14話 お疲れ様会

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読了時間目安:10分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

2020年7月23日改稿
「とりあえずエイパムも無事に目を覚ましたし、これで一件落着だね! ハルキ!」
「うん。 そうだね……」

椅子に座って頭を抱えているハルキにヒカリはおにぎりを作りながら言った。
あの後、ハルキは結局、睡魔に勝つことはできず、そのまま寝てしまい、目を覚ましたのは陽が傾いて、空には星が見えはじめる時間帯であった。
エイパムの目が覚めたのを見届けてからゆっくり休もうと思っていたハルキだが、目を覚ました時にはすでにエイパムは気がついていて

「あっ! ハルキ兄ちゃん。 起きた? おはよう~!」

なんて言われてしまい、少し反省していた。
余談だが、ハルキがやってしまったと思っていた時、ヒカリは隣で安らかに寝ていた。
それからしばらくして、目を覚ましたヒカリがエイパムの姿を見るなり

「も~う!心配したんだからね~」

と恥ずかしがる事も無く、抱き着きに行った。
抱き着く動作はともかく、素直に気持ちを口に出せるのが少し羨ましかった。
子供の頃はできても大人になると、余計な羞恥心が付きまとって気持ちを素直に表に出せなくなる。
ヒカリの素直な部分を見習いたいとハルキは思った。
それから色々と話した結果、お疲れ様会みたいなのをアスタさんの家で開くことになったので、厨房をお借りしてヒカリはおにぎりを作っている状況だ。
アスタさんとリルさんは、エイパムを連れて、ハルキ達がエイパムを捜索するきっかけとなった、カモネギさんの元に挨拶へ行っている。
最初に異変に気づいたという事もあり、ハルキ達よりも心配していることだろう。

「もう! 余計に考えすぎちゃうのがハルキの悪いところだよ!」
「……ごめん。 気を付けるよ」
「別に謝らなくていいよ。 ほんと、そういうところは変わんないんだね~」

完成したおにぎりを乗せたお皿を運びながらヒカリは言った。
おにぎりと言っても塩を混ぜただけで具は入ってなく、海苔が巻いてあるわけでもない、文字通りのライスボールだ。

「ただいまだぬ~」

家の扉が開き、アスタが部屋にはいるとリルとエイパムを背負ったザントが後に続いて部屋に入ってきた。

「おかえり~。 ザントも一緒だったんだ~」
「あぁ、アングの引き渡しと簡単な取り調べが終わって、村長の家に向かっている最中にカモネギのところで話してるのをみかけたんでね。 ……そしたら、こいつを背負う係にされちまったわけだ」

ザントが背負ったエイパムに顔を向けながら言うと、エイパムは目をキラキラさせながらこちらに向かって楽しそうに手を振ってきた。

「この子はまだまともに歩けるような状態じゃないんだから仕方ないでしょ。 それにだいぶ懐かれているじゃない」
「兄ちゃん達、救助隊なんだろ? どうやって強くなったんだ? どうすれば悪い奴と戦う時にびびらないんだ? 教えてくれよ!」
「帰り道に俺達が救助隊ってことを話したらこの有り様だ。 なんとかしてくれよ……」
「ハハハ……」

質問攻めにあっているザントにハルキは苦笑いで答えるしかなかった。
エイパムは俗に言うヒーローに憧れている。
だからヒーローっぽい事をしているザント達に憧れを抱くのも無理はないだろう。

「はいはい! そういう話は後にして今はご飯を食べましょ。 私、お腹ペコペコよー」
「私とハルキで作ったんだよ~。 おかわりもあるからどんどん食べてよー」
「おぉ! 気が利くじゃねぇか!」
「最近は日持ちするリンゴばかりだったから助かるわ」
「それじゃあ、みんなで」
「「いただきます(だぬ)!!」」

掛け声と共にみんなおにぎりをどんどんとっていき、あっという間にお皿の上からおにぎりの姿が無くなってしまったが、ヒカリがすぐにまた山盛りのおにぎりを運んできた。
2皿目となるとみんなもペースが少し落ちて、しばらく和やかな食事の時間が続いた。
しばらくすると、ヒカリが何かを思い出したかのように立ち上がり、厨房からおにぎりが数個だけ乗ったお皿をニヤニヤしながら運んできた。

「ヒカリ特性スペシャルおにぎりだよ~。 このおにぎりには今、食べてるおにぎりと違って塩以外の味付けにしてるんだ~」
「おっ、ちょうど違う味がほしいと思ってたんだ。 1つもらうぜ」
「私にも1つちょうだい」
「僕も1つもらおうかな」
「ん~……わしは遠慮しとくだぬ」
「オ、オレも止めとく……」

2匹ふたりの若干ひきつった表情が少し気になったが、ハルキは手に持ったおにぎりを1口食べてみた。
最初は普通のおにぎりと変わらない、けど食べ進めるうちになにか液体状の物が口の中に広がり……

