034 一緒に来てくれるなら、心強いかも

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 聖なる夜の祭りが近づいてきて、すっかり冷え込んだ星空町に撒かれたのは、でかでかと『号外』の見出しが書かれている新聞紙。
記されている内容は、魔法使いが不祥事を起こしたというものだった。なんでも、ここから離れた『風の大陸』で働く魔法使いが禁断の魔法とやらを使い、呪いで目覚めなくなったらしい。
同じ魔法使いとして悲しそうな顔をするモデラートやマナーレ。他の魔法使い達も、魔法使いとしてのメンツが下がると口々にしている。 
一方でモモコは、禁断の魔法と言われてもピンとこないようだった。しかしただひとつだけ、魔法使いの不祥事と聞いて思い当たるポケモンの姿があった。

(こないだの引ったくり犯みたいに、みんながみんないい魔法使いじゃないのかなぁ……)

 チームカルテット全員で捕らえた引ったくり犯のユキノオー。彼は魔法使いのマントを確かに身に着けていた。ポケモン達を助ける魔法使いとはいえども、道を踏み外してしまうことはある。ミツキがミュルミュールにされたことも相まって、魔法使いだから特別なポケモンというワケではないことを突き付けられる。

「全く、ナニやらかしたっていうのよ」

 溜息をつきながら、コノハは新聞紙をひらひらとなびかせていた。魔法使いの不祥事は見過ごせないタチなのだろう。

「禁断の魔法って、どんなのがあるんだっけ」

 聞くのもいまさらかな、と思いながらモモコはチームカルテットのメンバーに聞いてみた。

「病気を治す魔法と、死んだポケモンを生き返らせる魔法」
「あと、ポケモンの気持ちや記憶を変える魔法は絶対に使っちゃいけないんです」

 ミツキに続いて、ライヤが補足するように答える。

「でもでも、この前モモコが癒しの魔法使ってたでしょ? 傷を治す魔法ぐらいならグレーゾーンらしいのよ」

 自分が発動させたと言われている『癒しの魔法』。とても大きな魔力が必要であり、使うのがとても難しいと言われている。確かに癒しの魔法を使った後は、ものすごく消耗したような。 
逆に言えば、使いこなせばもしかしたらチームの役に立てるかもしれない。自分のことを、周りに迷惑ばかりかけているお荷物だと思っていたモモコが、ようやく希望を見いだせたような気がした。

(でも、さすがに喘息を治すのは……ムリかなぁ)

 もし、自分の病気を治せたら。それはそれで、モモコのコンプレックスが少しでも解消されるとは思う。しかし、そうまでして手に入れる健康な身体で幸せに生きていけるか。それはまた別の問題とも考えられる。
それでも今のモモコは、見出したひとつの希望に思いを馳せていた。



 その傍らで、同じ新聞紙を見つめながら気難しい顔をしている魔法使いが1匹。
 チームキューティのメンバーで、チームカルテットと同い年にあたるフローラだった。
 不祥事を起こす魔法使いに対して、否定的な意見が飛び交う中、フローラはただ1匹複雑な気持ちを抱いていた。この手の話題になると、避けては通れない自分の過去を思い出してしまうから。
そして、よりにもよってフローラにとって、苦い思いをする季節が、まさに今だった。この寒くなってくる時期になるたび、重い気持ちがずしんとフローラにのしかかる。



* * *



「今日だが、私はシンフォニアに出張に行ってくる。帰ってくるのは、夜遅くになるだろう」

 マナーレがたった1匹で出張に行くのは珍しい。ミツキも意外そうに首をかしげている。

「シンフォニアで何があるんだ?」
「ちょ……ちょっとイベントで魔法使いの広報活動だ。かなりの数のポケモンがいるから、いい宣伝になるんだ」

 言葉を詰まらせながら、マナーレが答える。何やら怪しいイベントじゃないだろうな、と魔法使い達はジト目でマナーレを見つめる。思い当たるフシがあるとすれば、この季節にシンフォニアで開かれている本の即売会。毎年、厚い行列を作っているポケモン達の姿が新聞に載っている。
しかし、なんでまた1日かけてマナーレがそんなところに行くのか。確かに大勢のポケモンが集まる場所で広報活動をすれば、魔法使いの数が増えるかもしれないが。

