3/3 おとなりの国からのSOS

しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
 
ログインするとお気に入り登録や積読登録ができます
読了時間目安:11分


 マジカルベースのマスター、モデラートが夢の大陸で行方不明になったという知らせは、すぐに音の大陸の星空町全体に広がった。
モデラートは魔法使いだけでなく、町のポケモン達からも信頼されているだけに、今回のことはかなり多くのポケモン達にとって堪えるものだった。
 特に家族同然の状態で一緒に過ごしていた魔法使い達のショックは計り知れない。 ほとんどの魔法使い達が仕事が手付かずの状態だ。

「おとーさん……」
「大丈夫だよ、ガッゾ。 マスター、すぐ帰ってくるって言ってたじゃん」

 今にも泣き出しそうになる幼い魔法使い、ハスボーのガッゾの頭のハスをフラエッテのフローラが優しくなでている。

「それで、これからどうするのですか?」

 マイナンのリオンは、落ち着いた口調で双子の兄にあたるプラスルのシオンに問いかける。 もともと、リオンは冷静であまり動じない性格ではあるが、内心では今の状況に対して気が気でない。 それをシオンも分かっていた。

「決まってんだろ? マスターを探しに、夢の大陸に行こうぜ!」
「でも、マナーレから言われているのです。 ボク達も『魔法使い狩り』に巻き込まれるかもしれないから、夢の大陸には近づくなって……」
「あ、そっか……」

 マナーレの言い分としては、これ以上魔法使いが夢の大陸に出入りを繰り返し、被害に遭う魔法使いを増やさないようにするというものだった。 モデラートや行方不明になった魔法使いについては、魔法使い協会のポケモンに絞り、捜索を続けるとのことである。

「他の大陸じゃ、もっと深刻なんでしょう。 砂の大陸なんて……6割の魔法使いがいなくなっちゃったって……」

 おどおどした声でゴーリキーのリリィが語る。 『魔法使い狩り』と『魔法使い行方不明事件』が発生した最初の地は夢の大陸だが、案件そのものはどんどん広がっている。 しかし、その全貌は明らかにされておらず、ただ魔法使いが狩られていて、且つ行方不明になっていることが増え続けているということしか分かっていない。
その情報の少なさが、全ての大陸にいる魔法使い達の不安をさらにかき立てていた。

「でも、このままじゃいられない」

 そう豪語するのは、ニンフィアのフィルだ。 いつもはリボンをなびかせて優雅さをアピールしている彼だが、それすらもここ数日は忘れている。 彼もまた、モデラートの安否やますます広がっていく魔法使い狩りに不安を感じているのだ。

「今、星空町にいないのはマスターだけじゃない。 ウチの魔法使い何匹かも、砂の大陸のヘルプに行っててしばらく帰ってこない。 ここでボク達が何もしなかったら、それこそ星空町が大変だ」

 キザでナルシストなフィルだが、ここぞという時に周りを鼓舞させる言葉を向けることができる。 だからこそ、フィルのチームメイトも、他の星空町の魔法使いも、彼のことを信頼できる。

「今ボク達にできることを、やるしかないよ」
「……そうだな、フィル。 ちょっと頭冷えたよ」

 魔法使い達が頑張ろう、という意志を統一させ、一体感が生まれた。
星空町マジカルベースは、内輪で大きな揉め事を起こしたことはなくても、かつて心の奥底はバラバラだった時期があった。 それがある時を境に、次第に『他のチームの魔法使いにも目を向ける』という気持ちが魔法使い達に芽生え始め、ようやく本当の意味でまとまってきたようにも見えた。

「そういえば、こんな時にチームカルテットはどこにいるのです?」
「あー、チームカルテットはね____」

 首をかしげるリオンに、フローラが説明した。



* * *



「マスターが行方不明____!? ゔぇっ、げほっ、げほっ!」
「あーもう、大きい声出すから!」
「まだ熱も下がってないんですから、横になっていないとダメですよ!」

 フォッコのコノハとピカチュウのライヤが慌てた様子で、激しく咳き込むハリマロンのモモコをベッドに寝かしつける。 その光景をケロマツのミツキが、やれやれと溜息を吐きながら眺めていた。

 チームカルテットはこの4匹からなる魔法使いチームだ。 全員が同い年のメンバーで組まれていることが特徴であり、それぞれ得意分野と苦手分野がハッキリ分かれている。
 例えば、コノハは魔法を使った戦いが得意で、魔法文化に関して馴染みがある反面泥臭い戦い方には向いていない。 ライヤは世にも珍しいのろまピカチュウと言われているが、チームのブレーンとして手厚いサポートをしている。 逆にミツキは脳みそ筋肉と周りから言われているが、その腕っぷしの強さは本物だ。
そして、最近チームに加入することになったモモコ。 彼女は途方もない魔力を持っており、その扱いにも最近慣れてきたところだったのだがめっぽう身体が弱く、こうして風邪を引いたり体調を崩すことが多いのである……。

「それで、これからどうなるって?」

 一呼吸置いてモモコが尋ねると、ミツキが答えた。

「まず、マスターの捜索は魔法使い協会のすげー奴らがやるって。 で、俺達はこれ以上被害を広げないために夢の大陸には近づくな、って指示が出た」
「ゔえぇ……そんなにえらいことになってんだね、魔法使い狩り」

