Six-First ルデラの有名人

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 [Side Unknown]



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     号外

    風の大陸 パラムタウン、壊滅する

 昨日昼頃、パラムタウンが何者かによる襲撃をうける。リヴァナビレッジに避難したA氏の話によると、犯人グループは始めに救助隊連盟、ギルドを同時に襲撃し、建屋を破壊したとのこと。町内では奇妙な技を用いる集団が複数目撃されており、保安協会はそれらの一団が犯人グループと考えている。またギルド隊員による避難活動が行われたものの救助隊連盟代表、副代表をはじめとした各役員の行方が分かっていない。家屋などすべての建屋が破壊し尽され、街の再興は絶望的である。現在パラムタウン市民をはじめとした五百参十二百名が死亡、四十二名が行方不明。また同町西部にて、ギルド副親方であるリオリナ氏(25)の死亡が確認された。現在犯人グループの動機の調べが進められているが、保安協会は非常事態宣言の発令を検討している。




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 [Side Haku]




 「…匠、ハク師匠? 」
 「…リル」
 「リオリナさんですか? 」
 「…うん」
 「リオリナさんに限って、やられたって事はないはずですよ。だから…、信じましょう? 」
 「そう…、やんな。あのリオなら…」
 絶対に生きててくれとるはずやんな? 昨日“オアセラ”に行ってたウチとリルは、夕方に泊まった“ラムルタウン”で“パラムタウン”での大事件を知ってしまう。ただでさえ“エアリシア”の事で頭が一杯やから、ウチは言いようのない色々なモノに押しつぶされてしまっとる。家出したとはいえ“エアリシア”がウチの実家ある事は変わりないんやけど、“パラムタウン”は第二の故郷って言っても過言やない街…。家出してからの六年を過ごした街ってのもそうやけど、何よりシリウスとスパダ、リオとの思い出が沢山詰まっとる…。そんな大切な街が壊滅したなんて、ウチは信じられない…。シリウスにとってもそのはずやし、スパーダはもちろん、間接的に関係のあるリルだってそう…。沈み込んどるウチに気をつかってなんか、リルは気丈に振る舞ってくれとるけど…。
 「…何とかして生き延びとる…、はずやんな」
 やからウチは親友と街の事が気になって、ろくに食事が喉を通ってへん…。旅館での朝ごはんも全然食べれんかったし、夜も全然眠れんかった。今は船で“ワイワイタウン”で降りてアクトアに着いたところやけど、傍から見ると、多分ウチは覇気というものが全然ないと思う。親方っていう立場上しっかしせなあかんのは、嫌というほど分かっとる。やからリオリナは無事、そう自分に言い聞かせる事で、何とか自分を叱咤しようとはしとる。無理やり口角をあげて笑顔を作ろうとはしとるんやけど、やっぱ上手くいかへんなぁ…。
 「そうですよ! ですから…! 」
 「そうやんな。これでもウチは親方なんやし、しっかりせんとな…。…リル、ギルドに着いたら…」
 「あっ、ハクさん! 」
 「ぅん? ライトちゃんやん」
 「ハクさんも、どこかに言ってた帰り? 」
 「まぁそんなとこやな」
 一昨日の夜“ルデラ諸島”に出掛けた、ってフロリアが言っとったけど、ライトちゃんも今着いたとこかもしれへんね。ウチとは違って明るいリルのお蔭で、ウチは何とか気を持ち直せた気がする。会ったばかりの事のリルはどこか自信なさげな感じやったけど、三年ぐらい前からは見違えるようになっとる。直属の弟子はリルとフレイの二人だけやけど、彼ら二人はウチらの下から離れてもずっと慕ってくれとる。…けどまさかリルに励まされるなんて夢にも思っとらんかったから、何か凄く嬉しい。やからウチは、親友の従弟の頭を尻尾で軽く撫でながら、ありがとう、って心の中で呟いた。
 そんで話しとる間にもギルドの近くまで戻って来れたで、ウチはリルにギルドに着いたら忙しいで、って言おうとする。やけどその途中で後ろから聞こえてきた一つの声に遮られてしまって、それを言い切る事が出来へんかった。若干驚きながらも後ろに振りかえると、声で分かったけどそこには友達のラティアス…。左目の包帯を外しているライトちゃんが他二人とおったで、いつもの声色をつくって明るく返事した。
 「そやけどライトちゃん、その二人は誰なん? 一昨日ギルドにはおらへんかったはずやけど…」
 グレイシアとエネコロロなんて弟子におらへんかったし、スパダはスパダで一人で来とるでなぁ、ほんまに誰なんやろう?
