34話 チームスカイ

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

2020年8月10日改稿
結果は夜に発表すると言い残し、カリムとサラは試合の評価を話し合うためにギルドに戻って行き、技能測定に集まった他のポケモン達は今夜、ハルキ達の歓迎会をするために料理や飾りつけをすると言ってバトルフィールドを後にしていった。
ハルキ達も手伝うと言ったのだが、

「歓迎される奴らが歓迎会の準備をするのはおかしい」

ともっともな事を言われてしまったので、ハルキ達は各自、部屋でゆっくり休むことにした。
ヒカリ達と部屋の前で別れたハルキは、自室に入るなり、ベッドの上に寝そべった。
歓迎会までまだ時間はある。
それまでに疲れた体を少しでも癒そうと思い、ハルキは眠る事にした。

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***

薄暗い洞窟の中で1人の青年と何匹かのポケモンがいた。

「クソッ! ・・・・・・め!」
「聞いたよ。 ……また、何匹かやられたらしいね」
「あいつら、俺なんか庇いやがって……。 まったく、ほんと大馬鹿野郎共だよ」

1匹ひとりのポケモンが涙を流しながら、吐き捨てるように言った。

「これ以上、奴のすきにさせたら犠牲が増えるばかりだ。 なんとか付け入る隙を見つけないとッ!」

青年が頭を掻きむしりながら、必死に考えを巡らせる。

「そんな事を言ったところで、ぼく達と奴らの数の差は絶望的だ。 そもそも、奴らはある意味、ぼく達そのものだ。 ……果たして付け入る隙なんてあるのか?」

空中を浮遊する1匹のポケモンの問い掛けに青年は力強く答えた。

「ある! 例え奴が得体のしれない存在でも、君達ポケモンを真似た存在なら確実にあるはずだ!」
「随分頼もしい返事だね。 ……でも、そんな君だからこそ、ここにいるぼくを含めたポケモンは人間であるハルキ。 君を信じて、任せているのかもしれないね」

空中を浮遊するポケモンは両手を大きく広げて、この洞窟にいる他のポケモン達を指し示しながら、この場に唯一いる人間――ハルキにそう伝えた。

「ありがとう。 ・・・。 だからこそ、僕は君達と違って戦えない分、策を練らないといけないんだって思うんだ」

ハルキはボロボロの地図を机の上に広げ、奴が次に攻めてくるであろう場所に目印をつけていき、一か所だけ強調するように何重にも丸で囲った。

「みんな聞いてくれ。 今まで、奴の好き勝手にされてきたが、これまでの奴の行動パターンを分析した結果、次はこの峡谷にくる可能性が極めて高いと僕は踏んでいる。 これまで防戦一歩だったけど、次は僕達から攻める番だ!」

ハルキの話を聞いたポケモン達は感嘆の声を漏らすと同時に、始めて自分達から仕掛けられるという事により一層、真剣にハルキの話に耳を傾けた。

「作戦内容は地形を利用し、捕らわれたポケモンの救出を第一とする。 やむを得ず、戦闘になった場合、極力近接戦は避けるように! 僕達は数の面で大きく劣る事を忘れないでくれ! そして、この作戦は前線と後方を行き来し、情報を共有してくれる役目を持ったポケモンが必要不可欠だ。 この役割を担うポケモン達のリーダーを……キョウ。 君に頼めるか?」

キョウと呼ばれた、星の模様が刻印されたペンダントを首から下げた、白を少し濁したような毛並みのポケモンがハルキの元に来ると、地図で示された地点を見て頷いた。

「なるほどな! 了解した!」

キリッとした目つきで敬礼のポーズをしたキョウにハルキは小さく笑った。

「頼んだ。 ……本当は君だけにこんな役目を頼みたくはなかったんだが」
「ハルキ、君は君にしか出来ない事をちゃんと見つけてやっている。 それに、この世界には、ぼく達の都合で無理やり呼んだんだ。 謝る必要なんてないさ」
「・・・」

