12話 アスタ村長

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読了時間目安:12分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

2019年8月28日改稿
2020年7月22日改稿
「もうやめて!」
「うるせぇ!」
躊躇いもなく振るわれた拳は相手を傷つけていく。
拳を振るったオコリザルは何も感じない。
ただ目の前にある玩具を壊している。
そんな風にしか感じられなくなっていた。

「命という事に対する価値観を無くして、狂暴性を上げただけでこの結果か。 フッ、良い実験結果が得られたよ」

そんなオコリザルを木の上から観察するように見ていた1つの影。
影はそれだけ言い残すとその場から静かに去っていった。
だが、去っていった影はひとつだけ見落としていた。
いくら価値観を無くし、何も感じなくしたとしてもオコリザルの――アングの拳が僅かに震えていたことに。


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そよかぜ村の村長宅に着いたハルキ達。
村長の家は村にある他の家とほとんど大差ない1階建の家であった。
唯一、違う点は小さいが庭と縁側があることで、庭の花壇には青い花が咲きほこり、青い花の中央には、いろんな種類の木の実をみのらせた小さな木がいくつかあった。
ハルキが庭の木の実や花を見ていると、リルが扉に向かってノックを3回して扉を開けて中に入っていったので、ハルキもヒカリと一緒に中に入る。

「失礼します、村長さん。 看病を任せてしまってすみません」
「別に気にしなくていいだぬ。これぐらいお安い御用だぬ~」

リルの言葉に答えるのは水色の体をした、みずうおポケモンのヌオーだった。
ハルキが想像していたポケモンとはイメージが違かったが、親しみやすそうなポケモンで少しホッとした。

「アスタ村長、久しぶり~」
「おお! ヒカリだぬか! 最近、新しい友達ができたとは聞いていただぬが、その子がそうだぬ?」
「ハルキと言います。 エイパムの手当てと看病をしてくれてありがとうございます」

ヌオーがこちらに視線を向けてきたのでハルキは1歩前に出て、軽くお辞儀をした。

「まだ小さいのにしっかりしているだぬね~。 ワシはアスタというだぬ。 いちおう村長やっているだぬ。 よろしくだぬ~」
「ちょ、ハルキ! そんなかしこまった挨拶なんてしてくてもいいんだよ!」
「えっ? でも、相手はこの村の村長だし、エイパムもお世話になったみたいだから……」
「フフッ、ハルキ君はとても礼儀正しいのね。 でも無理はしなくていいのよ? 子供は子供らしくいないと」

なぜかリルさんにも笑われてしまった。
どうやら社会人として培ってきた挨拶スキルは、今の僕の見た目ですると子供が背伸びをしているように見えるようだ。

「村長さん、エイパム君の容態はどう?」
「まだ目は覚まさないだぬが、落ち着いているだぬ」

部屋の奥にある藁のベッドで寝かされているエイパムを見ると、体中包帯だらけで見るからに痛々しいが、穏やかな表情で静かに寝息をたてている。

「もう大丈夫そうだね」
「ヒカリ~、ちょっとこっちに来るだぬ~」

エイパムの様子を見て安心したところで、アスタ村長がヒカリを呼んだ。

「なにかな?」

ヒカリは不思議そうにしながらアスタ村長のもとに向かい、僕も気になったのでその後についていくことにした。

「なあに? そんちょー?」
「なあに? じゃ、ないだぬ。 ヌシだって怪我をしているだぬ。 手当てするからじっとしているだぬよ」
「は~い」

ヌオーはやや緑が混ざった青い塗り薬を取り出すと、ヒカリが攻撃を受けて少し赤く腫れていた部分に塗っていき、軽く包帯を巻いた。

「終わっただぬ。 もう動いていいだぬよ~」
「ありがとう! そんちょー!」

手当てをしてもらったヒカリは嬉しそうに笑った。

「それにしても手際がいいわね。 私も救助隊に入ってからは上手くなったつもりだけど村長さんと比べると全然だわ」
「こんな何もない村の村長をやっていると自然と身に付く技術だぬ。 おかげでワシの庭は木の実畑になりかかっているだぬよ~。 本当は縁側でお茶を飲みながら、綺麗に咲く花をみて、ぬぼーとするために用意した花壇だったんだぬが……」

