伍参 保安協会代表

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 砂漠の事を聞きながら、僕達は空路でオアセラを目指す。
 砂嵐で視界は悪かったけど、ひとまず街に辿り着くことができた。
 コークさんには保安協会本部の前まで送ってもらい、そこで彼と別れる。
 だけど本部の中で、入れ替わるようにエネコロロのシャトさんと再会することとなった。
 [Side Wolta]



 「…それでウォルタくん、“太陽”に呼ばれて何話してたの? 」
 「うーんと、色々あって話すと長くなるんだけど…」
 貴重な体験をさせてもらえたけど、やっぱり…。保安協会の本部でシャトさんと再会した僕達は、話しながらビルの中を進む。話を聴いたらシャトさんも呼ばれているらしく、僕達と一緒で協会の代表の所に行くところだったらしい。本当は昨日も呼ばれてたみたいだけど、会っている途中で急に明日…、つまり今日に出直してほしい、って言われたみたい。多分その時にソレイルさんから知らせが言ったからだと思うけど、その時は誰がここに来るのかは言われてなかった…。だからさっき会った時、あんなに驚いていたんだとか。
 …それでシャトさんに案内してもらいながら、僕は昨日あった事をシャトさんに話始める。キノトは記憶が抜け落ちてて覚えてないけど、僕は順を追って彼女に話してあげる。そもそもキノトが記憶を失くした原因は僕なんだけど…。
 「…だから、僕達もこっちに来る事になったんだよ」
 「ぼくは覚えてないんだけど、代表に訊けばわかる、って」
 「へぇー。だからウォルタくん達も来たんだね? …さぁ着いたよ。代表、二等保安官のシャトレアです」
 見た感じ、普通の部屋みたいだね。そうこうしている間に、協会の代表がいる部屋の前に来れたらしい。キノトは社会見学みたいな感じでキョロキョロしてたけど、シャトさんが連れてきてくれた四階は、会議室とか仮眠室とかに使ってる、って言ってた。シャトさんも何回か使った事があるみたいで、家に帰るのが面倒な時はそこで泊る事があるんだとか。
 …それで話を元に戻すと、シャトさんは僕達の方に振りかえりながら、その扉を示す。パッと見では内開きの普通の扉で、どこにでもありそうな感じ…。今はウォーグルの姿だから大丈夫だけど、扉の取っ手はキノトでは届かない七十センチぐらいの高さにしかない。その取っ手を頭で押し上げて、一言部屋の中に言ってから押し開けていた。
 「うん、来たな。そのウォーグルは…、ウォルタだな? 」
 「はい。“太陽”の使いで来た、“真実”のウォルタです」
 「それと、弟子のキノトです! 」
 多分この人がそうだね? 見た事ない種族だけど…。先陣を切るシャトさんに続いて、僕達も部屋の中に入る。部屋の中は長机と椅子が何セット、それと大きめのホワイトボードがあるだけで他に何もない。…だけどそこそこ広めの部屋だから、それなりの人数で会議が出来そうな感じがある。今は長机一式は部屋の端の方に寄せてあるけど、その奥の方で一人、僕達の到着を待っていた。声的に彼は予めソレイルさんから聴いていたらしく、名乗る前に僕の名前を言い当てていた。
 「“太陽”様から貴殿の事は訊いている。ウォルタの下に就いて見習いをしているそうだな? 」
 「はい! 何でなりたいって思ったのか覚えてないけど…、兎に角ししょーみたいな考古学者になりたいんです! ええっと、きみは…」
 「“半常席員”って聴いているんですけど…」
 やっぱり、分からない…。四足の種族の彼は、キノトの事まで聴いていたらしい。言い当てられた本人は少し驚いていたけど、それでもどこか嬉しそうな感じはある。弾得るような笑顔で、元気よく返事していた。…だけど僕もそうだけど、キノトも話し相手の彼の種族は分からないらしい。シャトさんはいわゆる部下だから知ってるのかもしれないけど、シャトさんの事だからあまり気にしてないかもしれない。それに対して僕はできれば知っておきたいから、弟子の彼に続くような感じでこう話しかけてみる。“半常席員”だから伝説の種族だとは思うけど…。
 「…俺の種族はイレギュラーな存在だから、存じないのも無理ないか、うん。口上が遅れたが、保安協会、その代表を務める、シルヴァディのサードだ。以後お見知り置きを」
 「シルヴァディ…、って言うんですね? 」
 「何かよく分からないんだけど、特例で“会議”の参加権があるんだって」
 「“会議”に? 」
 「そうだ。俺は手が離せなくて出席出来なかったが、“創造”様から今回の件は聴いている」
 そっ、“創造”? って事は、あの人と同等の人と知り合いって事だよね? 代表の彼は一言付け加えてから、自分の事を話してくれる。イレギュラー、って事にどういう意味があるのか分からないけど、これは伝承に関わることがあるのかもしれない。…だけど今はその事を聞きに来たわけじゃないから、僕はふと湧き出た疑問を頭の奥の方に追いやる。シャトさんが彼、シルヴァディっていう種族のサードさんに関して補足を加える。彼の名前はソレイルさん達から聴いていたから、ここでようやく目的の人物に会えたと実感する事ができた。
 「あたしも昨日初めて聴いたんだけど、一等官が総出で調査してるみたいだからね」
 「調査? 」
 「俺達協会の事だ、“会議”の件とは違うから気にせんでくれ」
 「あっ、はい」
 一等官が、全員で? それって相当マズい事なんじゃあ…。サードさんが言うには僕達とは関係ないみたいだけど、シャトさんより階級が上の人が全員となると、大ごとなのは間違いなさそう。僕が知ってる限りではそんな事今まで無かったから、少なくとも大陸規模、それくらいの大事件を扱ってることになる。シャトさんが言った事は蛇足だったみたいで、キノトが首を傾げた後に無理やり話題を変えていた。
 「代表? ウォルタくんに話さなくて良かったの? 」
 「あの件を話しては事が複雑になる。救助隊連盟からの要請だが…、“太陽”様とは別件だ、うん」
 救助隊連盟から?
 「ぼくたちって、その…、ソレイルさんの事で来たからね」
 「そうですよね。ええっと、ソレイルさんからこういう生き物の事はサードさんに訊けば分かる、って言われたんですけど…」
 結局たらい回しにされたけど、当事者みたいだから今度こそは大丈夫だよね? いまいち納得していなさそうなシャトさんに、サードさんは堂々とした様子で説き伏せる。少ない言葉で言い切っていたけど、協会の代表だからその言葉には凄く力があったような気がした。…それで話題がやっと訊きたかったことに変わったから、僕はキノトがサードさんに訊ねている間に、左右の翼で鞄の中を漁る。言い切るか言い切らないか際どいタイミングで一枚のイラストを取り出し、当事者らしいサードさんに見せてみる事にした。
 「…“ビースト”か、見るのは千三百年ぶりだな、うん」
 「“ビースト”って、何ですか? 」
 「あたしも知らないんだけど、何かおもしろい事なの? 」
 「いいや面白いも何も、いわゆる異界の生物だ、うん。俺達はこれらの生物を殲滅するために創られたのだが、二年百年代から人間達は総じてそう呼んでいたな」
 「にっ、二千百年? だっ、代表って、そんなに前から生きてたの? 」
 「“終焉”までは生かされていたようなものだがな。…俺の話は後日語るとして、確かに俺はこの生物、“カミツルギ”を知っている」
 二千百年…、シルク達の次の時代だね? …でも異界の生物って事は、“陽月の回廊”で襲ってきたあの生き物もそうなのかな? ベリーから預かったイラストを見たサードさんは、懐かしそうに呟く。キノトはそんな彼に首を傾げていたけど、僕はその時点で“ビースト”っていうモノが何なのか何となく想像できていた。シャトさんの考えは的を外れていたと思うけど、サードさんは簡単にイラストの生物の事を教えてくれる。僕達が知ってる時代と近かったからビックリしたけど…。
 「カミツルギ…、それが種族名なんですね? 」
 「そうだ、うん。“ビースト”は“太陽”と“月”、いずれかに“空現の穴”が自然発生した時に出現する、異世界のポケモンだ。未だに俺も何故かは分からないが、“ビースト”を倒せば“空現の穴”も消滅する」
 「“空現の穴”を消すスイッチ…、って感じ? 」
 「うん、そう考えて構わない。二千百年代から今までに四度出現しているが、どの時も必ず九か所。その全てに、“ビースト”が出現している。本来なら“ビースト”キラーとして創られた俺が殲滅すべきなのだが、生憎今は手が離せん…。そこでシャトレア…、いや、“志”、“真実”、貴女ら三名には各出現地点に赴き、“ビースト”を殲滅してもらいたい」
 「三人って…、ぼくも? 」
 「そうだ。“真実”の弟子ならば、それ相応の実力だろう。…うん、八地点の内、オアセラから最も近い“祭壇”は“漆赤の砂丘”か」
 …兎に角、その九か所に行って“ビースト”を倒せばいいんだね? 僕達三人の質問に答えるような感じで、サードさんはこれから僕達がすべき事を話してくれる。“空現の穴”と関係が深いとなると、もしかしたらソレイルさんかルーンさん、どっちかに異常があった時に出現するのかもしれない、僕は率直にこう思った。シャトさんが考えてるみたいに“ビースト”がトリガーになってるなら、僕達がする事は凄く簡単…。ベリー達が言うには異常な強さみたいだけど、九か所、九体の“ビースト”を倒す事になるけど、“空現の穴”と関係してるなら、“月の次元”からの侵入者の事とも関係してくる…。あわよくばどこかで情報が掴めるかもしれないから、僕は思わぬ収穫につい高揚してしまった。
 それでサードさんはキノトの実力を高く見すぎている気がするけど、彼は話しながら徐に紙に何かを書き始める。僕とシャトさん、二人分を一分ぐらいで書き上げると、それぞれを僕達に手渡してくれる。そのメモには、こんな風に書き記されていた。