***

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「おーい! ハルキ、そろそろ起きろー! 歓迎会始めるぞ!」
「ぅんん…….ん?」

外からザントの声が聞こえてきて、ハルキのぼーっとした頭が一気に覚醒する。

「え? ちょっと寝るつもりがもうこんな時間!? あっ、はい!」
「おお! ハルキ起きてくれたか。 じゃあ、他の奴らも起こして、ロビーに来てくれ。 頼んだぞ」
「わかりました」

ハルキの返事を確認すると、ドアの前にいたザントの気配が遠ざかっていった。

(……今の夢は昼間みた光景と一緒だったな。 昼間の時よりもハッキリと思い出せる。 けど……)

「僕はあんな格好をしたことあったか?」

夢の中でハルキと呼ばれていた人間は茶色のロングコートを羽織り、額にゴーグルをつけていた。

「ゴーグルなら人間の時に持っていたけど、あげちゃったし。 そもそも、今の僕にそんな体験した覚えはないんだよな……」

ハルキは独り言を呟きながら先ほどの情報を整理していると、ふと周囲がやけに静かなことに気づき、先ほどのザントの言葉を思い出した。

「他の奴らも起こしてって……まさか!」

ハルキは慌てて外に出るとヒカリ、アイト、ヒビキの部屋を順にノックした。
どの部屋からも反応は無い。
ドアに耳を当てるとわずかに寝息が聞こえてくることから、みんなもハルキ同様、疲れて眠ってしまっているようだ。
ザントさんが大きな声で呼びかけても起きないほどに。
ハルキがどうしようかとドアの前で悩んでいると、ハルキの隣の部屋のドアがドンドンと音を立てていることに気づいた。
そうだ。 隣の部屋である2号室の住人はヒカリだが、そこにいるのはヒカリだけではないことを忘れていた。

「おーい。 バチュル? 聞こえる?」
「バチュ! バチュ!」

ドア越しに元気な鳴き声が帰ってきた。

「バチュル。 何とかしてヒカリを起こしたいんだ。 手伝ってくれる?」
「バチュ!」

最初、ドアの鍵を開けてくれるよう頼んだが、バチュルの検討むなしく、鍵の位置まで届かず開けられなかった。
なので、次にヒカリの耳元でモーニングコールをしてもらったが、それでもヒカリは起きなかった。
仕方がないので今度はヒカリをくすぐってもらうと、部屋からヒカリの笑い声が聞こえてきた。
どうやら、くすぐり作戦は大成功のようだ。

「ヒカリ―、歓迎会が始まるみたいだから早く準備してー」
「あ、ハルキ! バチュルが突然くすぐってきたから何事かと思ったらハルキの入れ知恵かー」

部屋のドアを開けて頭にバチュルを乗せたヒカリが笑顔で出てきた。

「入れ知恵って……まあ、いいや。 とりあえず今は、寝ているアイトとヒビキをどうやって起こすか考えないと」
「普通に体をゆすって起こせばいいんじゃない?」
「それができたら、とっくにしてるよ。 2匹ふたり共、部屋に鍵かけてるから、どうしようもないんだ」
「あっ、じゃあ私にまかせて!」

ヒカリは部屋から小さな針金を持ってくると、2匹ふたりの部屋の鍵穴に針金を差し込んで、カチャカチャし始めた。

「え、まさかそれで開けようってんじゃないよね?」
「これで開けるんだよー。 見ててねー。 よっ! ほっ! それぇ~!」

――ガチャ

「開いたよ、ハルキ!」
「そ、そんな、馬鹿な……」

その後、ヒカリはヒビキの部屋もなんなく解錠してみせ、アイトとヒビキを起こすことに成功した。
2匹ふたりにはヒカリがピッキングした事はふせて、普通に鍵がかかって無かったと嘘をつき、食い下がるアイトには、「疲れて閉め忘れたのでは?」と言って、無理矢理納得させた。

