋らんかったんかもしれへんな。ここでようやくシルクは、主犯格二人にも言葉を伝える。ウチにとっては当たり前やけど、二人にとっては度肝を抜くような事やったらしい。もちろん針を首元で寸止めされたのもそうやけど、あまりの事に二人揃って声を荒らげる。
 「……そう。彼女の事をどう思っとったんかは知らへんけど、ウチの親友を甘く見てもらったら困るで! 」
 ここでウチはシルクに下ろしてもらったで、いつもの口調でこう言い放つ。
 「フォス、まさかとは思うが、裏切ったのか? 」
 『裏切るですって? いつ勘違いしたのかは分からないけど、私にはあなた達の見方になった覚えは無いわ。そもそも今時傭兵って言ってる時点で、普通はその場しのぎの嘘って気づくはずよ? 』
 「そうやんな。ジク、昔からそうやけど、シルクの強さに目がくらんだんとちゃう? 」
 最初がどんな感じやったんかはしらへんけど、シルクのことやから、実際に実力を見せたんかもしれへんな。本当にしてやったりって感じで、シルクは相手ふたりに対して言葉を伝える。シルクが傭兵って言って潜入したんは初めて知ったけど、シルクの言うとおりよく考えたらすぐに嘘って分かる事やと思う。“終焉”の時みたいに戦時中なら分からなくもないけど、傭兵だなんて時代錯誤やってウチは思う。やけど暴君はいわずもがな……。グソクムシャはグソクムシャで、味方してくれとるミナヅキさんが言うには“月の次元”は戦乱の世らしい。やから二人揃ってバレバレの嘘に気づけへんかったんやと思う。
 「フォス、一体いつから……」
 『そんなの決まってるじゃない。潜入した初めからよ? 私もまさかここまで上手くいくなんて思ってなかったけど、私が加入してから部下が多く行方不明になってるはずよね? 』
 「初めから、だと? 」
 『ええ。ムナール、“月の次元”のあなた達が侵入してる時点で既に手遅れだけど、私も時空が歪まないギリギリの範囲で色々させてもらったわ。まず初めに、“パラムタウン”の襲撃で捕らえた人質、その一部が不自然に姿を消したはずよね? それを手引きしたのは私』
 シルクは当然のように言葉を伝えたかと思うと、流れるように真相らしいことを語り始める。シルクが何しとったんかは具体的には初めて聞くけど、時空が歪まない程度にって事は、他に誰か……、ウチらの世界出身の協力者と一緒にしたんやと思う。シルクみたいにこの世界の住民やない人が勝手に行動すると、最悪の場合タイムパラドックスとか……、その世界にとってあり得ん事が起こる事になる。何しろその世界にとってシルク達……、違う時代とか世界の人は、本来ならこの世界には存在してへん。そもそもシルクの言うとおり、“月の次元”の人が事件を起こしとる時点で、もう時空が歪んでしまっとるけど……。
 『幹部のイトロシウスも行方不明になってるはずよね? そうなるように仕向けたのも私。“壱白の裂洞”で私の仲間に捕まった彼は、今頃“空現”を彷徨って……、最悪記憶を失って異世界に飛ばされてるでしょうね。それからデマを流して部下達を“弐黒の牙壌”に向かわせたのも私。そこに“ビースト”がいたのは事実だけど、既にハクの仲間が討伐済み。あと今日も“捌白の丘陵”に部下を向かわせてると思うけど、今頃保安協会に一網打尽にされていると思うわ』
 保安協会ってことは、サードさんが指示したんかもしれへんな。
 「フォス、貴様は一体何者なん――」
 『ムナール、あなた達“月の次元”の侵入者が決して出逢えない存在、と言ったところね』
 「そうやな。シルクもこの世界の住民やない。グソクムシャは違う世界の出身みたいやけど、シルクは五千年前から来てくれとるでな」
 「五千年前……。故人のお前が何故――」
 『“時”を司る種族に知り合いがいてね。……そんな事よりジク、ムナールも、訊くだけ無駄だと思うけど、あなた達に選択肢を二つあげるわ』
 “時”を司るってことは、シードさんの事やな? 流れるように語り尽くした親友は、一度咳払いをして話題を切り替える。話題を変えたのは長引くからやと思うけど、その知り合いはウチもよく知ってる。彼もシルクと同じ時代の出身やけど、彼がおらんかったらシルク達……、二千年代の友達、それからシリウスとも出逢えてない。
 そんでシルクは首謀者二人に目を向けてから、こんな風に提案する。このかんじやと多分、シルクは戦わずして二人を捕らえるつもりなんやと思う。
