第肆拾肆話 駆け引きは虚空を度外視する

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 僕がラキアに勝利した後、各々の試合が始まった。ワーズ君対フェニーさんの対決、ゲーム内容は『音程看破』、白熱した戦いとなったが、やはりアイドルであるフェニーさんが勝負を制した。スターさん対フィアリさん、ゲーム内容は『天下王道』、完全なる運否天賦の勝負を制したのはフィアリさん。そして、ダースさん対イシアさん、ゲーム内容は『手札公開』。心理的要素が重要となるこのゲームで、激烈かつ熾烈な争いを繰り広げた(最終回かと見間違う程)両者は、一歩ダースさんが上回って勝利をした。
 という事で、勝ち上がった僕の次の相手はフェニーさんだ。フェニーさんの第1試合はフェニーさんの得意分野とも言える内容だったから、ゲーム内容にも勝敗を決める要因になろう。

「相手はエルフィか、よろしく頼む」
「あ、あはは、お手柔らかに……」

 対峙するフェニーさんの表情は真剣そのもので、目付きは鋭い。正直、アイドルとしては相応しくない目付きなんだけど、自覚をしているのかな……。

「エルフィ様対フェニー様のゲーム内容は、『オープンテキサス』となります」

『オープンテキサス』ルール
1:プレイヤーは合計7枚のトランプカードを受け取る。
2:受け取ったカードはこの段階で交換する事が出来る。
3:手札が確定したら、その手札の中で3枚を相手にオープンする。
4:この時点で、“ベッド”、フォールド”の宣言が出来る。
5:どちらかがベッドを宣言した場合、フォールドを宣言しなかったプレイヤーが1ポイント得られる。
6:どちらもベッドを宣言した場合、それぞれのプレイヤーは手札から1枚オープンする。
7:この時点で、“フォールド”、“レイズ”、“コール”の宣言が出来る。
8:レイズが宣言された場合、どちらかがコール、あるいはフォールドを宣言するまで続けられる。
9:どちらもコールを宣言した場合、それぞれのプレイヤーは手札から1枚オープンする。
10:再びルール7・8の流れを行う。
11:どちらもコールを宣言した場合、それぞれのプレイヤーは自身の持ってる2枚のカードと、相手の出した5枚のカードの中から、ポーカーの役を作り、役が強い方が勝利となる。
12:それぞれのプレイヤーは最初に10ポイント所持しており、これを0ポイントにした方が負けとなる。
13:なお、ジョーカーはオールマイティカードとして、2枚入れる(ただし、同じ役勝負になった場合、ジョーカーを含んでいる方を無条件で負けとする)

 少し、ルールが複雑だけど、このゲームの基となってるトランプゲームはテキサスホールデムだろう。まぁ、そのゲームの詳しいルールは自分達で調べてねって感じだけど、このゲームの重要な所は自分が相手に有利なカードをオープンしないようにしつつ、自分は役を作り勝利する事だろう。ともあれ、ゲーム開始だ。
 僕達には7枚のカードが配られる。僕の今の手札はこんな感じだ。
 ♧3 ♧8 ♧J ♧K ♡5 ♡Q ♢5
♡5と♢5でワンペアが出来ている。この2枚を手札として入れれば、とりあえずワンペアは確定するんだけど、何しろ数字が弱い。向こうも7枚の中でワンペアが出来る可能性は大いにあるし、数字が弱いというのは若干不安な部分がある。
 そしてこのゲーム、開始手札に役があっても、自身が役を作るのに使える手札は2枚だけだ。つまり、ワンペアの♡5♢5を入れるとしたら、残りの手札はフェニーさんに使われる訳だけど、このままじゃまずい、♧が4枚もあるという事は、フェニーさんが持つ2枚のカードの内どちらかに♧が入っていた場合それだけでフラッシュ(技のじゃないよ)が確定してしまう。それに勝てる役は限りなく少ないから……

「3枚交換します」
「私は4枚だ」

 テキサスホールデムでは、手札の交換は行われないんだけど、このゲームだとそれがある。僕は♧の3、8、Jを交換する。♧Kと♡Aはもしかしたらこの交換で来る可能性があるし、そうすると強い数字でワンペアが作れる。このゲームは、自身の2枚でワンペアを作れば、ブタ(手役が無い事だよ)だけは回避出来る。
 ♤6 ♧K ♡5 ♡Q ♡K ♢5 ♢9
心の中で自身の失策を悔やんだ。来る可能性があるとはいったけど、その可能性は少ないから5のペアを手札に残してしまった。このゲーム、僕はKのペアを2枚の手札(面倒だから次から勝負手札に変えるね)とすると、残りの5枚はフェニーさんの物になるんだけど、この状況だとフェニーさんの役はワンペア以上が確定してしまう。そうなると僕の勝ち筋は、フェニーさんの出す5枚でフェニーさんの手役以上にしなくてはならない。