――――――――――――――――――――

ハルキ達がロビーに着くと、すでに準備が終わってハルキ達の到着を待っていた救助隊のポケモンがたくさんいた。
部屋の中央には大きな四角いテーブルが2つあり、その上にはいろんな料理が置いてあるが、イスがほとんどない事から、立食パーティのような形式なのだろう。

「おっ、やっと来たか。 主役が来ないとパーティも始められなくて困ってたんだぞ。 さ、飲み物を持った、持った!」

ザントに青い色をした謎の液体が注がれた木製のコップを渡された。
ハルキ達、4匹よにんがコップを持ったことを確認すると、部屋の中央にサラが進み出た。

「それでは全員集まったようなので始めさせていただきます。 ハルキさん、ヒカリさん、アイトさん、ヒビキさん。 救助隊にようこそ。 これからよろしくお願いします。 それでは、……乾杯!」
「「乾杯!」」

全員が声をそろえて「乾杯」と言ったところで始まった歓迎会。
最初の青い液体はオレンの実をクリーミーな味わいに仕立て上げた果汁飲料のようで、飲んでみると思ったよりも爽やかな喉越しであった。
料理もヒカリが以前、作ってくれたアップルパイとはまた違った料理が多く並び、個性的な味から懐かしい味まで食べていて飽きなかった。
辛いで有名なマトマの実を少し使い、現実でもある玉ねぎやニンジンといった具材を使ったポトフ。
酸味が特徴のナナシの実とトマトやニンニクなどを使用して作られたトマトソーススパゲッティ。
イアの実の酸っぱくもみずみずしい点を利用して作られた数種類のきのこのマリネ。
甘いマゴの実を冷凍し、程よく解凍した、冷凍ミカンならぬ冷凍マゴの実。
などなど、人間の世界では見たことのない料理がたくさん並んでいた。
また、食事をしている最中にこのギルドで救助隊をしているポケモンから挨拶をされた。
おなじみのサンドパンのザントとマリルリのリル。
2匹ふたりはお互いに赤いスカーフを首から巻いている。
なんでもこのスカーフはチームスカーフと言い、救助隊に所属するポケモンはみんな身に着けているそうだ。
確かにサラとカリム以外、みんなどこかしらにそれらしきスカーフ着けている。
余談だが、ザントとリルのチーム名は[トリル]といい、リルが考えた名前らしい。
次に挨拶をしてきたのは、ヒカリとヒビキの対戦相手でもあった、ザングースのヒース、色違いエルフーンのクロ、そしてザックと名乗ったサザンドラの3匹さんにんのチーム[アミスター]であった。
クロはヒビキに「おちょくってごめんねー」と軽く謝り、ヒースはヒカリに

「またあんな事したら、今度こそ怒るからな! 絶対だぞ!」
「え? フリ?」
「フリじゃなぁぁああーい!」

と漫才じみたやり取りをしていた。
ザックいわく、ヒースは普段はこんなに感情を表に出すポケモンではないらしく、このようなヒースを見るのは珍しいのだという。

「まあ、なんだかんだ、あいつはヒカリに負かされたから実力は認めているんだぜ」
「ザック、余計な事を言うな」
「急にクールぶっても、さっき叫んでだ事実は消えないんだよぉ~」
「うるさい!」

クロに痛い所を指摘され、ヒースは怒ってどこかに行ってしまい、後を追う形でザックとクロもハルキ達から離れていった。
その後もハルキ達の元にいろんな救助隊が挨拶に来た。
プラスルのラプラ、マイナンのイオ、デデンネのクロネの3匹さんにんで構成されたチーム[マジカルズ]。
ヨルノズクのノクト、オオスバメにスロウ、ムクホークのタラスの鳥ポケモンのみで構成されたチーム[ウイング]。
マラカッチのカッチ、キレイハナのレナ、オドリドリ(パチパチスタイル)のドリー、
コロトックのトックと言った、歌や踊り、演奏で傷ついたポケモンの心を癒す活動をしているチーム[リビトゥム]。
医療班のハピナスのハクナ、ラッキーのラディ、タブンネのアイネ、プクリンのカリン。
そして、この救助隊ギルドの副団長である黒ぶち眼鏡をかけたサーナイトのサラと
団長であるガブリアスのカリム。
来るポケモン達と話をしていると時間はあっという間に経過し、ついに技能測定の結果を発表する時が来た。