「あっ……あたしも」

 そんな中、すっと小さく手をかかげながらフローラが声を上げる。魔法使い達の注目は、マナーレからフローラに移った。

「あたしも今日は休みもらう。今日は、パパとママの命日だから」

 命日という言葉に、魔法使い達は納得したような顔をする。「もうそんな季節なのか」としみじみとした声も上がっていた。一方でモモコは、この事実について初耳だったのか、話についていけていない様子だ。それでも、周りの話の流れから何とか内容を汲み取ろうとはする。

(えっ、フローラってお父さんもお母さんもいなかったんだ……)

 他の魔法使い達は、あまり変に気を遣わないようにフローラと話を続ける。フローラ自身も、あっけらかんとした様子で気丈に振る舞っている。その姿を見ても、モモコからすれば調子が狂うものだった。家庭環境がワケありなのは、自分が言えたことではない。しかし、両親が共に(たぶん)存命の自分ですら息が上がる生活をしていたのに。本当の親の存在を知らないガッゾとは、また別のベクトルでヘビーな話だった。

「そっか、もう6年になるのか」
「通りで、青い花をたくさん用意してると思った」

 チームアースの2匹がうんうん、とうなずいている。クレイの言う通り、確かに最近フローラが青い花を持ち込んでいたところを見ていた魔法使いは少なくない。いつもフローラが持っている花が赤い花なだけに、青い花を持つ姿はとても新鮮だ。人間で例えるなら、いつもとちょっと違う服を着ていたり、髪型を変えているようなものだろう。 

「日の入りが早くなってるし、気を付けて行くんだぞ。メイプルタウンの周りも、変なポケモンが増えているからな」
「ありがと」

 かいがいしく心配してくれるマナーレの言葉が、フローラにとっては嬉しかった。



 朝礼と合奏が終わると、すぐに魔法使い達は持ち場に行く。フローラはというと、束になった青い花を持って、マナーレとほとんど同じ時間に一緒に外に出て行った。お供え物のお菓子を買いに行くらしい。
チームカルテットも、楽器の手入れをしながら仕事に向かうための準備をしていた。その間に出てきた話題は、もちろんフローラのことだった。

「知らなかったよ。フローラも大変だったなんて」
「そのこともあるんだよな。あいつがマジカルベースに俺達より前にいたのって」
「何でだろうとは思っていましたが、魔法使いになる前にいろいろ分かってきたんですよね」
「まぁ、フローラのパパとママはちょっといろいろあったのよ……。アタシ達も同級生だから、いろんなこと聞かされたわ」 

 コノハの言う「いろいろ」には本当にいろいろな意味が込められているのだろう。病気か、事故か、それ以外か。根掘り葉掘り聞きすぎるのも良くないとは分かっていても、内心では気になるのが正直なところ。
そんな話をしている最中、たまたまチームカルテットのそばを横切ろうとしたリリィがポツリとつぶやく。つぶやくというよりも、明らかにチームカルテットに向けて言葉を投げかけていた。

「その話は、あんまりしないで」

 えっ、と不思議そうに返しながら、モモコはリリィの方を振り向く。ミツキ達もつられるように、リリィに視線を向けた。

「あの子、元気に振る舞ってるけど……本当は誰よりも辛いから」

 リリィはそれ以上は何も言わず、スッと立ち去ってしまった。取り残されたチームカルテットだが、モモコ以外の3匹はリリィの言葉を重く受け止めている様子。ちょっとしゃべりすぎたかな、とコノハが舌を出している姿から、それはうかがえた。ミツキとライヤも、申し訳なさそうな顔をしている。
イマイチ話の流れについていけていないモモコも、これ以上はやめようと話題をまた振るようなことはしなかった。心の中に踏み込むことも踏み込まれることも、どれだけ難しく勇気がいることか、分かるようになってきたつもりだから。
楽器の手入れが終わって仕事に向かおうと、合奏部屋を後にしようとしたその時。

「あれ?」

 フローラの座っていた席に、あるものが落ちていたことに気付いたのだ。



* * *



「モモコが癒しの魔法に目覚めたのね」
「はい、ユウリ様。あいつの魔力と身体を、何としてでも我々の手に……」
「でもこの前も言った通りだもんねー! ミツキやライヤ、それにコノハもオレっち達の狙い! やつらをいかにしてどう『こっち』に引きずり込むかが大事だもんねー! ヌホーッホッホッホ!」