 「あぁ、シャトレアさん達のこと? 」
 「知りあいみたいだけど、仲が良いの? 」
 「らしいわね。私達にも紹介してもらってもいいかしら? 」
 確かスバメの女の子と出てった、ってフロリアが言っとったけど、あの子はどうしたんやろう? ウチはライトちゃんと発ったらしい人がおらへん事に首を傾げながらも、フワフワと浮く彼女にこう問いかけてみる。ライトちゃんは左目が潰れとるで右目をこっちに向けとるんやけど、彼女は一緒におる二人に視線を落としながら、そういえばって感じで返事してくれる。赤いスカーフを首元に巻いとるエネコロロの彼女は興味深そうにしとるけど、大きな荷物を持っとるグレイシアは凄く落ち着いとる。スパダ達のと似たような端末を着けとるけど、彼女もライトちゃんに問いかけていた。
 「うん。ええっとまずは…、エネコロロのこの人が二等保安官のシャトレアさん」
 へぇー、保安官なんやな?
 「今はお尋ね者とかは追ってないんだけど、よろしくね」
 「よろしく頼んだで」
 まず初めにライトちゃんは、活発そうなエネコロロの事を紹介してくれる。保安官っていうとジバコイルとかのイメージが強いけど、他の種族もたくさんおるって聞いた事がある。代表なら試験の時に会った事はあるけど、エネコロロでは初めて。シャトレアっていう彼女が右前足を差し出してくれたから、ウチも尻尾で応じて握手した。
 「それでグレイシアのこの人が、フィリアさん」
 「ライトちゃん、紹介ありがと」
 「グレイシアのフィリアさん…」
 うーん…、どこかで聞いたような名前やけど…、どこやったっけ? …あっ、思い出した!
 「フィリアって…、ルデラの救助隊員やんな? 最近あんま名前を聞かんかったけど、まさか会えるなんて思わへんかったよ」
 「あっ、僕も思い出しました。スパーダさんから聞いた事があるんですけど、ダイヤモンドランクのチームなんですよね? 」
 「えっ、ええ。数年前まで救助隊をしてたけど、今は中小企業の副責任者と言ったところかしら? …兎に角、よろしくお願いするわね」
 フィリアっていう名前には聞き覚えがあったで、ウチはグレイシアの彼女が何者なんかすぐに分かった。今は何故か違うみたいやけど、フィリアさんは“ルデラ諸島”の救隊員。ウチと同い年やから気にしとったんやけど、ルデラでは上位に位置する有名なチームやったらしい。…確かフィリアさんもルデラの事件の解決者の一人で、ウォルタ君とアーシアちゃんの事もよく知っとったはず…。リルもスパダから聞いとったみたいやけど、ウチは同い年の有名人に会えて自然とテンションが上がってきていた。何か今は救助隊員やないみたいやけど…。
 「よろしくな! …そんでウチは、ハク=リナリテア。ウチはこの街のギルドの親方をしとるんやけど、二十五歳でまだ親方二年目の新米、って感じやな」
 人の上に立っとるって意味では、副責任者も似たようなものかもしれへんな! 何かフィリアさんには親近感湧くなぁ。
 「あなたがハクリューのハクさんなのね? ハクさん達の事は“ルデラ諸島”でも噂になってるわ」
 「えっ、そうなん? 」
 「ええ。二十三でギルマスになった、って話題だったのよ。だから私も、会えて嬉しいわ」
 まさかルデラでも知られてるなんて思わへんかったけど…。同い年の彼女に親近感を抱きながらも、ウチはフィリアさんとも握手を交わす。会えて嬉しいなんて言われるとなんか気恥ずかしいけど、嬉しくもある。それに何でかは分からへんけど、フィリアさんとは波長が合う気がする。フィリアさんはにっこりと笑顔を浮かべながら握手してくれたで、ウチも同じように、心からの笑顔で応じる事ができた。
 「それからリオルのこの子が、リル君。ハクさん直属の弟子の一人で、ハクさん達のギルドの手伝いをしてるんだよね? 」
 「はい。僕のチームはまだゴールドランクなんですけど…、よろしくお願いします」
 「リル君だね? こちらこそ、よろしくね! 」
 「よろしくお願いします! …ですけどフィリアさん? 何でフィリアさんが“ラスカ諸島”に来ているんですか? 」
 「あっ…、うっかりしてたけど、ハクさんが親方なら、丁度いいわね」
 ん? ウチが? ウチはついうっかりしとったけど、忘れてなかったらしくライトちゃんがリルの紹介をしてくれる。リルはウチとは違って何とか落ち着いとるみたいで、フィリアさん達に対してぺこりと頭を下げる。それで頭を上げた彼はふと何かを思ったらしく、フィリアさんにこう問いかける。言われてみれば“ラスカ諸島”に来た意味が分からへんから、ウチもフィリアさんの方を見て答えを待つ。それに彼女はハッと短く声をあげてから、ウチを見上げてすぐに答えてくれた。何でウチなのかは分からへんけど…。
