Episode 19 -Glyph-

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読了時間目安:17分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 えっことローゼンは新市街の一角にあるヘラルジッククリニックを訪れる。二人はそのクリニックの主のウツボット・ヴェルデと、武器の専門家のパンプジン・スェーミにヘラルジックの相談をするのだった。
 一方、中間テストを終えたローレルとカザネとアルバートの元に、ある一匹のポケモンが現れた。
 事務手続きを済ませたえっこたちは、免許証が発行されるまでの時間を利用し、ヘラルジックを見に行くことにした。


「しかし、こんな空に浮かぶ島にもチューブが走ってるんですね……。カルスターと同じ感じだ。」
「きっと空の上だから、あまり高過ぎる建物作ると危ないんじゃないかな? それで地上よりも地下に街が広がってて、地下にある建物にアクセスが便利になるように鉄道も地下鉄になっていると。」

「なるほど……。それにしても、この車両は何だかとても綺麗だな……。カルスターのチューブは、こんなにピカピカと画面が光ったりはしてませんでしたよ。動力も蒸気機関だから煙とススだらけだし。」
「これは電気で動いてるんだよ。僕が住んでた街の鉄道とかトラムはそうだった。ここまでハイテクじゃなかったけどね。」

このポケモン世界は、二人がいた世界よりも高い科学技術を持っているらしい。
えっこが見つめる先には液晶ディスプレイに駅や路線の情報が映されており、車内はそれなりに静音ながら、電車自体はかなりのスピードで運行しているようだ。


「えーと、インクニッジ通り駅だから、次で降りるんじゃないかな?」
ローゼンが液晶ディスプレイを指差して呟く。程なく電車は駅に停車し、えっことローゼンはプラットフォームへと降り立った。


「す、凄い……。これ駅なんですか!? 何かの博物館か宮殿みたいな……。」
「相当に凝った装飾だね……。自分たちが駅にいるとは思えないよ。」

えっことローゼンは天井を見上げてぽかんと口を開けている。駅の天井は荒々しい岩になっており、その岩はビビッドな虹色で美しく彩られていた。

壁には青と水色を基調とした色とりどりのタイルがはめ込まれ、アークのはるか眼下に広がる大海を表現したような波の柄が、ホームから改札方面へと押し寄せるように描かれていた。

二人はその迫力あるタイルの波に押されるかの如く、エスカレータで改札へと上がっていった。


地上は新市街の一等地にある大通りとなっており、多くのポケモンたちが忙しなく行き交う街の動脈のように感じられた。

えっこたちはその人波ならぬポケ波に押されながらも、目的のヘラルジッククリニックへと足を運んだ。










 「えーと、『グリフウィッチ・ハイド』だからこの店……というか蓋……ですかね……。」
「マンホールかなこれ?」

ローゼンは地面に取り付けられた取っ手付きの鉄の蓋を眺めてそう呟いた。
蓋の横に店の名前が書いてある立て看板が置いていなければ、単なるマンホールと勘違いしてスルーしてしまうところだっただろう。


二人は顔を見合わせた後、意を決して蓋を引き上げ、下に続く梯子を下っていった。

「あ……いらっしゃい……。ダイバー?」
「ああ、はい、俺たちはダイバーです。ヘラルジックを購入しようと思って。」

「ふーーーーん………………。ブローチ、持ってるわね……。いいわ、ちょっと座ってて。」

テーブルで頬杖を突いてクリームソーダを飲んでいたかぼちゃポケモンのパンプジンは、えっこのブローチに顔を思い切り近づけると、気だるげに店の奥に消えていった。


「あらー、お客さん!! いらっしゃいませー!! このお店、初めてかしらん?」
「うん、ダイバーになったばっかだからねー。おじさんがこのお店のご主人かな?」

「んまぁっ!! 失礼しちゃうわ、おじさんじゃないわよ!!!! アタシは『ヴェルデ』、この店の施術と経営をやってるマンマよ!! そんで、さっきいたやる気なさげな子が『スェーミ』。武器や魔法の知識では右に出る者はいないわ。」

えっこたちの前に現れたのは、ハエとりポケモンのウツボットだった。彼、もとい彼女はヴェルデと名乗り、パンプジンのスェーミが引っ込んでいった店の奥に目をやった。


「えっとヴェルデさん、俺たちはヘラルジックに興味があって、下見しに来たんです。ダイバー稼業を始めるに当たって、購入を勧められたもんですから……。」
「それならスェーミに色々聞くといいわ、あの子なら店の奥の武器庫にいるから、オススメでも聞いて、色々と試してみてちょうだいな!!」