「それでは技能測定の結果発表をする前に、まずここの救助隊にはそれぞれチーム力の指標となる[ランク]と個の強さの指標となる[階級]があるのでその説明を簡単にします。
まず、ランクは1チームにつき1つ与えられるものでチームとしてどの程度の強さがあるかをわかりやすく表したものです。 ランクはSからEの6段階となっています。 次に階級ですが、これはチームとしてではなくそのポケモンを個として見た時にどの程度の強さがあるか表したものとなっています。 こちらはいちからななの7段階となっています」

わかりやすく言うならば、救助隊にはチームとしての強さを判断する[ランク]と、個としての強さを判断する[階級]がそれぞれ存在するというわけだ。
[ランク]はSが1番上で後にA、B、C……と続いていき、[階級]は数字が少ないほど強いという事になる。

「では、[階級]から発表します。 ヒビキさんがⅥ、ヒカリさんがⅤ、アイトさんとハルキさんがⅣです。 最後に[ランク]ですが、これは私達も少し悩みましたが、これからに期待する意味をこめてCとさせていただきます」

発表が終わると会場は拍手で包まれた。
言われた[ランク]や[階級]がどの程度かはわからないが周囲の反応からして、特筆するものは無いのだろう。

「それにしても、[階級]だけみたら僕とアイトがチームの中では1番上なんだね」
「だなー。 まあ、高いのか低いのかよくわからない判定結果だけどな」
「いやー、私は2匹ふたりに1歩届かなかったよ~」
「わたしなんてヒカリちゃんにも1歩届かなかったです。 でも、安心しました! あんな試合内容で評価が高くても嬉しくないですからね!」

ヒビキは[階級]が1番低い事に落ち込んだりせず、自分の実力不足をちゃんと理解して、今の判定に納得しているようだ。

「そういえば、あなた達のチーム名はまだ決めていませんでしたね。 何か案はありますか?」

サラが思い出したように尋ねてくると、ヒカリ達の視線は一斉にハルキに向いた。

「え!? もしかして僕が決めるの?」
「だって俺、そういうの決めるの苦手だし」
「わたしは1番最後に加入しましたので……」
「やっぱりこのチームの実質的なリーダーはハルキだからね!」

知らないうちにチームのリーダーにされたハルキはため息をつくと、仕方なくチームのリーダーを引き受ける事にした。

「チームの名前、か……」

ハルキは顎に手を当てながら考えていると、ふと空を見上げるように天井を見た。
当然だが、今いる場所は室内のため空は見えない。
けど、見えないだけで視線の先には空がいつもそこにある。

「……うん! 決めた! 僕達のチーム名は[スカイ]。 チームスカイだ!」
「すかいってどういう意味です?」
「俺達の故郷で[空]って意味だな」
「なんか素敵です!」
「私もいいと思うよー!」
「俺も賛成だ。 けど、なんで空なんだ?」
「ほら、こうして建物の中にいたり、雲が覆ったりしても空はそこに必ずあるだろ? 大袈裟かもしれないけど、たとえ絶望しか見えない状況でも空は必ずある。 一筋の希望にだってなれる。 救助隊としての名前なんだから、そんな意味を込めたほうがいいかなって思ったんだ」
「へぇ~、なるほどな。 こっぱずかしいけど、その考え方、俺は好きだぜ!」
「そ、そう?」
「つまり、みんなの希望になるってことでしょ? ハルキらしくて私も好きだよー!」
「わたしも大賛成です! 込められているハルキ君の願いが気に入りました!」
「それではチーム名は[スカイ]でよろしいですね?」
「「はい!」」

こうしてハルキ達、チーム[スカイ]が結成されたのであった。
これで第2章は終わりです!
次話からは少しシリアス展開増えるかもしれませんね!

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