ごのはち 白乾の戦い

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読了時間目安:13分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 過酷な山脈を登りきった私達は、壮大な絶景に息を呑む。
 昔話で伝わる通りのその場所には、木が一本だけ不自然に立っていた。
 妙な違和感を感じながらその木を観察していると、急に動き出し奇襲を仕掛けてきた。
 なので私達は、昔話の怪物と思われるその生物との交戦を開始した。
 [Side Kyulia]




 「相手は電気タイプみたいだけど…、ムーンフォース! 」
 「その可能性が高いわね。神通力」
 「炎のパンチ! 」
 生憎誰も地面タイプの技は使わないけれど、手数で攻めれば…、倒せるはずよね? ランベルの一声で交戦を開始した私達は、ほぼ同時に動き始める。さっきの動きを見た感じでは、多分相手は電気タイプ。だからって事で、同じ属性のランベルを中心にして、左にテトラちゃん、右に私の配置のまま距離を詰めはじめる。相手は三メートル以上の高さがあるから見失わないと思うけれど、私はそこから目を離さずにエネルギーを活性化させる。四メートルの距離でそれを解放し、強めの念波を相手に直接送り込んだ。
 同じタイミングでテトラちゃんは、左右のヒラヒラにフェアリータイプのエネルギーを集中させる。それを丸く形成し、私が念波を送ったタイミングから一歩分遅れて解き放つ。この二つの弾を追うようにして、右手に炎を纏わせたランベルが一気に距離を詰める。ここで私は右へ迂回し始めたのだけれど、彼は敵の二メートル手前で大きく跳躍していた。
 「左无比”幾天加加呂宇止於奈之”己止…。久良宇加”以以! 」
 「何か仕掛けるつもりみたいだけど、そうはいかない! 」
 「久川…! 」
 あの技は多分…。大きく振りかぶったランベルは勢いと体重も乗せて大木に殴りかかる。高さ的に真ん中ぐらいだと思うけれど、彼は黒々とした幹の中心に叩き込むつもりらしい。けれどランベルの炎が触れる寸前で、相手は何かの技を発動させる。エネルギーを解放すると、心なしか五メートルの距離にいる私の毛並みも逆立ち始めたような気がする。という事は、この技は…。
 「ランベル! 多分エレキフィールドを発動させたと思うわ! 」
 「エレキフィールドを? …うん、分かったよ」
 「確か電気タイプの技の威力が上がるんだよね? …フラッシュ! 」
 こうなると、弱点をとられなくても厄介ね…。毛並みを通してピリピリする感じがしたから、私は敵と密接した位置にいるランベル、それから敵を挟んだ反対側にいるテトラちゃんに対して声をあげる。そうと決まった訳じゃないけれど、電気タイプならこの技を使えておかしくないとは思う。こうなると一気に攻めてくる可能性が高いから、私は就いていたポイントを左サイドステップで離れ、六メートル離れた正面を陣取る。幸い相手は動く気が無いみたいだから、その間にランベルとテトラちゃんも退いて…」
 「良以計”幾仁也加礼天之奴加”以以! 」
 「まっ、マズい…! 離れて! 」
 「うっ、うん! 」
 「っ? 」
 まさか、これを狙って…。私達の動きを読んでいたらしく、相手は三人揃ったタイミングで膨大なエネルギーを解放する。これにいち早く気付いたランベルは、一瞬上を見上げると慌てて警告してくれる。言い切らないうちに跳び下がったから、私達二人も慌てて退避する。するとそこには、ほんのコンマ一秒ほど遅れて高威力の雷撃が天から一直線に降り注いできていた。
 「この技って…、雷だよね? 」
 「…そのようね」
 「だけどそれでも、ここまで威力…、出たっけ? 」
 「ううん、僕も一時使ってたけど、抉れるぐらいの威力は出せなかったよ…」
 本当に化け物じみてるわね…、この生き物も…。雷が落ちたその場所には、五十センチぐらいの大穴が…。これと食らう事を考えると、今は炎タイプだけれど背筋が寒くなってくる。テトラちゃんも言葉を失っているらしく、正面にいる私の方に視線を上げてぽつりとつぶやいていた。
 「…だけど何となく、向こうの攻め方が分かった気がするよ」
 「攻め方が? …熱風! 」
 「シグナルビーム。うん。…テトラちゃん、少しだけ時間を稼いでくれる? 」
 「どれぐらいもつか分からないけど、やってみるよ。…ムーンフォース! 」