ヴェルデに勧められるまま、えっこたちは店の奥へと足を踏み入れた。地下には広大な武器庫が設けられており、とてもあの小ぢんまりとした蓋の入り口からは想像もできない空間が広がっていた。









 石造りの地下室特有のひんやりした空気の中、武器庫をきょろきょろと眺めながら歩いていると、いつの間にやら目の前にスェーミが立っていた。


「うわっ!? い、いつの間に!?」
「ヘラルジック……探してるんでしょ……? 何がいい?」

「何と言われても……うーん……。俺に合いそうなオススメのってあります? せっかく専門家がいるから、武器について詳しく聞いてみようかな。」

「……あなたは脚力と体の小柄さに定評のあるケロマツだからその身体のバネと小回りの効く足回りの筋肉の力を存分に活かせる武器や装備が一番オススメできるかしら具体的に言うと格闘具などの近接打撃武器などで一気に相手の懐に潜り込んで強烈な一撃を食らわせたり相手の急所を的確に突く一撃を叩き込んだりカウンターアタックに徹してみるのも面白いしそれから…」

「あわわっ、ちょっ、ストップ!! あ、あの、すみません、やっぱ適当に俺に合いそうな奴持ってきてくれればいいので……ははは…。」

突然無限に弾が込められたマシンガンの如く、息継ぎすらせずにオススメの武器について語り始めたスェーミ。えっこは慌ててオススメ品を聞き直した。

するとスェーミはどこからかホコリにまみれた箱を取り出して開いた。
もくもくと立ち上るホコリの中に見えたのは、4つの腕輪のようなものだった。金属製の腕輪は、ネジである程度締め具合を調節できるようになっている他、中央部には丸くて明るい青色の宝石がはめ込まれていた。


スェーミは慣れた手付きでえっこの両腕と両足首に輪を装着する。腕輪自体は軽金属でできているらしく、さほど重さを感じない。

「あの、これって……?」
「『蒼剣』……。説明聞く?」

「ああっ、そのっ、結構です!! 代わりにちょっと試させてもらったりなんか……。」
「いいよ、ついてきて……。」

スェーミが着けてくれた蒼剣なるものと共に、えっこはスェーミの後に続いた。その先には、やはり入り口の蓋には不釣り合いな地下道場があった。
道場は一面アスファルトと鉄の壁で覆われており、武器を安全に試すことができるようになっていた。


「その腕輪を自分の身体の一部だと思うの。皮膚だと思うの。肉だと思うの。血が通ってると思うの。身体を駆け巡る生命エネルギーが、その腕輪にも回っていくと思うの。それから腕や足を振るだけ。簡単簡単。」
「な、何だかよく分からないけど……。身体の一部ですね? よーし……!!」

えっこは全身の神経を集中し、自分のエネルギーが腕輪を通っていくイメージを抱いた。そのまま右腕を身体に引き寄せ、内から外へ素早く腕を振り払う。

すると、指の先に刃状の青白い閃光が伸び、まるで手に付けられた剣の如く空を切り裂いた。


「うわっ!? 今のって一体……? まるで光の剣が出てきたみたいな……。」
「蒼剣はね、蒼剣はね、あなたの身体の魔力、即ち生命エネルギーを硬化させて刃にする武器なの。それを振りかざせば、本物の剣みたく相手を切り裂けるの。腕も脚も凶器になる。素早くて脚も強いあなたにオススメの武器。今なら50万ポケぽっきり。買ってく?」

「うげっ!? 50万ポケですって!? そんなお金なんて……もっと安いのじゃないと……。」
「大丈夫なの大丈夫なの、免許あるならダイバー連盟から補助出るから、38000ポケで買えるよ、施術代も込み。」

スェーミは電卓を取り出して計算すると、値段をえっこの顔の前10cm程に突きつけた。えっこは思わず硬直しながらもこの武器をとても気に入っており、どこか心が揺らいでいた。


「ねーねー、僕はどんな武器がいい? オススメちょうだい?」
「『エッジ』。あなたの眼差し……相手の懐に飛び込んで一撃食らわせるのに一切ためらいなさそう。これでインファイトに持ち込めばとても有利。斬ってもよし。突いてもよし。刃が大きくて切れ味抜群。」

