第1話 そして星の下に

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ポケダン二次創作としては初めての投稿となります。暖かい目で見て頂けると幸いです。
 星明かりが消えし時、空には暗雲が立ち込める。そして地上は紅に染まり、しばしの時の後、星は砕かれる。

 これはローズフィールドという街に古くから伝わるおとぎ話の一節。知らぬ者は居ないほど有名である。さりとてこの一節の意味を深く知る者もそう多くは居ない。おそらくは古くからあるためそう気にする者も多くは無いからだろう。

 これはそんな一節を巡る物語……。



―☆―


 男は後悔した。自らの行いを。

 水面に叩きつけられる衝撃、痛みで動かしたくとも動かせない四肢、肺を押しつぶす水圧。自らが死に向かっていると自覚させるに不足の無い状況である。

 男は思った。自分はなぜここまで無力なのかと。なぜ自分自身の過去に決着をつけることもできぬまま死ぬことになるのかと。

 男は自らの無力を呪った。もっともそれを後悔するには遅かったのだが。

 そして、間もなく男は海の深い蒼に吸い込まれていった。

―☆―
 

 多くの者たちが行き交い、栄えているローズフィールド。ここにある者達は皆ポケモンであり人間は居ない。いや、ここに限らずこの世界自体に人間は存在しない。しかしながら文明を築き社会を形成している。つまりはポケモン達だけの世界である。

 この物語の舞台は、そこから西へとしばし行ったところにある街、ステラタウン。そこに在りしは探検隊、“シグナス”。名門探検隊である。

 ここにある一匹のポケモンが担ぎ込まれた。黄色い毛並み、赤い頬袋、イナズマ形の尾。まぎれもなく“ピカチュウ”である。どうやら海岸で行倒れになっていたところを保護されたらしい。

 この探検隊の医師である“タブンネ”曰く、目立った外傷は特になく、恐らくは誤って海に転落、たまたま流れ着いたのだろう。と。ただそれ以外に変わったところは無いと思ったようだった。しかしながらそれは間違いといえるのかもしれない。なぜなら彼は……

―☆―


 俺は生きているらしい。自分の呼吸と柔らかな日差しの温かみがそれを知らせてくれた。なんと幸運なことか。目を開いてみると、木材で造られた温かみのある天井が見えた、また、身を起こし見回してみると、自分が今いるこの場所はどうやら石造りの建物であることが伺えた。
 「ここは……何処だ?」誰に聞くわけでもない言葉が思わず口からこぼれた。しかしその言葉を拾いあげる者がいた。それは人間ではなくポケモンだった。
 
 「気が付かれましたか。今、医師長を呼んできます!」そう言って俺の居る部屋から駆け足で出て行ったのは、俺の目が確かなら“チラチーノ”だ。どういう事だろうか。ポケモンが言葉を使えるというのは。……まあ戻ってきたら聞いてみよう。
 そう思っていたところに先ほどのチラチーノに代わり入ってきたのはこれまたポケモンの“タブンネ”だった。

「やあ。気分はどう?どこか調子の良くないとかあるかな?」そうタブンネは朗らかに話す。“人”柄の良さが垣間見える。

「いえ。どういうわけか爽快そのものです。」

「それはよかった。君は海岸で行倒れになっていたからね。もしかしたら何か重病を抱えているのかと思っていたからね。そうではなくてなによりだ。」

「お気遣いありがとうございます。」

「いや、なにも気にすることは無い。なんたって僕たちの仕事は他者(ひと)助けだからね。」

 俺たちは他愛も無い会話をする。会話だけ聞いてみれば人間どうしとしか思えないだろう。
「ところで……、君はどこから来たのかな?身元が分かる物は持っていなかったみたいだけど……。」
俺はその質問に答えようとした。しかし答えることはできなかった。

 俺は記憶喪失になっていた。

「申し訳ありません……。自分がどこから来たのか、何者であるかもわかりません……。」
そう言うと、少しばかり困惑の表情を“タブンネ”は見せた。

「それは困ったね……。まぁ、一応何か情報が入ってきてないか本隊の連中に確かめて貰うよ。幸いと言うべきか、君と同じ“ピカチュウ”はこの街にそこそこ住んでいるから、もしかすると何か知っている方が居るかもしれないしね。」

「俺と同じ……ピカチュウ……?一体それはどういう……?」

「まいったね。自分の姿も忘れてしまっていたのかい?君はピカチュウなんだよ。」

 そう言われ、俺は急いで自分自身の手を見てみた。すると、そこには信じられないことに黄色い毛皮で覆われていて、しかしながらヒトと同様の五本指の自分自身の手があった。この特徴を持つポケモンは俺が知る限りただ一つ、“ピカチュウ”だ。

「そんなバカな……」自然とそんな言葉が俺の口から洩れていた。

「……その言葉の意味はどういうことかな?」いぶかしげに目の前のタブンネの医師は聞いてきた。

「あぁ……いや、なんと言ったら良いか……。俺は人間だったはずなんですが……。」
俺がそう言うと“タブンネ”はひどく驚いた。

「そんな……おとぎ話みたいな……それは本気で言っているのかい?」“タブンネ”はさらに俺の事を怪しく思ったようだ。

「少なくとも冗談ではありません。」そう言う他ない。何か付け足したとしても余計信用に足らないと思われるだけだ。

 長い沈黙の後、“タブンネ”は口を開いた。
「まぁ……。とにかく君が人間であるかそうでないかは僕には解らないし、とにかく今は脇に置いておくとして……当然記憶が無い君には頼るアテもないわけだよね?」

「まぁ……そうなりますね……」

「それなら……、団長に判断を仰いでみようか。これからどうしようにもまずは相談するしかないしね。」
言われてみればその通りだ。しかし“団長”とは何者なのだろうか。そもそもここは一体どういうところなのか、疑問は尽きない。

とにもかくにも、今は流れに身をゆだねるほかないだろう。少なくとも今自分にできることと言えば、それだけなのだから。

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