この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
エルオルとの戦いから一月経ち、ルト達は久々にエルディムのミラウェル支部へと戻っていた。協力してくれたニンフィアとクチートは戦いから一週間ほどでレプテルアへと帰り、ルカリオとサーナイトも準備をするとの事でつい数日前に何処かへと向かった。
その時、ルカリオから支部へと戻って待機するよう言われていたのだ。
「んー、久々だナ」
「ええ。…ヴォルフさんとか元気ですかね?」
シャルとミリアンの話に、ルトは笑って頷いた。
「…どうやら、元気みたいだな」
ルトが見つめる先には、ヴォルフとシルフィがいた。ルト達を見て、こちらへと走ってくる。
「よう、ルト隊。無事だったみてぇだな?」
「久しぶりだな、ヴォルフ隊。変わりはないか?」
「あぁ。…いや、俺たちは少し変わったか」
「だね!」
ヴォルフとシルフィは顔を合わせ、ニコニコと笑みを浮かべる。ルトは不思議そうに首を傾げていると…またしても懐かしい顔がヴォルフ隊の後ろから現れた。思わず、ルト隊は驚いた。
「…ん。ルト達。久しぶり、だね」
「バネッサ!?体は大丈夫なのか?」
「うん。お陰さまで」
現れたのはバネッサ。大怪我を負い、治療を受けていたバネッサが今は元気そうにしていたのだ。
心の傷も浅くはない。それだというのに、以前よりも雰囲気が少し明るくなっていた。
「…その、本当に大丈夫か?傷はともかく」
「ラピの事だね。確かにまだ、忘れることは出来ないよ。…でもね」
バネッサは顔をあげ、ルトの瞳を真っ直ぐに見詰めた。
「もう、逃げないって決めたんだ。私の為、そしてラピの為に…ね」
「…そうか。ならもう聞かないよ。…で。なんでヴォルフと一緒にいるんだ?」
「それはな、ルト」
そこにヴォルフが前に出て、バネッサと共に並んだ。
「バネッサは俺達、ヴォルフ隊に入ったからだ」
「なっ!?バネッサ、が…?」
「…うん。意外?」
驚く三人に、バネッサは微笑を浮かべた。
「意外っつーか…合わねぇだろ…。大人しいバネッサと、荒くれ者のヴォルフだぜ?シルフィはともかくヨ…」
「ええ…。ヴォルフさんに振り回されて、胃に穴とか空いてません?バネッサさん」
「お前ら…俺をバカにしてんだろ!振り回してなんかねーよ!」
「あははは!…お兄ちゃん、荒くれ者だと思われてたんだ?」
大笑いするシルフィに、ヴォルフは怪訝そうな顔になっていた。
空気を変える為、ヴォルフはわざとらしく咳をする。
「…で?ルト隊はなんで戻ってきたんだ?ルカリオとかと行動してたんだろ?」
「あぁ。そのルカリオさんに言われたんだ。ミラウェルに来てくれってさ」
「ふーん、そういう事か。…俺も手伝いたい、と言いたいところだが…今のミラウェルは猫の手も借りたいほどに忙しい。中級ですらほぼ毎日あちこちに駆り出される状況だからな。今からも任務だ」
「そうか…」
申し訳なさそうな表情をするルトに、バネッサは言う。
「…そんな顔をしないで?ルト達が皆の為にディザスタと戦ってるのは知ってるよ。アンノウンを倒すのも、ディザスタと戦うのも、どっちも必要な事なんだ。役割分担をしてるだけだよ」
「そういうこった。オメーらは思う存分全力でディザスタをぶっつぶしゃーいい。…じゃ、俺らは行くぜ」
「またねー!」
ヴォルフ達は言いたいことを言い、目的地へと走っていった。
「ああ!頑張ろう!」
ルトはヴォルフ隊に声をかけ、ヴォルフは振り返って頷き、また走っていった。
「…頑張らないとですね?」
「おうよ。負けてられんナ」
「だな」
ルト達は決意を新たに、一度部屋へと戻った。
………
部屋でくつろいでいると、コンコンとノックの音が響いた。ルトは立ち上がりドアの前へと行く。
「はい!どちら様…」
「俺だ。ガブリアスだ」
「ガ…!?い、今開けます!」
ガブリアスの名に驚き、ドアを開けて少し下がる。そして、巨体が上に当たらぬよう屈みながら部屋へと入ってきた。
「ガブリアスさん、何の御用ですか?」