「ベッドだ、どうだエルフィ、ここは初戦だ。両者共にベッドするというのは?」
「…………ベッド」

 フェニーさんの提案に乗る事にする。そうしたら次は、3枚手札を公開する番だ。僕は♤6、♡5、♢9をオープンし、フェニーさんは♤4、♧A、 ♢Qをオープンする。

「コールだ、まずは様子見だな」
「…………僕もコールでお願いします」

 互いにコールが宣言されたので、今度は1枚オープンする。僕は♡Q、フェニーさんは♤の10だ。この時点では僕の手役はワンペアのみ。そうなると、次の段階で♢5を出してしまうと、フェニーさんがワンペアかつ、最後の1枚がKでなければならない。

「……ふむ、コールだ」
「………………コール」

 悩んだ挙句、僕はコールを選択。そして、互いにオープンしたカードは……

「それでは、ショウダウンです」

 フェニーさんが勝負手札を晒す。♤Jと♢J。そして僕は、♢5と♡K。この時点だと、フェニーさんはワンペアで僕はブタ。つまり最後のオープンにかかっている。

「エルフィ様の最後のオープン、♧K。そしてフェニー様の最後のオープン、♢K。両者共にワンペアですが、数字の強弱により、エルフィ様のKのワンペアの勝利となります」
「……ふぅ〜〜、まずは1敗か」

 フェニーさんはポイント代わりのコインを1枚僕に投げ渡す。それを受け取りながら、僕は内心ホッと一息ついた。危なかった、僕が勝負手札でペアを作る事にこだわっていたら負けていた。もし、フェニーさんが同じ様に勝負手札でペアを作る事に拘らず、例えば最後の♢Kを手札に入れてたとしたら、僕の負けだったんだけどね。
 カードを配り直して第2戦。
 ♤3 ♤8 ♧9 ♧J ♡10 ♢8 ♢10
手札でツーペアが出来ている状況はこのゲームにおいては好ましくない。この中で5枚選んで勝負する、とかいうルールだったら良いんだけどね……(似たようなルールではセブンカード・スタッドっていうルールがあるよ)

「私は4枚交換だ」
「……僕も4枚でお願いします」

 先程の反省を活かして、♤8、♧9、♧J、♢8を交換する。もし3が来てしまっても、非常に弱いワンペアだ、そこまで考慮する必要は無いだろう。
 ♤3、♤9、♧5、♡10、♡A、♢7、♢10
 先程とは違って中々いい手札になった。どれかが重なって、ワンペアが出来たとしても、僕の10のワンペアに勝てるのはAだけだ。

「勿論、ベッドだ」
「僕もベッドです」

 オープンされた手札は♤5、♢K、♧10。僕がオープンしたのは♤3、♧5、♢7。何とこれでスリーカード以上が保証された。ここは勝負を決めるのも手かもしれない。

「……コール」
「1ポイント、レイズでお願いします」

 僕の宣言に、フェニーさんの表情は一瞬曇った。

「……乗るとしようか」

 しかし、フェニーさんはそれ程悩む時間を作らずに、僕のレイズに乗っかった。オープンされたカードは♢A、僕は♤9。

「ふふふ、次は私から攻めるぞ。レイズだ」

 不敵な笑みを浮かべたフェニーさんはなんと2ポイントレイズをしてきた。まさか、フェニーさんもスリーカードだろうか? もしそうだとしても、僕のオープンしたカード、フェニーさんのオープンしたカードから考慮しても、僕の10のスリーカードには勝てはしない。ツーペアだとしても、僕の勝利だ。

「……乗っかりましょう」
「それでは、ショウダウンです」

 互いに勝負手札をオープンする。

「……成る程、スリーカードか。確かにそれなら強気で来るのも頷ける」

 そう言うフェニーさんの様子は非常に落ち着いている。反面、僕は自分の敗北を確信してしまった。

「エルフィ様、10のスリーカード。フェニー様、56789のストレート。よって、フェニー様の勝ちになります」

 最後にオープンされた手札は♡4、そしてフェニーさんの勝負手札は♡6、♢9。つまり、フェニーさんは最初の3枚オープンの時点で34567のストレートが出来ており、4枚目オープンの時で56789のストレートが確定したのだ。

