33話 チーム戦

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

2020年8月9日改稿
それからしばらくの休憩をはさみ、アイトが動けるようになってから、後半のチーム戦のルールが説明された。
ルールはシンプルで両チームに色の異なる小さなフラッグが渡され、先に相手チームからフラッグを奪ったら勝ちというものであった。

「試合相手のチームはマジカルズのみなさんにお願いします」
「よっしゃあ! あたし達の出番がついにきた!」
「げっ! マジかー。 ゆっくりできるかと思ったけどそうはいかないかー」

試合相手に選ばれたのは、チームマジカルズ。
昨日、ハルキ達に魔法について説明を行ったチームだ。

「あいつらが相手か。 見た目はかわいらしい連中だけど、あいつらには魔法があるから厄介だな」
「そうだね。 チームを結成してからの時間は僕達よりはるかに上だし、各々の得意な戦闘スタイルへの理解も深いだろうから、一筋縄ではいかないだろうね。 即興でも、作戦は立てたほうがいいかも」

ハルキ達にとって、4匹よにんで一緒に戦うのは今回が初となる。
無策で挑むにしてはあまりに無謀だろう。
ハルキはみんなを集めて、即興で思いついた作戦を伝えた。

「……と言うわけで、これでいくけど、みんな大丈夫そう?」
「だ、大丈夫です!」
「俺も問題ないな。 複雑なものよりシンプルな作戦のがやりやすいしな」
「私も大丈夫! まかせてよ~」
「よし! それじゃあ行こうか! なるべく作戦通りに行くけど、状況次第じゃ違う内容を指示するかもしれないから、よろしく!」
「「了解(です)!」」

ハルキ達はバチュルをリルに預け、バトルフィールドへと向かった。

――――――――――――――――――――

バトルフィールドには休憩時間中に準備したであろう、小さなフラッグが15メートルほど離れた位置になるよう立てられていた。
サラから聞いた説明ではハルキ達のフラッグは青色、マジカルズは赤色だそうだ。

「それではチーム戦、開始です」

サラの号令で本日、最後となる試合が開始された。

「行くよ、アイト! ヒカリ!」
「おう!」
「うん!」

ハルキとアイトが試合開始と同時にマジカルズのフラッグ目掛けて駆け出し、ヒカリがワンテンポ遅れてその後ろからついて行った。

「最初から突っ込んでくるとは威勢がいいな! けどな!」
「ここから先は行かせませんよ!」

ハルキ達の前にラプラとイオが立ちはだかり、行く手を阻んできた。

「ここは僕とアイトに任せて、ヒカリは行って!」
「頼んだよー!」

脇を通り過ぎようとするヒカリに妨害がいかないよう、ハルキはラプラ、アイトはイオに攻撃を仕掛けた。
ハルキが『きあいパンチ』を繰り出し、ラプラは『かみなりパンチ』応戦した結果、両者の技は激しくぶつかり合い、相殺されるように両者とも後退させられた。
一方、アイトはイオに対して、『ほのおのパンチ』を繰り出したが、イオは姉のラプラのように真っ向から技で返さず、冷静にパンチをかわすと、アイトの腕を掴み、そのまま背負い投げでアイトを投げ飛ばした。
アイトがイオに投げ飛ばさている頃、フラッグを取りに行ったヒカリは、マジカルズ、最後のメンバーであるクロネと相対していた。

「簡単には取らせはしないよ!」

クロネは『スパーク』で全身に纏った電気を体からやや分離させ、小さなドーム状に展開すると、自分ごとフラッグを中に入れた。
まるで『スパーク』によって作られた電気のバリアである。
ヒカリはでんきタイプなので、多少の電気技なら大したダメージにならないと判断し、走った勢いのまま電気のバリアに『でんこうせっか』で突撃したが、電気で作られたバリアは柔軟力のありそうな見た目とは違い、物理的にとても固く、突破することはできず、バリアにはじかれてしまった。

「あたい、渾身の制御魔法を使った[スパークバリア]はそう簡単に壊せないよ!」
「いててて。 やっぱり、魔力を纏った電気だから強度が桁違いだね。 これは、厄介だなー」
「ヒカリ! 戻って!」

ヒカリのピカチュウとしての長い耳がハルキの声を捉えると、躊躇うことなく、クロネに背中を向け、『でんこうせっか』を使ってハルキの元に素早く戻って行った。

――――――――――――――――――――

試合が始まる少し前、ハルキはヒカリとアイト、ヒビキを集めて簡単な作戦を伝えていた。

「おそらく、マジカルズは防御が得意って話してたクロネさんが旗を守って、残りの2匹ふたりが攻めてくると思う。 だから、ヒビキには旗を守る役で、足止め役を僕とアイトが引き受ける。 その隙にヒカリには旗を取りに行ってほしい。 ただし、僕かアイト、どちらか片方が抜かれてしまう状況になった場合、ヒカリには大変だけど、旗まで急いで戻ってきてほしいんだ」
「なんで?」
「数的不利になるからだよ。 僕達が唯一、マジカルズに勝っているのは数の多さだ。 この数の多さを活かして、相手と同等、あるいはそれ以上の数で対処できる状況を作るのがベストだ」
「数って奴は、1つ違うだけでも差は歴然だからな。 1対1と2対1は圧倒的に違うんだ」

