Two-First 種族としての利点

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 [Side Silius]



 「…着いたで。ここから先が、参碧の氷原やで」
 「ここが、ですか。キュリアの日照りで晴れていますけど、この感じだとダンジョンのなかも安定してそうですね」
 「そもそも南部は、ブロンズレベルの湿地帯ですから」
 シルクももちろんですけど、南部なら技を発動させなくても突破できそうですね。自由時間を思い思いに過ごした自分達は、五人揃って最寄りのダンジョンに赴いた。ブロンズランクとはいえダンジョンには変わりないので、極力戦闘を避けて中継点までいくつもりでいる。キュリアさんの特性で暖かい日差しが降り注いているけど、本来ならば雪がちらついていてもおかしくない時期。この四人なら、何の問題もないけど…。
 それで昨日の自分とランベルさんはというと、あの後もしばらく喫茶店でのひと時を過ごしていた。ランベルさん達が“霧島大虐殺事件”を解決した事は知っていたけど、まさかキュリアさんが被害者…、それも濡れ衣を着せられたキュウコンの娘さんだとは夢にも思わなかった。それもこの世界に導かれた時の自分と同じように、完全に心を閉ざした状態だった…。それを克服するための方法、そしてチーム結成理由も全く同じだったので、自分はどこか伝説級のチームに親近感を抱けたような気がした。
 「そうみたいね。レベルが高くなると私の特性でも勝てない時があるから、噂は本当だった、って事よね」
 『ええ。このくらいの気候なら、施術後一発目には最適かもしれないわ』
 今回この時代に来る前、大きな手術を受けてきたばかりみたいですからね。喉の調子を見るのには、丁度いいかもしれないですね。晴れた空を見上げているキュリアさんは、冷涼な風を感じながらこう呟く。キュリアさんの特性でも勝てない天気と言われると、自分は真っ先にゼロの島の事が思い浮かぶ。自分達が挑戦したのは東部だったので条件は少し違うけど、確かランベルさん達が挑戦した西部が、荒天だったはず…。
 シルクはシルクでこの天気に納得したのか、うんうん、って頷きながら言葉を伝えてくれる。大手術を受けたばかりの状態で彼女は来ているから、本当なら暫くは安静にしておいた方が良いとは思う。けどシルクの事だから、どう言って止めても行く、って言って、無理してでもついてくると思っていたから、自分は半ば諦めていた。…ただ、シルクがいて心強い、って思っているのも事実ですけど…。
 『…シリウス、最後に確認だけど、ここからは二組に分かれて進むのよね? 』
 「はい、そうなりますね。細々とした事は割愛しますけど、二ブロック先の中継点で合流しましょう。そこで奥地の気候を見ながらプランを立て、アタックする…。これでいきましょう」
 五人揃って突入するのが一番いいんですけど、決まりというものには逆らえないですからね…。続けてシルクが確認してきたから、自分はすぐにこくりと頷く。殆どの事を省いて説明したけど、基本の事は四人とも分かってくれているはず。マスターランクのキュリアさんとランベルさんは問題ないし、シルクはシルクで二千年代の友人の中では、ダンジョンの事は一番知っている。他の諸島でも活動していたことがある、ってウォルタ君から聴いた事があるので、ひょっとすると自分達よりも知っているかもしれない。
 そんな事を考えながら話を進め、最後に自分は一人ひとりの顔を見ながら予定を伝えていく。その先の事はこれから打ち合わせするつもりだけど、それでも遅くはないと自分は思っている。奥地は一応未開の地という事になっているけど、全く情報が無いっていう訳ではない。失敗したとはいえ気候と野生の強さも分かっているので、前回よりは突破できる確率は高いはず…。なので自分は、ひとまず四人に対してこう呼びかけた。
 「ええ! 」
 「そうやな! 」
 『シリウス、頼りにしてるわ』
 「はい。…では、いきましょうか」
 装備品も万全な状態できていますから、きっと問題無いですよね? 自分の呼びかけに、それぞれがそれぞれで応じてくれる。腰を下ろしているキュリアさんは、冷たいそよ風に金色の毛並みを靡かせながら頷いてくれる。ハクは気合十分っていう感じで首を縦にふり、自分と二人で潜入した時のリベンジをしたい、とでも言いたそうに声をあげる。それに対してシルクは落ち着いた様子で、多分自分だけに声をかける。最後にランベルさんが、年下の自分達に対して号令を出してくれる。この合図をきっかけに、自分達は二手に分かれて、日差しが気持ちいい湿地帯へと足を踏み入れた。


――――


 [Side Silius]



