26話 マジカルズ

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読了時間目安:16分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

イーブイの里を出発したハルキ達は一度歩いた道ということもあり、道に迷うことはなく、夕方にはレベルグに戻ってこれた。ヒビキは里の外に出たことはなくレベルグが見えてきたときには瞳をキラキラさせて、「大きい建物がいっぱいです!スゴいです!」と興奮していた。町に入ってからもあちこちにある露店に釘付けになっていて、ヒカリも一緒になって釘付けになっているものだから引き剥がすのが大変であった。
僕達の所持金は、ヒカリがそよかぜ村にいたときに持っていたお金だけなのだ。
そんな状況で無駄遣いをするわけにはいかず、ヒビキは残念そうに、ヒカリは口を尖らせながら渋々と言った様子で諦めてくれた。
こればかりは、依頼を達成したことで貰える報酬金に期待するしかない。
そんなやり取りをしつつもハルキ達は救助隊のギルドについた。
中に入ると来たときと同じように丸い黒縁メガネをかけたサーナイトこと副団長のサラが受付で書類を整理していた。
積まれた書類の量は小さな山ができるほどで、僕達が出発した時より、増えているように見えるのは気のせいではないだろう。
「サラさん、戻りました!」
「おかえりなさい。思っていたより1日早かったですね。さっそく依頼した石を..と言いたいところですが、まずはそちらのイーブイについて説明してもらいましょうかね」
サラはハルキ達の背後で緊張してカチンコチンに固まっているヒビキの方をチラッと見ながら聞いてきた。
ハルキは里での出来事を大まかに話し、ヒビキをメンバーにいれたいと伝えた。
「なるほど。事情はわかりました。救助隊は手が足りない状況が続いているので入隊希望なのは大歓迎です。それにハルキさん達はまだ技能測定がまだなのでちょうどいいです。そちらのイーブイさんにはお名前はありますか?」
「は、はい!ヒビキと言いますです!」
緊張しているせいか語尾が少しおかしかったがサラは気にすることなく、名前を紙にひかえる。
「ヒビキさん..ですね。手続きはこちらでしておくので、そちらにいるハルキさん達と同じ日程で技能測定を行います」
「わ、わかりましたです」
「あと、団長が予定より1日はやく戻ってこられるそうなので、技能測定を1日はやめられますがどうしますか?」
「待つ理由もないし1日早める方向でお願いします!みんなもそれでいいか?」
「わ、わたしはみんなに合わせます」
「僕はそれでいいと思うよ」
「私も~」
アイトの言うとおり後回しにする理由もないし、さっさと終わらせてしまった方がいいだろう。
「わかりました。それでは技能測定は明後日行います。場所と時刻は以前お渡しした紙に記載してある通りで変更はありません」
「ありがとうございます!」
「それでは依頼していた進化の石をここに置いてください。確認次第、報酬はお渡しします。明日には渡せると思うので今日は用意した部屋で休んでいてください」
「用意した部屋?」
「ほら。出発する前に言っていた寮の部屋だよ!」
「ああー。そういえば言ってたな」
部屋の件をすっかり忘れていたアイトにハルキが説明する。
口には出してないがヒカリも「あーそんなことあったなー」みたいな表情をしているのできっと彼女も忘れていたのだろう。このメンバーのこれからが少し心配になり、ハルキは無言で苦笑いを浮かべるしかなかった。
「2階の1号室から3号室までの部屋を登録していましたが、4号室も空き部屋なのでそこをヒビキさんの部屋として使ってください」
「わかりました」
「ねぇ!ふくだんちょー!バチュルは今どうしてるの?」
「バチュルなら2階の5号室から7号室のどこかにいると思います」
「どこか、と言いますと?」
