はちのいち 完成

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 [Side Kyulia]




 「…ごめんごめん、待たせてまってすまへんね」
 「無問題ですっ」
 その様子だと…、完成したみたいね。ルカリオ達が姿を消した後、私達四人は息を整えてから“壱白の裂洞”を脱出した。探検隊バッジの脱出機能を使ったから、脱出した先は突入口じゃなくて最寄りの村…。“オダヤカビレッジ”という小さな村に出たらしく、リアン君の案内で食堂で軽食をとった。そこで少し休ませてもらってから村を出て、私達は一度“ワイワイタウン”にあるリアン君の研究室に寄ることになった。
 本音を言うと明日でも良かったような気がするけれど、時間があるからって事で私とアーシアちゃん、二人用のブレスレットを作ってもらえることになった。リアン君は今日出発するまでにある程度は作っていたらしく、作り始めてから一時間も待ってないような気がする。確か材料が足りないから今回依頼されたはずだから、そこの工程だけが残っていたんだと思う。それで待たせてもらってる地下の研究室の片隅に、リアン君が例のブレスレット、二つを浮かせた状態で来てくれた。
 「上手く作動するかは分からないですけど、とりあえず完成だけはしたみたいです」
 「と言うことは…、その二つがそうなのね? 」
 「そうやで! 」
 見た感じ“変色のブレスレット”と変わりない気がするけれど…、どういうものなのかしら? 彼の後ろに続いて、作業を手伝っていたコット君も来てくれる。分からないなりに見た感じだとコット君は理解してそうな感じだけど、それは多分、従兄弟らしいシルクちゃんから教えてもらってたのかもしれない。だから完成の報告をしてくれたサンダースの彼は、それだけを言うとエーフィの彼の方にチラッと視線を向ける。私が尋ねた間に頷いていたから、本当に完成したらしい。するとリアン君は浮かせていた二つのブレスレットを低い机の上に置き、私、イーブイの姿に戻っているアーシアちゃんに説明し始めてくれた。
 「こっちとそっちで大きさが違うのですけど、どういうものなのです? 」
 「大して差は無いんやけど、装填できる“属性の純石”の数の違いやな」
 言われてみれば…、穴と埋め込まれている宝石の数が違うわね。私はアーシアちゃんに言われて初めて気づいたけれど、二つのブレスレットは、宝石を填め込む穴の数が違う。私から見て左側の方は、水色と紅、二つの宝石が填められている。一目見た限りでは、ダンジョンで拾えるリングルに、ラピスを二つ填めたような…、そんな感じ。そしてもう一つの方は、填め込める穴が九個、五対四の横二列に並んでいる。そのうちの上段に二つ、下段の一つには既に填められていて、前者には紅と青、後者には水色の宝石が光り輝いている…。紅と水色は見たことがあるけれど、青色だけは見覚えが無い。
 「数が…? 」
 「そう。結論から言うと、二ツ穴の方が“変色のブレスレット”の完成版で、もう一個の方がその特別仕様。アーシアさん専用のモデルやな」
 「わっ私の、なのです? 」
 「はい。もしかしたら見て分かるかもしれないですけど、二つの方が炎と氷、それから青が水タイプの“属性の純石”みたいです」
 と言うことは、二ツ穴の方が私ってことになるわね?
 「水…、って事は、さっき拾った“属性の石”を加工したのね? 」
 「そういうことやよ! 」
 「…ですけどリアンさん、どのように使えばいいのです? 」
 そうよね、使う身としては、そこが気になるわね。リアン君の説明に、コット君がわかりやすく補足を加えてくれる。水タイプの石は初めて見たけど、コレは何となく色で予想は出来たような気がする。まだ触ってないから分からないけれど、見た限りでは澄んだ青色をしている…。ブレスレットに合うようなサイズだから小さいけれど、それでも十分に輝いて見えた。
 「ええっと、試作のブレスレットと同じで前足に着けてみて」
 「こう…、かしら? 」
 続けて使い方を話し始めてくれたから、私とアーシアちゃんは彼の言う通りにブレスレットを手に取る。私は尻尾で掴んで左の前足に着けたけれど、イーブイの彼女は後ろ足だけで立って器用に着けていた。
 「そうそう。そんで技使う時みたいに、好きな“属性の純石”にエネルギーを少しだけ流し込んでみて」
 「エネルギーを…。と言うことは、技みたいな感じになるのですね? 」
 「その認識で構わへんで」
 続けて私は、言われたとおりに左の前足の方にエネルギーを集中させてみる。すると…。
 「あっ、キュリアさん! 」
 私は急に、エネルギーが逆流してくる感覚に襲われる。それと同時に私の体温は急激に下がり、毛並みの色も金から氷色に変わる…。
 「…成功、でいいのかしら? 」
 「うん、ちゃんと氷タイプになっとるで! アーシアさんも、上手く出来たみたいやな」
 「ですけどアーシアさん? 他の種族にもなれるのに、何でグレイシアにしたんですか? 」
 「特に意味は無いのですけど、やっぱりフィリアさんと同じが良いな、て思って」
 まだ直接会って話したことないけれど、確かその人もグレイシアだったわね。氷タイプに変化した私は横目で見ると、その先には同じくブレスレットが作動したアーシアちゃん…。今日はかなり見慣れたグレイシアが、自分の感覚を確かめるように前足の指を開いたり閉じたりしていた。それにコット君が訊いたとおり、私も何でグレイシアにしたのか気になっていた。アーシアちゃんのブレスレットを見た感じでは、氷以外にもブースターとシャワーズにもなれたはず…。だけどそんな中選んだのは、今日一日なっていたグレイシア。この感じだと相当思い入れがあるらしく、コット君の質問に嬉しそうに答えていた。