「ルカリオからこの支部へと来るよう言われているだろう?今から大事な話がある。ディザスタと戦うと決めた以上、お前たちにも来てもらうぞ」
「何処へ?」
シャルが質問し、ガブリアスは答えた。
「支部長室、だ」
………
「…お、来たか。待ってたぜ」
「ルカリオさん!それに…」
支部長室へガブリアスと共に訪れると、そこにはルカリオ、サーナイト、バシャーモ、ガイラルがいた。あまりに凄いメンバーに、ルトは緊張する。
それを見抜かれたのか、バシャーモは愉快そうに笑う。
「はっは、そう緊張すんなよルト。同じ志を持つ仲間だろ?気ィ抜けよ」
「そ、そう言われましても…はは」
ルトは苦笑いを溢す。
「さて、あとはアイツらか。…正直、こんなにメンバーがいるのかって気はするがな」
「いえいえバシャーモさん。…これから向かう場所は、何が起こるか分かりませんし。それに、協力をしてもらうには各地の代表が揃っていないとです」
「それもそうか…」
バシャーモとサーナイトの話に、ミリアンは疑問を浮かべた。
「あの、これから何を…?」
それに、ガイラルが答えた。
「ま、メンバーが全員揃ったら答えるさ。…噂をすれば。来たぞ」
ルト達は振り向くと、エレベーターから何人ものポケモンが現れた。そのメンバーは…
「久しいな、キリキザン」
「ああ。…今はガブリアスが支部長だったか」
まず、【キリキザン】。ティソーヴォ支部長であり、バトラー第一席。そして、最強と名高いベルセルクの一番弟子だった男。その後ろからは
「ガブリアスは真面目だからねぇ。ガイラルよか合ってんじゃないかい?」
「おいおい、言ってくれるぜアーリア。ったく…」
アーリア。【アーリア・ジャロス】。王族であり、レプテルア支部の情報管理をしているポケモン。
━━聞いた話によれば元はミロカロスや現、神殺しと争っていた敵だったとか。昔と性格は変わったらしいが…今や知るよしもないな。
そしてそのアーリアの後ろから、最強の男が現れた。
「…懐かしいメンバーだ。昔を思い出す。そして…ルト隊とやらはお前たちか。…成る程、良い眼をしている」
【ベルセルク・エーネル】。バトラー第二席であり、レプテルア支部の神兵。支部長ではないが、その実力は正に最強。ガブリアスやガイラルでさえ凌ぐという実力者だ。
ルト達の目の前まで来て、一人一人の顔を見ていく。ルトは、先程以上に緊張した。
「…フ。若いな。…ヤイバ隊と同い歳か?」
「え、あ、はい…ミリアンは一つ下ですが。…しかし、ベルセルクさんは何故ヤイバの事を知っているんですか?」
「ああ、それは━」
「━━直接、鍛えて頂いたからな」
懐かしい声が聞こえ、ルトはベルセルクの後ろへと回り込む。そこには、ヤイバとルーナが立っていた。
「ヤイバ!ルーナ!」
「久しいなルト達。…約束通り、力を貸しに来た。これから先、共に歩もう」
「私もね。パワーアップした私達を見せてあげる!」
「ありがとう、二人とも!」
再会を喜ぶルト隊とヤイバ隊を見てガイラルは微笑み、ガブリアスが咳をして全員の視線を集めた。
「…我々が今から向かう場所。それは…もう一人の創造神の元だ」
「創造神…アルセウスとは別のですか?」
ミリアンが質問すると、ガブリアスは頷いた。
「そうだ。…この世界を裏側から見ている者。あれほどの争いがあっても手出しはしてこなかった神。…だが、ディザスタの居場所を知っていてもおかしくないただ一人の存在だ」
「ちょっかいなら出されたけどな…」
「気まぐれだろう、ガイラル。…そのポケモンに我々は協力を仰ぎに向かう。最悪、戦闘する事になるかもな」
「そのポケモンって…まさか…」
ルトの言葉に、ガブリアスは真剣な表情のまま頷いた。
「━━反転世界の王…『ギラティナ』だ」
キリキザン
ティソーヴォ支部長であり、バトラー第一席の男。階級は当然ながら神兵。
アルセウスとの戦いで、ガイラル達と共に戦ったポケモン。ベルセルクの弟子であり、敵だった頃のベルセルクと戦って最も善戦した強者。バトラーの席は基本実力が高いほど数字が減るのだが…ベルセルクの要望でキリキザンは第一席になっている。