「5号室から7号室はマジカルズという3匹のポケモンがそれぞれ使用している部屋です。昨日、帰って来たばかりですがマジカルズはたまたまでんきタイプで構成されているチームなのでバチュルのでんき補給も兼ねて任せています」
確かに元々バチュルはでんき不足で容態が悪くなったので納得のいく理由である。
「あのー、バチュルってポケモンがどうかしたんです?」
事情を知らないヒビキは会話に取り残されていたので説明すると「わたし、イーブイ系のポケモン以外はほとんど見たことないので、会いたいです!」と嬉しそうに言った。
「それではこれが1号室から4号室の鍵です」
サラから部屋の鍵を受けとると僕らは寮に向かった。


「部屋の番号言われたとき、なんで1から4が空いてんのか疑問だったけどわかったわ。部屋の位置、入り口からすっげぇ遠いのな!」
さっきまでサラさんと話していたギルドの受付から最短ルートで寮を目指し、入り口からはいったら、僕らの部屋は文字通り一番奥だった。
「まあ、ザントさん達の部屋はこの上の階みたいだし、1階分歩く距離は短いでしょ」
「そ、そりゃあそうだけどよ。自分の部屋が遠い位置にあるのと他人の部屋が遠い位置にあるとでは、なんか気持ち的に、こう...なんか違うだろ!」
「なにが?」
「アイト君の言っていることよくわかんないです?わたしの家は自分の部屋までもっとかかりましたよ?」
言葉にできないモヤモヤを頑張って表現しようとするアイトだが、どうやらヒカリとヒビキには届かなかったようだ。
ヒカリはともかくヒビキは里の長の娘で、毎日外に出かけていたら無駄に広いあの家の距離感になれてしまうのもなんとなくわかる。
ここで僕がアイトに助け舟を出してもいいが、そうすると質問攻めに合う可能性が高く、僕も上手く言葉にできる自信がないのでアイトには悪いがスルーさせてもらう。
アイトの肩をポンと叩いて無言で1号室のドアに向かう僕をアイトが恨めしそうな表情で見ていたのはきっと気のせいだということにしとこう。
鍵を使って部屋を開ける簡素な机とイスが1つずつあり、あとは丸い形の窓と藁が敷き詰められたこの世界お馴染みの寝床があるだけという簡素な部屋が広がっていた。
2号室もあけるとまったく同じ配置で机やイスがおいてあったので他の部屋もきっと同じだろう。
「それで。俺達の部屋割りはどうすんだ?」
「ここに名前かいてあるよー!」
ヒカリが扉の左横の壁を指していて、その先にはそれぞれの名前が木に掘ってあるネームプレートがあった。
「うわっ!木に彫るとか無駄に凝ってるなー」
「なんかこういうのあると嬉しいよね」
「みんな羨ましいです。わたしもこういうのほしいです」
「そのうち、用意してくれるよ」
「えっ~と。このプレート通りなら、 ハルキが1号室でヒカリが2号室、そして俺が3号室で何もかかれてない4号室がヒビキの部屋ってことか。まあ、ホントの端っこの部屋ではないだけ幾分かマシか...」
部屋割りもわかったところで荷物を部屋の中の入り口付近に置き、バチュルに会いに行くことにした。
「さて、どの部屋にいるのかな?」
「片っ端から試せばいいじゃない!」
そう言うやいなやさっそく5号室の部屋をノックしはじめるヒカリ。
「相変わらずヒカリはこういうことには躊躇いがないよな」
「ヒカリちゃんの良いところだと思います!」
「遠慮がないだけな気もするけどね」
ノックした5号室からは応答がなく、どうやら留守のようだ。
すると、その隣の6号室のドアが開き、中から黒いローブを羽織ったうきざのような耳に頬に"+"模様のあるポケモン、プラスルが出てきた。
「そこはあたしの部屋だけどなにか用?」
「あっ、僕達は最近救助隊に入った..」
「ああ!副団長が言ってたやつらか!バチュルならこの部屋にいっから入りな!」
「うん!おじゃましまーす!」
プラスルが部屋に手招きすると、すぐに上がり込んだヒカリ。
「やっぱりヒカリは躊躇いがないよな...」
「ヒ、ヒカリちゃんの良いところだと思いますよ...」
