Four-First 名家の姉弟

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 [Side Haku]



 「…そんじゃあ、この通りで頼んだで」
 やる事は山積みやけど、やるしかないやんな…。身内が起こした事件、その解決に着手すると胸に誓ったウチは、あの後すぐに行動を開始した。…といっても体がだるくて思うようにいかへんかったけど、ダンジョンに潜入する訳やないで何とかなった。まず初めに、他のギルドへの協力要請。ウチもまだ全部把握しとる訳やないけど、エアリシアの事件は知られてないみたいやから注意喚起を兼ねて…。そんで手紙だけやと伝えにくい…、やなくて伝える事が多すぎるで、急やけど親方会議を開く事にした。ウチ主体でやるのは初めてやから勝手が分からへんけど、沢山の人の命が失われた大事件やからそうも言ってられへん。あわよくば何か新しい情報を掴めるかもしれへんから、次の日…、今日の午後から探検隊連盟の本部に集まってもらう事になっとる。
 それで各地のギルドに一斉に通知を送ってからは、リクとトレイ、ハイドの三人と今後の方針を相談。三時ぐらいの中途半端な時間やったけど、途中から戻ってきたシリウスも交えて話し合ったで、しっかりと基盤を確立させれた。話し合った結果、ウチらのギルドは二つの事を同時に扱う事で纏まった。ウチのエアリシアの件は言わずもがなやけど、シリウスはベリーちゃんらと一緒に例の未確認生物の事を調査する事になった。その関係でウチらのギルドの弟子達を二組に分け、それぞれウチとシリウスの指揮で調査…。中でもウチら直属の弟子のリルとフレイには、サブリーダーとしてウチらのサポートをしてもらう。前からリクとの連絡役を頼んどったフレイには、それと合わせてリクとトレイの護衛。リルには間時間を使って護衛術とハイドのリハビリ…。負担をかけてしまうけど、これまでギルドの運営を手伝ってくれた二人なら、まぁ大丈夫やろう。
 「ハクも、そちらは頼みましたよ」
 「シリウスもね」
 それで今日の話を始めると、朝礼の席でウチは弟子たちに号令をかける。副親方のシリウスもウチに続き、弟子達全員に視線を送る。それからウチら明星の中でも、お互いに声をかけあう。同じチームやけど別の事案を扱う訳やから、信頼するパートナーであるお互いに短く気合いを入れあった。
 「ええっと、ベリーはラテが戻ってから出発するんでしゅよね? 」
 「うん。多分一時間以内には帰ってくると思うけど、それから準備をしてニアレビレッジに行くつもりだよ」
 「って事は、今日は移動に使うつもりなんやな? 」
 「そうなるかもね。余った時間は復興の手伝いをするつもりだし」
 ニアレビレッジの方も、まだまだ復興に向けて動き始めたばっかやでなぁ。シリウスと気を引き締めあってから、ウチらはそれぞれに動き始める。この感じやとシリウスは、ハイドとトレイと話すつもりなんやと思う。一方のウチはというと、一晩このギルドで過ごしとったベリーちゃん達…、悠久の風の予定の再確認。三人もウチらと同じで、チーム内でも別行動をする事になった。ベリーちゃんはアクトアタウンでラテ君と、ソーフちゃんは戻ってきてからここで相談したらしく、ソーフちゃんだけはウチらのサポートをしてくれることになった。ハイドが来てからずっと看とったってのもあるけど、ケアとか回復が得意って事で、主にリクとハイド達の件を請け負ってくれた。それと合わせてフロリアと、情報整理と伝達とかもしてくれるって言ってくれたで、凄く助かる。…そんな感じみたいやから、ベリーちゃんは手短に直近の予定を改めて
ウチらに言ってくれた。
 「そういえばそうやったな。…リク」
 「ぅん? 」
 「リクはもう準備できとるやんな? 」
 「準備も何も、財布ぐらいしか持ってないけど」
 まぁそうやんな。分かっとったけど…。一通り情報交換を終えたところで、今度はリクに話しかける。その頃にはリクも話し終わっとったらしく、少し驚きながらもすぐ気付いてくれる。リクは水路の近くでフレイと喋っとったで、ウチがその方へと行く。リクとフレイは何を話しとったのかは分からへんけど、構わずウチは続けて弟に問いかける。するとウチの予想通り、当たり前のようにリクは頷いてくれた。
 「ならすぐ出れるよね? 」
 「うん。姉さんは…、身軽だけどいいの? 」
 「そんな難しいダンジョンに潜る訳やないから、大丈夫やよ。…じゃあ、行こか」
 ダンジョンに潜入しない訳やないけど、あのレベルなら問題ないでな! ウチが準備の事を訊いたって事もあって、リクも同じ事を尋ね返してくる。多分リクの事やから、遠出するには多くの荷物がいる、そう思っとったんやと思う。やけど当のウチはというと、小さめのウエストポーチを着けやすい首元から少し下あたりに身につけているだけ…。そんな軽装でも突破できるレベルやから、ウチは胸を張って答える。それからウチはリクの方を向いたまま、後ろ向きで水路の方へと…。
