5ラウンド目
イーブイ「ふっふっふー、良い顔してるわよ?」
ピカチュウ「…………」
スタート地点に戻って、バクフーンから貰ったキズぐすりを使用している間、イーブイはずっとにやけた顔でこちらを伺ってきていた。……あぁーもぉー腹立つ!
ナエトル「なかなか策士でしたね、イーブイさん」
ピィ「ぴぅ、ぴぃぴぅい~! (ピィもその作戦、参考にさせてもらおーっと!)」
ピカチュウ「いや、もうやめろよな!?」
俺は思わずピィに向かって叫んだ。こいつならなんかやりかねない気がする!
────こほん。さっき何が起きたのかもう一度説明すると、俺はこっそりとオブジェクトの『げんきのかたまり』を獲得してゴールしようと企んだのだが、途中でミスを犯して脱落、さらにはイーブイにげんきのかたまりを横取りされ、逆転のチャンスを作ってしまったのだ。
おかげさまで現時点での最下位は俺。骨折り損のくたびれ儲けって訳だ。
バクフーン「他者を蹴落とし自身が勝利を掴むッ! それこそが
Ultimateの称号を手にするための理というものなのだッ!」
ナエトル「なんかソレ嫌ですね……」
イーブイ「でもある意味このゲームの核心を突いているわね」
ヒャッハー! となぜかテンションを上げながらPARTY BOXを振るい終えたバクフーンは、その箱をドン、と地面に置いた。
しゃーねぇ、次のラウンドは堅実に行ってptを稼ぐか。
ピィ「ぴぴぃ! (ハイ、取った!)」
我先に、とBOXからオブジェクトを取り出したのはピィ。その手に握られていた物は……
ピカチュウ「なんだそれ、ダイナマイト……?」
バクフーン「その通りッ! それはオブジェクト『ダイナマイト』だッ!」
ナエトル「また随分と危なそうなものを取り出しましたねぇ……」
ピィ「ぴぃぅ? (どんな効果があるのー?)」
赤い筒状の物体に、導火線がつけられたソレを眺めるピィに向かって、バクフーンは解説を始める。
バクフーン「このダイナマイトは、ステージ上に設置されたオブジェクトを一つだけ破壊することができる!」
イーブイ「オブジェクトの破壊ねぇ。個人的には雷雲とパンチングキマワリが厄介だから、どっちか壊して欲しい所だけど」
ナエトル「これ以上オブジェクトが増えられるとゴールが本当に困難になってきますからね……」
なるほど、何を破壊するかでステージの難易度が大きく変わってくるな……とりあえず俺はピィのトラップをどれかぶっ壊したいところなんだが。
ピィ「ぴぅ……ぴぅい(うーん……とりあえずコレにはするけど、何を壊すかはちょっと時間掛けて考える)」
ナエトル「じゃあその間に僕達も決めちゃいましょう」
ピカチュウ「よし、そうするか」
ナエトルの提案で、俺達はBOXの中身をもう一度覗き込んだ。なんか使えそうなものは……ん?
ピカチュウ「うわー、なんかリニアソーみたいなやつがあったんだけど」
イーブイ「あれ? でも今度は刃が棒状のものに取り付けられているわよ?」
俺が取り出したのは、小さい木箱と同じ位のサイズに枠組みされたブロックで、その枠の中には丸太のようなものが埋め込まれているというものだった。さらにその丸太からは一本の木の棒がとび出していて、その先端にギザギザとした円形の刃が取り付けられている。
バクフーン「そいつは『スピニングソー』だな! 名の通り、飛び出した刃がゆっくりと時計回りに回転して、ランナー達を妨害するオブジェクトだ! 一応だがブロックの上に乗ることもできるぞ!」
ナエトル「フリッピングブロックよりかは厄介そうなオブジェクトですね……」
バクフーン「設置場所によってはかなり有効なトラップオブジェクトと言えるな! 補足だが、設置の際は刃がコースに沿うような形でしか設置することは出来ないぞ!」
なるほど、それじゃあスピニングソーの上下を通らず、左右を潜り抜ければそこまで問題じゃないって事か……
ピカチュウ「よし、それじゃあコレをパンチングキマワリを越えてすぐの空中に設置してくれ!」