「たんに遠慮がないだけな気もするけどね..ハハハ...」
先程と似たやり取りをしながらハルキ達もヒカリの後に続いた。
部屋にはいると同じくうさぎのような耳が特徴でプラスルと違い、頬の模様が"-"なポケモン、マイナンと丸っこいネズミのようなポケモンのデデンネがプラスルと同じように黒いローブを羽織っていた。
「お姉ちゃん、お客さん?」
「ああ、バチュルつれてきたっていう...」
「バチュウゥゥ!」
「うわ!」
マイナンにお姉ちゃんと呼ばれたプラスルが質問に答えきる前に部屋にいたバチュルがヒカリの胸めがけて全力でダイブしてきた。
「ただいまーバチュル~」
「バチュバチュ~♪」
バチュルを抱き止めたヒカリにバチュルは嬉しそうに頬擦りをする。
「つまり、バチュルを連れてきたっていう新しい救助隊の仲間がこのポケモン達ってことだね」
「そういうわけだ」
バチュルのなつきっぷりを見たマイナンは説明されずともどうやら察してくれたようだ。
「というわけで、まずは自己紹介といこうじゃねぇか!」
ヒカリとバチュルのスキンシップもほどほどに、僕らはバチュルの面倒を見てくれていたというプラスルの言葉に従いプラスルの隣にいるマイナン、デデンネと向かい合うように座った。
部屋の大きさはどの部屋も同じであって、1匹部屋として少し広めに作られていてもさすがに7匹(バチュルは小さいのでスペースとらないので省く)いると狭く感じる。
「ぎゅうぎゅうでせめぇけど、自己紹介を始めようか。自分の名前と種族、それから何か一言でも言ってもらおうかな」
「なんか面接見てぇだな...」
「じゃあ、今なんかいったお前からな!」
「えっ!?」
アイトがボソッと言った言葉を聞き逃さなかったプラスルから指名が入り、アイトから自己紹介をすることになった。学校とかでもこういう時は沈黙をせずに何か言って目立った人から始まるというのはどの世界でも共通な気がする。
「俺の名前はアイト、種族はたぶんヒコザル。一言、一言は~..えーと、その、ガンガンいこうぜ!」
アイトの某ゲームの作戦のような意気込みに思わずズッコケそうになったハルキ。
(「もっと、マシなのなかったのか?」)
(「しかたねぇだろ、急に指名されたんだから!」)
小声でハルキとアイトがやり取りしているなか、向こうのプラスルは何故か無言で頷いている。
「いいねぇ~!そういう真っ向から攻める感じ好きだぜ!」
「あっ、どうも」
「それじゃあ次、行こうか」
「は、はい!わ、わたしはヒビキと言います。種族はイーブイで、ひ、一言は...」
ヒビキもどうやら一言を決めていなかったようである。そこで隣にいたアイトが何やら耳打ちをして出した言葉が
「一言は、みんながんばれ!です!..これでいいのです?アイト君?」
「完璧だ!ヒビキ!」
親指を立ててサムズアップするアイトにハルキはじと目で見つめた。
「みんながんばれ!、かー。おうえんポケモンの僕としてはいい言葉だと思うよ!」
「ありがとうございます!」
マイナンに誉められて少し嬉しそうなヒビキ。アイトの入れ知恵だが好印象のようだ。
「じゃあ次は私だね!」
「あっ!ちょっと待ってヒカリちゃん」
「ん?」
ヒビキがヒカリに耳打ちをして何かを伝えているようだ。
「それじゃあ、あらためて私はヒカリ!種族はピカチュウことピカチュウだよ!一言は、いろいろやろうぜ!だよ!」
色々とツッコミどころ満載の自己紹介にもまたあの一言が付きまとい、思わずズッコケてしまったハルキ。
(「いつヒカリに吹き込んだんだ!?」)
(「ヒビキに頼んどいたのさ!さっき部屋の件でフォローくれなかった意趣返しさ!」)
(「必死か!」)
(「フフッ。知ってるかハルキ?『赤信号 みんなで渡れば 怖くない』という言葉を?」)
(「いやただの迷惑行為だし、危ないだけでしょ。そんな自慢げに言うことでもないよ!」)
だいたいそれを言うなら赤信号ではなくせめて青信号でないと教育上よろしくない。
「確かにあたし達救助隊はいろいろやるから間違ってないな!」
