Eight-Third-α 出現する野生の法則

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 “エアリシア”に着いて早々ウチらは、まず始めにシリウス以外の自己紹介をする事にした。
 そんで簡単に済ませた後は、潜入前から予定しとった“術”を教えてもらう。
 やけどその最中、ウチはシルクらしきエーフィを見かけ、シリウス達の元を離れてその後を追う。
 追った先は目的地の“リナリテア邸”やったから、ウチは十年ぶりに実家の門をくぐった。
 [Side Haku]





 「…はぁ。まさかいきなり出くわすなんてな…」
 ダンジョン化しとるで覚悟はしとったけど…、何でよりによって今なん? 家出して以来十年ぶりに実家に帰ったウチは、玄関をくぐったすぐの状況にため息をついてしまう。街全体にダンジョンの空気がかすかにしとったで覚悟はしとったけど、まさかその発生元がウチの実家なんて思いもせんかった。そうなると家であの暴君が何かをしでかしたんやと思うけど、今はそんな事考えとる暇は無さそう。何故なら潜入した一発目の部屋には、三体の野生が待ち構えとったから…。おまけにそれは…。
 「ミニリュウとハピナスにドレディア…」
 一つはウチの系統の種族。ここがウチの実家やから分からなくもないけど、残りの二つは…。
 「ガァァァッ! 」
 「アイアンテール。そういゃあ…」
 今思い出したけど、ハピナスもドレディアも、使用人におった種族やな…。一番近くにおったハピナスが動き出したで、ウチもそれに合わせて技を発動させる。構えからすると卵爆弾やと思うから、ウチは叩き落とせるように尻尾を硬質化させておく。同じタイミングでグレーの絨毯の上を這い、白い球体を投げてきた標的との距離を詰める。四メートルのところでそれを無効化し、振りかざした勢いを利用して右側に後ろ向きで下がる。
 「グルァァッ! 」
 「悪いけど、一気に決めさせてもらうで。…逆鱗」
 早いところ倒さな、シルク達に追いつけへんくなるでなぁ…。下がった事で野生三体を視界に捉え直す事が出来たで、今度は別の技を発動させる。全身にありったけの力を溜め、それを爆発的に増幅させる。手始めにさっきのハピナスに頭から突っ込み…。
 「ッ? 」
 その方向へ派手に吹っ飛ばす。
 「カッ! 」
 この間にもミニリュウがウチに迫っとったで、飛ばしたハピナスを追いかけながらその場で急旋回。その場で一週するようにして、後から続いてくる尻尾を同系統の敵に叩きつける。すぐに滑空し始めたで確認してへんけど、手応えからすると多分一発で倒せたと思う。
 「三発目…」
 偶々ハピナスがドレディアの方に飛んでったで、ウチは効果が続く間にまとめて倒す事にする。滑空しながら背筋を軽くそらして、一メートル半ぐらいの高さまで浮上する。直線距離ではウチ四人分まで近づけたで、その高さから相手二匹に向けて斜めに降下し始める。
 「アアァッ! 」
 「まさか使ってくる技まで同じなんて…」
 やけど当然、野生側もタダで受けるような事はせぇへん。ウチが降下し始めたタイミングで、ドレディアが手元に気弾を作り始める。色が緑やからエナジーボールやと思うけど、あれはウチの家に仕えとった召使いも使えた技…。やからウチは一瞬驚いてしまったけど、すぐに気を持ち直して軌道を見切る。左に逸れてソレをやり過ごし…。
 「ガァァァ…ッ! 」
 そのまま時計回りに尻尾で薙ぎ払う。回避した勢いも乗せたで、ドレディアの腰のあたりに命中する。やけどそこで逆鱗の効果時間が切れてしまったで…。
 「グルルァァッ! 」
 「十万ボルト」
 咄嗟に電気を纏って身を守る。普通なら逆鱗使った後は混乱状態になってしまうけど、このクリーム色のスカーフ…、シルクが作ってくれた“平生の襷”のお陰でそれにはならへん。やからウチは至って…、自分でも驚くぐらい冷静に、高圧の電気を纏う事が出来た。丁度ハピナスが捨て身で突っ込んできたで、ウチは後退しながらそこに向けて放出する。