 「それではシリウスさん、僕達もいきましょうか」
 「ですね」
 ハク達も動き始めたみたいですからね。東側のルートに足を踏みいてた自分とランベルさんは、こういう事で気持ちを切り替える。ブロンズレベルなので楽に攻略はできるけど、ダンジョンなので気を抜きすぎると足元をすくわれる。ブロンズレベルとはいえ、ここには他同様罠やモンスターハウスが存在する。頻度は低いとはいえあるにはあるので、自分達のギルドではブロンズランクから、という事にしている。広めの湿地なので二通りのルートで進むことが出来るけど、その分野生との遭遇率が少ない。雪が降る事が多いので普通ならシルバーレベルでもおかしくないけど、こういう訳でブロンズレベル、という事になっている。
 「…その前にシリウスさん? 」
 「はい、何でしょうか」
 「ここのダンジョンは名前の通り、氷タイプが中心で良いんですよね? 」
 そうですね…、合っているといえばあってますけど…。潜入してからまだ何とも遭遇していないので、今のうちに、という感じでランベルさんは自分に話しかけてくる。知らないという事はハクが手紙に書いてなかった、そう思ったので、自分は念のため辺りの様子を探ってから、彼の質問に答えてあげる事にする。
 「一応氷タイプもいますけど、南部ではどちらかというと地面タイプや水タイプの方が多いですね」
 「地面タイプが、ですか」
 「はい。ですので、ブロンズレベルとはいえキュリアさんには、少し厳しいかもしれませんね」
 炎タイプにとって、水も地面も弱点になりますからね。自分はそれほど心配していないけど、初めて潜入するランベルさんに情報を提供する。彼にとっても地面タイプでは分が悪いけど、水タイプであれば何とかなる。キュリアさんが傍にいないのでここは雪がちらついているけど、ハクとシルクがいる向こうも問題ないはず。それにシルクからオリジナルの装備品ももらっているので、難なく行けると思う。自分は“時の御守り”と“覚醒の原石”、それと“統主のリングル”。素早さ変動系の効果を無効化し、“統主のリングル”で罠の作動も無効化する事が出来る。今はハクとシルクがいないので無理だけど、首に提げている“覚醒の原石”で、任意のタイミングでメガ進化する事が可能。
 ランベルさんはパッと見た感じでは、防御スカーフとキーのリングル、それとベリーが持っている“闘志の帯”を身につけている。デンリュウという種族は特殊技の方が相性が良いはずだけど、防御スカーフを持っているので、彼自身は接近戦の方が得意なのかもしれない。それにリングルも敢えて安価なキーのリングルにしているので、これも関係しているはず。まだ確認してないから分からないけど、接近戦に混乱状態を防ぐ…、この二つを推しているのなら、大技の逆鱗を戦法の軸にしているんだと自分は思う。
 「それなら問題無いですよ。炎タイプのキュリアならソーラービームを使えるので、いつもそれで対処していますから」
 「ソーラービーム…、あぁ、それなら大丈夫そうで…」
 キュリアさんなら、火炎放射同然に扱えるはずですからね。自分の呟きに、ランベルさんは心配しないでください、っていう感じで応える。確かに彼の言う通り、この技はキュリアには最適かもしれない。ソーラービームは溜めが必要な大技だけど、特性の効果でキュリアさんにはその必要が無…。
 「グルァッ! 」
 「…っと、のんびり話している場合じゃなさそうですね」
 「影分身…、そのようですね」
 「ッギァッ…! 」
 不意を突かれましたが、この数なら問題無いですね。話しに夢中になっているのでチャンスだ、とでも思ったらしく、ランベルさんの死角…、彼の右斜め後ろからサンドが飛び出してくる。爪をむき出しにして跳びかかってきているけど、ランベルさんは冷静に対処する。このサンドの唸り声で気づいたらしく、彼はその方を見ることなく軽く真上に跳ぶ。その状態で体を捻って回転し、長い尻尾を叩きつけていた。
 ランベルさんに合わせて、自分も行動を開始する。彼が真上に跳んだタイミングで技を発動させ、もう一人の自分を一体つくりだす。その分身を遠くの方へ走らせ、ランベルさんが飛ばすであろう場所で待機させる。打ち合わせもなしに攻勢に移ったので地点はズレたけど、分身から見て左斜め一メートル前方に走らせる事でそれをカバーする。頭を低くし、右下から左上に振り上げさせることで、飛ばされてきたサンドを角で斬り裂かせた。
 「これで最後です! 」
 「…ッ! 」
 自分自身はというと、この間に鞄に顔を突っ込み、一本の木の枝を口に咥える。取り出してから相手の地点を予想し、首を前に向けてふる事でそれを飛ばす。そのために分身には上方向に斬り上げさせたので、予想通りに位置でサンドに木の枝が突き刺さる。無限に湧いてくる野生なので紅く染まる事はなかったけど、それが致命傷になったらしく、これ以上攻めてくる事は無かった。
 「ふぅ。ひとまずは、しのげましたね」
 「そうみたいですね。…ですけどシリウスさん? 何か攻撃技、使いました? 」
 「分身の攻撃ですね? いいえ、ただの通常攻撃ですよ」
 難なく戦闘を終え、一息ついていると、ランベルさんが興味ある、と言いたそうに自分に訊ねてくる。一応自分は技を発動させはしたけど、補助技なので厳密には雄とは言えない。なので一度首を横にふり、そのままの流れで種明かしする。彼が講じた攻撃手段を同じだけど…。
 「ですけど、それにしては威力が高くありませんでした? 」
 「確かに、高いといえば高い部類になるかもしれませんね。自分みたいな角のある種族の利点を生かした、という感じでしょうか。アブソルはその中でも鎌状の角を持つ種族ですからね、普段から念入りに角の手入れをしていれば、みねうちぐらいの威力は出せるんですよ」
 ランベルさんに当てはめるなら、尻尾ですね。種族ならではの話しになったけど、とりあえず自分はこの事を教えてあげる。種族にもよると思うけど、自分はそう思っている。自分の場合注意しないと傷つけてしまうけど、その分便利な一面もある。四足の種族は細かい作業はあまり得意でないけど、紙とか紐を切る事なら道具を使わずにできる。さっきみたいに戦闘にも使えるので、要は使い方次第な気もしますけど…。
 「みねうちぐら…、シグナルビーム! 」
 …っと、また来たみたいですね。ランベルさんは何かを言おうとしていたけど、その途中で別の野生が近づいてしまう。今度はすぐに気付くことが出来たので、相手の間合いに入られる前に行動を開始する。自分は引き続き分身に向かわせ、ランベルさんはエネルギーを少しだけ溜める。それを虫の属性に変換し、七色の光線として解き放っていた。



  つづく……

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