 『一つは全ての罪を認めて、大人しく私達に捕まる。一つは今すぐに負けを認めて降伏し、部下達に戦いをやめさせる。無駄な血を流さない事を考えると、あなた達にとっても損はないと思うわ』
 シルクはこんな風に提案しとるけど、よく考えると選択肢なんて無いと思う。どっちも暴君達は捕まる事になるで、シルクは本当に戦うつもりはないのか、手早く済ませるつもりなのか……、そのどっちかなのかもしれへん。
 「降伏? 軍人の俺が降伏すると思うか? ジク殿もそうだろぅ? 」
 「あぁそうだ。……フォス、貴様には失望した。儂に楯突いたこともだが、お前がそう言うとはな。そこまでして儂等ととらえるというのなら、いいだろう。出来損ないの娘諸共、貴様も葬ってやる」
 「ウチは言う事訊いた方がええと思ったんやけど、交渉決裂やな」
 やけどシルクの最善の提案に対して、首謀者二人は首を横に振る。こうなると哀れやなって思えてくるけど、ある意味暴君らしいと言えば暴君らしい。どのぐらい戦えるんかは分からんけど、そもそもウチは戦闘も覚悟してここまで来た。やからシルクはどう思っとるか分からへんけど、戦闘になっても構わへんってウチは思っとる。
 『残念ね。こうなったら私も、遠慮無くいかせてもいらうわ』
 「フォスはともかく、小娘二人が、か? 笑わせるな」
 「その様子やとウチの事を知らへんみたいやな」
 『そうね。ハクはマスターランクの探検隊、チーム明星。ジクとムナールとは立場は違うとはいえ、ギルドの親方としてひとの上に立つ存在よ』
 「それにここに来とるのも、ウチら二人だけやない。サードさん、キノト君! 」
 完全にウチらの事を見下しとるんか、ムナールっていうグソクムシャはウチらの事を嘲笑う。ムナールが知らへんのは無理ないと思うけど、まさかウチが探検隊やってことを暴君が知らへんなんて思いもせんかった。自分で言うのは何か気恥ずかしいんやけど、“ラスカ諸島”ではトップクラスのチームを知らへんなんて、無知にも程があると思う。暴君らしいといえば暴君らしいけど……。
 暴君達はウチら二人だけしかおらんって思っとるみたいやから、このタイミングでウチは声を大にして合図を送る。今までずっと待たせてしまう事になったけど、ウチに呼ばれて――。
 「ああ、この作戦には俺も参加している、うん」
 「だからシルクさん達二人じゃなくて、四人です! 」
 扉の陰でかくれていた、シルヴァディのサードさんとルガルガンのキノト君が飛び出してきてくれる。
 「表立って行動するのは性に合わんが、今回は保安協会代表として――」
 「いいえ、四人ではなく六人です! 」
 二人がすぐに駆けてきてくれたけど、その後ろからまた別の声が響いてくる。まさかこんなに早く来てくれるなんて思わへんかったけど、その声の主は……。
 「シリウス! 」
 「俺の存在を忘れたとは言わせねぇぞ」
 「みっ、ミナヅキさん? 」
 メガ進化した状態のパートナー、アブソルのシリウスと、“月の次元”のルガルガンのミナヅキさん。颯爽と姿を現した二人は、サードさん達の隣に並ぶように躍り出た。
 「ミナヅキ、丁度いい、今す――」
 「ムナール様……、いや、ムナール! 俺にとってお前は師の敵(かたき)。今までは大人しく従ってきたが、俺は何年もこの時を待っていた。んだからお前に指図される筋合いはない。寧ろ敵として討ち取らせてもらう! 」
 彼になにがあったんかは知らへんけど、決心したように声を張り上げる。物凄く力が籠もっとるような気がするで、元の世界で相当な事があったんかもしれへん。
 「師……、あのエセ史学者の事か。まぁいい。貴様がそのつもりなら、此奴ら諸共屍に成り果てるがいい! 」
 「臨むところだ! 」
 『まさかここまで揃うなんて思わなかったけど、念のためもう一度訊くわ。戦うか、降伏するか――』
 「愚問だな。学者だかなんだか知らんが、そんな物関係ない。儂刃向かう物は全て敵だ。何人来ようと、関係ない。お前等まとめて消し去ってやるぁ! 」
 「ウチも最初からそのつもりや! “エアリシア”市長のジク=リナリテア。あんたには事件の首謀者、零級のお尋ね者として捕まってもらうで! 」
 「あぁ。この出来損ないが、捕まえれるものなら捕まえてみるがいい。この儂がまとめて返り討ちにしてしてくれる! 」




  つづく……

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