くのいち 作戦当日(火花)

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:11分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 [Side Kyulia]




 「…こんで全員やな」
 …いよいよ、この日が来たのね…。街のカフェでウォルタさんと再会した私達は、その場で最近の事を情報交換をした。元々ランベルとフィリアさんとするつもりだったけれど、元々気になってたからって事で彼にも聞いてもらう事になった。私が話した事は“壱白の裂洞”のことで、ランベルは“弐黒の牙壌”…。“ビースト”のことが中心だったけれど、これはウォルタさんも討伐していたらしい。これはハクさん達のギルドに戻ってから知った事だけれど、その日…、昨日のうちにチーム悠久の風と他何人かで残った“ビースト”の討伐に行っていたらしい。だから昨日の時点で私達が行った“壱白の裂洞”、“陸白の山麓”と“参碧の氷原”も合わせて、九カ所全部の出現ポイントが終わった事になる。終わったから次に取りかかるのは、風の大陸で起きている事件の数々…。今日の事と関係があるけれど、“パラムタウン”の事件の犯人の捜索のための打ち合わせ。ハクさん達も交えて話したかったから、ギルドに戻って会議をした、って感じかしら?
 それで一夜明けた今日は、前から計画していた作戦の当日。外はまだまだ薄暗いけれど、あの事があるからこの時間にロビーに集まってもらっているわ。いつも以上に早起きで眠いっていうのが本音だけれど、作戦での立場上はそうも言ってられないわね…。
 「全員集まった訳やし、潜入前の打ち合わせを始めるで」
 私は集まったメンバーの中に混ざっているけれど、前に立っている何人かのうち、ハクさんがロビーを見渡してから声を上げる。名目上は朝礼っていう事になっているけれど、ギルドをあげてのプロジェクト、それも合同で大事件の解決にあたるから表情が強ばっている気がする。“参碧の氷原”の調査以来ここの朝礼には顔を出しているけれど、今日はいつもと違って空気が張り詰めてる気がする…。
 「ですね。…昨日予めお知らせしたとおり、今回は大きく四つのグループに分けて潜入します」
 ギルドを挙げてのプロジェクトは初めて、って言ってたけれど、この感じだと問題ないのかもしれないわね。ハクさんの声かけに返事するような感じで、隣にいるシリウスさんが本題を提起し始める。私達はカフェから戻ってきてから聞いたけれど、他のメンバー…、私達以外は昨日の午前中に知らされていたらしい。
 「そのことに関して、私から補足させてもらうわ。四つに分けたチームのうち、一つは私と行動してもらうわ」
 会社の副代表だからなのかしら、フィリアさんは慣れていそうな感じね。
 「名乗るのが遅れたけれど、私はウォズの副責任者のフィリア。今回は作戦全体のオペレーターとして参加させてもらうわ」
 慣れた様子のグレイシア、フィリアさんも、シリウスさん達に続いて口を開く。私はアーシアちゃんから聞いて初めて知ったのだけれど、フィリアさんは数年前までは救助隊として活動していたらしい。“ルデラ諸島”でもそれなりに名が知られていたらしく、ランクも結構上の方までいっていたらしい。…けれどある事件の解決に当たっている最中に、持病が悪化して引退を余儀なくされたんだとか。それ以来オペレーターとして関わる事が多く、今回もルデラに帰れないならって事で引き受けてくれたらしい。
 「話を元に戻すけれど、四つのグループは便宜上、A(アタック)、B(ベース)、G(グーリア)、S(サーチ)と呼ぶ事にするわ。そのうちの私はB班、ギアの通信拠点のリーダーを務めさせてもらうわ。…何となくチーム編成で気づいてるかもしれないけれど、作戦中の連絡はギアを通して行うわ。一応私達の方でもモニタリングはしているけれど、何かあったらすぐに連絡して」
 「ちなみに連絡を入れる時は、用件を伝える前に班名から言ってほしいのだ」
 専門用語で意味は分からないけれど、フィリアさんは要件を手短に話してくれる。確か私達はSの1班だから、伝える時にはS1、って付けないといけないと思う。…私達の班でギアを持ってるのはアーシアちゃんだけだから、私が言う事は無いと思うけれど…。
 こんな感じで話してくれていたけれど、それでも足りなかったらしく、ゼブライカのスパーダさんが短く付け加える。彼とはウォルタ君のお見舞いにつれてってもらった時に初めて話したけれど、やっぱり今でも独特なしゃべり方には慣れれてない。独特といえばリアン君とハクさんもそうだけれど…、聞いてる回数が多いからなのかしら? こっちの方はもうなんとも感じなくなってるわね。
 「ちなみにA班はウチらチーム明星、S班はチーム火花がリーダーやから、覚えといてな」
 「…ということはキュリアさん? 私達て結構重要な立場になりますね」
 「そうね。…押しつけるようで申し訳ないけれど、アーシアちゃん、ギアの方は頼んだわ」
 「はいですっ! 」