「エルフィ様の4ポイントが、フェニー様の物になります」

 11対9が一気に逆転し、7対13。自分が不利なのは言うまでもない。

「分かるぞ、エルフィの考えた事は。私がレイズした瞬間、私もきっとスリーカードだと思ったのだろう。エルフィ、賢い君に聞こう。ポーカーでストレートが出来る確率は?」
「……0.39%です」
「ではスリーカードは?」
「……2.1%」
「つまり、約5倍の差がある訳だ。だから君はストレートである事を考慮しなかった。つまるところ、君の弱点はそこだ。頭が良い故に、高い確率と低い確率に対して、どうしても高い方を優先して考えてしまう」

 フェニーさんの言葉が突き刺さる。正しくその通りだからだ。しかも、このゲームの性質上、自分の手役は相手が出すカードによるから、ストレート、フラッシュ等といった役は非常に出づらい。僕は飛び飛びであろうとも、3、5、7、9の間が揃えばストレートになってしまう事をしっかり考慮すべきだったのだ。
 思えば思うほど、自分の失敗が嫌になる。僕は大きく頭を振って、その悪い気分を振り払おうとする。

「……では、次に行きましょう」
「ああ、そうだな」

 第3戦目、カードが配られる。僕はその手札をチラリと確認した後、裏に伏せた。

「……ちゃんと確認しなくていいのか?」
「ええ、全部覚えました。3枚交換をお願いします」
「私も3枚だ」

 不思議そうな顔をしながらも、フェニーさんは自分の手札をジッと見ながら、策を練っているのだろう。僕は渡された3枚も同じように一瞬確認して、裏にして伏せる。

「ベッド」
「ベッドで」

 フェニーさんがオープンしたカードは♤J、♢7、♡4。ストレートもフラッシュも狙えない様にバラバラになっている。対して僕は♢3、♤3、♡8。フェニーさんの顔が不思議そうな顔から怪訝そうな顔に変わる。

「運が悪かったのか、あるいは策略か?」
「さあ、どうでしょうね。レイズ」

 僕は一気に3ポイントのレイズを宣言する。

「一気に負けを取り返そうとしてるのか? ……フォールドだ。たかが3のワンペアだ、乗る価値は無い」

 フェニーさんが降りを選択する。これでフェニーさんの1ポイントは僕のものになり、8対12。そして、次の試合も……

「レイズ、2枚で」
「…………フォールド」

 9対11、次の試合でも同じ事をして10対10。何とも汚い形だが、形勢が戻った。そして次の試合で、展開が大きく動く。

「……そうやって、小遣い稼ぎは良くないな」

 オープンされたカードは♤A、♧6、♤J。僕は♤4、♡Q、♢4。それを見たフェニーさんはコインを僕の前に力強く置いた。

「10枚、レイズだ」

 10枚、このレイズに僕が乗っかると、僕もフェニーさんもこの試合に勝たなくてはいけない、フェニーさんにとっても背水の陣の策だ。しかし、だからといって降りた所で先程の二の舞だ。ここで僕が勝てる確率は? 今、僕はワンペア晒してしまってる以上、僕はワンペア以上を狙わなくてはならない。しかし、先程言った通り、この試合で僕みたいなヘマをしない限りストレートやフラッシュ、フルハウスといった役は作りづらい。つまるところ、僕が勝てる役はツーペアか、あるいはスリーカードのどちらかだ。

「勿論、乗りますよ」

 だが、僕はそれを待っていた。猪口才戦法で突いてくる僕に対して、相手が一気に攻めてくれるのを。
 4枚目のオープンは僕が♤K、フェニーさんは♢6。ここの宣言は、レイズなんてあったものじゃないから両者コールを宣言。

「では、ショウダウン……」
「あ、その前に5枚目オープンしても良いですか?」
「……私は構わないぞ」

 フェニーさんの許可を得て、僕は互いの5枚目のカードをオープンする。フェニーさんは♤10、僕は♡6。

「……エルフィ、残念だがお前の負けだ」
「まだ決まってませんよ」
「いや、終わってる」

 フェニーさんが勝負手札を晒す。♧4と、♡の4。つまり、4のフォーカード。

「お前が初っ端4を出してくれて助かったぞ、何故ならこれでフォーカードが成立したからな」
「…………」
「まさかフォーカードが出るとは思わなかったが、お前のワンペアオープン作戦に救われたって所だな」

