6-7 黒坤の戦い

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:14分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 僕達が保護したサザンドラは、ランベルさんが言うには“エアリシア”の副親方らしい。
 その人の話によると、“エアリシア”はテロリストに占領されていて、沢山の人が奴隷として捕らわれているらしい。
 おまけにその首謀者は市長らしく、今回彼は命令で無理矢理連れて来させられたんだとか…。
 彼の首に着けられている鎖の話も聞き、僕達はあまりのことに戦慄してしまった。

 [Side Miu]




 「…いや、“ルノウィリア”の恐ろしさを思い知る事だな! 」
 『ミウさん、作戦を変えるわ! だから私の言う通りに戦って』
 「ふぉっフォス? それってどういう意…」
 『言ったそのままの意味よ! その都度私が指示するから…! 』
 「“太陽”のくせに図に乗るな! フォス、殺れ! 」
 『ミウさん! 』
 『…分かったわ』
 



――――




 [Side Ratwel]




 「ねぇラテ? もしかしてあれがそうなの? 」
 「うん」
 「それにしても、凄く殺風景な場所でしゅね」
 前にも一回来てるけど、本当に何も無いよね、ここって…。“エアリシア”の副親方を保護した僕達は、彼の様子を見ながら進む。一応ダンジョンは抜けていたけど、つきあたりの祭壇まで行かないと脱出機能が使えない。サザンドラさん自身は大分弱ってはいるけど、シルクの回復薬が効いてきているからなのか、ほんの少し元気を取り戻してきているような気がする。ランベルさんが肩を貸してるような状態だけど、彼は辛うじて浮き上がれるようにはなっていた。
 それであの場所から十分ぐらいかけて歩いたら、僕達五人は開けた空間に抜けることが出来た。改めて見ると本当に広い部屋みたいになっていて、黒い土壁に根が至る所に張り巡らされている。ダンジョンじゃないから体力を吸い取られる事は無いと思うけど、やっぱり生理的に受け付けない…。部屋の真ん中にボロボロの祭壇がぽつんとたたずんでいるけど、気分が優れないせいか小さく頷くことしか出来無かった。
 「祠みたいな物もあるし、ココで間違いなさそうだね」
 「そのはずです。“黒坤の祭壇”って言うみたいですけど、長い間手入れがされてないみたいですね」
 「ここに来るまでの道があんな感じだったから、仕方ないんじゃない? 」
 環境が環境だからね…。いつぐらいにダンジョン化したのかは分からないけど、何十年も経ってるのかもしれないね。黒い祠に目をやったランベルさんは、僕達の方に振り返ってから呟く。イグレクさんが祭壇が目印だ、って言ってたから、ランベルさんの言う通りここで合ってるんだと思う。黒く塗られた木材で組まれているけど、所々腐敗して崩れ落ちてしまっている。僕達は予め聞いてて知ってるけど、何も言われなければ廃材置き場、って思ってしまうかもしれない。その位壊れてしまっていて、本当に何も無いって言う感じだった。
 「そうでしゅよね。…サザンドラしゃん、端の方で休んでいてくだしゃい」
 「そうさせて…、もらうとするか…」
 「ソーフちゃん、サンドラさんを頼んだよ」
 「はいでしゅ」
 もしサザンドラさんに何かあっても、ソーフが近くにいてくれるから大丈夫だね、きっと。ふらふらの状態のサザンドラさんに、ソーフは見上げて声をかける。すると彼はランベルさんの側から離れ、小さく会釈してからゆっくりと飛んでいく。それをソーフが追いかけていったから、多分向こうはひとまず大丈夫だと思う。すぐにでも脱出するのが一番だけど、“ビースト”次第でどうなるか分からないから、念のため残ってもらうことにしている。
 「ええっと…、ランベルさん? あそこに浮いてる渦がそう? 」
 「渦? あんな所にあったっけ? 」
 「無かったけど…、多分あれが“空現の穴”だね」
 “捌白の丘陵”にも同じ渦があったから、間違いないね。ベリーに言われるまで気づかなかったけど、祭壇の真上ぐらいに白い渦が一つ漂っている。周りが黒いせいなのか、余計に渦が浮き出て見えるような気がする。前見た時よりもハッキリ見えたから、ランベルさんに言われなくても“空現の穴”って気づくことが出来た。そうなるとあとは“ビースト”だけだけど、辺りを見渡してそれらしい生き物はどこにもいなかった。
 「だけどどこにもいないね。もしかして、誰かが先に来て倒したとか…」
 「それは無いんじゃないかな? “ビースト”を倒さないと、“空現の穴”は消滅しない、ってイグレクさんが言っ…」