 「うっ、ウチが? 」
 「ええ。ハクさんが知ってるかどうかわからないけど…、Zギアはご存知かしら? 」
 「Zギア…、確かルデラで流行っとる通信機やったっけ? 」
 ウチはよう分からんけど、確かスパダとリオリナが使っとったような…。
 「そうよ! それで一つお願いがあるんだけど…、ハクさんのギルドにルーターを設置しても構わないかしら? 」
 「ルーター…? 」
 「私もよく分からないんだけど、通信のための支所みたいなものらしいよ? 」
 「…そうなん? 」
 それがあってどうなるんか分からへんけど…、スパダなら何か知っとるかな…?
 「そうだと思うよ? …じゃあハクさん? そのスパダ? っていう人にも訊いてみればいいんじゃない? 」
 「えっ…」
 「だって今、ギルドに来てるんでしょ? 」
 「そっ、そうやけど…」
 なっ、何で分かったん? 一言も言ってへんのに! 何か途中から商談になっとったけど、それ以前にウチは、赤いスカーフをしたエネコロロの発言に腰を抜かしてしまう。スパダの事は一言も話しとらへんはずやのに、シャトレアさんは一発で言い当てた。それだけやなくて、ウチが思った事までシャトレアさんに言い当てられる…。こんな事は初めてやから、ウチは空いた口が塞がらなくなってしまう。
 「なら丁度いいんじゃない? 」
 「うっ、うん…」
 「リル君、だっけ? ギルドまで連れてってくれる? 」
 「あっ、はい」
 「あっ、リル…」
 何かリルもシャトレアさんにドン引きしとるけど、これは多分、彼女の勢いのせいやと思う。これはシャトレアさんが保安官やからかもしれへんけど、傍から見とると、何か言いくるめられたような…、そんな感じがある気がする。それでシャトレアさんはリルの腰の辺りを軽く前足で押してから、我先にとどこかへ走り去ろうとする。慌ててリルが追いかけてったけど、一瞬の事でウチ、多分ライトちゃんとフィリアさんも、この場に取り残されてしまった。
 「…昨日から丸一日一緒にいるけど、シャトレアさんって独特よね? 」
 「そうやな…。なんというか、マイペースで…」
 ウォルタ君もマイペースやけど、流石にここまでやないかな…。
 「だよね」
 「それでハクさん…」
 「まぁ何かよう分からへんけど、ウチは構わへんよ」
 「え、今何て…」
 Zギアっていうモンの良さはスパダとリオから聞いとるし、偶々やけどいい機会なのかもしれへんね。この何とも言えへん沈黙を破ったのは、ウチと同じで言葉を失っとったフィリアさん。どういう経緯があってライトちゃんと会ったのかはまだ訊けてへんけど、フィリアさんはリル達が走っていった方向をぼーっと見てから、ウチらに対して小さく呟く。ライトちゃんも右目でこくりと頷いとったけど、彼女は何か何だかか分からないような…、そんな感じがある気がする。それでこんな微妙な空気があったけど、何とか気を取り戻そうとしとるのか、フィリアさんは話題を戻して取引相手のウチに問いかけてきていた。
 「Zギアの事やろ? ウチは同期…、“パラムタウン”の親方達とアーシアちゃんから聞いて…」
 「えっ、今アーシアて言ったわよね? 」
 「うん、言ったけど? 」
 「あっ、そうそう。うっかりしてたけど、ハクさんもアーシアちゃんの事…、って言うより、シルクとウォルタ君の事はよく知ってるんだよ」
 「しっ、シルクと? 」
 「そうなんよ。シルクとは最近会えてへんのやけど…」
 って言うより、喧嘩したばかりなんやけど…。
 「二人の事はよく知っとるで」
 「ハクさんとシルク、親友同士だからね。…こっちの時代では、まだ会えてないけど…」
 …ん? ライトちゃん、今一瞬表情が曇ったような…。ウチの見間違いかな…?
 「て事は、シルクも来てるのね? 」
 「そうみたいだよ。アーシアちゃんも来てるんだけど、この街のどこかにはいるんじゃないかな? 」
 「そうなのね。アーシアちゃん、シルクも、久しぶりに会いたいわね…」
 アーシアちゃんはあの生き物の事を調べてくれとるみたいやけど、シルクはどうしとるんやろう? あんま考えんようにしとったけど…。そもそもシルクが出てったのも、ウチのせいやし…。…それに何か、シリウスもラテ君達も、何か隠しとるような気ぃするんやんな…。ウチに気ぃ使っとるんかもしれへんけど、ここまでシルクの事を聞かんのも、不自然やし…。…そやけど、あんな酷い事言ってしまったで、合わせる顔が無いやんな…。会ったら会ったで、何て話しかけていいのか分からへんし…。





  つづく……

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