 「行こうって姉さん、水路になんか入ってどこにい…」
 「そういえばリクは知らんかったね。アクトアタウンは水中にも街が広がっとるんやけど、ギルドの水路からも入れるんよ」
 「みっ、水の中にも? 」
 「そうやで」
 まぁリクはエアリシアから出た事ないはずやから、知らんのもしょうがないかな。後ろ向きで飛び込んだところで、リクが不思議そうにウチに問いかけてくる。ギルド内の他の水路より五十センチぐらい深いけど、水面あたりから顔を出すような感じでおれるから何の問題もない。そのままウチは見上げるような感じで、街の事を知らへんリクに目線で水路側の出口を指しながら簡単に説明してあげた。
 「一応確認やけど、リクは泳げるやんな? 」
 「うん、あまり得意じゃないけど…」
 「そんなら問題なさそうやな。じゃあついてきて」
 「あっ、うん」
 できるって事は、空き時間とか見つけて泳いどったんやろうなぁ。ウチらハクリューは種族上他より泳ぎは得意やけど、リクは職業柄泳ぐことはほとんど無いと思う。そもそもエアリシアはあんま水路が発達しとらへんで、どこかに出かけない限り泳ぐ機会はない…。やけどこの感じやとウチの心配も杞憂に終わりそうやから、少し出口側に泳いで場所を空ける。こう呼びかけるとリクも水路に入ってくれたで、彼にチラチラ目を向けながら潜水し始めた。
 「…そういゃあリク? 」
 「ん? なに、姉さん」
 「ウチら二人きりで話すのって、いつ以来やっけ? 」
 「うーん…、多分姉さんが家出した日以来、じゃないかな? 」
 もうそんなに経つっけ? 景色が青味を帯びてきたところで、ふとリクがウチに話しかけてくる。泳ぐのは得意やない、って言っとったけど、この様子やと何の問題もなく逝きは出来とると思う。水を通して聞こえてくる声には、どこか懐かしさも籠っとるような気がする。リクと二人きりになるまでうっかりしとったけど、十年もの間、手紙でやり取りしとったとはいえ全く会ってなかった。…やけど何故かウチは、毎日会っとるような感覚に満たされてもいた。
 「ウチの…、そっか…、もう十年も経つんやな」
 「十年かぁ…。勉強とか仕事で忙しかったからなぁ。…だけど姉さんが探検隊になった、って知った時は本当にビックリしたよ」
 「あん時はウチもそれどころやなかったでな。シリウスと出逢ったのもそのぐらいやし」
 「確かシリウスさんの気を紛らわすために、探検隊を結成したんだよね」
 「そうやよ」
 あの時だけは手紙出して無かったでなー。十メートル…、街の底まで潜った辺りで、話題は思い出話になる。リクには当時何か月か後にしか伝えれてなかったけど、あの時の事はよく覚えとる。確かその時はパラムタウンに住んどって、散歩中に偶々港の外れに打ち上げられとったアブソル…、シリウスを見つけた。当時は何でなんかは知らへんかったけど、フロリアを入れた仲間を失ったばかりで心を閉ざしとった。今思うと話しかけても何も返されへんかったのが悔しかったんやと思うけど、シリウスが心を開いてくれるまで色んなことをした。…そん中で一番気を引けたのが、簡単なダンジョンでのバトル…。あの時はシリウスが凄く強くてビックリし…。
 「それと姉さん、昨日から思ってたんだけど…。姉さん、喋り方変えた? 」
 「リク、今頃気付いたん? 家出しとるんやから、見つからんようにするのは当然やろ? …まぁそん時はお金が無かったってのもあるんやけど、大家さんのおばあちゃんに良くしてもらっとってね、パラムタウンの古い方言を教えてもらったんよ。…そのおばあちゃんは二年前に亡くなってまったんやけど、大家さんの家族とは今も付き合いがあるんやで」
 「そうなんだ。そのおばあさん、僕も会ってみたかったな…」
 「んなら事件が落ち着いたら、一緒に大家さんに会いに行かへん? シリウスも誘って」
 「うん」
 家出してからウチが生きられたのも、あのおばあちゃんのお蔭やからなぁ…。そういゃあもうじき命日やから、お参りに行かんと…。ウチは十年ぶりの弟の雑談を楽しみながら、水中の街を泳いでいく。ウチの喋り方の事は誰にも話した事なかったけど、話した事であの日の事が鮮明に蘇ってきた。ビアーコーヒーが好きなゴチルゼルのおばあちゃん…、世間知らずのウチに色んなことを教えてくれた。今思うと親の温もりを知らんかったウチにとっては、本当のおばあちゃんみたいな人やったのかもしれへん。探検隊を結成してからも良くしてくれとって、草の大陸に行くまでずっと、本当の孫みたいに接してくれた…。
 「もうすぐ命日やから、早くてその時やな」
 …こんな感じでウチは、周りの水とは真逆で暖かな気持ちで満たされながら、青い景色の街を泳いでいった。



  続く……

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