 という事は、何かいい考えが浮かんだのね? 話している間にも相手は電撃波で狙撃してくるから、私達は特殊技で撃ち落とす。けれどこの感じだと、ランベルは何を思ったのか、テトラちゃんにこう頼み込む。ランベルが何を考えているのかは分からないけれど、良い案を思いついた時はいつもこう…。だから私は、一人で向かってくれるテトラちゃんを援護するように風を吹かせながら、パートナーの彼の話に耳を傾けた。
 「キュリアも気づいてるかもしれないけど、相手は電気タイプ。それも特殊技だけを使う、典型的な遠距離型…」
 「それは技を見れば分かるわ。エレキフィールドで一時的に強化して、強力な攻撃を仕掛けてくる…、こういう認識よね? 」
 「それで構わないよ。…だからこれを逆手にとって、接近戦で一気に決着をつける。この作戦で行こうと思ってるけど、どう思う? 」
 「どうって…、それだと近づく前に電撃波で返り討ちに遭うと思うわ」
 雷ならまだ回避できるけれど、必中技だからそうも言ってられないと思うけれど…。ランベルは正面の相手の様子を伺いながら、たてた作戦について意見を訊いてくる。敵の攻め方は私も気づいていたけれど、それでも私は特殊技で攻め続ければいいと思っていた。だから私はううん、と首を横にふり、率直な感想を彼に伝える。けれど彼は、片から提げている鞄を漁りながら詳しい作戦を語り続けてきた。
 「うん。…だからキュリア、キュリアにはオーロラベールを発動してもらう。これで守りが強化されるから、それまでの間に借りたこれで…」
 「それは…、初めて見るけれど…」
 何かしら、このアクセサリーは…。作戦を話してくれるランベルは、突っ込んでいた手を鞄から引き抜く。目的の物を見つけれたのか、彼は見慣れない、虹色の石が施されたネックレスを右手に持っていた。いつ買ったのか分からないけれど、彼はこのネックレスを身につけながら、私の事を真っ直ぐ見る。直視されて少し恥ずかしかったけれど…。
 「シリウスさんから借りた“覚醒の原石”。キュリアは僕の事を強く意識するだけでいいから、後は援護して」
 「えっ、ええ…」
 何をするつもりかは分からないけれど、ランベルがそういうなら…。私は半信半疑ながらも、彼のいう事を試してみる事にする。とりあえず私も鞄の中を探り、“氷華の珠石”を取り出す。一番右側の尻尾にひっかけたそこに向けて振り返るようにして、紐の部分に首を通す。同時に隣の尻尾で“焼炎の珠石”を外し、ランベルの指示通り私は氷タイプとしての姿になった。
 間髪を開けず、私は待ってくれていたランベルを強く意識する。それも眼を閉じると相手の様子を伺えないから、そのままで…。
 「らっ、ランベル? もしかして…」
 「そう、そのまさかだよ」
 この光…、絶対そうよね? 少しすると、ランベルに変化が現れ始める。このお蔭でようやく、私は彼が何をするつもりなのか分かる事ができた。覚醒のラピスを使っていないのにこうなったから驚いたけれど、七色の石から溢れる光は間違いない…。確信と共に尋ねると、彼は大きく頷いてくれた。そして…。
 「メガ進化、これと逆鱗で一気に攻めるよ! 」
 その光に包まれ、ガラスが割れるような音と共に一気に弾ける。するとそこには、いつもとは違う、溢れる力と共に声をあげる彼がそこにいた。
 「…ええ! オーロラベール! 」
 彼がたてた作戦がハッキリ解ったから、私も彼に対して大きく頷く。この環境はドラゴンタイプが追加されたランベルには不向きだけれど、その分私の技の恩恵を受ける事が出来る。他の人ならあられを発動させないといけないけれど、氷タイプでは雪降らしの特性の私には必要ない。だからたてがみを雪でうっすらと白く染めながら、私はエネルギーを解放して虹色のベールを味方に纏わせた。
 「キュリア、一気に行くよ! 」
 「もちろんよ! テトラちゃん、待たせたわね」
 「何するつもりか…、分からないけ…、えっ? ランベルさん? 」
 準備が完了したという事もあって、私達チーム火花は一気に駆け出す。私はいつものように四肢に力を込め、白くなりかけている地面を一気に蹴る。ランベルは助走をつけて大きく跳び、この勢いを利用して地面スレスレを滑空する。ランベルの方がスピードが速いから、その後ろから私がテトラちゃんに向けて声をあげる。雪が降っているから私の事は気づいていたと思うけれど、流石にランベルの変化はそうでなかったらしい。丁度願い事の光に照らされていたけれど、彼女は今日一番の驚きの声をあげてしまっていた。
 「ここからは僕が引き受けるよ。だからテトラちゃんは下がっていて! …逆鱗! 」