 クライシスのアジトでも、モモコの癒しの魔法の話題で持ち切りだった。当初はモモコだけを狙いながらポケモン達をミュルミュールにしていたクライシスだが、ここ最近でその方針が変わりつつある。
ミツキ、ライヤ、コノハ。この残り3匹もまた、クライシスにとっては重要ポケモン。お互いを助け合おうとする気持ちに目を付けつつ、彼らが『覚醒』するのを待つ。そのために、別の場所で連絡を取り合っている仲間がいるようだが、全貌は明らかになっていない。

(ボクがモモコと同じ魔法が使えたら。今背負っているもの全部、取っ払うこともできるのかな……)

 盛り上がっている他の闇の魔法使いと比べて、ドレンテは上の空。何かを背負いながらクライシスの一員として動いている彼は、時々しんどそうな顔をする。

(やっぱり、一度死んだポケモンを生き返らせる魔法が使えるあたり、クライシスの考えていることは危険極まりない)

 クライシスの使う暗黒魔法は、禁断魔法のくくりに入るのだろう。ポケモン達のスピリットを抜き取り、ミュルミュールにする魔法は魂を『抜き取り』、別のものに『変化』させる魔法であるならば、禁断の魔法からはギリギリのライン。だから自分達闇の魔法使いは、呪いや罰を受けずに済んでいる。しかし、死んだポケモンを生き返らせることは完全にクロだ。 さすがのドレンテも、そこまでの魔法は使ったことがない。ソナタもない。グラーヴェやネロちゃんまでのベテランとなれば____どうだろうか。

「生態系のバランスが崩れるのも……時間の問題かな」



* * *



 星空町から駅ひとつ分離れた町、メイプルタウン。
音の大陸きってのメトロポリスであり、ここらでは一番の都会町として知られている。大きな建物や大勢のポケモン達が、まるで箱庭に並べられたようによく言えばワイワイ、悪く言えばごちゃごちゃしている。
建物も星空町やサニーハーバーのようなカラフルでポップな雰囲気とは違い、近未来的な雰囲気が漂っている。どちらかというと、人間の世界に近かった。
もちろん、魔法使いの姿もちらほらと見受けられた。星空町よりも大きい町ということもあり、割と多くの魔法使いが出入りしている。しかし、メイプルタウンに住むポケモンそのものが多すぎることもあり、町の規模に見合ってはいない。
 おまけに、このメイプルタウンは荒野地帯にほぼ位置している。暗黒魔法の影響で、治安が悪くなってきているのが現状だ。

「全部で950ポケのお買い上げで~す♪」
「はいはーい」

 フローラが訪れていたのは、そんな町の中で一番大きな百貨店だった。百貨店の中にある行きつけのお菓子屋さんで、両親へのお供え物を買うのがお決まり。学校に通っていた途中までの歳は、モデラート達にメイプルタウンの買い物までは付き合ってもらっていたが、魔法使いになってからは、自分の稼ぎで両親関係のことをしていた。
さっそくお会計をしようと、フローラが荷物の中から財布を取りだそうとする。
ところが。

(あれ? ちょっと、ウソでしょ? お財布忘れてきちゃった!?)

 いくら荷物をあさっても、財布が見当たらない。その場で荷物をひっくり返しても見つからない。このままではお供え物が買えない____そう焦っていたところに、聞きなれた声が聞こえる。

「やっぱりここにいたのか、フローラ」

 振り向いた先にいたのは、声の主であるフィル。そして、付いてくるようにモモコも一緒にいた。これでリリィがいるだとか、ミツキ達が付いてきているだとかであれば納得するのだが、不思議な組み合わせにフローラも目を丸くしている。

「え? 何その謎メン?」
「モモコがキミの忘れ物を見つけてくれたんだよ」
「これないと、お買い物できないよね」

 そう言いながら、モモコはフローラに財布を手渡す。大きな青い花のついた、長い財布だ。てっきりフローラの趣味はコノハと似たようなピンクやフリルをあしらったようなものだと思っていただけに、少し意外ともとれる。フローラはぱぁっと笑顔を浮かべながら、財布を手に取ると、手早く会計を済ませる。

「ありがとーっ! 助かった! お礼って言ったらアレだけど、フィルとモモコの頼み事受けたげる!」
「え、1匹1つずつでいいの!?」
「もちろん! まぁ……13歳の美少女が叶えられる範囲でだけど」