 アーシアちゃん、頼りにしてるわ! ハクさんが例えば…、って感じで呼びかけている間に、私の隣にいるアーシアちゃんが話しかけてくる。最初は私達二人だけがS1の予定だったけれど、ギアを持ってない、一度一緒に潜入した事がある、って事でアーシアちゃんがメンバー入りする事になった。そうなるとサンダースのコット君も入りそうな気がしたけれど、彼はS班じゃなくてB班の方に加わる事になっている。多分フィリアさんの護衛か何かだと思うけれど…、コット君ともう一人だけで大丈夫かしら…?
 「そういう事になってたね。初めて話す人が殆どだと思うけど、S班班長のチーム火花、リーダーのランベル。連絡自体はメンバーのもう一人がしてくれる事になると思うけど、よろしく」
 ランベル、誤魔化してるみたいだけど、ガチガチに緊張してるわね? ここまでずっと相づちを打つだけだったけれど、やっとランベルが口を開く。端から見ると小慣れた感じだけれど、長年連れ添ってきた私の目は誤魔化せない。こうして大勢の前で話すのがは初めてのはずだから、右の口角が若干引きつってる。ランベルは緊張するといつもこうなるから、間違いないわね。
 「…と、そういう訳で、延々と喋っとっても仕方ないし、全体の打ち合わせはここまでにするで。このままグループごとの打ち合わせ、終わり次第潜入に移るで、何か質問があったらそれぞれのリーダーに聞いてな」
 「そうだね。…じゃあS班の六チームは僕の周りに集まって。今から最終会議を始めるから」
 …っと、ここから私の出番ね。プロジェクト全体としてのミーティングが終わったから、プロジェクトリーダーのハクさんの一声でロビーが散り散りになる。そのうちの何人か…、っていうよりほぼ半分だけれど、班長のランベルの周りに人が集まり始める。私も昨日聞いたから知ってるけれど、確かS班はパラムのチーム、隊員だけでなくて、アクトアのソロと“ワイワイタウン”のチームも混ざっていたと思う。
 「キュリア」
 「ええ。…何人かは昨日話したけれど、私はチーム火花のキュリア。ランベルと同じで、S1として指揮させてもらうわ。それから…」
 アーシアちゃんの事も話しておいた方が良さそうね? ランベルが目で合図を送ってきたから、私はそれに小さく頷いて応える。何となくそんな気はしていたけれど、やっぱりランベルは大勢をまとめるのが苦手。だからマスターランクになる時にギルドマスター資格は取らなかったのだけれど…。…話を元に戻すと、パートナーからバトンを引き継いだ私は、周りに集まった二十二人二対して名乗りを上げる。一応マスターランクだからその人用はないと思うけど、どの人も初対面だから、一応ね…。それで簡単に名乗り終わったから、今度は向けていた視線をブースターの女の子に向けた。
 「はっはいっ! ルデラの救助隊、プラチナランクのアーシアといいます。んーと私もS1なのですけど、S班の連絡を担当しますです。ですので…、よろしくね? 」
 スパーダさんがファンだからなのかしら…? もしかしたら普段から話していたのかもしれないわね。私が視線を送った彼女、リアン君の“変色のブレスレット”でブースターになっているアーシアちゃんはぺこりと頭を下げる。あまり慣れないみたいでそわそわしているけれど、何とか話せてはいると思う。少しぎこちないけれど笑顔を見せているから、ちょっとかわいくもあるけれど…。そんな彼女も名が通っているらしく、集まっている人のうちの一部がざわつき始めていた。
 「アーシアちゃん、ありがと。ここから打ち合わせに入るけれど、私達の目的は捕らわれた市民の捜索と解放。これが主になるわ。捕らわれている場所は外部の協力者から聞く事になってるから、分かり次第ギアを通して知らせるわ」
 今日の八時、街の南側で合流する事になってたわね。
 「一つ質問いいかな? 」
 「ええ」
 「その協力者っていうのは何者なんだい? 」
 「私達もよく分かってないけれど…、味方っていうことは確かだと思うわ。分かっている事と言えば…、二人組でそのうちの一人の種族はルカリオ、ってぐらいね…」
 合言葉は確か…、“太陽”と“月”、だったわね。
 「あいにくこのぐらいしか答えられないわ。この事に関して質問が無ければ次に行きたいけれど…、いいかしら? …無さそうだから、次いくわね」
 少し話が脱線したけれど…、これも必要な事だったから、問題ないわね?
 「打ち合わせ前に各班のリーダーに渡した道具について、いくつか説明させてもらうわ」
 今回の作戦では、リアン君が作ってくれたコレが要になるかもしれないわね。
 「今朝各班に一本渡したこの赤銀色の針は、“隷断の小刀”と言うらしいわ。咥えたり持った状態でエネルギーを一瞬流し込めば、刀として使えるそうよ。多分現地で何回も見る事になると思うけれど、市民に繋がれた赤黒い鎖、それを断ち切るのに使ってとのことよ。耐久性の方は大丈夫だと思うけれど、何本か予備があるから、何かあったら私達に連絡してほしいわ」
 急ごしらえで試作段階って言ってたけれど…、テストでは成功してたみたいだから、大丈夫よね、きっと。
 「…一応必要な事は全部話したけれど、何か質問はあるかしら? …無さそうね? じゃあB班はもう向かったみたいだから、私達も行こうかしら? だから…、テレポートをお願いするわね」





  つづく

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想