玖壱 伝説の当事者達

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読了時間目安:13分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 [Side Kinot]




 「――…」
 『ぅゥっ…』
 「あっ、シルクさん! 気がつきましたね」
 『…こノ声は…、キノト君…? 』
 良かった…。どうなったか凄く心配だったけど、無事で良かったよ。ミウさんのテレポートで“緑巽の祭壇”から出たぼく達は、直接“無名の泉”に戻った。戻ってきてから少し時間が経ってるからまとめて話すと、戻ってすぐは気を失ったシルクさんの手当て。急所は外した、ってフライさんが言ってたけど、気を失ってるからって事ですぐに復活の種とか…、そういうのを使っていた。“絆の従者”だからあまり効かないけど…。
 それで手当の方が一段落してからは、交代でシルクさんの様子を看てた。途中からは泉に残ってたテトラさん達も混ざってだったけど、そのお陰でぼくも少しは休めたと思う。一応ぼくも気を失ってた身だけど、ミウさんが回復してくれたから…、今は凄く楽になってる、かな?
 今ミウさんとフライさんは席を外してるんだけど、ずっと眠ったままだったシルクさんがピクリと動いたような気がする。本当に気がついたらしく、頭の中に声が響いてきたから、ぼくは…。
 「そうです! まだちょっと声が変ですけど…、体の方は大丈夫ですか? 」
 『今のとコロは…、そうね…。多分なんトも無いと思うわ』
 大きく頷いてから様子を聞いてみる。するとメガネをかけてないから一瞬顔をしかめてたけど、すぐに大丈夫だよ、って答えてくれた。
 「そう、で…」
 「シルク! 起きたって事は、もう大丈夫なんだね? 」
 『えっ、ええ』
 テトラさん、戻ってきてから凄く心配してたよね…。偶々交代のタイミングで近くにいたから、ニンフィアのテトラさんも気づいてこっちに駆け寄ってきてくれる。その表情は凄く心配そうな…、でもどこかほっとしたような、そんな感じ。目覚めたばかりって言う事もあるのかもしれないけど、そんなテトラさんにシルクさんは圧倒されてしまっていた。
 「だけどシルク! フライさんから聞いたんだけど、“チカラ”を暴走させたんだよね? “証”は外したらいけないって言ってたのに、また無茶したんだよね? 」
 『えエ…。そのことニ関しては心配かけたけど、そうするしかなかったのよ…』
 「ぼくは途中でやられちゃったんですけど、多分ししょーでも…」
 勝てなかったかもしれないよね…。そのままの勢いのテトラさんは、目覚めたばかりのシルクさんを問いただす。シルクさんはよく無茶をする、ってししょーから聞いてたけど、この感じだと五千年前の世界でもそうなんだと思う。シルクさん自身も自覚? があるらしく、鬼気迫るテトラさんに対して申し訳なさそうに言葉を伝える。心なしか謝るシルクさんの耳が下を向いてるような気が…。
 「シルク氏、予定通り連れてきたのですが…」
 『っと、そうイえばそういう事になってタわね…』
 「確かいろんな人に集まってもらう事になってたよね? 」
 だけどシルクさん、こんな状態で大丈夫なのかな? いつからいたのかは分からないけど、今日の朝から誰かを迎えに行っていたらしい彼、カプ・コケコのコークさんが会話に入ってくる。コークさんがどのぐらいシルクさんの事を知ってるのか分からないけど、この感じだと体調のことぐらいは知ってるのかもしれない。ぼく自身もコークさんも泉にいる事は知ってたけど、確か今日はぼく達が出発した後で水の大陸の方に行く、って言ってたような気がする。そのことを人伝に聞いてたらしく、テトラさんはシルクさんとの間で視線を行き来させていた。
 「そうだったと思います。…だけどシルクさん? 流石に休んだ方が…」
 『平気。折角集まってもらッてるのニ、私の都合だけで待ってもらう訳にはイカナイわ』
 「だけどあまり無理しない方が…」