 魔法使い狩りや行方不明事件が起こっていることは、モモコも風のウワサで聞いていた。

「でも、僕達が夢の大陸に行かなくても、魔法使い狩りは広がっていくんですよね」

 ライヤはお偉いさん達の指示に少し不満げだった。
たしかにライヤの言うことも一理ある。 今回の事件は、夢の大陸だけで起こっているものではない。 いくら保身に走ろうとも、結局自分達が巻き込まれてしまうのは時間の問題だ。
それはミツキもモモコも、コノハも感じていたことだった。 このまま何もしないでいるのは本当に得策なのだろうか____しかし、星空町の魔法使いも今全員いるワケではないため、無闇に町を守るための手を減らすと言うのも____。
今のチームカルテットでは、どうにも頭打ち状態だった。



 ちょうどその時だった。 チームカルテット以外の時間が止まったような錯覚に陥ったのは。



「あれ? なんか変じゃないかしら」

 真っ先にそれに気づいたのはコノハだった。

「変って、何がだよ?」
「よく分かんないけど……なんか変なの!」

 コノハにもよく分かんねぇなら、俺達にはもっと分からねぇよ____ミツキがやや呆れた様子でコノハの話を聞いていると、モモコがあることに気づいた様子で驚いていた。

「……時計の針が動いてない……!」

 壁にかかっている時計の針が、時間を刻む役割を果たしていないのだ。 この世界の道具は、人間の世界でいう電池の代わりに魔法の力で動かしているものが多い。 特に音の大陸では魔法の技術が進んでいるため、魔法の力で人間と変わりない生活を送ることができる。 電池切れという概念がないため、こういったことは滅多にないのだが____。

「あれ? 雲の動きも止まってませんか?」

 ライヤが窓から見える空を目を凝らしながら見ており、その様子を疑った。 風に流れていくハズの雲が、動きを止めている。

「ってことはどういうことだ?」
「時間が止まった、ってことでしょうか……」
「なんですって!? 星の停止? どっかの『時の歯車』が盗られたとか、時の狭間にある塔が壊れちゃったとか!?」
「ちょ、ちょっとコノハ、落ち着い____げほっ、げほっ!」

 混乱状態ともいえるチームカルテットだったが、時が止まったこの状況で、何故か4匹全員が無事だ。 何の前触れもなく、奇妙な状況に置かれてはいるが、それだけが不幸中の幸いともいえる。
まだコノハが興奮状態にある中で、どこからともなく青年の声が響き渡った。

『……キミ達が、チームカルテットだね……?』

 声はすれども姿は見えず。 メゾピアノとも表せるような、静かな低い声だったがチームカルテットの誰もが、聞き覚えのない声だ。

「だ、誰よ? 姿を見せなさいよ! ってか、ここ女の子の部屋よ!」
「コノハ……我が物のように言ってますけど、ここモモコの部屋ですよ……」

 コノハが噛み付いたお陰で、声の主はチームカルテット達の前に姿を現した。 かざんポケモンのマグマラシだが、すうっと周りの風景に溶け込むその姿はまるで。

「ゆ、ゆゆゆゆゆゆ、ゆゆゆ、ゆっ、ゆゆゆゆっゆゆゆゆ!?」
「幽霊……? え?」

 今度はライヤが、目を白黒させて混乱している。 テンパっている彼の代わりに、モモコが目の前にいるマグマラシの姿を口にした。 マグマラシはその言葉を聞いて、一瞬どこか悲しさを帯びた表情になったが、遠慮がちにへへっ、と笑った。

『幽霊……うん。 大きなくくりでは間違ってないかも』
「この時間止めてるのも、お前なのか?」

 マグマラシは小さくうなずいた。

『チームカルテット。 一刻も早くキミ達に夢の大陸に来て欲しい。 そこの風邪っぴきのキミも、回復したらすぐに向かって欲しいんだ』
「わ、わたしも?」
「で、ででででも夢の大陸はっ、いいいいいい今魔法使い狩りと、行方不明の事件が起こっていて、僕達はそののののの、近づくなって、言われてて____」

 まだテンパっているライヤの言葉をさえぎるように、マグマラシは続けた。

『それでも来て欲しいんだ。 魔法使い達を救うには、キミ達の力がどうしても必要なんだ』

 そうは言っても____とチームカルテットが言う前に、マグマラシは姿を消してしまった。 同時に、止まった時間が動き出し、時計の針も空の雲も時の流れに乗っている。
チームカルテットはというと、まるで取り残されたかのようにその場に佇んでいた。

「……どうする?」

 ミツキが真っ先に3匹に問いかける。

「もちろん、行くに決まってるっしょ。 あんな風に押されちゃあ、行かない理由がないわよ!」
「このまま何もしないワケにも、いかないですしね」
「そうそう! ちょっとでも、何か解決の糸口が見つかればいいなぁ、って思う!」

 もちろん、ミツキも同じ気持ちだった。 危険だと分かっていても、このまま何もしないで待ち続けて何も変わらないのであれば。

「決まりだな」

 チームカルテットは、夢の大陸に足を踏み入れることを決心したのだった。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想

 この作品は感想が書かれていません。