 「太礼加”己与宇止…、於奈之”太”! 」
 「うっ…、うん。…フラッシュ! 」
 テトラちゃん、後は私達に任せてゆっくり休んでいて! ランベルは声を響かせながら急接近し、ありったけの力を解放する。テトラちゃんの横を滑るように通り過ぎ、そのまま相手に頭から突っ込む。あまりの事にテトラちゃんは唖然としていたけれど、流石に茫然と立ち尽くすようなことは無かった。すぐに時間稼ぎ用の閃光を放ち、その間にバックステップで退避していた。
 「キュリアさん、ランベルさんって、メガストーン持ってたの? 」
 「…何のことか分からないけれど、シリウスさんから借りていたらしいわ。それとテトラちゃん、ここからの作戦なんだけれど――」
 逆鱗の効果が切れたら隙が出来るから、その後が私達の出番ね。ランベルが猛攻を仕掛けている間に、私は頑張ってくれていたテトラちゃんに作戦を伝える。ここまでの間に何度か攻撃を食らっていたらしく、彼女の青と白の短毛が少し乱れていた。けれど頻繁に願い事で回復していたみたいだから、私が思ったほどダメージは蓄積していないらしい。
 「…うん、分かったよ。それなら倒せそうだね! 」
 「それで頼んだわ! …吹雪! 」
 「ムーンフォース! 」
 そろそろエネルギーが尽きそうだけれど、何とかなりそうね。大分簡単に話したけれど、テトラちゃんは何とか分かってくれたらしい。任せて、っていう感じで大きく頷き、私ににっこりと笑いかけてくれた。
 テトラちゃんにも作戦を伝えられたから、私はすぐにエネルギーを活性化させる。一応隙を見て回復はしてきたけれど、一日中戦いっ放しだからエネルギーの消費は尋常じゃない。最初の五合目に潜入してから少なくとも半日は発っているはずだから、多分二、三日分のエネルギーを“陸白の山麓”で消費していると思う。その証拠に十分持ってきたPPマックスが底をついている…。けれど長い戦いに終止符を打つことが出来そうだから、私は構わず、敵から五メートルの距離から凍てつく突風を吹かせた。
 「テトラちゃん、合図を出したらお願い! 」
 「うん! 」
 「それまで力を溜めておいて! 」
 「任せて! 」
 ランベルの動きが止まったら、私達の攻め時ね。私はテトラちゃんに言いながら、自分も同じように行動する。吹雪で牽制…、これをランベルの間での合図にしているから、私の意図はしっかり伝わっているはず…。けれどランベルが逆鱗で攻めている今は確認のしようが無いから、こう願いながら力を溜め始める。九本の尻尾に全意識を集中させながら、ランベルの動きに目を見はる。そして…。
 「…今よ! 」
 白いたてがみを靡かせるランベルの動きが鈍り始めた気がしたから、私は大声をあげてテトラちゃんに知らせる。それと同時に若干尻尾を右側に引かせ…。
 「秘密の力! 」
 「ギガインパクト! 」
 ありったけの力を解放し、時計回りに思いっきり振り抜く。タイミングを合わせてテトラちゃんも真上に跳び、高速で振り抜かれる私の尻尾に足を乗せる。前足と後ろ足を一点に揃え、私も真ん中の尻尾に集中させているから、最大限の力をテトラちゃんの足に加える事が出来る…。結果的に私は打つようにして、テトラちゃんを敵の中心部へと飛ばした。
 「これで決める…! 」
 「…奈仁川? 」
 青白い弾丸と化したテトラちゃんは、真っすぐ電木へと飛んでいく。丁度真ん中に当たるように飛ばしたはずだから、少なくともどこかには命中すると思う。そして…。
 「川安安安安…川! 」
 狙いは少し外れたけれど、それでも一メートルぐらいの高さには命中させることができた。テトラちゃんが最大まで力を溜めていたからなのか、電気を発する樹木は当たった部分からポキッ、とへし折れる…。
 「くぅっ…。…これで…、どう…? 」
 「…テトラちゃん」
 「倒せ…、た…、のかしら? 」
 「多分これで…、倒せ…、たと思う…」
 相手を折るぐらいの威力だから、当然テトラちゃん自身にも相当の衝撃が襲いかかっていると思う。頭から滑るように地面に落ちていたけれど、私が思う以上に堪えているらしく、五秒ぐらいは起き上がれていなかった。何とか立ち上がってもふらついていて、息も切れ切れになっている…。脳震盪とかは起こしていないみたいだけれど、立つのがやっと、飛ばした私が言うのもどうかと思うけれど、私にはそんな風に見えた気がした。





  つづく

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