漆参 技と術

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 ギルドのロビーで適当に時間を潰していたぼく達は、そこでマフォクシーのティルさんと再会する。
 一緒にミナヅキさんもいたけど、彼は捕まって監視されている状態らしい。
 それで“漆赤の砂丘”の時に聞きそびれた事を聞いて後、ティルさんがこれからする事を教えてくれる。
 これといってすることが無かったから、ぼくとシオンちゃんもティルさん達について行くことにした。
 [Side Kinot]




 「りっ、理性が無いだと? 」
 「はい。千九百年前の戦争の影響みたいなんですけど、その少し後から出るようになったみたいなんです」
 ダンジョンも同じぐらいから出来たみたいだから、相当大きな戦争だったみたいだね…。“アクトアタウン”のギルドを出たぼく達四人は、色んな事を話しながら目的地、“実りの森”に向かった。街からあまり離れてないからすぐに着いたんだけど、話の内容の殆どがダンジョンの事。ミナヅキさんの反応を見た感じだと、“月の次元”にはダンジョンが一つも無いのかもしれない。今野生の事を歴史を交えて話したんだけど、ミナヅキさんだけじゃなくてシオンちゃん、ティルさんも凄く驚いていた。
 「フライ君達から聞いてはいたけど、改めて聞くと心が痛いね」
 「そうだよね」
 「俺はそんな世界しか知らねぇが、お世辞にも良いとは言えねぇな。…しかしいくら“太陽”が平和と言っても、危険地帯が多いのは驚きだな。戦でもねぇのに組み合わねぇといけないとは、少々億劫だな」
 「ぼくもこういう世界しか知りませんから」
 “月の次元”はぼく達の方を対になる世界、ってソレイルさんが言ってたけど、こんなにも違うんだね。
 「確かにな」
 「うん。だけどわた…」
 「ゥガァーッ」
 「っと、噂をすれば影が差す、ってやつかな? 」
 「あっ、あれが…か? 」
 よく考えたら、ここにいる四人とも住んでる世界が違うんだよね? 話が千何年も昔のことになったところで、ぼくはふとこんな事を思う。ぼくはこの世界の出身だけど、ティルさんは五千年も昔の世界で、シオンちゃんに至ってはティルさんの時代の別世界の出身。おまけにミナヅキさんはぼくの時代の別世界だから、絶対に出会う事が無い四人が一つの場所に集まっている事になる。あり得ない事が起きすぎて、感覚がおかしくなってるけど…。
 それで話の流れでシオンちゃんが何かを言おうとしていたけど、遮るようにして一つの咆哮が聞こえてくる。声の大きさからするとまだ少し距離があると思うけど、いち早く気づいたティルさんが、ぼく達三人に注意を促してくれる。この時ようやく目視出来たんだけど、三十メートルぐらい先に二つの影…。小さい種族だから少し見にくかったけど、あれは多分フシデとナゾノクサ。戦闘になりそうだから、ぼくは体制を低くして身構えた。
 「そうだよ。折角だから…、キノト君、ミナヅキさんと戦ってくれる? 」
 「ミナヅキさんとですか? 」
 「ハァっ? 俺が? 」
 「シリウスさんから頼まれててね、“月の次元”の戦法とか…、そういうのを確認したくてね」
 …あっ、そっか! ミナヅキさんって一人で“漆赤の砂丘”を突破してたから、普通に戦えそうだもんね。まだ少し距離があるから、その間にティルさんはぼく達に頼んでくる。ミナヅキさんは意外そうに声をあげていたけど、ぼくは戦うつもりだったから大きく頷く。相手の相性は草と虫で良いとは言えないけど、確か“実りの森”はブロンズレベルの筈だから、岩タイプのぼく達でも何とかなると思う。
 「そうか…。俺は護身程度しか出来ねぇが、やるしかねぇか。キノト、お前はどの類いの術が使える? 」
 「術…? 技の事ですね? 」
 確か“月界の神殿”に行ったとき、ちょっとだけルーンさんから聞いたっけ?
 「ぼくは噛みつくと遠吠え、それから岩落としと、多分アクセルロックが使えると思います」
 発動させた事無いけど、姉さんが進化したら出来るようになる、って言ってたから、ぼくにも出来そうだよね、多分…。
 「…何なのか検討もつかねぇが、俺は避術、迎術、爪術を心得てるつもりだ」
 ぼくも何なのか分からないけど…、これから分かるよね? 意を決したように呟くミナヅキさんは、ぼくを見下ろして聞いてくる。術、っていうのは技の事だと思うから、ぼくは正面から視線をそらさずに答える。すると多分ミナヅキさんは首をかしげていると思うけど、間を開けずに“太陽の次元”でいう技を短く教えてくれる。テフラさんが使ってた技はぼく達の方と全然違ったから、ちょっと楽しみ、って思ってるのはここだけの話だけど…。