 もしそうなら、サザンドラさん達を捕まえてたっていうテロリストの可能性が高いけど…。ベリーも見つけられなかったらしく、首をかしげながら僕に訊いてくる。すでに倒された、っていうのは的外れな気がするけど、そう言ってもよさそうなぐらい静まり返ってる…。ランベルさん達の時はどうだったか分からないけど、僕達が“捌白の丘陵”で初めて見た時は、既にその場所に“ビースト”がいた。ハイドさんが着いた時はどうだったのかは聞きそびれたけど、“空げ…”…。
 「<big>ヒャーハァァーッ!</big> 」
 「えっ…、守るっくぅっ…! 」
 「ラツェル君! 熱っ」
 いっ、いきなり? イグレクさんが言っていた、僕はそう口に出そうとしたけど、それは叶わなかった。どこからか狂気に満ちた声が響き渡り、僕の声をかき消す。かと思うといきなり白い渦から炎が放たれ、真っ直ぐ僕の方に飛んでくる…。咄嗟に緑のシールドを出現させたけど、あっけなく破壊され、僕は反動で弾き飛ばされてしまった。
 奇襲は僕だけでは収まらず、一番近くにいたランベルさんにも飛び火する。シールドで受けた感じだと弾ける炎だと思うけど、散った火花がランベルさんにも降りかかっていた。
 「ラテ、大丈夫? 」
 「うん! それよりもベリー! 」
 「わかってる、あれが“ビースト”だよね? 」
 「ゥヒャヒャヒャヒャ! 」
 「雷パンチ! そうみたいだね」
 直撃は避けたけど、気味が悪いね…。反動から立ち直ってから起き上がり、僕は炎が放たれた正面を見る。すると黒い廃材の上に、見たことのない種族が堂々と佇んでいる…。ぱっと見の第一印象はカラフルで、で道化師のような出で立ち。白くて丸い頭らしい部位には、濃桃色と濃い水色のドットと星みたいな模様がある。体つきは細くて、同じ二色と黄色、白で構成されている。見た目では属性は分からないけど、少なくとも炎タイプは持っていると思う。
 見たことがない種族だから、僕、多分ベリーとランベルさんも、それだけであの生き物が“ビースト”だって確信する。念のための確認って事でベリーが訊いてきたけど、それに答えるよりも早く、道化師が動きを見せる。手元に暗紫色のオーラを纏わせ、直近のランベルさんとの距離を一気に詰める。これにランベルさんも電気の拳で応戦し、シャドークローっぽい斬撃を受け流していた。
 「ラテ、ランベルさん! どんな風に戦う? 火炎放射! 」
 「僕とベリーちゃんで前に出る。ラツェル君は遠距離からのサポートをお願い! 」
 「はい! それとベリー、いつも通り技を探って! 真空斬り! 」
 「うん! 」
 「シグナルビーム! 」
 ランベルさんも接近戦が得意みたいだから、この陣形で良さそうだね? 道化師がのけ反っている間に、僕達は短い言葉で作戦会議…。ベリーは時計回りに走りながらエネルギーを蓄え、炎のブレスとして放出する。牽制のつもりだと思うけど、狙いはもちろん中心の道化師。正確に相手の胴を捉え、じわじわとダメージを与えてくれている。この間にランベルさんは怯みから立ち直り、反時計回りに駆けながら接近。多分道中での戦い方を思い出しながら、年下の僕達に指示を飛ばしてくれる。そんな二人の後を追うようにして、僕も相手から十五メートルの位置を陣取る。パートナーに補足で指示を出してから、エネルギーを集中させた右前足を振り上げる。同じタイミングでランベルさんも技を発動させ、三人同時に攻撃を仕掛けた。
 「グフフフフ…、ヒャーハァーッ! 」
 「えっ…きゃぁぁっ! 」
 「くぅっ…! 」
 「ベリー! ランベ…っ! 」
 なっ、何? あの技…。順調にダメージを与えていたけど、流石にそうは上手くいかない。今更気づいたけど、攻撃されても動かなかったのは、技の準備をしていたから…。気味の悪い高笑いをあげたかと思うと、溜めていたらしいエネルギーを一気に解放する。離れた場所にいるから分かったけど、色とりどりの炎が辺り一帯に放たれ、ベリーの炎、ランベルさんの光線を容易く撥ね除ける。爆ぜるようにして広がる炎はそれだけでは飽き足らず、距離を詰め始めたワカシャモとデンリュウ、離れた位置にいるブラッキーにも容赦なく降り注いだ。
 「ベリー、ランベルさん、大丈夫ですか? 」
 「僕は何とか…」
 「ちょっとキツい…、かな…」
 僕は大丈夫だったけど、二人とも厳しそうだね…。相手から五メートルぐらいの距離にいたって事もあって、ベリーとランベルさん、二人とも膝をついてしまっている。パッと見炎タイプだと思うけど、同じ属性のベリーでもこうなるって事は、“ビースト”の主力の技なのかもしれない。マスターランクのランベルさんも苦痛の色を浮かべているから、技自体の威力も相当だと思う。ランベルさんは膝に手をついて立ち上がったけど、ベリーはそうじゃなさそう…。
 「そうですか…。…だけど無事じゃないのは、向こうも同じみたいですよ。シャドーボール! 」
 「ヒャハッ…? 」