スェーミは矢継ぎ早に話しながら、ローゼンに一本の武器を手渡した。それはコンバットナイフを大きくしたようであり、先端部分は針のように尖った形状をしている。

スェーミの説明からすると、先端部分で相手を突き、刃の腹部分で切り裂いて攻撃するためのものだろう。痛覚がない故に攻撃にためらいのないローゼンにとって、インファイト向けの武器は相性がいいのだ。


「へぇ、こりゃ良さそうだ。ほいっと!!」
ローゼンは近くにあった試し斬り用の藁人形に急接近し、そのまま一気に斬り上げた。先端部分で刺し貫いたまま真上に飛び上がったことで、藁人形は真っ二つに引き裂かれてしまった。


「うーん!! 悪くないねこれ。これにしよっかなー、いくら? これも補助出るんでしょ?」
「18万ポケ。蒼剣よりは安い。補助使ったら5500ポケにできるよ、お得お得。買っちゃう? ねぇねぇ……!!」

結局ローゼンは、スェーミの勧めてくれたこの武器を購入することにした。えっこも他の武器を試したが蒼剣が一番しっくり来るらしく、結局蒼剣の購入に踏み切った。











 「うわぁーーっ!!!! 死んだぁーーっ!!!!」
「落ち着きなよアルバート……再試なんていつものことだろ?」

「その再試が辛いんじゃねぇか!! いいよなー、カザネは優等生だから赤点の心配ないもんなぁ……。」
「赤点が嫌なら勉強すればいいのでは? あの程度の難易度の問題なら、授業内容を繰り返し復習すれば80点は誰にでも楽々取れます。ましてや40点の赤点ラインなら余裕かと。」

「それができねぇバカだから困ってんのー。ローレルもエリート学校から転校してきたんだろ? すげぇよな、あーあー……。」

アルバートは試験でいつもの如く失敗したらしく、後は赤点による再試験を待つのみのようだ。対してカザネとローレルは、優等生らしく高得点が望めそうな様子を見せている。


「失礼、少しお手洗いに行ってきますので。」
「ああ、行ってこいよー……。あー、再試やだぁーっ……。」

生ける屍のようにぐったりし始めたアルバートをよそに、ローレルは廊下を曲がった先のトイレの方向へ、足早に向かっていった。


「へっ!? わっ!? うわぁっ!?」
「おや、あなたは確か先日の……。いるかさん、というお名前でしたよね? こんなところで何をされているのです?」

ローレルが曲がり角に来た途端、一匹のポッチャマが狼狽えた様子で転がっていた。どうやらローレルたちの様子を、角から覗き見ていたようだ。

そのポッチャマは、以前のカツアゲ騒ぎの際、ローレルたちが助け出した一年生の生徒・いるかだった。
騒ぎを聞きつけてカザネとアルバートもやってくる。


「何何? 僕たちのこと見てたのかい?」
「てめー、俺の赤点のこと言いふらしたらぶっとばすー。」

「ひっ!? そ、その、ご、ごめんなさい!!」
「いや、赤点のことは恒例行事だからもう誰にもバレるとかないだろ……。それより、どうして僕たちのとこに? 何か用事でもあるのかい?」

いるかはカザネたちに詰め寄られ、顔を青くして震えていた。何かやましいことでもあるのだろうか?


「僕たちでできることなら喜んで相談に乗りますよ。ご遠慮なくどうぞ?」
「あっ……そのっ……。(夢のためだろ? 頑張って言うんだ…!!)」

必死に何かを言い出そうとしているいるかの様子を、ローレルたちはじっと眺める。すると今度は顔を真っ赤に染めながら、遂にその思いを口に出した。


「ぼっ、僕と……ダイバーやりませんか……!?」
「ダイバー……ですか!?」

「僕、ずっと憧れだったんです……。幼い頃に誘拐されて、そのときにアークの勇敢なダイバーの方々に救出されて、その姿と弱いポケモンのために戦う姿勢がヒーローみたいで輝いてて……!!」

