4話 きのみ泥棒

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

2019年7月8日改稿
2020年7月21日改稿
「レオン姉さんきたよー!」
「あら~! ヒカリちゃん、待っていたわよ~! ハルキくんもいらっしゃぁ~い!」
「ど、どうも……」

カクレオンのお店に再び来ると先程と同じ調子で話しかけてくるカクレオンのレオン姉さん。
やっぱり、こういう感じの人とは関わってきたことが無かったから少し苦手だな。
ヒカリは全く気にしてないし、僕も気にならなくなる日が来るのだろうか。

「うーん。どっちがいいかな?」

ハルキがそんな事を考えている間に、両手にリンゴを1つずつ持ちながら見比べているヒカリ。
なんだかスーパーで野菜を見比べる主婦のような光景だ。

「よし! きめた! このリンゴ2つください!」
「えっ? 見比べていたのに両方買うの?」
「うん。 だって、よく考えたら今日はハルキがいるし1つじゃ足りないなーって思って」
「なるほどね」

ヒカリはゴソゴソと鞄に手をいれる。

「あれ? なんか、引っ掛かってとれないなー」

何かを取り出すのに苦労しているヒカリを見ていると、ふと視線を感じて、正面に視線を移すと、ニヤニヤした表情でこちらを見ているカクレオンと目があった。

「な、なんですか?」
「いや~2匹ふたりはとぉ~っても仲良しなのね~! いっそ付き合っちゃいなさいよ!」
「え! いやいや! ヒカリとはまだ出会ってそんなに時間たっていないし、そういう関係ではないですよ!」
「照れちゃって~もう! かわいい」
「ん? 2匹ふたりとも何の話? それにハルキの顔、少し赤いよ? もしかして具合悪い?」

中々出てこない財布に四苦八苦していたのかヒカリは、ハルキとレオン姉さんの会話を全く聞いていなかったようで、見当違いの質問をしてくる。
恥ずかしい話を掘り返される前に、さっさと話題を変えよう。

「ううん! なんでもないよ! それより会計はしなくていいの?」
「あっ、そうだった! レオン姉さんお会計お願―い!」
「全部で50Pよ!」
「はい50P」
「いつもありがとうね~」

会計を済ませたヒカリにこっそりと気になったことをきく。

「ヒカリ、Pってなに?」
「そういえばハルキは知らなかったね。 人間の世界で言うところのお金と一緒だよ」
「へぇー、当たり前だけどポケモンの世界にもお金ってあるんだね」
「まあ、物々交換よりもお金って付加価値が設定されたものがある方が便利だからねー」

つまり、こっちの世界は人間の世界とさほど変わらない仕組みで買い物ができるようだ。
後から聞いた話だが、50Pは人間の世界で言う50円と大差ない価値らしく、リンゴ2つで50円と考えると、こちらの物価はそんなに高くはなさそうだ。

「まてえ!この泥棒小僧!」

そんな怒声が背後から聞こえて振り向くと、カモネギが右手に持ったネギを振り回しながら木の実を抱えて逃げるエイパムを追いかけていた。
カモネギよりも身軽さでも勝るエイパムは、塞がっている両手の代わりに尻尾を器用に使って建物をスルスルと登っていき、そのまま森の方に逃げていった。

「くそっ! エイパムめ! 今度あったらとっちめてやる!」
「何かあったの?」
「ああ、実はな……」

カモネギは怒りを鎮めるように深呼吸をしてから、話し始めた。
話によると、今日の朝、近くの森で採ってきた木の実を店頭に並べていたら突然エイパムが現れて木の実を盗んでいったらしい。
それに気づいて、慌てて追いかけるけど向こうのがすばしっこくて追い付けず、そこからは僕たちが目撃したとおり建物をつたって逃げ切られてしまったというわけだ。

「まあ、とられたのは3個だけだから損害は少ないけどな。 しかし、あいつが盗みをするなんて……」
「というと?」

その何かありげな話し方が気になったハルキが質問すると、カモネギは少し悲しげな表情をすると俯きながら語り始めた。

「あいつはここらじゃ、イタズラするので有名な悪ガキなんだ。 今まで家の壁に絵を描いたり、道端の落ち葉をぶちまけたりと、まだかわいげがあったんだ。 そんなエイパムが盗みに手を出すとは……これだけはしちゃいけないっていう分別は持っていると思っていたんだがな」

