20話 出発

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読了時間目安:13分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「ここが食堂。そっちが風呂場、んでこの先がグラウンドになってる」
とんとん拍子に施設を紹介しながら案内してもらっているハルキ達はそれぞれ「へぇー」や「ひろーい」といった感想を口々に言いながらギルドの中を進んでいった。どうやらまだ夕方前ということと、ちょうど忙しい時期のようでギルドの中にはポケモンの姿は見られなかった。
「ここが医務室よ。基本的にこのギルドに在中している医療班の誰かがいるから、怪我をしたり具合を悪くしたらここで見てもらうの。せっかくだし、挨拶していきましょうか」
扉を開け部屋にはいると、今までの茶色を基調とした壁の色が白を基調とした色に変わっていた。
部屋の中には4つ机があり、薬品やら書類やらが無造作におかれている机もあれば、キッチリ整頓して置いてある机もある。使用している者の性格がなんとなくわかる。
壁際に置かれている大きめの棚には様々な資料やカルテと思われる紙がジャンルごとに区切られて丁寧に保管されている。部屋に備え付けてあるベッドの数は3組で、ベッド毎にしっかりカーテンがついている。なにより、このベッドは今までのように藁を敷き詰めたものではなく、ちゃんと起き上がりやすいように鉄の骨組みで少し浮かせた土台の上から材質はよくわからないが、布団がおかれている。人間世界で見慣れた病院にあるベッドに限りなく近い形状であった。
ぱっとみて、部屋の中にはポケモンの姿は見られなかったが、奥にあるカーテンが閉めきられ、カーテン越しのベッドからなにやら話声がするので医療班のポケモンはその中にいるようだ。
「リルだけど、誰かいるかしら?」
「リル?帰ってきたのね。おかえり」
リルの言葉に対する返事とともにカーテンがめくられ、中から白衣を着たハピナスがでてきた。
「患者がいるのにじゃましちゃって悪いわね」
「別にいいわよ。患者と言っても、バカ妹がアイス食べ過ぎてお腹壊していただけだから。それに最近、ギルドのポケモン達は依頼で留守にしていることが多くて、暇してたしちょうどいいわ」
そう言うハピナスの後ろのベッドには苦しそうな顔をしたラッキーが寝ていた。
「なんだぁ?ラディの奴、医者なのに腹壊してんのか?」
「いくらおいしいからって、バイバニラのアイスを一人で10個も食べたら誰でもお腹を壊すわよ...」
「うぅ..じゅっ、10個も食べてないもん!9個だけだもん」
「大差ないわよ!!まったく...急病人がいない日で良かったわ」
「なんか~、間抜けなポケモンだねー」
「うっ...!」
「ヒカリ、ストレートに言いすぎだぞ。ここは、アイスが好きなんですね~!みたいにさりげなく話をきってあげるのが優しさってもんだ」
「アイト..それを本人の目の前で言ってちゃ優しさにならないよ」
「あっ」
アイトは口に手を当てるがすでに言葉はお腹を壊したラッキーの元に届いてしまったようでラッキーは涙目になってしまった。
「ぐすん..いいもん..!どうせラディはダメな医者だもん..!!」
「もう!いちいちそんなことでメソメソするんじゃありません!」
「子供には気を使わせちゃうし...ぐすん。..お姉ちゃんには怒られちゃうし...ぐすっ...」
「あ~もう!だったらしばらくそのまま泣いてなさい!お姉ちゃん知らないから!!」
シャーーー
ハピナスが勢いよくカーテンを閉めた。カーテンの中からは「ぅぅ..ぐすっ..お腹いたぁい...」とすすりなく声が聞こえる。
「あのー..、なんかすみません。僕の友達が失礼なことを言ってしまって..」
「気にしなくていいわ。あの子がメソメソするのはいつものことなのよ。ところで君達は?」
「そうそう、この子達は今日から救助隊に入る子達よ。ハルキ君、ヒカリちゃん、アイト君よ」
リルがハルキ達を手で示しながら紹介をしていく。
