玖陸 満身創痍の絆に迫る期限

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 “リナリテア邸”に潜入したぼく達は、ダンジョンとは思えない豪華な作りに圧倒される。
 だけど祖言う思ったのもつかの間、ぼく達はモンスターハウスに足を踏み入れてしまう。
 ぼくはシルクさんにもらった“依属の針”で応戦していたけど、ドレディアの反撃でピンチに陥ってしまう。
 だけど駆けつけてくれたハクリューさんに助けられ、気を取り直して野生達と戦い始めた。
 [Side Kinot]




 「……こんで一通り倒せたな? 」
 「そのようだな」
 見た感じいなくなってるから……、そうみたいだね。あれから戦い続けていたぼく達は、新手があったけど全員倒す事が出来た。偶々相性が良かったって言うのもあるかもしれないけど、ぼくはドレディアとか……、ファイアローを中心に三体ぐらいは自力で倒せたと思う。だけど危ない時も何回もあったんだけど、そういう時はハクリューさんが助けてくれたから、大ダメージを食らう事はなかった。そういうことで目につく野生は全員倒せたから、ぼく達四人は一度小部屋の真ん中に集まる事にした。
 『そうみたいね。……だけどハク、あなた……』
 「何で止めたのにここに来たのか、やろ? そんなの決まっとるやん。ここがウチの……」
 『そうじゃなくて、ハク……。あなたが来てくれて本当に助かったわ。……<small>ありがとう</small>……』
 やっぱりシルクさん、絶対にハクリューさんと知り合いだよね? 集まって早々にシルクさんの暗い声が響いてきたけど、それを真逆のハクリューさんが遮る。当然のように言い放っていたけど、それに更にシルクさんの声が重なる。言っては言い返すような感じになってるけど、名前でも呼び合ってるから、ぼくは駆けつけてくれた時から思っていた事を確信する。だからぼくは、何故か気前が悪そうなシルクさんに……。
 「ええっと、シルクさん? もしかしてハクリューさんと知り合いなんですか? 」
 思っていた事を質問してみる事にした。
 「俺も訊きたかったが……」
 『知り合いなんて軽いものじゃないわ』
 「そうやな。今は喧嘩中やけど……、シルクの事は親友やって思っとるでな」
 しっ、親友? でも喧嘩中って……、何かあったのかな? この感じだとサードさんも訊きたかったんだと思うけど、それを更にシルクさんのため息が混ざっていそうな声が遮る。ハク、って呼ばれてるハクリューさんもばつが悪そうにしてるけど、シルクさんに続くような感じで直接的に話してくれる。だけどそれはぼくが思っていた以上の事だったから、思わず言葉にならない声を上げてしまった。
 『私もよ。……ハク、あなたが親御さんを嫌っている理由、今なら分かる気がするわ……』
 「……それ、どういう事なん? 」
 喧嘩中って言ってたけど、それと関係あるのかな? 何か凄く重い空気が流れていたけど、シルクさんが声を絞り出すようにして言葉を伝えてくる。相変わらず二人とも暗いけど、大切なことを言おうとしている、気のせいかもしれないけど、そんなような気がする。これまでずっと視線が泳いでいたハクさんも、やっとそれが定まったと思う。
 『結論から言うけど、敵とはいえあの人達とはそりが合わないと思った、って感じね』
 「それって……」
 『病院を抜け出してからのことだけど、何日間か“エアリシア”に潜入してたのよ。その時にジク……、ハクの親御さんと面と向き合ったけど、人の上に立てるようなひとじゃない。自分の権力の事しか考えず、部下と他人も捨て駒のようにしか考えてないなんて……』
 「あの暴君は昔からそうやったでなぁ……」
 「保安協会としても噂では聞いていたが、そこまで酷いとは思わなかったな、うん」
 保安協会でも知られてるって……、そんなにも極端な人なんだね、今から捕まえに行く人って。
 『おまけにハクの弟さん……、ハクのことまでクズ呼ばわりするなんて……。両親のいない私でも、流石にそれはあり得ないって思ったわ。
 えっ? 自分の子供なのに、そんな酷い事言ってるの? うっ、嘘でしょ?
 『……だからハク、知らなかったとはいえあんな酷い事を言ってしまって……。ええっと……、その……、許してもらえるなんて、思ってないけど、……ごめんなさい』
 「シルクは何も悪くない。悪いのはずっと隠しとって、心にも無い事言ったウチなんやから……。やからシルク? 顔上げて」
 『ハク……』
 「あの時のウチもどうかしとった。今思うと妹を親に殺められて、弟も市長に暗殺されかけた……。そのせいにしたくはないんやけど、そのせいで気が動転して感情的になってしまっとった……。シルクが入院して以来不自然なぐらい聞かへんくなったし、ウチ自身もシルクの事を考えんようにしとった、あんな酷い事したのに……。それからずっと心に穴が空いたみたいで…」