 「ッ ! 」
 「もう一発…! 」
 立て続けに同じ技を発動し続け、一筆書きするようにドレディアにも黄色い線を延長…」
 「…ッ? 」
 これが相手の不意を突けたらしく、ハピナスと同じタイミングで気絶させる事に成功した。
 「…にしてもやっぱり…」
 いつ見ても趣味の悪い装飾やな…。難なく野生三体は倒せたけど、ウチはふと目に入った壁の装飾で、戦闘後の高揚が抑えられてしまう。家出する十年前から何も変わってへんけど、相変わらず壁には権力を誇示するような剣や鎧…。王国時代の象徴とも言える武具がいくつも並んどる。それもココがダンジョン化しとるせいなのか、壁面に飾ってある家紋が刺繍された旗も等間隔…、それも無数に飾られとる。おまけに真上を見上げてみると、誰がどう見ても成金趣味のシャンデリアが、庶民を見下すような光を放ち続けていた。
 「…もしかするとダンジョンの野生って、場所に縁ある種族が出るんかもしれへんな…」
 そうなると…、ウチのハクリューが出てきてもおかしくないやんな…。
 「…っと」
 そんな事より、早くシルクを追いかけんと…! さっき倒した野生に思い当たる事があったけど、ウチは頭をぶんぶん左右に振ってその考えを追い出す。それよりも大事な事が今はあるで、気持ちを切り替えて通路の方に目を向ける。…やけど今ウチがおる小部屋には、生憎四本の通路が口を開けとる…。おまけに潜入して以来シルクの姿を見かけてへんで、追いかけようにもどの通路に入っ…。
 「あっ、そうやん! 」
 Cギア使えば探せるやんな! しらみつぶしに探してみよう、はじめはこんな極論を思いついたけど、すぐにその考えを改める。偶々首から提げとる通信機が首元に当たったで、それでCギアの存在を思い出す事が出来た。確かコレにはサーチ機能がある、ってフィリアさんが言っとったで、試しにそれを起動してみる事にする。尻尾で輪になってる部分を掴み、鼻先でモニターを操作する。
 「あった。これやな? 」
 初めて使うけど、どのぐらいかかるんやろう? 目当てのアイコンに触れた後、画面全体を見るために鼻先をそこから放す。するとその画面の右下にピカチュウの尻尾みたいな小さいイラストが出て、その隣にはロード中の文字も添えられてた。
 「ええっと…、隣の部屋にギア反応が一と、その他反応が二に野生が七…」
 って事はもしかすると隣がモンスターハウスで、そこでシルク達が戦っとる…? 十秒ぐらいしたら画面が変わったで、ウチはその結果を勘で読みとってみる。箇条書きされとったで分かりやすかったけど、数からするとシルク達は戦っとると思う。そうと分かったでウチは、その部屋に続いとる左側の通路の方へと滑空する。
 「…えっ? 」
 やけど通路に立ち入って早々、ウチはその壁にあった何かに言葉を失ってしまう。それは…。
 「これって…、血? 」
 左側の壁の一部が、赤い液体みたいなもので濡れていたから…。三センチぐらいの小さいもんやったけど、乾いてなくて少し下に流れとるで、結構新しいと思う。そうなると考えられるのは、この先の部屋の誰かが怪我をしとる、って事。その中でも野生が出血する事は殆どないで、残ったのはあの三人組。やからウチは…。
 「…急がんと…! 」
 半ば焦りながら飛ぶスピードを速めた。
 「シルクとサードさんなら大丈夫なはずやから…」
 怪我しとるのはもう一人の方? 幸い部屋のシャンデリアが眩しすぎるせいで、小窓がない通路も明るくて見やすい。やけど周りの明るさとは対照的に、ウチの心の中は…、暗く霧がかかったような感情が支配し始める。今は喧嘩中で様子が変やったけど、シルクがシルクである事に変わりない。シルクはウチにココには来てほしくなさそうやったけど…。
 「ァッグルルァァッ! 」
 「っくぅっ! 」