「あらそうなの。私の名前はハクナ。この町で医者をしているの。救助隊の医務室には医療班のメンバーが日ごとに2匹ずつ在中しているのだけど、今日は実質1匹ね」
ハクナはそう言うと、カーテンが閉まったベッドの方にチラリと視線を向けた。
カーテンの奥からはまだすすり泣く声が聞こえている。
「はぁ..それで、あの中でお腹を壊して泣いているのが私の妹のラディよ」
ハクナはため息をつきながらそう紹介した。
「バチュ!バチュ!バチュ~!!」
一通りの紹介が終わったところで、ヒカリの頭上で大きな声をだしてバチュルが騒ぎ始めた。どうやら自分だけ紹介されなかったので怒っているようだ。
「あー、ごめんね。あなたは救助隊に入るわけじゃないからとばしてしまったわ。この子はここに来る道中で出会ったバチュル。救助隊で保護することは副団長に伝えてあるわ」
「よろしくね」
「バチュチュ!」
小さな体を精一杯そって、胸を張ろうとしている姿はとてもかわいらしかった。
「そういえばあなた達はこのバチュル以外、みんな名前があるのね」
そういえば、この世界では名前がついていたり、ついてなかったりと中途半端に名付け文化が浸透している世界だ。
「何か変ですかね?」
そんなことを知らないアイトは普通に聞き返してしまった。この世界では結構常識な感じあるし、変に怪しまれたりしなければいいけど。
「別に変というわけじゃないわ。ただ救助隊に入るメンバーは個々をわかりやすくするために名前がないポケモンにはつける必要があるのだけど、その手間が省けて良かったって話よ」
どうやらこちらの不安は杞憂だったようでホッと一安心するハルキ。
「もしかしてザントとリルも名前つけてもらったの?」
「いや、俺達は子供の頃にお互いにつけあったのをずっと使っている感じだな」
「へぇ~二匹は子供の頃から仲良しだったんだねぇー」
「ま、ただの腐れ縁だけどな!ハハハッ」
ヒカリの疑問に笑いながら答えるザント。その後ろでは顔を少し赤くしているリルが目に入った。
(やっぱりこの二人はすごく仲が良いんだけど、ザントさんの性格からして進展はあんまりしなさそうだよな。)
そんなこんなでこれ以上、医務室にいると仕事の邪魔になってしまうということで僕達は医務室を後にした。
「そんでここがこのギルドの宿泊施設である寮だ。俺らの部屋は3階の端にあるからちょっと遠いぞ」
ギルドと同様に外観は白を基調とした3階建ての建物で、屋根は赤い色で部屋数が多いのか縦ではなく横に広い構造となっている。建物の中は、これまたギルドと同じで明るい茶色を基調とした色で塗装されていた。あとから聞いた話だが、壁が茶色なのは自然の中で暮らしているポケモンにストレスを与えないよう少しでも工夫した結果らしい。だけど、ザントさん曰く、外壁を白にした後に汚れが目立つことに気づいて、まだ塗ってない内壁はよごれが目立ちにくい色にしたって話が本当の理由だとか。
3階の端に位置するザントとリルの部屋はさすがに分けられていてそれぞれ別室になっていた。奧がザント、手前がリルの部屋らしい。まあ人間でいうと男女だし、やっぱりプライベート空間はほしいからね。
ハルキとアイトがザントの部屋、ヒカリとバチュルはリルの部屋で寝泊まりすることが決まり、その日は簡単な食事をとった後、長旅の疲れもあってさっさと寝てしまった。ちなみにザントの部屋は想像と違って普通に綺麗に整頓されていてアイトが「絶対に汚いと思ったのに~」とか失礼なこと口走って頭を小突かれていた。

翌朝、朝食のリンゴをサクッと食べると副団長に頼まれた依頼を受けるべく準備を進めていった。昨日のうちに渡されていたこの町の簡易的な周辺地図を広げ、
目的地である地点を事前に確認する。言われていた情報通り、地図上で見ても目的地であるイーブイの里はそんなに離れていなかった。というか昼に出発してからのんびり歩いても夕方には着くぐらいの距離だ。
「早くて3日、遅くて5日..って言ってたけど、これ急げば2日で戻ってこれそうじゃないか?」
アイトの言うとおり、今日向こうについて話をつけて次の日に頼まれた石を貰えばすぐにでも帰ってこれそうである。