 そうだよね…。“チカラ”を暴走させたばかりだから、今は休んだ方がいいよね? ぼくはシルクさんの事を考えてこう提案したんだけど、シルクさん本人にやんわりと否定されてしまう。パッと見は大丈夫そうに見えるけど、あんな事があったばかりだから絶対に無理してると思う。テトラさんも同じ事をもう一度聞こうとしてるけど、多分帰ってくる答えは変わらないと思う。
 「こうなるとシルクは聞かないからね…。だけどシルク、意識が戻って安心したよ」
 『フライも、本当に迷惑をかけてしまったわ。…ありがとう』
 「気にしないで。ボクにはこのぐらいしかできないし、いつもの事だから」
 そうこうしている間に戻ってきたらしく、何人かを連れてフライさんもこっちに飛んでくる。フライさんはテトラさんほど心配はしてないみたいだけど、これは心から信頼してるから、頻繁にある事だから、そのどっちかだと思う。
 「…だからシルク、予定通りコークさん達が連れてきてくれた人達を連れてきたよ」
 「ええっ? よっ、呼んだのって…」
 この人達って事は、そうなるよね? 一足先に飛んできていたフライさんは、元来た方に振り返りながらこう言う。少し前からぼくにも見えていたけど、まさかこの人…達が呼ばれてるなんて思わなかった。その人物は…。
 「シャトレアさん? 」
 「噂では無事って聞いてたけど、キノト君、こんな所にいたの? 」
 エネコロロ時々サクラビスで、“志の賢者”のシャトレアさん。“空現の穴”に落ちて以来会えてなかったけど、この感じだとどこかでぼくの事を知ったんだと思う。多分シオンちゃんかティルさん達だと思うけど、進化して姿が変わってもぼくだって分かってくれた。シャトレアさんも予想外だったみたいで、凄くびっくりしてるみたいだけど…。
 「はっはい。あの後色々あって話すと長くなるんですけど…」
 「それにきみも、“漆赤の砂丘”と“玖紫の海溝”の時のエーフィだよね? 」
 「…あれ? もしかしてシャトレアちゃん、知り合いな感じ? 」
 「ちゃんと話した事無いんだけど、何回か会っててね」
 ぼくはシャトレアさんに事情を説明しようとしたんだけど、彼女は他の事が気になったらしい。多分“漆赤の砂丘”のことを言ってるんだと思うけど、シルクさんの方をハッと見ると、すぐにエーフィの彼女に問いかける。ぼくは昨日ここで知ったけど、シャトレアさんはシルクさんの事を聞いてないはず…。一緒に来たオンバーンの彼に訊かれてたけど、こんな感じで曖昧な返事しかできていなかった。
 『そうね…。って事はやっぱり、“紫離”の時のサクラビスはあなただったのね』
 「うん」
 「“玖紫の海溝”って、ラスカでは凄く危険なダンジョンだよね? 」
 「確かそうだったと思います。って事はヴァースさん? デアナ諸島でも有名なダンジョンなんですか? 」
 「連盟も注意喚起してるぐらいだからね」
 「アタシにはさっぱりだけど、相当ってことは確かみたいなのね」
 ししょーなら一人で突破できそうな気がするけど…。話が脱線してるような気がするけど、気になった事があるらしく、緑色のスカーフを首元に身につけたオンバーンが問いかける。例のダンジョンの事は昨日シルクさんから聞いたけど、確かそこにも“ビースト”がいた、って言ってた気がする。まさか他の諸島でも知られてるなんて思わなかったけど、よく考えたら特殊すぎる環境みたいだから、通達されていてもおかしくない気がする。青いスカーフを巻いたチラチーノの彼女は、ヴァースさんとは逆で首を傾げてるけど…。
 「…そんな事より、ずっと訊きたかったんだけど、エーフィの君は何者なの? “絆”はハンナさんだからあり得ないんだけど…」
 『そうね。ダンジョン云々よりも、先に私の事を言わないといけなかったわね。三人…、この時代の“絆の賢者”のあなたには、特に』
 「あっ、アタシに? 」
 そうだよね。ハンナさんとシルクさんは同じ“絆”だから、多分びっくりするよね。
 『ええ。“志”のあなたは心を読んで気づいてるかもしれないけど…、何から話せばいいかしら…? だからとりあえず、私は教師兼研究者のシルク。多分信じられないと思うけど、十八代目の“絆の従者”、って言った方が私の身元は分かってもらえるかもしれないわね』
 「じゅっ、十八代目? それに“絆の従者”って…、何かの間違いじゃないよね? 」