ケーシィ「りょうカイしまシタ」
ケーシィのサイコキネシスによってスピニングソーが崖の間に設置された橋の終着点付近に設置された。
イーブイ「これ……橋の上を刃が掠めるように設置されてるから、左右に避けるのが困難になってるわね」
ナエトル「という事は、パンチングキマワリも合わせて木の足場地帯を通り抜けるタイミングをしっかり計らなければいけなくなってきたということですね……」
ピカチュウ「その分俺もゴールできる確率が減ってきている訳だし、お互い様さ」
まぁ、本当の狙いはソーに引っ掛かることによるトラップボーナスなんだけどな。
イーブイ「うーんとそれじゃーねぇ……ちょっと気になってるのがあるんだけど、このデザインの違うモンスターボールってなんなのかしら?」
そういってイーブイは箱の中から、上の部分のボディが黒く、その中に「H」のような模様が描かれているモンスターボールを取り出した。
バクフーン「そいつはモンスターボールよりも高価な、ハイパーボールだ! これはステージ上に設置するのではなく、中に入っているポケモンがお前に力を貸してくれる! ……とはいっても、ただ一途に有利になるという訳ではないがな」
ピカチュウ「中に入っているポケモンは出てくるまでのお楽しみって訳か?」
バクフーン「あぁ、その通りだ! さぁ、どうするイーブイ?」
イーブイは少し考えた後、ハイパーボールを咥えて、バクフーンの方へ放り投げた。バクフーンはそれを右手でキャッチする。
イーブイ「……賭けてみるわ! さぁ、お願いバクちゃん!」
バクフーン「分かった。……出て来い、グレイシアッ!」
ヒュンッ────パカッ。
グレイシア「グレィ! はぁ~い♪ 呼んだ?」
イーブイ、ピカチュウ「「……あれっ!?」」
ハイパーボールから出てきたのはスタイルの良いグレイシアだった。…………だったんだが、いや、ちょっと待て。あのグレイシアってまさか。
グレイシア「あら? 久しぶりね、ピカチュウくんとイーブイちゃん♪」
バクフーン「ん? 何だ、お前ら知り合いだったのか?」
ピカチュウ「いや、まぁ一応知り合いっていうか……」
イーブイ「グレちゃん……だよね? あの女性トレーナーの所の」
グレイシア「えぇ、その通りよ♪」
グレイシアはパチッとウインクを決める。うーん、この喋り方に仕草、久しぶりに会うが、何も変わっていない。
ナエトル「えっと……初めまして、ですね」
ピィ「ぴぅぃ(ピィも君と会うのは初めてかなー)」
グレイシア「あら、初めまして♪ 私はグレイシア。この森の外れの町に住んでいるご主人のポケモンよ♪」
彼女、グレイシアはとある女性トレーナーの手持ちのポケモンだ。そのトレーナーは過去に何度かこの森を訪れてきた事があり、その際に一度、俺とイーブイはグレイシアにバトルを挑んだ事があるのだ。
……結果は惨敗だったが。
ピカチュウ「いや、待てよグレイシア。なんでお前がココに居るんだよ?」
グレイシア「あら、悪い?」
ピカチュウ「別に悪くはねーけど……」
グレイシア「ふふふ♪ 理由を説明してあげると、この『Ultimateの名を賭けたレースゲーム』を発案したのは、私のご主人だからよ♪」
四匹「「「「ええ゛っ!? (ぴぃっ!?)」」」」
いやマジかよ。トレーナー何者だよ。
バクフーン「まぁ、そういう訳だ。この『PARTY BOX』もそのトレーナーから借りてきたものだしな!」
イーブイ「え、それじゃあそこのケーシィもボーマンダちゃんもそのトレーナーの手持ちポケモンっていう事かしら?」
バクフーン「いや、そいつらは別の所から呼んできた野生のポケモンだ。きのみをあげたら付き合ってくれた」
ナエトル「やたらと人脈広いですね、バクフーンさん……」
ナエトルが首を傾げて微笑を浮かべた。全くその通りだと思う。この前なんか、めちゃくちゃ遠い地方に住んでいた変わったポケモンを連れてきたことがあったからな……確か、リージョンフォームとか言ってたっけ?
