36話目 ただいま

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ちょっと気合いだした3000字
「仕方がないですね。私ができるのは、ここまでですよ。」

そう言って妖麗な雰囲気をただよわせる美しい声の主のポケモンーサーナイトのルルアはため息混じりで、「やれやれ」と呟きながら、地上から10m位の高さの宙に浮き、力を全身の中央部に入れると、自身の周りに大きな紫色に輝く結界のようなものを展開する。
その結界は二重、三重と大きく、かつ複雑になり、その結界が限界を迎えようとした時、2つの紫色の光を放つ。
それは二匹のポケモンの元へ、一瞬にして飛んでいく。

「...。私の力も、ここまで、ということですね。やはりチームラスティは、解散すべきだった...。私の力は、伸び代がないということですね...。」

放たれた光が空の彼方へ飛んでいき、姿が捕捉できなくなったところで、ルルアはドサッと音を立てながら、地面に垂直に落ちていく。

「...空は、やはり、いつでも水色で、私たちを見守っているのですね...。ライト、あなたは今の情けない私をこの青い空から見ているのでしょうか...?だとしたら、私の情けないこの力の限界を嘲笑っているのでしょうか...?...なんて、おかしいですね、私」

ルルアはフッと自虐的な笑みを零すと、静かに瞳を閉じた。




「あとは頼みました、アルト。そして、ルナ...。私はここで、眠るとします...。」









時の光。それは、闇を打ち払い、世界を救うことが出来る。
しかし、光が闇より弱い時、光は闇に呑み込まれ、世界は暗黒に包まれる。

それを、阻止することができるのが、

時の光。

それが、唯一の手段だ。





ふと目を覚ますと、そこにはいつもと同じ青い空が存在していた。
それはいつでもこちらを見ている。空を見上げるのではなく、空は常に我々をを見おろているのだと、誰かが言っていたことを思い出して、ふふっと口角を緩める。

それにしてもさっきの夢はなんだったのだろう?
時の光...。それは何か分からない。それは自分なのだろうか。まぁ別に今はどうでもいい。腹が減った。
仰向けに倒れるように眠っていたアルトは、起き上がる気力も起こることなく、ただ青いキャンパスに白い綿のような雲が浮き、それがただゆっくりと流れる様をじっと見ていた。



「んんっ...。」

やっと起き上がった。でも倒れたい、また。
お腹が空いた。ご飯を食べたい。けど

動きたくない。

それがアルトの行動を邪魔する。
体が重い。

そよそよと、優しい風が頬を撫でる。
爽やかな風だ。

「·····ぬぇっ!?」

背後から、急に紫色に発光する物体がアルト目掛けて猛スピードで飛んできた。アルトはその光の物体に触れると、取り込まれ、意識をプツリと切られてしまった。








ト... ルト... っ

「アルトッ!」

「んんっ...」

目を開けると、そこにはオレンジ色のヒヨコみたいなポケモン...アチャモのルナが、こちらを心配そうに見ている。

「ル...ナ...?」

「あぁ、アルト!目が、覚めた...!」

安堵の声を漏らすと、ルナはその場に座り込む。
アルトは気だるげな体を起こす。とても体が重い。

「ひ、さしぶり、アルト...。」

「久しぶり、ルナ...。」

しばしの沈黙。とりあえず今は、一時はどうなるかと思われた状況になったときに、死んではいないか。本当に無事か。
それを相手の名前を呼ぶだけで確認が出来た。それだけでとりあえずよかった。アルトにもルナにも目立った外傷も無いし、自分の名前を相手が呼んでくれたってことは、とりあえずは自分のことを覚えているという事だ。
今は、
それだけで、良かった。

「よかった、ア...ルトが...生き...てて...っ!」

ポロポロと大粒の涙を零しながら、ルナはくしゃくしゃな笑顔でアルトを見た。アルトは優しく微笑むと、アルトの大粒の涙を手で拭う。


「ただいま、ルナ。」









一段落して、アルトはルナとはなれ離れになってから、元相棒のクレセリアに会ったこと、そしてニンゲンの時の記憶をクレセリアから受け取り、完全に記憶を取り戻したことを伝えた。ルナは浮かない顔をした。なぜか、アルトが遠い存在になった気がしたのだ。それを薄々気づいていたが、アルトはこれからすべきこと...つまり、闇の主の撃破を目標として掲げた。それが終わったらー。

「...でも、今はアルセウスが居ないから、時空の塔に行けないんじゃ...?」



おう!それなら心配すんなって!


その声を聞いて、アルトは後ろを振り向く。
そこには、未来で別れたハズのダークがこちらを見ながらニッと笑っていた。
それだけじゃない。ダークの他に、リーフ、それにルシアも居る。

「おう!お前ら生きてるかー?」

「生きてなかったここであんなビックリな顔してる訳ないだろ。生きてるんだお前の目は節穴か。」

「さて、お困りのお前達。幻の大地には、コイツが運んでくれるぞ!」

そう言ってダークが指さしたのはルシアだった。
ルシアは色違いのラプラスのメス。おしとやかでひややかな瞳で、こちらを見通すように見てくる。

「私が、まぼろしの大地までお運び致します。乗り心地は悪いですが、許してください。」

ルシアは丁寧にお辞儀をすると、先程の見透かすような目とは違く、包み込んでくれるような、優しい瞳でこちらを覗いてくる。

「さて、時の歯車は、あるか?」

ふとリーフが口を開いた。
時の歯車、歯車...?

ん?

「お前ら、無くしたとか、言わない、よな?」

「それは安心しろ。わたしが持っている。」

「アルセウス...!」

後ろから音も立てずに上空を滑空してきたアルセウスは静かにアルトの隣に降り立つ。なにやら、口にくわえている。...袋だ。

「この中に、時の歯車が入っている。これを、持ってけ。」

アルセウスはアルトに袋を渡すと、また上空に飛び立つ。地面から少ししたところで止まると、クルリとこちらに体の方向を向ける。

「...アルト。お前が時の主...時の神か。まぁどっちでもいいんだが、アイツを倒せば、時空の塔に掛けられている結界は解ける。その時に私がディアルガの浄化を行う。それまでは、お前らで頑張らなくてはならない...そして、幻の大地へと案内人、ルシア。頼んだぞ、この2匹を。」

「...創造神のおおせのままに。」

アルセウスは深紅の瞳を閉じると上空へ飛び立っていく。

「...さて、帰るぞ、リーフ。ルシアは後から来いよな!」

「...わかりました。このお二方を運び次第、帰ります。」

「てなわけだ。じゃあな、アルト、ちんちくりん!」

「誰がちんちくりんよぅ!」

大きく手を振るダークに、口にくわえている葉をいじるリーフ。遠くに、遠くに足を進めていく2匹。

「リーフ、ダーク!その、ありがとう!」

一瞬、二匹の動きは止まった。
けれど何事も無かったかのように歩を進めた。

ちゃんと、伝わっただろうか...?

伝わった、よな。






「では、我らが主アルト、そしてその相棒ルナ。そちらの海岸から幻の大地へと向かいます。それ相応の覚悟は、出来ていますね?」

愚問とばかりに真剣で鋭い眼差しを海の、遥か彼方ー。水平線に向ける。その姿を見てルシアも、フッと微笑む。

「なら心配ありませんね。参りましょう、幻の大地に!」
ルナ:次回からは幻の大地編だね...!
アルト:気、引き締めていこうな。
一同:次回!最終章スタート!

ルナ:なんで皆が言っちゃうかな...?

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