25話 4匹目

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

2020年8月1日改稿
「その……ヒビキ! 今まで悪かった!」

勝負も終わりタイショーは素直に負けを認めて、ヒビキに今までの事を謝罪した。

「随分と素直じゃねぇか」
「勝負は勝負だ。 男なのに女に負けた事をうだうだ言うは俺の主義に反する」
「へぇ、そいつは随分とご立派なこと」
「フンッ! なんとでも言いやがれ。 約束通り、俺はもうヒビキを馬鹿にはしたりしねぇ」
「ほんとかー?」

タイショーはヒビキを馬鹿にしないと約束してくれたが、アイトはまだ信用しきっていないようでタイショーの事を睨み付けていた。

「大丈夫。 その子は嘘をついてないよ」
「なんでそう言いきれるんだよ?」
「ハルキは嘘をついていたらわかる能力があるんだよー!」
「は?」

アイトの質問にヒカリが答え、アイトはハルキに確かめるように視線を向けた。
その視線にハルキは無言で頷く。

「マジかよ。 つまり、俺が嘘ついたらハルキにはバレバレってことか?」
「ハルキがアイトの話を嘘ついてないか注視してない限り平気だと思うよ」
「え? 僕の能力ってそう言う感じなの?」
「うん。 そもそも、小さな嘘は日常会話での冗談の言い合いとかでもおきるし、そんなどうでもいい事に対してもいちいち発動してたら疲れちゃうよ~」
「「たしかに」」
「……ってなんでハルキも納得してるんだよ! お前のことだろ!」
「いや~、実は僕のこの能力って、存在自体を最近知ったから僕もよく知らないんだよね」
「なるほどな。 つまり、こっち来てから発現した能力ってことか。 まあ、とりあえずこいつは嘘をついてないんだな?」

タイショーを一瞥しながら聞くアイトにハルキは頷く。

「……ハァ。 わかった。 俺からはもう何も言わねぇよ。 そもそも許すかどうかはヒビキしだいだしな」

全員の視線がヒビキに向けられた。

「わたしは……タイショーくん達のことを許せないです。 ……でも、今のタイショー君が言った通りに、これから反省して、考えを改めてくれるなら、許したいと思うです」
「許せないけど、許したい……か」
「いくら、タイショー君が相手でもこれ以上は譲歩しないですよ!」
「いや、それでいいよ。 お前に負けているようじゃ、オレもまだまだだからな」

こうしてヒビキとタイショーとの勝負はヒビキの勝利と言う形で幕を下ろしたのであった。

――――――――――――――――――――

「なぁハルキ。これどっから入ればいいと思う?」
「どっからって言われても……」
「パパがさっき慌てていた理由がこれです……」

勝負も終わり、ハルキ達は当初の目的であった進化の石を受け取りに鉱山前に来ていた。
ヒビキの勝負を見届けた後、リーブが石を渡すための手続きをするから後で来てほしいと、急ぐように走り去ってしまったのだが、今となってその理由がわかった。

「炎の石くださーーい!」
「はい! ただいまー」
「こっちは雷の石だ! 雷の石をくれー!」
「はい! 少々お待ちを―」

鉱山前に設置されたテントの前では進化の石を求めてやってきたあらゆるポケモンでごった返しとなっており、その対応にリーブも追われていた。
それは、まるでデパートのバーゲンに群がる人のポケモンバーションの様であった。

「めちゃくちゃ混んでるな……」
「今日は進化の石が運ばれてくる日ですからね。 各地から商売ポケモン達や進化したいポケモン達がこぞって集まってくる日なんですよ」
「へ、へぇー」

目の前で繰り広げられている光景に思わず立ち尽くすハルキ達。

「どうするよ、ハルキ?」
「どうするって言ったって、依頼なんだし行くしかないよ」
「だよな……」

ハルキとアイトがげんなりしつつも、突入する覚悟を決めたとき、ごった返す人混みならぬポケ混みの中から、ヒカリが風呂敷を背負いながら出てきた。

「ぷはー! 貰ってきたよー」
「え!? ヒカリいつの間に行ってきたの?」
「う~んと、ハルキとアイトがどっから入ろうか迷ってる辺りからかな」
「マジかよ。 よく無事に行ってこれたな」
「ポケモンで混み合っている間をすり抜けていくのは得意なんだー」

比較的ポケモンが少なかったそよかぜ村でそんな経験する機会があったのか疑問ではあるが、なんにせよ混雑した中に入る必要がなくなったのは非常に助かった。
ハルキ達はヒカリにお礼を言い、一旦、ヒビキの家に戻る事にした。

――――――――――――――――――――

「数日間お世話になりました」
「ハハッ! ハルキ君は相変わらずかしこまっているね。 この里に来たときも言っただろ? 別にかしこまらなくてもいいって」
「でも、救助隊の代表として来ていますし……」
「少なくとも君達は私にとってすでに友人のような存在だ。 救助隊だからなんて気にせず接してくれ。 それに、世話になったのはこちらの方だ。 私は長として、1匹ひとりの父としてヒビキを気にかけていた。 だが、進化する事ができない特異な体質だとわかってから、私は過保護になっていたのかもしれない。 ヒビキが進化できないのは親である私の責任だと思って、ヒビキに危険な思いをさせたくなかったんだ。 しかし、今朝の勝負でヒビキは私の想像以上に成長していると気づかされたよ。 ありがとう」
「……パパ」