驚く三匹に対し、いるかはダイバーを志す理由を語る。その話し方はとても不器用だが、自分の夢や憧れに心を踊らせているような、そんな話し方に思えた。


「僕もアークに移住してそんな憧れのヒーローになるつもりでした。でも僕は弱虫だし、力もないし、情けないし、愚図でのろまだし、勉強だってあまりできないし、結局ダイバー試験を受けることさえ怖くてできなくて、気が付けば高校に入って、ごく普通の生活を送っていた……。お母さんやお父さんが夢のためにってくれた仕送りを、何も進歩がない生活の費用のために……。」
「でもあのときユーグさんに迫る敵に、強烈な一撃を出してたじゃないか、君は自分が思うような弱虫でも無力でもないよ。」

「それは皆さんの他者を思いやる心と、敵に立ち向かう勇敢な心を目の当たりにして、変わらなきゃと強く思えたからなんです。だから、僕はもっと変わりたい!! 踏み出したい!! あなたたちとなら、やれる気がするんです!!!! お願いしますっ!!!!」

いるかは力強くそう告げると、三匹に頭を下げて頼み込んだ。アルバートは一歩前に踏み出して、彼の頭をポンポンと軽く叩いた。

「悪い、俺は部活と自分の夢追うので精一杯でさ。お前と同じで、俺にも辿り着きたい憧れがあるんだ。お前のことまでやってはいけないと思う。本当にすまねぇ……。」

しかし、ローレルは身をかがめているかの目を見ると、このように語りかけた。


「実は……僕もダイバーを目指そうと考えています。僕を救うために、自分の命を危険に晒してまで戦おうとしてくれる大切な人……。僕にはそんな人がいます。彼のために、僕はじっとなんかしていられない……。彼が僕のために尽くしてくれるように、僕も出来る限りのことをやりたいのです。よければ、是非一緒にダイバーのチームを組みましょう!!」

ローレルの言葉を聞き、カザネもゆっくりといるかの元へ近寄ってきた。


「それじゃあ僕も乗ろうかな、その話。僕には父さんから受け継いだ強い魔法適性がある……。今までそれを誰かのために使ったことはないけど、ダイバーとして、困っているポケモンのために役立ててみるのもいいかもと思ってさ。」

カザネはいるかに笑いかけながら、その拳を握りしめた。青い炎のようなオーラが揺らめき、いるかとローレルは、ひんやりと冷たい空気が周囲に漏れ出すのを感じた。


「良かったじゃねぇか、こいつらはいい奴らだ、きっと最高のチームが組めると思うぜ、俺が保証してやんよ。」
「皆さん……!! 本当にありがとうございますっ……!!!!」

「んーーと、でも一つ条件があってねー。」
「はい? じ、条件ですか……?」

カザネの満面の笑みの奥に、アルバートは何やらよからぬ企みを感じて眉をひそめる。










 「うん!! 君はクチバシがあって楽器を吹くのは無理そうだから、それが一番だね。」
「あ、あの……これって……。」

今日は試験の最終日、ローレルは正式に吹奏楽部に加わり、セレスのいるトランペットパートに加入して練習を始めていた。一方のいるかはというと……。


「その『バスドラム』は作りが単純で、マリンバみたく音程もないし、ドラムセットみたく複数の太鼓やシンバルを叩く必要もない。だから初心者向けの楽器だね。でも迫力ある演奏には重要な役割だから、頑張ってね!!」
「頑張ってねって、あの、僕音楽やりに来た訳じゃ……。」

「まぁまぁ、細かいことは気にしない。平日は部活やって、土日にダイバーやればいいのさ。うちはあまり土日には練習入れないしね。じゃ、後はよろしくね、モーラさん。」
「はーい!! 私たちパーカッションパートは、とにかくリズム感が大切だから、初心者で大変かもだけど、まずは基礎からしっかり固めようねー!!」

そう、カザネの言っていた条件とは、吹奏楽部への入部だった。ポッチャマであるいるかはクチバシが邪魔で楽器は吹けないため、打楽器担当のパーカッションパートに加入するようだ。

いるかはしばらくの間、扱いが簡単なバスドラムを担当することとなった。小学校の音楽の授業などでも使われる大太鼓のことで、主に叩くことと音を止めることの2つの操作のみで扱えるため、初心者でもやりやすいとのことだ。


「な、何だかなぁ……。でも頑張るしか……。」

パートリーダーのサボテンポケモン・マラカッチのモーラがマンツーマンで教える中、いるかは目の前の新しい課題に戸惑いを見せつつも、出来る限りの全力を注いでいた。


(To be continued...)

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