 だからだろう、最初から強気にいけたのは。

「その結果、私も6のワンペアを晒す羽目になったが、お前は6を出してしまってる、どうあがいてもスリーカードしか無理だと言う事だな。そうだろう?」
「ええ、そうですね、僕の役はスリーカードですらありません」
「勝負あったな」

 勝ち誇った笑みで、フェニーさんは立ち上がろうとする。そんなフェニーさんに、僕は問いかける。

「このゲーム、面白いですよね」
「……ん、何だ? 感想戦か?」
「自分の手役だけを見ていたら、相手に良い役を渡す羽目になってしまうかもしれない。だから自分の手役と、相手にオープンするカードの両立。その駆け引きこそが、このゲームの重要性ですよね?」
「まぁ、そうだな」
「自分の勝負手札にワンペアを入れておくという戦法は、悪くない戦法なんですよね。じゃあ、そのワンペアは実際何で作るべきだと思います?」
「……そりゃ、Aだろ。1番強いからな、ワンペア対決になっても勝てる」
「いいえ、違います」

 ここでようやく僕は、自身の勝負手札を晒す。

「……ジョーカーのペアですよ」
「なっ……!!」

 フェニーさんが驚愕の表情を浮かべる。しかし、それも束の間、フェニーさんはニヤリと笑った。

「残念だったな、エルフィ。確かに6のフォーカードだが、ルールに書いてあるだろう? 同じ役勝負の場合、ジョーカーを含めた役の方が無条件で負け、と」
「ええ、これがフォーカード勝負でしたらね。ですが、よく見てください。貴方が、フォーカードに拘ったあまり、オープンしたカードを」

 フェニーさんがオープンしたカードは、♤A、♧6、♤J、♢6、♤10。ジョーカーはオールマイティ、つまりどのカードにするかは自分の自由という訳だ。

「このジョーカーは、それぞれ♤Kと♤Qです。そうすると?」
「……ロイヤル、ストレートフラッシュ……ポーカーにおける最高役ッ……!」

 10JQKAの並びで全て同じマークである時に成立するロイヤルストレートフラッシュ。これが出れば負けはない(厳密に言えば、ファイブカードが出たら負けるけど、ジョーカーを2枚とも僕が抑えている以上それは不可能だ)
 フェニーさんは心底悔しそうに歯を噛みしめ、僕を睨みつける。

「……♤の10、J、Aと揃った時は一瞬だけロイヤルストレートフラッシュがあるかもしれないと思ったさ。だが、この♤Kでその可能性を消してしまった」

 ほんの少しの沈黙、そしてフェニーさんがいきなり立ち上がったと思ったら険しい表情から一転、何とも憂いを帯びた笑顔で僕の頭を撫でてきたのだ。

「ふっ、まさか偉そうに説教してた私が、低い確率を度外視してたとはな。してやられたよ、エルフィ君。……私の負けだ」
「……対戦、ありがとうございました!」

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 僕、ラキア。エルフィとフェニーさんが戦ってる所とは別室で、ダースさんとフィアリさんの戦いが繰り広げられていた。エルフィの戦いも確かに気になるんだけど、僕にはこの試合が正直それよりも凄く気になってしまったからだ。ゲーム内容は『フルーツバスケット』。それぞれのバスケットに木の実を入れて、その種類と個数を当てるゲーム。勿論、細かなルールはあるんだけど、今はそういうゲームだと認識して欲しい。
 戦いはダースさんが優勢だった。ことごとく正解して、フィアリさんを追い詰めていた、筈だった。

「……………………」

 そのダースさんは、戦いがあった部屋でただ放心している。余程ショックだったのだろう、何も言わずただ地面を見つめている。
 そして、そのダースさんを打ち負かしたフィアリさんは、あの元気活発な様子とは一転、落ち着いた佇まいで、勝負の余韻に浸っていた。

「……フィアリ、さん?」
「……ふぅ、お兄ちゃんを倒したから少しは期待したけれど、まだまだね」

 決勝戦、それは非常に激しい戦いになるだろうと確信した瞬間であった。
エルフィ「ゲームが思い付かない」

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