――――




 [Side Wolta]




 「たっ、退院を早める? 」
 「そうです。主治医の先生からもいいよ、って言われたからね」
 「ですけど何で? まだウォルタさんの検査結果が出てな…」
 「結果待ちなんて、どこでも出来ますよ。…それに事件の怪我人を受け入れる、って聞いたから、一つでも多くベッドを空けた方が良いかな、って思って」




――――




 [Side Kyulia]




 「…ですけどキュリアさん? 」
 「ん? 」
 「こんな良い物をもらっても良かったのでしょうか…」
 「そうね…。それなら、依頼のお礼、って思えば良いんじゃないかしら? 」
 認可が下りたら販売する、って言ってたけれど、それだと結構な値段になりそうね? あの後細かい説明をしてもらってから、私達はリアン君の研究室を後にした。その時に元の姿への戻し方も教えてもらったから、今の私はいつもの炎タイプ。アーシアちゃんもイーブイに戻っているから、“アクトアタウン”に着いた辺りで見上げて訊いてきた。水路に西日が反射して眩しかったけれど、私は視線を落としてこんな風に答えることにした。
 「だからアーシアさん、そこまで不安にならなくても良いと思いますよ? 」
 「そう…ですよね? 」
 「ええ。…そうだ。アーシアちゃん、コット君も、荷物を置いたら一緒に夕食なんてどうかしら? 」
 ダンジョンまでの距離を考えると、ランベルとハクちゃん達はもう少し帰りが遅くなるかもしれないわね。街の大通りに出たぐらいに、私はふと二人にこう尋ねてみる。少し先に見えてきたからもうじき着くけれど、時間的にも夕食には丁度良いのかもしれない。アーシアちゃんは元々一緒に潜入することになってたけれど、コット君は元々くる予定は無かった。…だから感謝の代わりって事で、私は二人に夕食を奢るつもりでいる。
 「いいですね! “アクトアタウン”は喫茶店が多い、ってフライさんから聞いてたので、一回行ってみたかったんですよ! 」
 「なら丁度良いわね! 」
 「ええと私も良いのです? 」
 「もちろんよ! アー…」
 それに奢るだけじゃなくて、おちついてゆっくり二人と話がしたい、っていう事もあるわね。コット君が満面の笑みで答えてくれたから、私は少し嬉しかった。彼は潜入中もしっかりしていて頼りになったけど、こういう所を見ると少し安心する。サンダースだからつい忘れてしまうけれど、彼はまだまだ進化できない十三歳。アーシアちゃんも十七の筈だから、私としては…。
 「はぁ…、はぁ…。…何とか、追いついたな…」
 「え…」
 アーシアちゃんとももっと話したいと思っていたから、こう言おうとしたけれど、それは叶わなかった。誰かが後ろから走って来ているのには気づいていたけれど、それが私達三人を追っているとは思っていなかった。だから切れ切れの声に若干驚きながら、私…、多分アーシアちゃんとコット君も、訛った声がした後ろの方に振り返る。するとそこには…。
 「リアンさん? もしかして忘れ物しちゃったとか、でしょうか? 」
 “ワイワイタウン”から走ってきたらしい、化学者のエーフィ…。白い服の袖の部分を首元で結んでいる彼が、息を弾ませながら減速しているところだった。
 「そんなんやないんやけど…、はぁ…、はぁ…、キュリアさん達って…、アクトアのギルドを拠点に…、しとるんやろ? 」
 「えっ、ええ。最近は結果的にそうなってる、けれど…」
 「それなら…、ギルドの代表の人も交えて話があるんやけど…、ええかな? 」
 「私は構わないけれど…」
 「シリウスさん達もという事は、“パラムタウン”の事なのです? 」
 「…まぁそんなとこやな」
 それと少し関係あるけれど、私も話さないといけない事があるから、丁度良いのかもしれないわね。





  つづく

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