「いや、これは俺とリルが行くとしても最短で3日の依頼だ。いくら簡単そうな依頼でも不足の事態ってのは起こりえるもんだ。そうした事の対処も考慮して、体力面などにも余裕を持たせられる予定にするのが一番なんだ」
「なるほど...。確かに無理して急ぐよりもゆっくり余裕を持った方が気持ち的にも楽ですもんね」
「そういうことだ。ま、お前らは今回が初めてだから余裕を持って5日ぐらいって言ったんだろうな。はやく戻ってきても技能測定は受けられないんだし、どうせならゆっくりイーブイの里でも観光して帰ってきたらどうだ?」
ザントの言うとおり、急いで戻ってきたとしても団長は帰ってきていないうえ、むしろ約束の日程まで暇な時間を増やしてしまうだろう。もちろんこの町の観光もしたいがそれは帰ってきてからでも十分にできるだろうし、せっかくイーブイの里に行くのならどんな所か見ておきたいという気持ちもある。
「ハルキ。焦る必要もねぇんだったら、ゆっくりでよくないか?」
「そうだね。...それにしてもヒカリとリルさんちょっと遅いね」
今、ハルキ達男性組がいるのはギルドのロビーにいくつか設置されている丸い机とそれを囲むように配置されている椅子(いわゆる休憩スペースみたいな場所)その1組の机に地図を広げ3匹で座っていた。
ザントの部屋を出る頃にはリルさんの部屋はすでに誰もいなかったので、てっきり先に行っていると思っていたがいなかった。
「道に迷ってるんじゃないか?」
「リルさんがいるのに?それはいくらなんでもないでしょ」
「あー、俺はなんとなく予想ついたよ。こういう時のリルはたいてい...
「ハァ~さっぱりした!おはよう、みんな!」
「おはよ~う!ハルキィ~アイトォ~」
「バチュ~」
そう言いながら表れた3人...もとい3匹は顔をやや赤らめ、体からは若干湯気が出ていた。
「…やっぱり風呂か」
「せっかくギルドに帰ってきたんですもの!入らなきゃ損だわ」
「なにも朝から入らなくてもいいだろ!」
「朝に入るからいいんじゃない。それに昨日は疲れてさっさと寝ちゃったから入ってなくてモヤモヤしてたのよ」
「ザント!すごく気持ちよかったよ~!景色もよかったし!」
「バチュチュ~♪」
「そ、それは良かったな...」
満面の笑みを浮かべるヒカリとバチュルとは対照的に苦笑いのザント。
(そういえばザントさんはタイプ的に水が苦手だし、お風呂も好きじゃないのかな?)
そんな事をチラッと考えている間にアイトがここで話していたことをざっくり3匹につたえてくれた。


「それじゃあ行こうか!」
「バチュ.......」
「もーそんな顔しないでよ!またすぐ会えるから!」
「これが今生の別れってわけでもないし、すぐ帰ってくるからちょっと待っててくれな」
今回の依頼は危険が少ないとはいえ、小さなバチュルは体力面で負担がかかってしまい連れ回すわけにはいかないのでギルドでお留守番というわけだ。まあ、そもそもバチュルはギルドが保護しているのだから僕たちが連れていくわけにはいかないんだけどね。ちなみに、バチュルは引き取ってくれるポケモンが見つかるまではギルドに住むことになっている。
「ザントさん、リルさん!お世話になりました!」
今回の依頼は僕たちに与えられたものでザントとリルは別の依頼があった。
つまりここでいったんお別れだ。短い時間とはいえお世話になったので礼儀はしっかりしていきたい。
「気にすんな!とりあえず俺から言える事は、楽しんでこい!これだけだ!」
「もうザントったら。ハルキ君達は観光にいくだけが目的じゃないのよ」
「んなこたぁ、わかってるよ」
「ハルキ君、ヒカリちゃん、アイト君。初めてで色々不安かと思うけど頑張ってきてね!」
「うん!私、楽しんで頑張って来るよー」
「俺も楽しんできますよ!」
「それじゃあ行ってきます!」
こうして、ハルキとヒカリ、アイトの3匹はイーブイの里を目指して出発した。

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