 誰か知らへんけど、絶対やばいやんな? すぐに通路を抜けれたけど、ウチはその場で繰り広げられてた光景に焦りを感じてしまう。おったのは予想通りシルク達三人やけど、そのうちの一人…、ルガルガンに似た種族の誰かが壁に叩きつけられた、まさにその瞬間やった。おまけに飛ばされた方向が悪かったらしく、その彼の一メートル以内にはタブンネ…。彼の方に気が向いたらしく、全身に力を溜め始めとった。
 「…っ! 」
 間に合うかわからへんけど…! 咄嗟にウチはその部屋に飛び出し、彼がおる右の方へと滑空する。距離が十メートル以上あるで賭けやけど、エネルギーを活性化させ、即行で発動させる。
 「ガアアアッ! 」
 「キノト! 」
 「間に合って…! 」
 それを全身に行き渡らせ…。
 「十万ボルト! 」
 高圧の電気として一気に解き放つ。威力と出の早さでは尻尾技の二つに劣るけど、それやと距離が足りへん…。やけど特殊技のコレなら、離れるほど威力は落ちるけど遠くまで届く。
 「カァッ! 」
 「…えっ? 」
 幸い間に合ったらしく、ウチの電撃は今にも突っ込もうとしとるタブンネを捉える。やけどウチは結果を見届ける事なく、この隙に大技を発動させようとしとる別の敵に急接近し…。
 「アイアンテール! 」
 急ごしらえで硬質化させた尻尾を思いっきり叩きつける。もしかしたら彼が戦っとったからかも知れへんけど、相性がいまいちでもこの一撃で倒す事が出来た。
 「誰か知らへんけど、無事? 」
 「はっ、はい…」
 何か叩きつけられとったけど、見た感じ大丈夫そうやな? そんで横目で彼の方を確認すると、唖然としとったけど何とか立ち上がった、丁度その瞬間やった。改めて見てみるとやっぱりルガルガンに似とるけど、毛並みがオレンジ色やし鬣も違うで、別の種…。っと今思い出したけど、そういえばこの鬣の形は、今日ウチらに同行しとるミナヅキっていう異世界のルガルガンと同じ気がする。すぐに正面を見直したで、見間違いかもしれへんけど…。
 『ハク、何でここに来…』
 「後で話すで、シルク、サードさん、それからキミも、今はこの敵を何とかするで! 」
 ウチも訊きたい事がたくさんあるけど、それどころやないやんな? 彼と同じで呆然としたシルクの声が響いてきたけど、その途中でウチは声をあげる。何を言いたいんか想像は出来るけど、生憎今はモンスターハウスのド真ん中におる…。やからウチは気持ちを切り替えてもらう意味合いも込めて、少し離れとる二人にも強めに声をかけた。
 「そっ、そうですよね。…アクセルロック! 」
 すると彼は自分に言い聞かせるように頷き、ウチの正面で羽ばたいとるファイアローの方へと走っていく。
 「カァーッ! 」
 あの彼…、中々やるやん! 偶々近くにおったでやけど、ウチは彼を援護するように滑空し始める。斜めに浮上し始めた辺りで見てみると、彼は手頃な壁に向けて跳び上がり、前足の爪と壁の装飾の僅かな隙間に引っかける。同時に後ろ足も追いついたところで百八十度向きを変え、その方向に向けて跳びかかる…。素早い動きやから先制技やと思うけど、相性が良かったんかファイアローは若干怯んどる。やからその間にウチは急接近し、地上に降りようとしとる彼とすれ違いながら…。
 「アクアテール! 」
 水を纏った尻尾を思いっきり振りかざす。
 「ッ? 」
 狙い通りに命中させ、悪趣味なシャンデリアに向けて弾き飛ばす。…確かアレはデアナのガラス製やから、あの勢いでぶつかれば砕けて破片が体中に刺さると思う。対人戦やとそんな事はまずせぇへんけど、相手はダンジョンの野生、それもモンスターハウス内やから、ね…。
 「キミ、何の技が使えるん? 」
 「アクセルロックと目覚めるパワー、あと思念の頭突きと岩落としです」
 …ってことは彼はウチらの世界で間違いなさそうやな。それに目覚めるパワーって事は、シルクから教わった技やな、きっと。
 「近距離型やな。…なら次、いくで! 」
 「はい! 」




  つづく……

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