 もしかしてさっきの技、反動が大きいのかもしれないね。それなら…。敵の目の前でこんな状態になってるから、僕はすぐに二人の救出に向かう。このチャンスに道化師がすぐに攻めてくるかと思ったけど、僕の予想に反してそれは無かった。寧ろベリー達と似たような感じで、足取りがおぼつかない様子…。漆黒の球体を放ちながら距離を詰めたけど、かわしきれずに三発ぐらいが命中していた。
 「同じって…」
 「そうとは言い切れないけど、ギガインパクトみたいに反動がある技なのかもしれません」
 「そんな感じは無いから…、ただダメージが入っただけ…、じゃないかな? 」
 「ヒャーッハァー…! 」
 「守る! 分からないけど…、僕の言う通りに動いてくれますか? 」
 「って事はラツェル君…、何か良い案があるんだね…? 」
 「はい! まず…」
 賭けだけど…。僕はふとあることを思いつき、フラフラの二人に話しかける。思いついた作戦で勝てるとは限らないけど、ランベルさんとベリーがここまで追い込まれたんだから、試す価値はあると思う。だから僕は斬りかかってきた相手の攻撃をシールドで防ぎながら、二人にあることを伝える…。
 「…うん」
 「僕も…、それに賭けてみるよ…」
 「お願いします」
 背中で二人の同意を聞きながら、僕は道化師の連撃を防ぎ続けた。
 「じゃあ、いきますよ! 黒い眼差し! 」
 「ッ? 」
 「うん…! 」
 「…逆鱗! 」
 上手くいくか分からないけど、やるしかないね。シャドークローらしき技を防ぎ続けている僕は、緑色のシールドを維持したままかけ声をあげる。僕の守るは特殊技には弱いから、さっきの技は耐えられないと思う。その分物理技に対する耐性は高いから、多少無理に発動させても耐えることは出来る。だから即行で技を切り替え、エネルギーを変換した鋭い眼差しを道化師に向けた。
 するとあれだけ勢いの乗っていた相手の動きが、嘘みたいにピタリと止まる。その分僕自身も目が離せなくなるけど、その間にバックステップでスペースと開ける。その場所にランベルさんが駆け込み、拳と尻尾と蹴り…、立て続けに身動きの取れない道化師にダメージを与えていく…。
 「ッヒャァーッ…ハァー…ッ! 」
 「シャドーボール連射! ベリー! 」
 「うん…! オウム返し…」
 …きたね。流石にマズいと感じたのか、道化師は膨大なエネルギーを溜め始める。一回見てる動きだから分かったけど、多分この道化師は、さっきの技をもう一回発動させるつもりなんだと思う。このままだと全滅しかねないけど、僕はこの技が来るのをずっと待っていた。漆黒の弾を連続で撃ちだしながら、作戦の(かなめ)のベリーに合図を送る。その瞬間相手から色とりどりの炎が放たれ、僕達三人に遅いかかってくる…。だけど予め放っておいた漆黒の球体群をぶつかり、その勢力を弱めていた。頃合いを見てランベルさんも退いてくれたから…。
 「何ていう技か分からないけど…、これで…! 」
 ベリーも相手の技をコピーし、その通りに発動させる。するとベリーの手元にエネルギー体が集まり、それが様々な色に変化し始める。多分流れ込んできたイメージ通りに放つと、それが弾け、コピー元と同じように飛散していった。
 「ヒャッ…? 」
 ベリーの手前、八メートルぐらいの位置でぶつかったけど、僕のシャドーボールで弱めていたって事もあって、道化師のソレが打ち負ける。流石にベリーの方も勢いが弱まったけど…。
 「ッハァァァァッ…! 」
 それでも道化師の身体を焦がしていく。
 「これで決める! シャドーボール! 」
 そこへ僕が駆け込み、特大の漆黒球を一発解き放つ。十メートルぐらいの近い位置からの攻撃だったけど、堪えていたらしく相手はかわそうとしない。
 「ッアアァァァッ…」
 「…倒せた…? 」
 派手な衝撃音と共に命中し、道化師は耐えきれずに崩れ落ちていた。




――――




 [Side Chatlea]




 『…あなた達にも容赦はしないわ! 』

 (…ハク、お願いだから、ここは退いて! )

 …あれ?

 『死にたくなかったら…』

 (あなただけは傷つけたくない…。だからお願い、言うことを聞いて! )

 このエーフィ、言ってることと思ってること、逆じゃない?

 『部外者のあなた達はすぐに立ち去る事ね』

 (こんな事言いたくないのに…。…でもあの二人がこの事を知ったら…、いくらハクでも…)

 もしかしてこのエーフィ、ハクさんと知り合い、なのかな? 何か凄く訳がありそうだけど…。それに二人って、誰のことを言ってるんだろう…?

 「…いくらシルクでも“リナリテア家”の問題に首を突っ込むのは許さへん…。シルクがその気なら、ウチもタダじゃ済まさへんで! 」

 (ハクが“リナリテア家”の長女、って事は知ってる。…だから、だからこそ、あなたには無事でいてほしいのよ! )

 うーん…、やっぱり分からない。本当に、何でだろう…?




  続く……

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想