そう庭に向けて視線を向けつつ話すアスタ村長の表情は少し悲しそうだった。

「木の実をたくさん育てているということは、さっきヒカリに使った薬やエイパムを治療するのに使用した薬は、畑で収穫した木の実で作っているんですか?」
「う~ん。 畑じゃなくて花壇だぬが……まあ、そうだぬ。 さっき使ったのはこのチーゴの実をすりつぶした物にラムの実を少し混ぜて作った塗り薬だぬ」

青い色をしたチーゴの実と黄緑色のラム実をとり出して見せてくるアスタ村長。
ハルキは木の実を手に取り、どんなものかまじまじ見てみる。
どれも人間の世界で見たことのない木の実なので、ついつい興味が向いてしまうのは仕方ないだろう。
受け取った二つの木の実はどちらも美味しそうではあるが結構固い。
これをすりつぶして薬にするのは相当大変な気がする。

「村長さん、1つ質問してもいいかしら?」
「だぬ」
「どんな状態異常にも効果があるラムの実はわかるけど、やけどにしか効果がないチーゴの実を使ったのはなぜ? ラムの実だけ配合した薬でも良かったと私は思うのだけど」
「ん~っ、ヒカリの怪我は見たところ強い打撃による軽度の打撲だぬ。 さっきヌシから聞いたお尋ね者と戦っているという話から推測するに、怪我をしてからそんなに時間は経ってないだぬ。 なら、まずは冷やしたほうがいいだぬからチーゴの実を中心にラムの実を少し混ぜた薬にしただぬ。 それに、ラムの実は結構稀少だぬからそんなに使えないだぬよ~」
「なるほど。 チーゴの実ってそんな風にもつかえたのね。 ありがとうございます。 勉強になりました」

リルがお礼を言っているなか、ハルキはすごく驚いていた。
なぜなら今、アスタ村長が話した説明は人間の世界での打撲の対処方法にとても近かったからだ。

「あの、アスタ村長」
「アスタか村長でいいだぬよ~」
「じゃあ、アスタさん。 その対処方法ってアスタさんが考えたんですか?」
「ん~? この対処方法は代々ワシの先祖から受け継いでいるものだぬ。 ワシが考えたわけじゃないだぬよ~」

代々受け継いでいるということは長い年月をかけて磨かれた技術ということだ。
どこかの世代で怪我について研究した世代があったのかもしれない。

「村長さん、ちょっとお話があるのですが」
「わかっただぬ。 それで…………」

2人が何やら別件の話をし始めたので邪魔にならないようにその場から少し離れることにした。
そういえば、さっきからヒカリがやけに静かだ。
先ほど手当てをしてもらってご機嫌だったヒカリを探すとエイパムが寝ているベッドの横で静かな寝息をたてている黄色い後ろ姿を見つけた。
僕らが駆けつけるまで1匹ひとりで戦っていたし相当疲れていたんだろうな。

「ふあぁぁ……」

ヒカリの穏やかな寝顔を見ていたら、ハルキもついついあくびが出てしまった。
しかし、ここでハルキも寝たらミイラ取りがミイラになってしまう。
何とか起きてようとするハルキだが、だんだんその瞼は重くなりついには隣で一緒に寝てしまった。

「スゥー、スゥー……」
「あらら、2匹とも寝てしまったみたいね」
「今日は色んなことがあっただぬからね~。 このままだと風邪をひくだぬから何かかけるものを持ってくるだぬ」

部屋の奥から、アスタは少し大きめのタオルケットを持ってくるとハルキとヒカリにかけてあげた。

「それにしても、こんな小さな子達がお尋ね者に立ち向かって無事に帰ってこれて本当に良かったわ」
「ヌシが思っているほど子供達は弱くはないだぬよ。 ヌシもこっちに来て少し休んだ方がいいだぬ。 お茶飲むだぬ?」
「え、えぇ。 いただきます」

