14話 お疲れ様会

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読了時間目安:11分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「とりあえずエイパムも無事に目を覚ましたし、これで一件落着だね!ハルキ!」
「..うん。そうだね...」
ヒカリはハルキにそう語りかけながらも手は動かしておにぎりを作っている。
ハルキはというとイスに座った姿勢で「やってしまった…」と言わんばかりに机に肘をつき、手を額につけて項垂れていた。
あの後、結局睡魔には勝てずそのまま寝てしまったハルキが目を覚ましたのは陽が傾いて、空には星が見えはじめる時間帯であった。
ハルキの中では、エイパムの目が覚めたのを見届けてからゆっくり休もうと思っていたのだが、ハルキが目を覚ました時にはすでにエイパムは気がついていて「あっ!ハルキ兄ちゃん。起きた?おはよう~!」なんて言われて、立場が逆転してしまったものだから少し恥ずかしかった。
ちなみに僕が恥ずかしくて少し赤くなっている時にヒカリは安らかに寝ていた。
それからしばらくして、目を覚ましたヒカリが同じようにエイパムに挨拶された時、眠そうな表情から一転して、花が咲いたような笑顔になると「も~う!心配したんだからね~」と恥ずかしがることなく言っていたのが少し羨ましかった。見た目は幼くても精神は人間の大人のため、どうしても余計な羞恥心が付きまとってしまう。ヒカリの素直な部分は僕も見習いたいな。
そんなこんなで、簡易的だがお疲れ様会みたいなのをアスタさんの家で急遽開くことになったのでアスタさんから厨房をお借りしてヒカリはおにぎりを作っているのだ。
この家主のアスタさんと救助隊のリルさんはというと、エイパムをつれて一緒に心配していたカモネギさんの元に挨拶へ行っている。僕たちがエイパムを探すきっかけを作ったのがカモネギさんだったし、僕らよりも相当心配しているだろうからね。
3人が出掛けている間に残った僕達で簡単に作れるものということでおにぎりを作ることにし、さっきまでは一緒に手伝っていたのだが「残りはまかせて!試したいことがあるんだ~」とヒカリに厨房を半ば強引に追い出されてしまったので、とりあえずテーブルに座っていたら先ほどの事を思い出してうなだれていたというわけだ。
「もう!余計に考えすぎちゃうのがハルキの悪いところだよ!」
「..ごめん。気を付けるよ」
「別に謝らなくていいよ。ほんと、そういうところは変わんないんだね~」
ヒカリは軽い口調でそう話ながら完成したおにぎりの乗ったお皿をテーブルに運んできた。おにぎりと言っても塩を混ぜただけで具は入ってなく、海苔が巻いてあるわけでもない、言うなればただのライスボールだ。お米は存在したが、さすがに人間の世界にいた魚などはこの世界には存在せず、子供達にも大人気な具がないのは残念ではあるがお腹を満たすには十分だ。海草類は普通に存在するようなのでいつかそれらを使ったおにぎりを作ってみたいなと思う。
「ただいまだぬ~」
家の扉が開き、アスタが部屋にはいると救助隊のリルと、エイパムを背負ったザントが後に続いて部屋に入ってきた。
「おかえり~。ザントも一緒だったんだ~」
「あぁ、アングの引き渡しと簡単な取り調べが終わって、村長の家に向かってる最中にカモネギのところで話してるのをみかけたんでね。…そしたら、こいつを背負う係にされちまったわけだ」
ザントが目線だけ背を向けると、ザントの陰からエイパムが目をキラキラさせながらこちらに向かって楽しそうに手を振っていた。
「この子はまだまともに歩けるような状態じゃないんだから仕方ないでしょ。それにだいぶ懐かれているじゃない」
「兄ちゃん達、救助隊なんだろ!?どうやって強くなったんだ?どうすれば悪いやつと戦うときにびびらないんだ?教えてくれよ!」
「帰り道に俺達が救助隊ってことを話したらこの有り様だ..なんとかしてくれよ...」
「ハハハ...」
エイパムの質問攻めにあっているザントにハルキは苦笑いで答えるしかなかった。エイパムは俗に言うヒーローに憧れているのだからヒーローっぽい事をしているザント達に憧れを抱くのも無理はない。
「はいはい!そういう話は後にして今はご飯を食べましょ。私、お腹ペコペコよー」
リルが両手を叩いて話題をご飯にすりかえたことで全員の視線がテーブルに置いてある山盛りに積まれたおにぎりに向いた。
「私とハルキで作ったんだ~。おかわりもあるからどんどん食べてよー」
「おぉ!気が利くじゃねぇか!」
「最近は日持ちするリンゴばかりだったから助かるわ」
「それじゃあ、みんなで..
「「「「「「いただきます(だぬ)!!」」」」」」
掛け声と共にみんなおにぎりをどんどんとっていき、あっという間にお皿の上からおにぎりの姿がなくなってしまった。なくなると厨房からヒカリがまた山盛りのおにぎりを運んできた。さすがに2皿目となるとみんなもペースが少し落ちて、しばらく和やかな食事の時間が続いた。ハルキも食べてはいたが人間の世界の料理に慣れていて、やっぱり具材がないと少し味気がないなーと思っていた。するとヒカリが再び厨房に向かって先ほどと違い少量のおにぎりがのったお皿をニヤニヤしながら持ってきた。
「ヒカリ特性スペシャルおにぎりだよ~。このおにぎりには今、食べてるおにぎりと違って塩以外の味付けにしてるんだ~」
僕が厨房から追い出された後に試したいことがあると言って作っていたのはこれだったのか。
「おっ、ちょうど違う味がほしいと思ってたんだ。1つもらうぜ」
「私にも1つちょうだい」
「僕も1つもらおうかな」
「ん~....わしは遠慮しとくだぬ...」
「オ、オレも止めとく...」
二人の若干ひきつった表情が少し気になったがとりあえずハルキは手に持ったおにぎりを口に運んだ。
最初は普通のおにぎりと変わらない、けど食べ進めるうちになにか液体状の物が口の中に広がり..