グレイシア「それで、イーブイちゃん♪ 私を呼び出したってことは、ステージのどこかを凍らせてほしいっていう事ね?」
イーブイ「え? ステージを、凍らせる?」
グレイシア「ええ♪ どこか好きな場所を一箇所だけ、地面でも壁でもいいから凍らしてあげる♪ 勿論、スケートが出来るぐらいツルツルにね!」
そういうとグレイシアはその場で冷気を纏って華麗にターンを決めた。なるほど、ランナーの足を滑らせて妨害できるって訳か。
イーブイ「へえっ、グレちゃん凄い! ……でもそれ、私も滑るわよね?」
グレイシア「ええ勿論~♪」
イーブイ「……まぁ、いいわ。それじゃあ、手前側の崖を凍らして頂戴! 橋にジャンプしようとした子をこけさせるようにね!」
グレイシア「がってんよ♪」
そうしてグレイシアは隣で待機していたケーシィに耳打ちをし、体をサイコキネシスで持ち上げてもらった。
ナエトル「これまた厄介な所を選びましたね……ジャンプできたとしても勢い余ってキマワリの前まで飛んでしまいそうですし」
ピカチュウ「かといって不用意に立ち止まると他のランナーに遅れを取って、しかも足を滑らせる可能性がある訳だからな」
ピィ「ぴうぃーいぅい。ぴぃぴぃ(仮にその二つを通り抜けれたとしても、その先にはスピニングソーの3段構え。これは、橋を通るのは無理くさいんじゃないかな?)」
そんな話をしている内に、グレイシアは手前の崖まで運ばれ、イーブイの要望通り土の地面を凍らせ始めた。
グレイシア「『こごえるかぜ』! そしてぇ、『こおりのいぶき』♪」
グレイシアは自身の周囲の気温を一気に引き下げ、そこから冷たい吐息を吐いた。
息吹に当てられた崖っぷちの地面はみるみる内に凍っていき、凹凸の無い見事なミニスケートリンクを生み出した。
グレイシア「はい、完成♪ それじゃあ、機会があればまた私を呼んでね! じゃ、バクフーンくん!」
バクフーン「分かった! 戻れ、グレイシアッ!」
バクフーンがハイパーボールのボタンを押すと、赤い光がグレイシアの体へと伸びていき、それに当てられたグレイシアは光と同化してボールの中に吸い込まれていった。
イーブイ「ありがとう、グレちゃん!」
バクフーン「さぁ、残るはピィとナエトルだが、決まったか?」
ボールをPARTY BOXに仕舞ったバクフーンが二匹に尋ねる。
ピィ「ぴぃ! ぴぅあーい! (ピィ、決めたよー!)」
ピカチュウ「お、どこを壊すんだ?やっぱパンチングキマワリとかか?」
ピィ「ぴぅ。ぴぃうぴーい! (いーや。壊すのは崖の間の足場にする!)」
三匹「「「え゛ッ」」」
────何言ってんだお前、そんな事したら崖を下って進むしかゴールへ行く方法がなくなるじゃないか。ついでに俺の設置したスピニングソー(とナエトルのパンチングキマワリ)の意味が無くなる。
あまりにも滅茶苦茶な宣言に俺たちが言葉を失っていると、いつの間にかダイナマイトが点火された状態で崖の間の橋まで運ばれ、直後、バンッ! という大きな爆発音と共に木の足場をばらばらに壊してしまった。────実行するのが早いッ!
イーブイ「ちょ、ちょっと! 何やっちゃってるのよ!?」
ピィ「ぴぃ~うぃ、ぴぃぴぃうぃ? (だって、橋があったら氷の上で滑っても無理やりにジャンプすれば乗り越えれちゃうでしょ?)」
イーブイ「それは確かにそうだけど! あくまでアレは足止めであって橋が無かったら崖を走っていけなくなるじゃないの!? 橋だけに!」
ピカチュウ「ん?」
ピィ「ぴぃぅぴぃうー。ぴぃ! (そこはまぁ、“ 橋が無いなら崖を下っていけば良いじゃない ”としか返しようがないね)」
口争いもほどほどに、俺達は再び視線をステージ上の崖へと向けるが、やはりそこに木の橋は架かっておらず、パンチングキマワリと他色々のオブジェクトが空中で静止しているだけであった。
幸い、俺は一度だけ橋を使わず崖を通り抜ける事に成功してはいるのだが……しんどいからもう崖は下りたくなーい!
ピカチュウ「おい、ナエトル。コレ何とかできねーか?」
ナエトル「そうですね、それじゃあ僕はこのハチミツを崖の下にあるトレッドミルの下側にでも塗りつけておきましょうかね」
ピカチュウ「チクショウコイツこのラウンドの勝負捨ててやがるな!?」
このタイミングでハチミツを、しかも崖を渡る上で最重要になる足場のトレッドミルに塗るとか、とんだ嫌がらせだなッ!