 フン、とフローラは鼻で笑いながら胸を張る。自分のことを美少女って言っちゃうあたりお茶目なところがあるが、明るく気さくな性格のフローラは憎めない魅力がある。

「そしたら、まずボクから」

 どんどん来い、とニコニコしているフローラ。しかしその顔がキープされているのは、フィルのお願い事を聞くまでだった。

「ボクら、フローラのご両親へのあいさつ、したことなかっただろう? 一緒に行ってもいいかい?」
「えっ?」

 きょとんとする顔のフローラ。今までフィルからこんな申し出をされたことがなかったためか、なおさら驚いている。それでも平静を装うように、フローラは軽口で返す。 

「あいさつって言っても、お墓参りだけだよ? だいいち、みんな仕事あるでしょ?」
「今日の仕事はパトロールなんだ。仲間の安全を確認するのも、大事な仕事だからね」
「わたしもミツキ達にOKもらってきたんだ! せっかくだしメイプルタウンに行ってみなって!」
「ま、この辺は治安は悪いからボクのボディーガード付きだけどね」

 いつものキザぶりは変わらないけど、自分を気遣ってくれるフィル。そして、新しい同年代の仲間のモモコ。いつもこの時期は憂鬱になるフローラだったが、2匹が付いてきてくれると聞いてとても安心していた。思えば、自分の親の墓参りは自分1匹で行っていた。行かざるを得なかった。
だからこそ、誰かが一緒に自分の両親を弔ってくれることで心が軽くなる。モデラートとマナーレでさえ、自分から『墓参りには行かないように』お願いしていたのだから。

「……うん、ありがとう。フィルとモモコが一緒に来てくれるなら、心強いかも」



* * *



「この『ラベンダー山脈』を超えたところに『むらさきおか』があるの。そこにある『魂の園』がこの辺で一番大きい墓地」

 メイプルタウンから北に進んだところに、山岳地帯がある。この一帯は実はモモコも訪れたことがあった。ミツキの実家があるシノビ村に帰省する際、電車で通りかかったのだ。
この山を登ったところに、星空町やメイプルタウンを中心としたポケモン達の霊園があるとのこと。
ラベンダー山脈は名前の通り、ラベンダーが道なりに咲いている山だった。こういえば聞こえはファンシーかもしれないが、雰囲気自体は穏やかなものとはいえず、極めて不気味でもの悲しい。どうしてこうも墓地の近くは立ち寄るだけで背筋がぞわぞわするのか。人間でもポケモンでもそれは同じだと、モモコが実感していたその時。

「う゛ぇぁあ!?」

 頬にぬめぬめとザラザラがデュエットしたような感覚。予想していなかった出来事なだけに、思わずモモコは奇妙な声を上げる。ただ、ポケモントレーナーのサガから、何によるものかは察しがついていた。ゴーストポケモンの技『したでなめる』だろう。

「この辺は墓地の近くってこともあって、ゴーストタイプのポケモンが多いんだ」

 それを裏付けるかのように、一行の周りを何匹ものゴーストタイプのポケモンが漂うように取り囲んでいた。ムウマ、ゴースト、ボクレー、フワライド……たぶん、モモコの頬を舐めたのはゴーストだろう。寿命を吸われていないかどうか、一瞬不安が頭をよぎる。
しかし、そうこう考えている時間を野生ポケモン達は与えてくれない。ゴーストポケモン達の群れが一斉に『シャドーボール』を一行に解き放つ。フィルとフローラはたたみかけるようにそれぞれ『ムーンフォース』と『ソーラービーム』といった強い光を利用した技を放つ。おかげでゴーストポケモン達の視界はくらみ、何匹かのポケモンに至っては攻撃が当たってダメージを与えることができた。
その隙にモモコが、まだ眩しがっているポケモン達を『シャドークロー』で切りつける。何とかこの場を切り抜けることに成功はした。 

「へぇ、『シャドークロー』を覚えてるんだね。わざマシンでも使ったのかい?」
「ま、まぁいろいろあって……」

 まさか、わざマシンもなしに気付いたら覚えていたなんて言ったらひっくり返るだろう。実際、わざマシンでしか覚えられない技を覚えている理由は、モモコもまだ分かっていなかった。