 「ぼくも同じですね…じゃあミナヅキさん、いきますよ! 」
 「言われなくともそのつもりだ」
 「ガアァーッ! 」
 話している間にも十メートルぐらいまで迫られているから、ぼくは一度隣のミナヅキさんをチラッと見上げる。喉にエネルギーを溜めてから解放し、それを声に乗せる事で士気を高める。同時に四肢に力を込め、先陣を切って駆けだした。
 「出来るか分からないけど…」
 ものは試しだね? ミナヅキさんの前を駆けるぼくは、正面を見据えたままイメージを膨らませる。全速力で駆け抜ける感覚を体中に行き渡らせ、そこに堅く乾いた何かも添えていく…。
 「…いける! 」
 するとぼくの想像力にエネルギーが共鳴し、そのレベルが次第に高まっていく。自然とその光景も頭の中に浮かんできたから…。
 「…アクセルロック! 」
 その通りに力を解放する。するとぼくは一気に走る速度を上げ、六メートル以上ある距離を一歩で突き抜ける。
 「なっ…」
 「ッ…! 」
 頭を低く構えて捨て身で突っ込み、一番近くにいたフシデを派手に吹っ飛ばす。同時に攻撃がヒットした事を表すように、その場所から岩の破片が飛び散っていた。
 「そっその速さは一体何だ? 」
 「技を使った効果です! …岩落とし! 」
 「カッ…? 」
 「魔術まで使えるのか? 」
 ぼくは前足から着地すると、立て続けに別の技を発動する。フシデが飛ばされる場所を先読みして、その場所に大きな岩を一つ、三メートルぐらいの高さに出現させる。すると地面に引っ張られるような感じで、設置技の岩塊が急降下…。ぼくの予想通りにフシデが飛ばされてきて、落下する岩に押しつぶされていた。
 「グルルァッ! 」
 「ちっ…」
 「ッ? 」
 横目でミナヅキさんが戦っている方を確認すると、ちょうど彼も戦闘を始めたところだった。ぼくの技に驚いて隙だらけだったけど、流石に唸り声で接近に気づいたみたい。舌打ちを一つついてから、彼は左足だけ一歩退く。ナゾノクサが飛びかかってきたタイミングで、左肩から前に回り込むように、下方向へと体を捻る。
 「ァァッ! 」
 「…だがこのぐらいなら、俺でも何とかなるか」
 そのままの勢いで左手を振り上げ、たてた爪で思いっきり引っ掻く。
 「えっ…」
 だけどミナヅキさんの爪が鋭かったのか、爪の入り方が悪かったのか…、相手の傷口から赤い飛沫が辺りに飛び散る…。
 「理性が無いようだが、これが“月”の戦い方だ」
 「ガァァ…ッ! 」
 切り上げた勢いのまま真上に跳び、空いている右手の爪で大きく振り下ろす。はたき落とされるような感じで、赤く染まりかけたナゾノクサは地面に叩きつけられてしまっていた。
 「ミナヅキさん…」
 「平和な“太陽”にとっては驚くかもしれねぇが、こうでもしねぇと“月”では身を守れん」
 「もしかして…、戦争してるから? 」
 「そうだ。“月”と戦うなら知っておいて損はないと思うが、相手を負傷させ動きを鈍らせる事が戦いの主流だ」
 ぼく…、多分ティルさんもそうだと思うけど、ミナヅキさんの戦い方に言葉を失ってしまう。だけどこれが当たり前なのか、ミナヅキさんは気にとめる事無く手に付いた血を払う。ぱっと見元々人間だったシオンちゃんは平気みたいだけど、そのままの流れでミナヅキさんは淡々と語る…。
 「俺は所詮史学者だからどうって事ねぇが、軍人や手練れとなると、容赦なければ腕の一本や二本、簡単に斬り落としてくる。…一応警告しておくが、戦うなら魔術の類いの方が良いだろう。キノトが魔術を使えるのには流石に驚かされたが…」
 「ええっと…、魔術って特殊技の事ですよね? “月の次元”だと使える人は優遇されるみたいですけど、“太陽の次元”だと、種族にもよりますけど普通に使えるんです」
 「そう…、なのか? 」
 「そうなんです。ぼくの岩落としは物理技なんですけど、ティルさんの火炎放射とかサイコキネシスがそうなります」
 「火炎…? まっ、まさか、炎を出せるのか? 」
 「そんなに驚く事じゃないと思うけど…、火炎放射! 」
 「グァッ? 」
 「種族によって使える技が決まってるけど、自分の属性の技は確実に使えるね」
 「そういうものなのか? 」
 「うん! …だけど一人四種類までしか覚えられないのが残念かな? そうだよね、ティルさん? 」
 「えっ? うん。応用次第では、何とでもなると思うけ…」
 「あっ、そうだ! キノト君もミナヅキさんもルガルガンなんだから、技と術? 両方使えるんじゃないかな? 」
 「…はぁっ? 」
 「えっ? 」




  続く

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