13話 アング

しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
 
ログインするとお気に入り登録や積読登録ができます
読了時間目安:6分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

今回ちょっと短いです。
真っ暗闇の中、アングは1人漂っていた。
なんであいつはあんなに怒っているんだ?
『・・ちゃんと生きてる、一つの命なんだぞ!・・』
青いポケモンの言葉を思い出す。命?それはどういうことだ?あれはただの物であるはずだ。よくある子供の戯れ言だととらえていいはずだ。..なのになんでこうも奴の言葉が引っかかる。
(それはやっちゃいけないことだってお前自身がわかってるからだ)
誰かの声が聞こえた気がした。
なんであの黄色いポケモンはその場から逃げた青いポケモンを信じて待てる?
なんでこいつはこんなに真剣なんだ?
たかが物一つが壊れかけてるだけだろ?
(あれは物なんかじゃない。お前だってわかってるだろ)
「いや、あれは物だ!そうでもないと俺は..俺は...」
(思い出せ!お前はあの時、なんで森の中に1人で暮らしていたのかを!お前は、俺は何を思ってそうしていたかを!)
「うるせぇ!たとえ俺の言葉でも認めるわけにはいかねぇんだ!だって..それを認めたら..俺は..俺はッ!!」
聞こえてくるのは自分自身の声。多くのポケモンを傷つけ、ポケモンの血で所々黒くくすんでしまった自分の体毛とは真逆に汚れの無い白い体毛の自分自身が目の前にいた。
(俺だってもうわかってるはずだ。あれは、ポケモンは物なんかじゃないって。みんな生きてる一つの「だまれ!」
乱暴に目の前の自分の言葉を遮る。わかってる...わかってるよ。だけど..!!
激しく葛藤をするアング。そこに別の者の声が混ざる。
(「過ちを認めることは決して弱い事じゃない。むしろ強いことです。これ以上、他者と自分を傷つけるのはやめてください..」)
なんで...お前がここにいる?
そこには先ほど怒っていた青いポケモンが淡い光を帯びた姿で目の前に立っていた。
(「僕はあなたを助けたいと強く願った気持ちの欠片です」)
(俺が最後にくらったあの『きあいパンチ』にのせられた思いってやつだ)
「思い..なぜだ?俺はお前達の友達を傷つけたんだぞ?そんな俺をお前は助けたいと思ったのか?」
(「だって、あなたは本当に悪いやつじゃない」)
「何を根拠に...」
(「こうして葛藤している人が悪い訳がないです。それにでんきタイプのヒカリには『かみなりパンチ』、じめんタイプのザントさんには『どくづき』。あなたの攻撃は相手のポケモンに対して効果の薄い攻撃ばかりでした。」)
(今、俺がやるべきことは決まっているだろ?...もう..いいんじゃないか?)
先ほど問いかけていたもう1人の自分がアングの中に入っていた。
「そうだな...もう答えは出てた。ありがとうな坊主、おかげで無くしていた大事な物が取り戻せた」
青い少年は優しい笑顔をすると消えていき、アングのいた暗闇もまばゆい光に包まれていった。
―――――――――――――――――――――――――

「んっ..ここは..」
「よう、目が覚めたみたいだな」
アングが目を覚ますとそこは薄暗い檻の中で、両手は縄で頑丈に縛られていた。檻を挟んだ目の前には先ほど戦闘を繰り広げた救助隊のサンドパンが腕を組ながら、イスに座ってこちらを見ていた。
「妙な真似はするなよ。この部屋には俺しかいないが外にはコイルやレアコイルがここを包囲してる。おとなしく、こちらの質問に答えることだな」
「そんなこと言われなくても俺はもう逃げねぇよ」
「やけに素直だな...」
穏やかな口調でこちらの指示に従うアングの変わりように少し警戒しながらもザントは話を続ける。
「まずはどうしてこんな事をしたか、聞かせてもらおうか?」
「..そうだな。暴れていたときの俺は大事なものが認識できてなかった...その結果、欲望のままに行動しちまっただけだ」
「その認識できなかった大事なものっていうのはなんだ?」
「...『命』だよ。あの時の俺はどういうわけか『命』というものをまったく感じられなかった」
ここまで話を聞いて、ザントは戦闘中にハルキ達が言っていたアングの言葉は本心ではないという意味がなんとなくわかってきた。つまり、こいつは操られていた可能性があるわけだ。だが、操られているポケモンというのは強い感情をみせず基本は無言。喋っても片言のはずだ。
「質問を変えよう。お前がそうなる前に何か覚えていることはあるか?」
「誰かと会って、何かを言われた気はするが記憶が曖昧だ」
「どんな特徴のやつだったとか、何を話したのかも全く覚えてないのか?」
「あぁ。森でひっそり暮らしていたら誰か来て、何か言われたってことしか覚えてねぇ..」
「そうか..」
どうやら黒幕がいるようだが、これ以上アングから手がかりを得るのは難しそうだ。
「聞きたいことはこんだけだ。明日には、お前はコイル達の運営する施設に連行される予定になってる。わかっていると思うが暴れたりするなよ?.....しかし、すんなりと話してくれるとは思わなかったぞ。捕まって頭が冷えたか?」
「そんなんじゃないさ...ただ、無くしていたものを取り戻せた。それだけだ」
「そうか、そいつは良かったな。それじゃあな」
「待ってくれ。ひとつ伝言を頼みたいんだが」
「なんだ?」
ザントが部屋から退出しようと扉に手をかけたとき、アングが呼び止めたのでそのまま背中を向けた状態で用件を聞くことにした。
「青い坊主に「ありがとう。お前の気持ちはちゃんと届いた」と伝えてくれ」
「フッ、わかった。ちゃんと伝えておくよ」
アングの言葉を聞いてザントは口元を少しニヤッとさせ、そのまま扉を開けると背中を向けたまま明るい外の世界へと消えていった。

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想

感想の読み込みに失敗しました。

 この作品は感想が書かれていません。