  1.白坎 裂洞
  2.黒坤 牙壌
  3.青震 氷原×
  4.緑巽 海域
  5.黄央 孤島
  6.白乾 山麓
  7.赤兌 砂丘
  8.白艮 丘陵
  9.紫離 海溝



 「…あれ? 代表、三つ目だけ線で消してあるんだけど、何で? 」
 「本当だ」
 「これは偶然だとは思うが、先日二つのマスターランクのチームによって倒された。探検隊連盟によれば、未開の地の調査時に襲撃され、二名が負傷したものの撃退したそうだ」
 「ええっと確か、片方が水の大陸のチームで、もう片方霧の大陸のチームだったよね? 」
 「でもマスターランクのチームでも怪我した敵と戦うって…、ぼくたちで大丈夫なんですか? 」
 「倒すために色んな所に行くって面白そうだし、何とかなるんじゃない? あたしもウォルタくんも“チカラ”使えるんだから、きっと大丈夫だよ! そうだよね、ウォルタくん? 」
 「えっ、うん」
 ええっと、“漆赤の砂丘”が一番近くてメモには“砂丘”と“赤”って書いてあるから…。…あっ、そっか! これってもしかして、そういう事かもしれない! って事は、ベリー達は“丘陵”だから、僕達は“漆赤の砂丘”を入れて…。




  続く

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