 山岳地帯も荒野地帯ほどではないが、暗黒魔法の影響が強く及んでいる。シノビ村まで行けばそこまで感じることはないが、メイプルタウンのような都会町____ポケモン達が多く寄ってくるような場所になればなるほど、暗黒魔法の力に囚われやすい。
一行はなんとか『むらさきおか』の入り口にたどり着くことができたが、ここまでくる間にも多くのゴーストポケモン達に襲われた。一般ポケモンとの戦いでは魔法を使ってはいけないため、技だけでしのぐのはなかなか大変だった。
 この『むらさきおか』は不思議のダンジョンではなく、ぽつぽつとポケモン達の住みかが並んでいる。ラベンダー山脈と比べて、比較的周りの空気も穏やかになっている。

「もしかして……フローラ?」

 ふと、フローラを呼ぶ声が聞こえた。少し歳を重ねたような、大人の女性の声である。

「えっ」

 まさか。
 フローラがばっと勢いよく振り向いたその先には、フローラを何段階も大人っぽくしたようなマダム系のポケモン、そして彼女の子どもと思われる3匹のポケモン達がいた。マダム系のポケモンは、ガーデンポケモンのフラージェス。子どもはいちりんポケモンのフラベベ。4匹共、モチーフになっている色は赤だ。

「やっぱりそうだーっ!」

 子ども達の無邪気な声に反して、フローラは真っ青な顔でカタカタと震えている。フィルは何かを察したのか、険しい顔つきになる。その一方で、モモコは顔色を悪くしているフローラを心配するように声をかけている。

「どしたの? フローラ」
「まさか、また墓参りに来たっていうの? いい加減、この時期にこの辺ウロウロすんのやめて欲しいんだけど」
「そうだそうだー! 青い花の一族のくせに!」

 フィルは「青い花」という単語を聞いた時点で表情をさらに強張らせていた。フローラもまた、顔色を大きく変えていたがフィルのそれとは少し違う。まるでこの世の終わりのような顔をしていた。

(青い花?)

 何のことかはよく分からないが、ただひとつ分かるのはマダム達はフローラに対して明確に悪意がある。モモコもそれだけは汲み取っていた。

「あ、あの! その言い方はどうかと思います!」
「やめて、モモコ!」
「フローラ! でも……」

 マダムに反抗しようとするモモコをフローラが止める。最初は放っておけない気持ちが先行していたモモコだが、フローラの顔を見てはっとしたように、その感情をセーブする。
フローラが目に涙を溜めて、一同を見つめていたのだ。いつもお節介焼きで元気なフローラが、ここまで悲痛な声を上げているのは初めて見た。泣くほど話を大きくなるのを恐れていることを察したモモコは、これ以上話を広げることを止める。しかし、マダム側がそれを許さなかった。

「なるほど。そこのおチビちゃんは知らないみたいだから教えてあげる」

 チビじゃないのに。心の中でツッコミを入れながらも、モモコはマダムが続ける言葉を待つ。

「そこにいるフローラの持ってる花は、もともと青い花。8年前に、禁断の魔法の不祥事を起こした魔法使いがいたでしょう?」

 8年前? とモモコは首をかしげる。フィルとフローラは内心ではドキッとしていたが、この状況でここまで言われてしまえば話を遮ることも難しい。

「その魔法使いの娘である、何よりの証拠だったのよ」

 フローラが、不祥事を起こした魔法使いの娘。マダムがそう言いたいのは分かったが、イマイチ話が飲み込めない。

「え、何。その不祥事って……」
「その子の両親はね、悪い魔法使いなのよ。悪い魔法使いだから、バツとして呪いを受けて死んだのよ」

 親が悪く言われた。一番言われたくなかった相手に。違う、違う。パパとママは悪くない。どうして分かってくれないの。でも、本当のことでもあるから何も言えない。
 何も知らなかったモモコは、驚きと困惑が混じったような顔になる。逆にフィルはすべて知っているからか、複雑な心境ではあった。フィルはマダムをにらみつけるように見上げている。「これ以上フローラを苦しめないで欲しい」という感情に身を任せるように。

「やーいやーい! 犯罪者の娘!」
「お前の父ちゃん母ちゃん、青い花ー!」

 モモコはともかく、何も言い返せないチームキューティの面々に対してマダムがフンと鼻で笑う。その笑みが意地悪なものにしか見えず、フィルとフローラをぞわぞわさせる。特にフローラは、胸の奥底を指先でなぞられたような気分になった。
いずれにしても言いたいことはたくさんあったが、今この状況はフローラにとって居心地が悪い。気が付けば、フローラは言葉を発する前に丘を下って引き返してしまった。

「ちょ、ちょっと待ってよフローラ!」

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