そんなツッコミをする暇も無く、オブジェクトの設置を確認し終えたバクフーンが、スタート地点に位置付くよう号令をかけた。
イーブイ「仕方ないわ……やるだけやってみましょ」
ピカチュウ「そうだな……」
できるなら他の奴らとポイント差は空けたくない。故にこの勝負も貰っておきたいところなのだが……
バクフーン「5ラウンド目……よーいっ! ドンッ!!」
──まぁ、どう転ぶかなんて分かりっこないな! とにかく走るぞ!
俺たちは一斉にスタートを切り、目の前の雷雲を潜り抜けて一本道を駆け出した。トップはイーブイ、続いて二番手に俺、三番手にナエトル、四番手にピィという順番で走っている。
イーブイ「氷がもう目の前なんだけど、どうすればいいかしら!?」
ナエトル「いったん止まったほうが良いんじゃないんですかねぇ!?」
ピカチュウ「おい、雷来るぞお前ら!」
ゴロゴロゴロゴロ…………
ピシャァァァァァァァァァン!!!
さすがに何度もやっていれば慣れてくる。俺たちは地面すれすれに走った稲妻を危なげなくジャンプで避けた。でも、問題はこの先……!
ピィ「ぴぃぅあ! (止まったら負けだよっ!)」
ナエトル「うえっ!?」
ピカチュウ「ちょっ!?」
地面に着地すると同時、ピィが勢いを殺さずに俺達の横を掻い潜って、先頭へと躍り出た。
────待て、そのまま行ってどうするつもりだ!?
イーブイ「こけるわよっ!?」
ピィ「ぴぃぅぅぃぃぃいい!! (やぁあああぁぁぁッッ!!)」
気合いのこもった声を上げながら、ピィは勢いよく氷の上を滑り、加速した。そして、
ピィ「ぴぃや! (とあっ!)」
ピカチュウ「なっ!?」
イーブイ「跳んだ……!?」
崖からすべり落ちるギリギリでピィは強く地面を蹴り、空高く、そして前へと飛び上がった。勢いがついているお陰か、宙に浮いているモンスターボールの高度に体が到達する前に、先へと通り過ぎてしまう。
ナエトル「無茶ですよ!? それじゃ崖は飛び越せな────なっ!?」
ピィはジャンプの頂点で一回転を決め、なんとそのまま崖の中央にあるパンチングキマワリの植木鉢の上へと着地した。
────きゃーーーー!!
ランナーを察知したキマワリがすかさず腕を振り上げる。しかしピィはそれが振り下ろされる前に再び力強く植木鉢を蹴って前へと跳びだした。
ピィの後ろでキマワリの『はたく』が空振る。そのまま向かいの崖に向けて真っ直ぐと体は飛んで行くが、僅かに飛距離が足りず、下へと落下し始めた。
しかし逆にそのお陰で、ピィは眼前に迫っていたスピニングソーの回避に成功し、直後に崖の下の岩を掴む事ができた。
ピィ「ぴぃう……! (ふっ……どんなもんだい!)」
岩に張り付き、体勢を整えたピィはその小さな手足を駆使して崖を登っていく。
ピカチュウ「まじかよアイツ、飛び越しやがった……」
イーブイ「とんでもないわね……」
俺たちは驚きの混じった感嘆を漏らす。まさか、あんな方法で崖を飛び越えるとは……
崖を登りきったピィがこちらを向いて自慢気な顔を見せてきた。
ピィ「ぴぃうぃーい! ぴぃぴぃ! (皆! 残念だったね! 一位はピィが頂いてくよ!)」
そう言って、ピィはゴールへと続く階段に設置されたリニアソーにジャンプしようとしたが、直前でナエトルが大声を出してピィを呼び止めた。
ナエトル「待ってください! 僕も飛びますよっ! 一位は譲らせません!」
ピカチュウ「はぁ!? お前、マジで言ってんの?」
ピィ「ぴぃぴっ! ぴぃうぃ────(へぇ、やれるものならやってみ────)」
ビィッー!!
ピィ「ぴぇ? (へっ?)」
だだだだだだだだだだっ!!!