アスタはいつの間にか縁側に座って湯飲みにお茶を注いでいた。
ついさきほど、タオルケットをかけていたと思ったらすぐにお茶を注いでいるその手際の良さに少し驚きながらも、リルはアスタの隣に腰をかける。
暖かい緑茶が注がれた湯飲みを両手で持ち、一口飲むとなんだかホッとした。

「戦闘こそしてないだぬがヌシも相当疲れているだぬ」
「いえ、私はそんなに……」
「ワシが言っているのは精神的な疲れのほうだぬ。 表情を見ればわかるだぬ。 心配なのはわかるだぬが少しは信じてあげることも大事だぬ」
「フフッ、やっぱり心構えが違いますね……伊達にGODの異名を轟かせていたわけではないですね」
「その呼び方は止めてほしいだぬよ。 もうずいぶん昔の話だぬ。 それに今のワシは田舎の村にいるしがないただの村長だぬ」
「それは失礼しました。 でも、村長さんは心配じゃないんですか? こんな小さな子達が危険な目に合っていると知っていても……」

リルはエイパムをここに運び込んできたことを思い出す。
あの時、アスタは驚きながらも冷静に話を聞いてくれて、すぐに最良の治療をエイパムに行った。
手当てが終わった後、ハルキ達が戦っていると話した際、アスタは慌てる素振りを一切見せずリルに優しく声をかけてくれた。

「なら、ワシらができることは帰ってきた時に、このエイパムが無事な姿を見せられるよう看病することだぬ」

なんの迷いもなくそう言いきったアスタ。
今までザントと一緒に前線で戦っていたリルは今回、始めて待つ立場になった。
同じチームのザントは口こそ悪いが心優しい大切な相棒だ。
ザントの腕を信用していないわけではない。
けど、自分の知らないところで狂暴なお尋ね者を前に子供達を守りながら果たして大丈夫なのか?
子供達を庇ってひどい怪我をしていないか?
そんな事ばかり考えて結局、村長さんに看病を任せて村の入り口で1匹ひとりそわそわして待つことしかできなかった。

「心配することは別に悪いことじゃないだぬ。 ワシだってヌシの相棒とこの子達を信じていただぬが、心配なものは心配だっただぬ。 ただ、待っている側は待っている側にしかできないことがあるだぬ」
「待っている側にしかできないこと……ですか?」
「今回みたいに傷ついたポケモンを治療して、看病することは待っている側にしかできないことだぬ」
「確かにそうですね。 でも、私は村の入り口でそわそわしていただけで、何にもできなかった……」
「そんなことないだぬ。 ヌシは待っている側がやるべき1番大切な事をしてくれただぬよ~」
「え?」
「それは出迎えることだぬ。 戻ってきた者達に帰る場所を用意しておくことが待っている側がする1番大切なことだぬ。 当たり前だと思っている事こそが本当に大切なものだぬ。あの子も『何もない穏やかな日常こそが一番大事だよ~!』とよく言っていただぬから」

アスタは気持ち良さそうに寝ているヒカリを一瞥し、ニッコリ笑った。

「……そうですね。 今日、始めて待っている側の気持ちを体験できたのはよかったかもしれません。 こうして、今の気持ちを知ることが出来ましたから。 ……村長さん、ありがとうございました」
「だぬ~。 わざわざ、お礼を言われるような事を言った覚えはないだぬから顔を上げて欲しいだぬ。 ほら、気持ちのいい風が吹いてるだぬよ~」

言われて、ふと顔を上げると心地よい風が吹いた。
風は庭の木々や花壇に咲く、青い花達を静かに揺らし、あっという間に過ぎ去っていく。
風が通りすぎた後、リルはさっきまでの不安そうな気持はすでになくなっており、どこかスッキリとした気持ちになっていた。
もしかしたら、風が不安を吹き飛ばしてくれたのかもしれないと、リルは穏やかにほほ笑んだ。
当初はこんなしんみりする話にするつもりなかったんですけど、自然としんみりする会話になってしまいました(^_^;)

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