カモネギの反応を見るとよくいる近所のイタズラ小僧的な存在で、嫌われているわけではなさそうだった。

「わかった。 私たちが取り返してくるよ! いいよね、ハルキ?」
「うん。 もしかしたらなにか理由があるかもしれないしね」
「すまん。 こっちも店番があるから動けなくて困っていたんだ」

カモネギは僕達にエイパムを探すのをお願いすると自分の店に戻っていった。

「よし! じゃあエイパムを追って森にいこうか」
「うん!」

こうして、2匹はエイパムを探しに森に向かった。

――――――――――――――――――――

エイパムを追って、先ほどハルキが倒れていた森にきたハルキとヒカリ。

「まさか、こんなにもはやくこの森に戻るとは思わなかったよ。 それにしてもあのエイパム、まだ子供みたいだったけど1人で森に入って大丈夫かな?」
「ここの森は新鮮な木の実が豊富でそよかぜ村のポケモンが頻繁に出入りしてるし、危険なポケモンもいないから大丈夫だよ」
「つまり、そよかぜ村のポケモンからすれば勝手知ったる庭みたいな感じか。 これは捕まえるのが大変だ。 ハハハ……」

ハルキは木々の隙間を颯爽と飛び渡るエイパムの姿を想像し、思わず苦笑いがでてきた。
この森について知り尽くしているという事ならば、闇雲に捕まえに行っても簡単に逃げられてしまうだろう。
ならばこちらも、この森について詳しく知ってそうな地元のポケモン――ヒカリにこの森について詳しく聞き、作戦をたてるのがベストだろう。
さっそく、ヒカリに意見を求めようとした時―――

「見つけた! エイパムだよ!」
「え!? もう見つけたの?」

ヒカリが指差す方を見ると、確かに先ほどのエイパムが木の上にいた。
どうやら、先ほど走り回って逃げたからか少し疲れて休憩しているようで、目を閉じてうたた寝している感じだった。
こちらには気づいていないようだし、この間にそっと近づいて捕まえようと思ったのだが、

「コラァー! カモネギさんの木の実盗んじゃダメでしょー! 返しなさーい!」
「うえぇ!? な、なんだなんだ! ……げっ! ヒカリ姉ちゃん!」

ヒカリは誰がどう見てもカンカンに怒っていますと言わんばかりに、頬を膨らませ、両手を上にあげながら走っていった。
正直、そのいまいち覇気にかけたポーズと表情ではまったく怖くはなさそうだが……
エイパムはヒカリが木の実を盗んだことで怒っているのだとすぐに分かり、慌てて盗んだと思われる木の実を手に持つと木を渡って逃げてしまった。

「あっ! まてぇ~! 逃げるなぁ~!」
「ちょっ、ヒカリ! ストップ! ストップ!」

慌ててエイパムを追いかけようとするヒカリの腕を掴んで引き止める。

「でも、ハルキ! このままじゃ逃げられちゃうよ!」
「闇雲に追いかけても向こうのが地形的にも有利なんだから捕まえられっこないよ。 何か作戦をたてないと」
「作戦?」

首をコテンと傾げてこちらを見てくるヒカリ。
そもそもエイパムは種族的に素早い部類に入るだろうけど、純粋な速さ勝負ならヒカリのほうがわずかに速いはず。
ここが森の中で、木と言う障害物が向こうに有利になっているだけならば、やりようはあるはずだ。

「ヒカリ。 この森の道とかわかる?」
「わかるよ! 伊達に小さい頃からそよかぜ村に住んでないからね!」
「じゃあ、ちょっと簡単に教えてくれないかな? あとあの技使える?」
「あの技?」