「やったあ~」
アイトの悪ふざけに付き合わされているだけだと知らないプラスルは真面目にコメントを残して、ヒカリは純粋に喜んでしまっている。
(「ここまできたらハルキも頼むぜぇ~!」)
(「え~。僕も言うの...」)
「それじゃあ最後」
「はい。僕の名前はハルキ。種族は一応ポッチャマ。一言は...い、いのちをだいじにで」
一言がみんな某ゲームの作戦名になってしまった。この流れを作った当の本人は下を向いてわずかに震えている事から笑いをこらえることに必死なのだろう。あとで覚えてろよ。
「いいこと言うねぇ!あたいの専門が防御だしよくわかるよ!」
もちろん僕のふざけた一言にも向こうは律儀にコメントを残してくれて、今回はデデンネがコメントをしてくれた。
「それじゃあ今度はこっちだな。あたしはラプラ。種族はプラスルだ。一言は押して駄目なら押してみろだ!」
「駄目だとわかっているのに押すのか...」
「わかってるからこそ押すんだよ!」
「だからお姉ちゃんの部屋のタンスはぎゅうぎゅうなんだね...そんなことしているからローブにもシワがつくんだよ...」
アイトのツッコミも気にせず言いきったプラスルことラプラは清々しいまでの笑顔を浮かべ、隣のマイナンは少しあきれていた。
「じゃあ、次は僕だね。僕はイオ。種族はマイナンで隣にいるラプラの弟です。入ったばかりでわからないことがたくさんあるだろうから遠慮せずに聞いてね」
「普通すぎてつまんねぇなー」
「普通でいいんだよ!」
今まで聞いてきた自己紹介で初めてまともな一言を言ったと思われるマイナンことイオにラプラがつまらなさそうな顔をしていた。
「じゃあこれでこっちも最後だね。あたいはクロネ。種族はデデンネで隣にいるラプラとイオは子供の頃からの友達さ!一言として、あたいが言いたいのは自分探しの旅はいいぞってことだ!」
「自分探しの旅?」
「ああ、それをしたおかげでこの2匹と会えたんだ」
デデンネことクロネは隣の二匹を手で示しながら、胸を張って言った。
「へぇ~。自分探しの旅か~。なかなか面白そうだね~」
「ヒカリさん。参考にしなくていいよ。クロネの話は特例中の特例だし、そもそも僕達と会ったときに空腹で倒れていたぐらいだから...」
「そうなの?」
「どんなやつでも腹が減れば動けない!あたいとて例外じゃないさ!」
何故か自信満々で言っているが内容はいたって普通のことを言っている。
「よしこれで全員終わったな」
「バチュ!バチュバチュ!バチュ~!!」
またもや自己紹介をスルーされたのでご立腹のバチュルは頬を膨らませてプンプンしている。
「わるい、わるい!じゃあ最後、バチュル頼むぜ!」
「バチュゥッ!」
「「「「「え!?」」」」」
まさかの言葉をまだ話せないバチュルの自己紹介ときて何人かがすっとんきょな声をあげてしまった。
「バチュ!バチュバチュ~!バチュ、バチュバチュチュ!バチュバチュバチュル~!!」
「「「「「「???」」」」」」
どや顔気味のバチュルには悪いが当然ながら何を言っているのか全くわからなかった。1匹を除いて....
「わあ!嬉しいこといってくれるね~!私もバチュルの事大好きだよ~!!」
「「「「「「わかるの!?」」」」」」
「当たり前だよ~。『みんなスキスキ大好き!ずっと一緒!』だってえ~。かわいいね~」
「バチュ~♪」
嬉しそうにバチュルを抱っこして頬ずりする唯一の解読者ヒカリをみんな目を点にして見ていた。
「あのバチュルの様子を見るとあっているようだね...」
「あのこ、一体なにもんなんだい...?」
「と、とにかく頼もしい(?)新入りには違いないな!!」
チームマジカルズの3匹は羽織っていたローブが地面につくぐらい脱力した状態でヒカリを見ながら苦笑いを浮かべていた。
ヒカリはバチュル語がわかるのではない!感じているのだ!

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