数的な差については、色んなスポーツでその強さを経験してきたアイトが1番よくわかっていた。

「そう。 だからアイトも僕が倒されたら真っ先に旗を守っているヒビキのカバーに行ってほしいんだ。 そして、もしアイトが倒されたなら僕がカバーに戻る」
「了解! ちなみに、ヒカリが戻ったのを確認したら倒された側はどうすりゃいいんだ? 戻って4匹よにんで守るか?」
「いや、ヒカリが戻ったのを確認した倒された側は攻めていいよ。 防戦一方って状況は避けたいしね。 それに、こちら側からも攻める事で、相手の攻め担当が防御に戻ってくれたら仕切り直せるし、結果として旗を守ることに繋がる」
「よし! わかった!」
「あれ? でも、もし、ハルキ君かアイト君のどちらかが倒されても、わたしと残ったどちらかと2対2の状況は作れますし、ヒカリちゃんまで戻す必要はないんじゃないです?」

ヒビキは、同等の数になるならば先ほどハルキの言った数的不利にはならないと思ったのだろう。

「いつの時代でも防衛戦は大抵、守る側が不利なんだ。 守る側は守る対象を気にしながら戦わなくちゃいけないし、攻める側よりも精神的な疲労具合もすごいからね。 それに僕とアイトがどちらも倒される可能性もあるから、ヒカリには戻ってきてもらったほうが安心だ」
「なるほど! もしもの事を想定してということですね? 了解です!」

ハルキの説明に納得したヒビキはおでこに前足をかざして敬礼のポーズをとった。
そのヒビキの姿を見たハルキは、軽い頭痛と共に脳内にあるイメージが浮かんだ。



***

「・・・・・! 了解した!」
「頼んだ。 本当は君だけにこんな役を頼みたくはなかったんだが」
「ハルキ。 君は君にしか出来ない事をちゃんと見つけてやっている・・・」

***



突然の出来事でハルキは一瞬、何が起きたのか理解できなかったが、今見た光景がなんとなく自分の記憶だとわかった。
一瞬だったため、よくわからなかったが、星の模様が描かれたペンダントを首につけた白い毛並みのポケモンに何かを頼み、隣で誰かがハルキを励ましてくれていた。
そんな映像だった。

(今のって、僕の記憶? ……それにしては覚えがない)

「ん? どうかしたのか?」

話の途中で急に黙ったハルキを心配するように見つめるアイトの声に、ハルキは呼び戻された。

「あっ、ちょっと立ちくらみがしてね。 きっと、さっきの疲労がまだとれてないからかな。アハハハ……」
「俺が言うのもあれだが無理すんなよ」
「うん。 ありがとう」

さっきの光景についてハルキはまだ整理が追いついていない事もあり、適当に誤魔化すことにした。
先ほど思い出した光景が何なのかわからないが、今は目先の試合に集中するべきだと思い直し、ハルキは両手で頬を軽く叩き、気持ちを切り替えた。

「…………」

その姿をヒカリが何も言わずにじっと見ていた事にハルキは気づかなかった。

――――――――――――――――――――

今の状況はまさしく、ハルキが試合前に話した想定通りの状況だ。
アイトが投げ飛ばされ、地面に倒された時点で一瞬でもハルキは2対1の状態になる。
これが普通の戦闘ならばアイトが起きるまで耐えればいいが、今回は守る対象物が存在するため、1匹ひとりだけでも抜かれたらアウトだ。
ハルキは全速力で自陣のフラッグまで戻るとヒビキと合流し、すぐに2対2に戻す。
ラプラは身体に電気を纏う技、『スパーク』でハルキ突進してきた。
みずタイプのハルキにとって、でんきタイプの技は効果抜群。
しかし、この攻撃を避ければフラッグを取られてしまうため、退くわけにはいかなかった。
ハルキは、ラプラに向かって『バブルこうせん』を放ち、突進速度を落とそうとしたが、ラプラの『スパーク』は魔力を纏っているためか、『バブルこうせん』をいとも簡単に弾き、全く減速する様子が見られない。
ハルキは歯を食いしばり、覚悟を決めて『スパーク』を正面から受け止めた。