――――――――――――――――――――

「どうにか撒いたかな。 ヒカリ姉ちゃんカンカンだったな~。 まあ、あのポーズと顔じゃそこまで怖くないけど」

ホッと胸を撫で下ろしながら先ほどのヒカリのことを思い出すエイパム。
やはりヒカリのカンカンに怒った姿は、いまいち覇気にかけるポーズのせいかそこまで怖くはなかったようだ。
エイパムは今、木の上にいるが先程とは違って枝に生い茂った葉に身を隠していた。
いくら身軽で素早いと言ってもまだ子供。
体力はそこまで多くはなく、少しここで休憩をとることにした。
しばらくすると、エイパムの大きな耳が足音をとらえた。
足音の主に気づかれないように、茂みから少しだけ顔を出し、下を覗くと、先ほど叱りつけてきたヒカリの隣にいたポッチャマが肩から鞄をかけてキョロキョロと辺りを見回していた。きっとエイパムを探しているのだろう。
ヒカリはそよかぜ村で小さい頃からよく会うから知っているが、あのポッチャマはここら辺じゃ見ない顔だなと思いながら、ゆっくり観察していると、ふいに自分の隠れている木を見上げたポッチャマが何とも言えない苦笑いを浮かべると、こちらに『あわ』をとばしてきた。
攻撃されたということに気づいて、慌てて茂みから出ることで『あわ』による攻撃を避けたエイパム。

「うわっ! なんでオレのいる場所がわかったんだ!?」
「なんで、って言われても……茂みから尻尾出てたよ」
「うえっ!?」

そう言われてハッとするエイパム。
自分の体を隠すことだけに集中しすぎて尻尾を隠してなかった事に今さら気づいた。

「頭隠して尻隠さず、いやこの場合は尻尾隠さずかな? イタズラ小僧って言われるだけあって、子供っぽい一面もあって助かったよ。 まあ、あまりに典型的すぎるミスだけどねー」
「う、うるさい! お前だってオレより少し年上ぐらいの子供じゃないか!」
「あっ、そういえばそうだったね」

目の前にいるポッチャマのちょっと小馬鹿にした態度に腹をたてて言い返すと、まるで自分が子供であることを忘れているかのような不思議な反応をするポッチャマに怪訝な表情を浮かべるエイパム。

「ねえ? なんで木の実を盗んだのか事情だけでも教えてくれないかな? カモネギさんから君の話を聞いたよ。 何か理由が合ってやったことなんでしょ?」
「うるさい! よそ者のお前になんか言うもんか!」

エイパムは盗んだ木の実を再び抱えると、先ほどと同じように木々の上を飛び越えなが、逃げ始めた。

「捕まえられるものなら捕まえてみな~」
「まあ、そう簡単には捕まってくれないか」

走ってこちらを追いかけてくるポッチャマ。
だが、種族的にあまり素早くないのか『あわ』でこちらを牽制してくるのが精一杯のようだった。

「そんな攻撃当たらないよ~」

余裕が出てきたエイパムは、挑発じみた発言をしながら木をスルスルと渡っていく。
追ってくるポッチャマも負けじと『あわ』をこちらに飛ばしてくるが闇雲にうっているのか、見当違いの方向にとんで命中する気配がない。
これなら逃げきれるとエイパムが思った瞬間――

「そろそろかな」
「?」

背後から追いかけてくる、ポッチャマが口元に笑みを浮かべながら、何か呟いた気がした。その笑みに疑問を抱きつつも、慣れた手つきで次の木に飛び移ったエイパム。
直後、足元からビリビリとした衝撃がはしった。

「うわああぁ! な、なんだこれ?」

みると飛び移った枝の上には電気の網がはられていた。
慌てて次の木に飛び移ろうと視線を辺りにある木に向けると他の木にも同様の電気の網が張り巡らされており、身動きがとれなくなっている事に気が付いた。

「クッソー! どこに飛び移れば……」
「残念! もう逃げられないよ! エイパム!」

エイパムが飛び移るのを躊躇った瞬間、ヒカリが待ち構えていたかのように、頭上から降りてきた。

「げっ! ヒカリ姉ちゃん!」
「「げっ!」って何よ! 「げっ!」って!! エイパム、観念しなさーーい!」

ヒカリは頬を膨らませながらも『エレキネット』を放ち、そのままエイパムを捕縛した。

――――――――――――――――――――

やっと捕まえたエイパムを逃げられないように『エレキネット』で手を縛ってから、木から降りてくるヒカリをちょっと離れた場所で見ているハルキ。

「ハルキ~! 捕まえてきたよー。 作戦大成功だね!」
「イテテ! もう少し優しくしてくれよ! ヒカリ姉ちゃん!」

抗議するエイパムを無視して、無邪気に手を振りながらエイパムをズルズルと引きずってこちらに駆け寄ってくるヒカリに、ハルキはまたもや苦笑いを浮かべるしかなかった。

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