「な、なにこれ……、しょっぱいし甘いんだけど。 ヒカリ、何使ったの?」

あまりのミスマッチな味に思わず顔をしかめたまま聞くと、ヒカリは得意気な表情を浮かべて使用した具材について話しはじめた。

「フフン! そのおにぎりには『あまいみつ』をたっぷりいれてみたんだ~」
「み、みつ!?」

どおりでやたら甘いわけだ。
しょっぱい塩で味付けしてあるおにぎりに過度な糖分が含まれているみつなんて混ぜたら、味の大渋滞間違いなしだ。
しかも、後味も独特で控えめに言って、気持ち悪い。
ハルキは水を大量に飲んで甘さとしょっぱさで喧嘩をしている味を強引に押し流した。

「ゴホッ、ゴホッ……ごめん。ちょっと僕はこの味苦手かな~ハハハ……」

むせながらもなんとか不味いとは言わずにヒカリにこれ以上はいらないと遠回しに伝えられた。

「そっか~……まあ、味の好みはそれぞれだもんね。 他にも違う味があるんだけどー」
「み、み、水! だ、誰か水をくれぇ!!」
「わ、私にもみ、水をください……」

ヒカリの言葉は背後から聞こえたザントとリルの悲鳴にかきけされた。
そういえばハルキ以外にもヒカリ特性スペシャルおにぎりを受け取っていたポケモンが2匹ふたりほどいた。
その2匹ふたりに視線を向けると、今にも『かえんほうしゃ』が出せそうなくらいに顔を真っ赤にして口元を押さえながらジタバタしているザントと、同じく口元を真っ赤にして涙目になっているリルがいた。

「あー、ヒカリ。 あの2匹ふたりに渡したおにぎりの味付けに使ったのって……」
「ん? あの二人にはマトマの実と真っ赤なクラボの実を食べやすく磨り潰してから混ぜ合わせて、ジャム状にしたものをた~っぷり詰め込んだおにぎりだよ~」

得意げに話すヒカリの説明を聞いてハルキは、まだ一口しか食べてないと思われるリルのおにぎりに視線を向けると、おにぎりの中は真っ赤に染まったジャムで埋め尽くされていた。
ザントは手にすら持ってないところを見ると一口でまるごと食べてしまったのだろう。

「やっぱりこうなっただぬか……」

アスタが苦笑いを浮かべながら、水の入ったコップと水差しをトレイにのせて持ってきた。リルは一口だからかコップの水で足りたようだが、ザントはコップの量だけでは足りず、水差しから直接水を口の中にいれていた。

「ありがとうございます。 一口しか食べてないのにまだ舌がヒリヒリするわ」
「ヒカリ姉ちゃんは料理上手いのにたまに味の行き先がとんでもない料理を作るからな~」

辛さから脱出したリルの言葉にエイパムがかわいそうな目を向けつつそう呟いた。

「その言い方だともしかしてこういうことって前にもあったの?」
「ワシはスープの試作品を味見させてもらった時に、中にすっぱいパイルの実の皮がまるごと入ってただぬ……」
「オレの時なんて、りんごをベースにした甘い飲み物って言われて飲んだら、隠し味にカゴの実が入っててめちゃくちゃまずかったぞ……」

2匹ふたりは当時の事を思い出してなのか複雑な表情を浮かべていた。
つまりこの場にいるのはみんな被害者、もとい被害ポケモンということになる。

「っぁああ! かぁああらっ! あんなもん食えるか!」
「ザントったら欲張って一口で食べるからああなるのよ..」
「うるせぇ! さっきまでうまかったんだから普通、あんなもん出てくると思わねぇだろ!」

ようやく辛さの地獄から脱出できたザントは口を開くなり不満をぶつけた。

「もー、みんなこんなに美味しいのに苦手なんてもったいないなー」

そう話す声の方を見ると先ほどの甘さとしょっぱさの融合したおにぎりと激辛のおにぎりが含まれたヒカリ特性スペシャルおにぎりを作った張本人が顔色1つ変えずに美味しそうに食べていた。

「ヒ、ヒカリは、その……大丈夫なの?」
「え? 何が?」
「あ、いや、そのー、辛くないのかなーって。 それに、僕が苦手なほうも平気なのかなって」
「ちょっとピリッとしてるけどこれぐらいなら全然平気だね~。 ハルキが苦手って言ってたほうも癖があるけど美味しいと思うよ!」
「あ、あのおにぎりを水無しで平らげるとか、化けもんかよ……」
「ええ、あれはポケモンが食べられるものじゃないわ……」
「同感ですけど、同じポケモンのヒカリは平気そうですよ……」
「ヒカリ姉ちゃんはポケモンの中でもひときわ例外なだけだ」
「だぬ」

一同が乾いた笑みを浮かべる中、残りのヒカリ特性スペシャルおにぎりを平らげたヒカリは無邪気に「あ~お腹いっぱい!」とまったりとした表情で呟いていた。
この日、ハルキは、ヒカリは料理がとても上手だが極度の味音痴なのだと痛感する事になった。
料理は上手だけど味覚音痴という矛盾(⌒‐⌒)

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