「……ッ!」

ハルキは電撃による痛みに耐えながら、ラプラに『ずつき』をした。

「いった!!」

『ずつき』を受けたラプラがよろけたのを見逃さず、ハルキはすかさず『つつく』でラプラを吹き飛ばした。
一方、ヒビキはイオが牽制目的で放った『エレキボール』を『スピードスター』で打ち消していた。
攻撃を打ち消す事に必死になっていたヒビキは、イオが『エレキボール』の陰に隠れて接近していることに気づかず、不意に現れたイオの『たいあたり』を受けてしまった。

「キャアッ!」
「すみませんが、僕達も簡単に負けるわけにはいきません。 フラッグはもらいます!」
「させないよ!」

イオがフラッグに手を伸ばした瞬間、ヒカリが『アイアンテール』をイオにぶつけてフラッグを守った。

「くッ! やりますね!」
「イオ、一旦下がるぞ。 いくらクロネでもあんなに『かえんほうしゃ』ずっと受けてたら魔力が尽きちまう」

ラプラに言われてイオがクロネの方を見ると、アイトがクロネの[スパークバリア]に向かって継続的に『かえんほうしゃ』を当てていた。
ダメージはなくても『かえんほうしゃ』による熱は蓄積されるようで、クロネは暑そうに汗を流している。

「クロネー!」
「チッ! 戻ってきたか!」

アイトは攻撃を中断し、ラプラとイオが放った『エレキボール』を避けて、ハルキ達と合流しに戻った。

「お・そ・い! あたいが丸焼きになったらどうするのさ!」
「ごめん、ごめん。 でも、クロネの[スパークバリア]はそう簡単に崩れないから平気だろ?」
「壊れなくても、暑いもんは暑いんだよ!」
「そりゃあ『かえんほうしゃ』だからな。 ハハハッ」

頬を膨らませて抗議するクロネにラプラは笑って適当に話を流した。
マジカルズがそんなやり取りをしている時、ハルキは合流したアイトに[スパークバリア]を壊せそうか聞いてみたが、アイトは首を横に振り、全員の総攻撃でやっと壊れるかどうかぐらいと語った。

「バリアを壊さないでフラッグだけとる方法が合ったら楽なんだけどねー」
「それだよ! ヒカリ! 別に壊す必要はないんだ。 ヒビキ、今から言う作戦は君がカギになる」
「わたしです!?」

キョトンとするヒビキにハルキは自分の考えを伝えた。

「なるほど。 ああいうタイプのバリアにあるあるの欠点ではあるな。 だけど、もしその予想が外れてたらどうするんだ?」
「その時は、その時でまた考えるさ。 今は後手に回るより、積極的に攻めた方がいいと思う」
「攻撃こそ最大の防御って言うからねー」
「なるほど、そうと決まればやるか! ヒビキ、頼んだぜ!」
「はいです!」

話しがまとまったところで、アイトとハルキが1歩前に出て、大きく息を吸うと口から『かえんほうしゃ』と『バブルこうせん』を放った。
2つの技は途中でぶつかり合い、ハルキ達とマジカルズの視界を塞ぐように周囲には煙が立ち込めた。
ハルキ達はその煙を利用して、フラッグを奪うために、走って煙の中に突入したが、それは相手も同様で、ラプラとイオが突っ込んできた。
今度はラプラにヒカリ、イオにハルキが立ちはだかって、その脇をアイトが素早く抜けて、クロネの元に向かった。

「何度来ても無駄だよ!」
「そいつは、どうかな?」

クロネは『スパーク』によるドーム状のバリアを再度展開した。
アイトは[スパークバリア]に何度も『ほのおのパンチ』をぶつけるが、クロネの操るスパークはやはり頑丈なようで、全く壊せる気配が感じられなかった。

「……やっぱり壊せねぇか! だが、十分に時間は稼げた、かな?」

アイトが口元を緩めて不敵に笑った瞬間、クロネの足元がだんだん揺れ始めた。

「今だ! 行け! ヒビキ!」
「です!!」
「なにぃッ!?」

クロネの足元から『あなをほる』でヒビキが勢いよく飛び出し、地面から奇襲を受けたクロネはバランスを崩し、ヒビキは飛び出した勢いのままクロネの手からフラッグを奪った。

「やったです! ハルキ君! ヒカリちゃん! フラッグとりましたよ~!」

嬉しそうに叫ぶヒビキの声にラプラとイオ、そしてハルキとヒカリは手を止め、ヒビキの方を見た。

「うわっ、盗られちまったかー」
「ふー、予想通り地中までは[スパークバリア]が張られていなくて良かった」
「そこまで! チーム戦は、ハルキさん達の勝ちとします。 両者共、お疲れ様でした」

サラの号令で試合が終わり、ハルキ達の技能測定は全て終了したのであった。
入り乱れまくってたり、戦闘中に時間軸前後するような分かりにくい
表現ですみません(; ̄ー ̄川 アセアセ
ざっくりいうと、『あなをほる』で勝利した。以上です(笑)

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