「!?.....な、なにこれ..しょっぱいし甘いんだけど。ヒカリ、何使ったの...」
あまりのミスマッチ具合に思わず顔をしかめたままヒカリにきくと得意気な表情を浮かべて使用した食材について話しはじめた。
「フフン!そのおにぎりには『あまいみつ』をたっぷりいれてみたんだ~」
「み、みつ!?」
どおりでやたら甘いわけだ。しょっぱい塩で味付けしてあるおにぎりに過度な糖分が含まれているみつなんて混ぜたら、味の大渋滞間違いなしだ。しかも、後味も独特で控えめに言って、気持ち悪い..。ハルキは水を大量に飲んで甘さとしょっぱさで喧嘩をしている味を強引に押し流した。
「ゴホッ、ゴホッ..ごめん。ちょっと僕はこの味苦手かな~ハハ..」
むせながらもなんとか不味いとは言わずにヒカリにこれ以上はいらないと遠回しに伝えられた。
「そっか~..まあ、味の好みはそれぞれだもんね。他にも違う味があるんだけど..
「み、み、水!だ、誰か水をくれぇ!!」
「わ、わたしにもみ、みずをください!」
ヒカリの言葉は背後から聞こえたザントとリルの叫びにかきけされた。
そういえば僕以外にもヒカリ特性スペシャルおにぎりを受け取っていたポケモンが2人ほどいたっけ。
ハルキは背後に視線を向けると今にも『かえんほうしゃ』が出せそうなくらいに顔を真っ赤にして口許を押さえながらジタバタしながら水を求めるザントと口元を真っ赤にして涙目になっているリルがいた。
「あー、ヒカリ。あの二人に渡したおにぎりの味付けに使ったのって..」
「ん?あの二人にはマトマの実と真っ赤なクラボの実を食べやすく磨り潰してから混ぜ合わせて、ジャム状にしたものをた~っぷり詰め込んだおにぎりだよ~」
得意げに話すヒカリの説明を聞いてハルキは横目で辛さに悶えている二人に視線を向けると、リルが片手に持っている、まだ一口しか食べてないと思われるおにぎりに目がいった。そのおにぎりは外見こそ白いが中身は真っ赤に染まっていた。
ザントは手にすら持ってないところを見ると一口でまるごと食べてしまったのだろう。
「やっぱりこうなっただぬか...」
アスタが苦笑いを浮かべながら、水の入ったコップと水差しをトレイにのせて持ってきた。リルは一口だからかコップの水で足りたようだが、ザントはコップの量だけでは足りず、水差しから直接水を口の中にいれていた。
「ありがとうございます。..一口しか食べてないのにまだ舌がヒリヒリするわ」
「ヒカリ姉ちゃんは料理上手いのにたまに味の行き先がとんでもない料理を作るからな....」
辛さから脱出したリルの言葉にエイパムがかわいそうな目を向けつつそう呟いた。
「その言い方だともしかしてこういうことって前にもあったの?」
「ワシはスープの試作品を味見させてもらったときに中にすっぱいパイルの実の皮がまるごと入ってただぬ...」
「オレの時なんて、りんごをベースにした甘い飲み物って言われて飲んだら、隠し味にカゴの実が入っててめちゃくちゃまずかったぞ....」
二人は当時の事を思い出してなのか複雑な表情を浮かべていた。つまりこの場にいるのはみんな被害者、もとい被害ポケモンということになる。
「っぁああ!かぁああらっ!あんなもん食えるか!」
「ザントったら欲張って一口で食べるからああなるのよ..」
「うるせぇ!さっきまでうまかったんだから普通、あんなもんでてくると思わねぇだろ!」
ようやく辛さの地獄から脱出できたザントは口を開くなり不満をぶつけた。
「もー、みんなこんなに美味しいのに苦手なんてもったいないなー」
そう話す声の方を見ると先ほどの甘さとしょっぱさの融合したおにぎりと激辛のおにぎりが含まれたヒカリ特性スペシャルおにぎりを作った張本人が顔色を変えずに普通に食べていた。
「え!?..ヒカリ...大丈夫なの?」
「え?何が?」
「あ..いや、その、辛くないのかなーと思って..。それに、僕が苦手なほうも平気なのかなって...ね?」
「ちょっとピリッとしてるけどこれぐらいなら全然平気だね~。ハルキが苦手って言ってたほうも癖があるけど美味しいと思うよ!」
「あ、あのおにぎりを水無しで平らげるとか..化けもんかよ....」
「ええ、あれはポケモンが食べられるものじゃないわ..」
「...同感ですけど、同じポケモンのヒカリは平気そうですよ..ハハハ...」
「ヒカリ姉ちゃんはポケモンの中でもひときわ例外なだけだ」
「だぬ」
一同が乾いた笑みを浮かべる中、残りのヒカリ特性スペシャルおにぎりを平らげたヒカリは無邪気に「あ~お腹いっぱい!」とまったりとした表情でつぶやいていた。この日、ハルキは『ヒカリは料理がとても上手だが極度の味音痴』なのだと痛感する事になった。
料理は上手だけど味覚音痴という矛盾(⌒‐⌒)

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