早くもランチェラ__私がいま匿っているニンフィアは早くも底に眠る才能を開花させ始めた。最初は見るに耐えなかったわざ構成も、私が教唆していくごとに強靱なものへと目覚ましい進化を遂げていったのだ。
「そろそろ、この仕事にも慣れてきたか?」私は聞く。
「ええ、ずいぶんと。天職と言っても良いかもね。」ランチェラは飄々と、どこか達観した言い方で応える。いつか言ったように彼女はやんちゃで、我が儘で、生意気で……付け加えて一度調子に乗ったらそのままどこまでも舞い上がってしまう。困ったものである、しかし面白くもある。
私は再び自分の仕事を再開した。一度は諦めた夢であった。その内容は最近稀に空にぽっかりと空く奇妙な穴の見張りをすることなのだが不思議なことに、穴と言っても中が暗い訳でもなく、ただ、ぽっかりと、最初からそこにあったように存在するのだ。
したがって本来ならいつも警戒態勢をとらなければならないはずなのだが、穴が現れるのは本当に稀なのでそうでないときは人助けやお尋ね者の討伐などを引き受けて収入を稼ぐしかない。今だって討伐帰りというわけだ。
時には妖怪変化の事件を受け持ち、挑戦状を叩き込まれれば受けて立つ毎日が続いた時期があったなとふと思い出す。エクレールは最初、それら全てを一匹で受け持っていたのだが、さすがに一匹だけでは苦しかった。いま思えばランチェラとの出会いは奇跡と言っても過言でないだろう。
「……来るよ、エクレール。」おまけにランチェラには不思議な力があった。ランチェラにはあの奇妙な穴が空く前の気配が感じ取れるようであったのだ。
「戦う必要はありそうか?」
「一応、警戒ね。」
そうして今私達の目の前でその奇妙な穴は大口を開けた。___ウルトラホール、人はそう呼ぶ。
結局、その日は穴が空いた観測が取れただけでその中から何かが現れることは無かった。何も残さず元の景色に呑み込まれ、すぐに穴は消えたのだ。エクレールはちょっとおかしいなと思った。普段なら何も出て来なくても数十分は消えない穴が数十秒で消えたのだ。
私は一瞬だけ隣に居るランチェラを見たが、次の瞬間にはただ、帰ろうかと言って足を進めただけだった。
___私は急に、妙な気持ちになった。