 『やっぱりハクもそうだったのね……。私も自ら跳び出したのに……、頭に浮かぶのはいつも……、っハクの事ばかり。なのに……、っなのに! 会って出てきたのは、ハクを傷つける言葉ばかり……っ! “玖紫の海溝”の時だって、っ本当は嬉しかったのに……、嬉しかったのにっ! ハクに“針”を向けた……。そんな私なんて……、私なんて……! 』
 シルクさん……。心の底から思ってることを言ってるらしく、シルクさんは荒らげた言葉を伝えてくる。それも嗚咽とか涙ながらに言い放ってるから、これがシルクさんの本心なんだと思う。ハクさんはハクさんで涙ぐんできてるから、ハクさん自身も、このことは誰にも言えてなかったのかもしれない。少し前までは微妙な距離感があったけど、気づくと二人は寄り添って……、でも抱えていたありのままの事をぶつけ合っているように見えた気がした。
 「ウチの方こそ、本当はそんなこと思ってへんのに、シルクの事を……、っあの暴君の言いなりになったって、っ思い込んで……、本気で殺めようとしてしまった……。本当はウチの事、っ想ってくれとったのに……、ウチって最低やんな……。やからウチの方こそ、……ごめん」
 『最低なのは、……っ私もよ。……ハク、もしも、もしもだけど……。こんな私だけど、今まで通りにはいかないかもしれないけど、親友でいても、いいかしら……? 」
 「そんなの良いに決まっとるやん。寧ろウチの方がお願いしたいぐらいなんやから」
 お互いに見つめ合ってる二人を見てると、蚊帳の外のぼくでも目頭が熱くなってくる。二人の関係はあまりよく分からないけど、こうして見てみるとかけがえのない存在なんだな、って思う。話し始めた時には厚い氷の壁みたいなものがあったような気がするけど、今ではそれが溶けて跡形も無くなってると思う。その証拠にハクさんはシルクさんに笑顔を浮かべながら、自分の尻尾を前に出していた。
 『ハク……、本当に、本当に! ありが……』
 シルクもこう言葉を繋ぎながら右の前足をウチのしっ……。
 「ケホッ…っ! ぁっ…! 」
 「しっ、シルク! 」
 「シルクさん! 」
 だっ、大丈夫ですか? だけどこれって……。シルクさんはハクさんと握手しようとしていたけど、咳き込んだせいで思わず前足を引っ込めてしまっていた。これだけなら何ともないんだけど、ぼくはあることに驚いてしまう。それは……。
 「話には聞いていたが、フィフ、血を吐くほど……」
 シルクさんは咳き込んだ拍子に吐血してしまっていたから……。本調子じゃないって前に聞いていたけど、まさか血を吐くぐらいなんて夢にも思っていなかった。それも吐いた後も口元からつーと赤い筋が出てるから、相当酷い状態なんだと思う。
 「シルク! そんな状態でよく……」
 『ここまできたら、もう隠し通すのも無理かもしれないわね。ダンジョンに潜入した今だから言うけど、私は“弐黒の牙壌”で救出された、って事は知ってるわね? 』
 「俺も後で知って驚いたが、確か二人のブラッキーだったな、うん」
 『サードさんが言うなら、そうなのかもしれないわね。今はこうして動けてるけど、本当なら病院のベッドから一歩も起き上がれない状態なのよ。そのときにやられたのか、度のキツいメガネがないと殆ど前も見えてないわ……』
 「じゃっ、じゃあ何で、今まで普通に動けてるんですか? 」
 『それはもの凄く強力な……、薬とか外部効力が効きにくい私だからこそ使える劇薬を使ってるから、かしらね……。私だから理論上断裂した声帯が完全に反応して無くなるだけで済むけど、他の人なら少し体内に入っただけで、ものの二、三分であの世行きだと思うわ。……話を元に戻すけど、本当は一昨日から吐血してた。ろくに目がみえなくて分量を間違えたからだと思うけど、血を吐いてるのは薬の効果が切れかけてるせい……。今朝まではそんなことは無かったけど、潜入し始めた辺りから体も凄く怠くなってきてる。このままだと事件の黒幕を捕らえるのが先か、私が倒れるのが先か……、際どいところかもしれないわね』
 「なっ、ならシルク! 今すぐにでも……」
 『分かってる。分かってるけど……、お願いだから止めないで。じゃないと折角ここまで、体を犠牲にして、消息を絶って、……手段を選ばずにここまで準備してきた意味が無くなる。だから私は、今までのことを無駄にしたくない。無駄にしたら、迷惑をかけてきた皆に合わせる顔が無い。……もしもの時は、ハクを苦しめた根源を絶てるなら、最悪首謀者と差し違えても悔いは無い。だから……』
 シルクさん……。




  続く

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