 「そうだよね? ハンナさんが八十八代目だから、大昔の人って事になるよね? 」
 「そのはずよ! それに失われた地位の“従者”だなんて、嘘もほどほどにしてほしいわ」
 『…“絆により、我らを護り給へ”。これで信じてもらえるかしら? 』
 「…! 」
 そんな気はしてたけど、やっぱりこうなるよね? シルクさんは自分で名乗ってたけど、普通ではあり得ない事だから、三人とも騒然としてしまう。ぼくはししょーから聞いてて実感が無いけど、よく考えたら大昔の偉人が目の前にいる事になる。それも五千年前の“英雄伝説”、その中でも有名どころの当事者だから、シャトレアさんとヴァースさん、ハンナさんが驚くのも分かる気がする。当然現実離れしすぎて信じられてないみたいだから、シルクさんは実際に“絆の加護”を発動させて証明しようとしていた。
 「この感じ…、本当に…」
 「はい! シルクさんはししょーの師匠なんですけど、セレビィの“チカラ”でこっちに“時渡り”してきてるんです」
 「キノト君、それ本当? 」
 「本当です。シロさんと“虹”のアークさんに訊けば分かると思うんですけど、シルクさんはこっちの時代で“証”を授かってるんです」
 『キノト君、説明ありがとう。他に挙げるとしたら…、DM事件の解決に少しだけ関わった事ぐらいかしら? 』
 「それって、ルデラのだよね? ハンナさんの出身の」
 「そうです! って事は、デアナの救助隊連盟の方でも知られてたんですね? 」
 「あれだけ大きな事件だったからね」
 「嘘じゃ…、ないみたいだね」
 「シャトレアちゃんが言うなら間違いなさそうね」
 もしかしてシャトレアさん、シルクさんの心を読んだのかな?
 「そうね。…まさか先代の“絆”に会えるなんて思わなかったけど、名乗ってもらったからにはアタシ達も自己紹介した方が良さそうね? 」
 「あっ、そっか。うっかりしてたよ。さっきキノト君が言ってくれたけど、俺は言うまでも無くオンバーンのヴァース。八十五代目の“友情の賢者”で、普段はデアナの救助隊連盟の役員をしてるよ」
 「よく考えたらわたし達の代って、みんな出身がバラバラだよね? …何か今更な気がするけど、二等保安官のシャトレア。出身は霧の大陸の“ミストタウン”だから、ウォルタ君と同じラスカ諸島だよ」
 「そういえばウォルタ君だけいないけど…。…二人みたいに大それた仕事はしてないけど、アタシはチラチーノのハンナ。どこにでもいるルデラのOLだけど、この中では最年長で“絆の賢者”に任命されてるわ」
 …そういえば今気づいたけど、“無名の泉”に三つの主要機関の人がそろった事になるよね? 保安協会はシャトレアさんとサードさんがいるし、救助隊の方はヴァースさん。探検隊の方も、昨日話したルカリオのあの人が副親方だ、って言ってたよね?
 『サードさんから聞いてたけど、中々の顔ぶれね。…話は変わるけど、明日の事はどこまで聞いているかしら? 』
 「案内してくれた“意思”から聞いたけど、“会議”の議題になってたらしい“ビースト”を全部倒せそう、って事ぐらい? 」
 「アタシは“知識”から、明日敵の本拠地に攻める、ってぐらいね」
 『デネブさんとベガさんね? 』
 「わたしはさっき“南西の観測者”から。最近はウォルタ君から引き継いでたんだけど、“漆赤の砂丘”と“伍央の孤島”、それから“玖紫の海溝”の“ビースト”の討伐に参加したぐらいかな? 最初の二つは、実はキノト君も一緒に行ったんだよ」
 「ぼくはあまり役に立ててないと思うけど…、さっきまでシルクさんと“肆緑の海域”に行ってました。って事はシルクさん? 今から明日の事を詳しく説明してくれるんですか? 」
 『それもそうだけど…、その前に三人がどのぐらい“チカラ”が使えて、どのぐらい戦えるかが知りたい、っていうのが本音ね』
 「…えっ? 」
 「たっ、戦いだなんて、アタシは学生の時以来した事が無いわ! “チカラ”なら、自信があるけど…」
 ぼくも今朝試されたけど、シルクさんってもしかすると、拳で語り合いたいタイプなのかな…?




  続く

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