無情、けたたましいサイレンが鳴った直後に、無数のタネが崖の切れ目に立っていたピィに向かって降り注いだ。
そして、想定外の出来事だったのか、ピィはそれを回避することもままならず、タネの雨あられをその身に受ける事となった。
バクフーン「おおっと!? ピィ、タネマシンガンに打たれた事により脱落だ! 当然、自分のトラップに引っ掛かった事になるのでトラップポイントは付かないぞ!」
ピィ「ぴぃ……ぅぃ(うそ、でしょ……)」
ばたりと地面に倒れたピィは、ケーシィのテレポートによって早急に回収される。俺達は口をあけたままその様子を見ていた。
イーブイ「……ナエトル、今のって、最初からこうなる事を予想して声を掛けたのかしら?」
ナエトル「えっと、まぁ……そんな感じです」
ピカチュウ「意地が悪いなっ!?」
ナエトル「本当に引っ掛かってくれるとは思ってなかったんですよ!?」
────いやいや、さっきのピィは完全に油断してたし、確信犯だろう!?
そんな突っ込みを入れながら、再び俺達を目掛けて走ってきた稲妻を回避した。
イーブイ「それで、本当にピィの真似をするつもりなの?」
ナエトル「まさか。普通に崖を下りていきますよ」
そういってナエトルが氷の地面の上をゆっくりと歩いて、崖っぷちの所からゆっくりと後ろ足を下ろし始めた。
ピカチュウ「結局こうなるわけか……」
イーブイと俺も続いて崖を下り始める。氷の地面で一度足を滑らしそうになったが、そこは何とか耐え切った。
ナエトルが先行して崖を下っていく。その先には前のラウンドと同じく、フリッピングブロックとトレッドミルが宙に浮いているのが見えた。
前のラウンドと違う所といえば、回転するトレッドミルにはちみつがべったりと塗られていることだろうか。
ピカチュウ「ナエトル、行けるのか?」
ナエトル「や、やってみせますよ!」
崖に足をしっかりと引っ付けたナエトルが、ジャンプのタイミングを計る。そして、フリッピングブロックのトゲが下向きになった瞬間を狙って、ナエトルは力強く崖を蹴ってジャンプした。
ナエトル「っ! 乗りました!」
うまくジャンプの距離を調整して、体重計ほどの幅の小さな警告色の板に乗ることに成功する。
イーブイ「でもその足場は上下がひっくり返るのでしょう!?」
ピカチュウ「あと3秒もないぜ!」
時間を誤れば、即、崖の下へと放り出されてしまう。ナエトルは慌てて次の足場、回転するベルトコンベアー(トレッドミル)へとジャンプした。
ナエトル「うわっ!? は、ハチミツが!」
トレッドミルの上に着地する事は成功したものの、前足が自身の設置したハチミツに触れてしまい、べったりとくっ付いてうまく動けなくなってしまっていた。
ナエトル「しまった、ちょ、ちょっと待って!?」
なんとかその場から動こうとするものの、べたべたのハチミツのせいで思うように足を上げる事ができず、そのままコンベアーに運ばれて崖の下へと放り出されてしまった。
ナエトル「うわああああぁぁぁぁぁ…………」
イーブイ「あらま……落ちちゃったわね」
ピカチュウ「ボーマンダがちゃんとキャッチしてくれたみたいだが……おーい! バクフーン! ナエトルが崖の下に落ちたぞ!」
バクフーン「そうか! それじゃあナエトルは脱落だな!」
バクフーンの宣言を聞きながら、俺達は俺達のジャンプのタイミングを図る。
イーブイ「やあっ!」
最初に跳んだのはイーブイだった。華麗にフリッピングブロックの上に着地し、続いてトレッドミルへ。
キバトラップとハチミツの間という絶妙な安全地帯に足を付け、そのままの勢いで向かいの崖へと飛び移った。
イーブイ「掴んだわ!」
崖にしっかりと捕まり、力強くそう宣言するイーブイ。──なるほど、勢いが大事というわけか……!