今まで知ることのなかった、リーブの父としての気持ちを知ったヒビキは瞳を僅かに潤ませていた。

「パパ、お願いです! わたし、救助隊に入りたいです! わたし、まだ弱いですけど、いつかきっとパパを安心させられるくらい強くなります! だから………」
「わかってるよ。 そもそも、パパがなんでこんな話をしたと思っているんだい?」
「え!? それじゃあ……」
「ああ。 行ってこい。 パパはヒビキの事を応援してるよ」
「やったでーーす!」

救助隊に入る事を許してくれたリーブの言葉にヒビキは飛び上がって喜んだ。

「よかったね。ヒビキ」
「はい!」
「これから、よろしくねー! ヒビキ!」
「はい! よろしくです!」
「ったく。 救助隊になるってだけなのにみんな大袈裟だなー」
「これもアイト君のおかげです! アイト君の教えがあったからタイショー君にだって勝てたんです! 感謝してもしきれません! 本当にありがとうです!」
「お、おう……」
「あれ? アイト顔が赤いよ? 照れてるの?」
「素直に喜べばいいのに。1番ヒビキを気にかけてたのはアイトだろ?」
「ああ! うるさい、うるさい! ほっとけ!」

周囲から茶化されたアイトは照れ顔を見られるのが嫌だったのか、そそくさと家の外に出て行ってしまった。

「まったく。 素直じゃないんだから」
「それじゃあ、私は旅に出る準備してくるです!」

気に入ったのか敬礼のポースをハルキとヒカリにした後、ヒビキは自室に荷物を取りに行った。

「ハルキ、私達はどうする?」
「そうだね、……アイトは少しそっとしておいた方が良さそうだから、ヒビキの荷物纏めの手伝いに行こうか」

―――――――――――――――――――――――

「ハァー。 ……ったく、あいつら好き勝手言いやがって」

家の外に出たアイトは、壁に寄りかかって、ため息をこぼした 。
真っ向からあんなにお礼を言われた経験が無いアイトは、どう反応していいかわからず、照れただけで、何も言えなかったがあの時、ヒビキになんて言葉を返せばよかったのだろうか。
そんな事をぼーっと考えているアイトにリーブが声をかけた。

「やあ、何を考えてるんだい?」
「別に大したことじゃないですよ。 ただ、ああいうの慣れてなくて、ヒビキの言葉にどう反応していいかわかんなくて、申し訳ないなって思ってただけです。」
「ハハハッ。 なんだ、そんな事か。 それこそハルキ君が言っていたように素直に喜べばよかったんじゃないのかい?」
「もう。 リーブさんまで茶化さないでくださいよー」
「ハハッ、すまない。 娘と君達のやり取りを見ていたら昔の懐かしい思い出がよみがえってしまってね。 許してくれ」

ハルキ達だけでなく、リーブにもからかわれて少しムッとした表情をしたアイトにリーブは軽く謝罪を述べると、遠くを見るように空を眺めて言った。

「私にも、君とハルキ君たちのような仲間がいてね。また会いたくなったよ」
「……リーブさんにも、そういうポケモンがいたんですか?」
「そりゃあいたさ。 私だってこう見えて、若い頃は里の外に出て、各地を旅していたんだ。その時に一緒に旅をしてくれた仲間がいたんだ」
「へぇー。 それってどんなポケモンだったんですか?」
「そうだな。 のろまなのに誰よりも気が強くて、どんな時も諦めなかったポケモン。 普段は、ぼーっとしているけど半端なく強くて、誰よりも心配性なポケモン。 そして、誰よりも知識が多く、美しかったと今でも思っているポケモン。 そんな飽きることのないポケモン達と一緒に、私は旅をしていたよ」

短い話からでもリーブにとって、一緒に旅をしたポケモン達はどれほど大切な存在なのかアイトにはよく伝わった。

「アイト君、どうか娘をよろしく頼むよ」
「それは俺だけじゃなくハルキ達にも言ってやってくださいよ」
「もちろんそのつもりだ。 アイト君、こんなことを聞くのは失礼だと百も承知だが、君はヒビキと同じ、もしくはそれよりひどい目に合った経験がある。 そうじゃないかい?」
「ッ!? な、何でそう思うんですか?」
「今朝、君が私をヒビキが勝負する場に連れ出そうとした時の、表情を見れば何となく察しがつくものさ」
「あ、あの時は無我夢中で」
「ハハッ。 わかっているさ。 別にそれが悪いって言いたいんじゃない。 ただ、君がヒビキと似た経験をしているからこそ、ヒビキの気持ちを理解し、手を差し伸べてくれたんじゃないかなとも思ってね」
「俺はそんな大層な事を考えちゃいないですよ」
「まあ、君がどう思っていようと私はそう感じた。 だから、君にならヒビキを任せられると思ったんだ」

面と向かってリーブはアイトにそう言った。

「なんか、ありがとうございます。 そう言ってもらえると、嬉しいっす」
「なんだ。 照れながらでも素直に言えるじゃないか。 ヒビキにもそう言ってあげれば良かったんじゃないかい?」
「そうっすね。 次からは言えるように頑張ります!」
「うん。 その方がヒビキも喜ぶだろう」

―――――――――――――――――――

「じゃあパパ! 行ってくるです!」
「ああ、気を付けていくんだぞ! みなさん! どうかヒビキをよろしくお願いします!」
「はい!」
「任せてください!」
「それじゃあ、レベルグに向けてしゅっぱーつ!」

こうしてハルキ達はリーブに見送られながら、イーブイの里を後にした。
これにてイーブイの里編終わりでーす。

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