生活の話〈2〉

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 フローラが手を上げると、先程ジングルと呼ばれていたリーシャンがふわふわと麗達のテーブルまで飛び、体を大きく揺らした。
 その鈴の音に丁度近くでテーブルを拭いていた店員が振り向き、こちらへ歩いてくる。

「どうしたフローラちゃん。ノアちゃんと喧嘩したか?」
「なんで2人ともそこツッコむんすか……ウチそんなにのんたんとしかここ来てなかった?」
「来ないとしても1名様でのご来店だろうに」
「そだっけ。確かにコッチ帰ってきてからのんたんとばっか遊んでますけど」
「やっぱり幼馴染みだなぁ、久しぶりに会っても気が合うのは良いことだ。たまにはウチのも誘ってやってくれると嬉しいんだけどね」
「えー、とーさんショッピングとかキョーミないっしょ」

 フローラと一緒に笑う店員は40歳前後と思しき男性で、よく見るとエプロンについた名札に「店長」の文字が書かれている。彼がトーゴの父親なのであろう。

「今日も午前中はのんたんとユバラネ行ってたんだけど、ちょっとだけ街の外に出る用事ができたからバイバイしたんす」
「なるほど。ノアちゃん外に出られないもんな……そんでそちらさんは?」
「カツカレー」
「か、カツカレー? そりゃまたすげぇキラ……美味そうな名前だね」
「えっ。名前はうら……ララマですけど」
「ん? …………あぁ注文か! そりゃそうだカツカレーは料理だ」

 麗は店長の名札に気を取られて会話をあまり聞いていなかった。すまんね、フローラちゃんの初めて見るお連れさんだから気になって……と店長が慌ててメモを取り始める。

「えぇと、フローラちゃんは」
「ウチはヘルシーセットで。ちなみにこのララマっちはユバラネで会った友達っす。昨日ラウサンユ来たばっかなんだって」
「はァ、昨日……あぁじーさん、このメモよろしく」

 注文票を手渡されたジングルが厨房へふわふわ飛んでいく間に、店長の質問が再開された。

「地元人と2人でこんな店来てるあたり誰かと旅行しにきたってわけじゃあなさそうだな。一人旅か」
「いや、一人旅っつーよりは引越しのつもりで来ました」
「引越し? ……おー……引越しね。なるほど」

 一瞬だけ怪訝な顔が麗に向けられたが、特に経緯を聞かれることもなく頷きだけが返される。

「そりゃ大変だな。宿はあるのかい」
「とりあえずイーカのビジネスホテルに泊まってます」
「ホテルか。お金は?」
「地元で稼いだ分で数ヶ月はもつ計算で……後はまたバトルかバイトで稼ごうと思ってます」
「なんだそりゃ、結構緩い計画だなぁ。うーん、アドバイスくらいしてやりたいけど、今はランチ時で忙しいもんで……」

 店長はそう言って注文票の束から一枚はがし、裏に何かしらを書き込んで麗の前に置いた。

「ほい、非公式バトルができる場所だけ書いといたから。暇な時なら直接相談に乗るけど、他は自分でここ行って稼ぐなり情報仕入れるなりしてくれね」
「うわ店長ウケる。なんで秒でバトルスペース全部書けるんすか」
「詳しい奴に教わったんだよ。フローラちゃんは知らない人だと思うけど。……そんじゃあ、えーっとララマ君か、追加注文があったらまたジングル君呼んで」
「あ、はい。メモありがとうございます」

 軽く頭を下げて店長を見送った後、麗は渡されたメモに軽く目を通してみた。

「……ユバラネ中央広場は朝いた所だよな? 他は全然分かんねぇ」
「別に今場所覚えなくてもだいじょーぶだと思うけど。行きたくなったらスマホで地図検索すれば良いっしょ。てかユバ広が一番相手見つけやすいし」

 「公式バトル大会も大体あそこでやってるから」と水を飲みながら言うフローラに、「でも色んな場所知ってたほうが便利だろ」と返す麗。

「いくら稼ぎたいからって一日中同じスペースとり続けんのもマナー悪いしよ」
「何それ。どけって言われたらバトってボコって1戦で満足させたげれば良くね?」
「弱肉強食すぎんだろ。つーかそんなことしてて注意されねーのかよ」
「初心者優先スペースは空けてるんでご心配無くー」

 喉が渇いていたのか、フローラはコップを一気に飲み干し、そのまま麗に「横のポット取って」と頼んだ。

「さんきゅー。……てか皆そんな感じだよ? 勝ち続けてる強いトレーナーのとこに並んで挑戦すんの。ジムみたいで楽しいよ、負けたら大体次の試合の審判しなきゃだけど」
「いや本物のジム行けよ……」
「この地方ジム無いしー。ポケモンリーグ自体無いしー。バスで回ってもそれっぽいの無かったっしょ」

 確かに先程麗達が乗ったバスの地図にジムの文字は見当たらなかった。昨日利用した別のバスの車窓にもそれらしき建物は映らなかったような気がする。

「そういやお前もトレーナー修行のためにわざわざカントー行ったっつってたもんな。ここだと危険だからっつー以前に施設が無かったのかよ」
「別にジムだけが修行じゃないけど、ここの場合1人で街の外に出るだけでも死ねるかんね。自力でポケモン捕まえるとこから始めるならやっぱ別の地方行かないとキツいし、“鍛えてもらうため”にバトるんならやっぱ本物のジムのほうが良いし」
「そんである程度鍛えたら戻ってきてアマチュア同士でジムごっこか。なんかバトルで稼ぐのかなり面倒くせー感じしてきた」
「ヨユーで連戦連勝できる実力無いならバイトでちょこちょこお金貰ったほうがフツーに儲かるよ。ウチも結構勝ち残れるほうだと思ってたけど、昨日は最後に並んだとこ結局勝てなかったもん……あー、次は絶対おっさんボコってやるし!」

 「あー」のところで2杯目の水も飲み干し、コップを置いてテーブルに突っ伏すフローラ。

「おっさんってあのカラマネロ使ってた胡散くせーおっさんか? まだムカつく奴扱いしてんのかよ」
「まだムカつく奴扱いしてんのかよって言うけど『胡散くせーおっさん』のほうが明らかに悪口じゃね?」

 フローラに伏せたまま右手で指されつつ、麗もコップに口をつける。

「だって口調は柔らかいけど普通に口悪かったしよ。不正はしてませんって主張するためにわざわざ相手の賞金をイジる時点で人からの信用を誇りに生きてるタイプじゃなさそうだろ」
「めっちゃ悪口じゃん。ウケるんだけど」
「悪口じゃねー……悪口かもしんねーけど。でも実際不正はしてなかったんだから必要以上にムカつく必要はねーだろって話だよ。胡散くせーおっ……なげーな、うっさんも次会った時には忘れてると思うぜ」
「悪口であだ名作り出してるし。ララマっちのほうがだいぶ口悪いよ」

 フローラが顔を上げて半目で麗を見たところで、トーゴがヘルシーセットのサラダを運んでくる。そういえば野菜を頼むの忘れたな、と考えながら、麗は一旦フローラがサラダにドレッシングをかけ終えるまで待つことにした。

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