ピカチュウ「それなら俺もッ!」
俺は力強く崖を蹴ってフリッピングブロックの上へと飛び乗る。そのままトレッドミルへと飛び移ろうとしたが、キバトラップがコンベアの上に露出しているのを見て一度立ち止まった。
そしてもう一度タイミングを見計らって、トレッドミルへとジャンプする。警告色の板から足を離した瞬間、足場の上下がひっくり返ったので、かなりギリギリのタイミングだった。
ピカチュウ「はぁ、よし、このままっ!」
そして、うまくトレッドミルの安全地帯に着地する事に成功し、そのまま向かいの崖の出っ張りを掴む事が出来た。
イーブイ「や、やるわね……」
ピカチュウ「結構危なかったぜ……はぁ、はぁ」
イーブイ「でも、ファーストポイントは私が頂いていくわよ!」
イーブイは素早く崖を登っていく。体力的にかなりキツいが、俺も遅れを取る訳にはいかないと、その速度に食らい付くようにして崖を登っていった。
ビィッー!!
タネマシンガンが崖の切れ目に降り注ぐのを確認してから俺達は崖を登りきる。これは2ラウンド目に学んだ教訓だ。
イーブイ「チャンス! リニアソーが上に上がる所だわ!」
ピカチュウ「まてっ! 俺が一位を取るぞッ!」
上下にスライドする刃がまさに上に上がるといったタイミングだったので、俺達は間髪入れずにリニアソーの下側に向かってジャンプした。ジャンプするタイミングは僅かにイーブイの方が早かった。
イーブイ「ほっ、やぁ!」
ピカチュウ「ふっ、とぉ!」
鉄柱を蹴っ飛ばし、平行に浮かぶ角材へと飛び移る。そしてその角材をも蹴っ飛ばして、リニアソーを乗り越えた。前のラウンドのように、壁キックを失敗するという事は無かった。
……いや、どうやら失敗しなかったのは俺だけだったようだ。
イーブイ「やっ!? ちょっと待って飛びすぎた────きゃあ!」
角材を強く蹴りすぎたイーブイは、階段の四段目────1ラウンド目にイーブイ自身の手によって塗られたハチミツの段に着地してしまった。
イーブイ「やあっ……なにこれ、べとべとしてる……!」
ピカチュウ「よっと……お先、失礼するぜ!」
対して、階段の三段目に着地した俺は、ハチミツがくっ付いたイーブイの上を飛び越えるようにして、ゴールの旗が立てられた小屋の上へと飛び移った。
────残念だったな! ファーストポイントは頂いたぜ!
イーブイ「そうは、させないわよッ!」
ピカチュウ「なっ!?」
イーブイは全力でハチミツの塗られた階段を蹴り、反作用の力でべとべとから抜け出した。そして、そのままゴールの旗目掛けて飛んでいって、
イーブイ「あ、しまっ!?」
こつん
ポンッ
モンスターボールの上へとダイブした。赤と白の模様が特徴的なそのボールは、電子音と共にパカリと開く。
イーブイ「いやっ! いくらモンスターボールの中が心地良いからって、このタイミングで入りたいとは思わないわよっ!?」
3ラウンド目の悲劇再びだな、と心の中でそう思いながら、俺はゴールの旗に触れた。これで1位でゴールポイント獲得だ。
イーブイ「まだ終わってないわ!」
イーブイは素早くうつ伏せの状態から起き上がり、前へと走り出す。しかし、その後ろからはモンスターボールがイーブイを中に引きずり込もうと赤い光が飛び出してきていた。
イーブイはがむしゃらに前へとダイブする。そして、伸ばした前足が、僅かに赤色の旗に触れた。
イーブイ「やった! 触ったわ──ぁぁ…………」
そして、例のごとくそのままボールの中へと消えていった。
バクフーン「勝負ありだッ! 一位がピカチュウで、イーブイはモンスターボールの中に入ったものの、ギリギリで旗に触れたので、デス後ボーナスがもらえるぞ! ちなみにだが、イーブイは確かにゴールした扱いだからピカチュウに入るボーナスはソロではなくファーストで、モンスターボールもピィが設置したものだがトラップボーナスは入らないぞ!」
ピィ「ぴぅい~!? (えぇ~!?そうなの!?)」
ピィの驚く声が聞こえてきたが、とにもかくにも俺は心の中でガッツポーズを決めた。
そして、とりあえずモンスターボールを拾い、小屋の下に向かって投げた。ま、良い勝負だったぜ。出てこい、イーブイ!
──ポイント累計──
ピカチュウ・・・12/25pt・・・+6pt(ゴールポイント、ファースト)
イーブイ・・・13/25pt・・・+2pt(デス後)
ナエトル・・・13/25pt・・・+0pt(脱落)
ピィ・・・13/25pt・・・+0pt(脱落)