1話 ポケモンの世界へ

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読了時間目安:12分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

2019年6月25日改稿
白い光があたりを包み、時より穏やかな風が吹き、空には色鮮やかな花びらが舞っている。
そんな幻想的な景色の中、うっすらと見える2つの影が何かを話している。
2つの影は顔だけでなく、どんな姿をしているのかさえ、霞がかかって見えない。
だが、とぎれとぎれに声だけは聞こえ、時折その声が意味のある言葉を喋っていると理解できることから、どうやら会話をしているという事だけは認識できた。

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「こ・・・で・・・か・・・・・・・・・・・」
「・・こ・・・っ・・・で・・・・・り・・・」

「・・がとう。・・・・・・・・・よ。・・・・・・・?」

「・・・・・・・・・・・・・けなくても・・・・・・・ってる。・・・・・・・?」
「..うん。...うんッ!」

「・・・・・・・・つけて。・・・・・・・・・・・・・・忘れないで」
「わかってる。・・・・・・ける。・・・・・・・忘れない! ....約束だよ!」
「・・・・・・もし、・・・・・・たら・・・・・・・」
「・・・・・るよ!・・・・・・・・・・卑怯だよ...。」

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ピピピピッ!ピピピピピッ!―――カチッ!
部屋に鳴り響く目覚まし時計の音。
その発生源を無意識に止め、夢の中から引きずり戻された1人の男性。
この男性の名前はハルキ。
今年の4月から社会人となり、まだ慣れ切らない生活リズムに少し苦労しながらも一人暮らしの生活を送っている。

「ふあああっ...」

あくびをしながら、まだ完全に開ききらない瞼をこすり、眠そうな表情でベッドから起きあがった。

「また、あの夢か・・・」

まだぼんやりとした意識の中でポツリと呟き、おもむろに部屋から出ていくと、まだ眠気が取れていないのか、少々フラフラした足取りで洗面所に向かい、顔を洗った。
ハルキは幼い頃、とある事件に巻き込まれて両親を失い、それから施設で育てられた。
そのため、高校生の頃には、すでに1人暮らしをしていて、大体の家事をこなせるようになっていた。
...のだが生活リズムが大学生時代にやや乱れてしまい、それを矯正するのに苦労しているのが現状だ。
昨晩、コンビニで買っておいたパンで軽めの朝食をとりながら、コーヒーを飲む。
シトシトと外から音が聞こえ、窓の外を見るとちょうど雨が降り始めた所だった。

「今日も雨か..。 雨は嫌いじゃないけど、こうも振り続けられると、ちょっと困るな」

ため息まじりに、独り言を呟くハルキ。
季節は6月の中旬でまさに梅雨、まっさかりの時期。
ここ数日、雨が振り続いているおかげで、洗濯物はほとんど乾かず、まだ着慣れてないスーツも雨により所々を毎日濡らしては、部屋干しで乾かし、明後日には再び着るという無茶な着かたをしている。
さすがに、気になってきたのでクリーニングに出さないとまずい。
そんな事を考えながら、朝食の片づけをし、すばやく身支度を終えると傘をもって家の扉を開け、会社へと重たい足取りを向けてハルキは歩き出した。

――――――――――――――――――――

「あー疲れた...」

帰宅するなりハルキはベッドに飛び込み、今日1日の出来事を思い出す。
朝からお客さんのクレーム対応をし、上司に理不尽な理由で叱られ、定時だろうと誰1人として帰らずに仕事をする職場、そんな雰囲気でハルキだけ定時で帰れるはずもなく、ハルキが帰宅した時にはすでに、時計の針が10の数字をこえていた。
いつもの事だけど、連日の雨による影響なのか、右も左もイライラしている人ばかり。
そんなことを考えた所でどうしようもないと思い、ハルキは日常に対する嫌な考えを保留することにした。
ボーっと天井を見ながら寝そべっていると、ふと今朝の夢を思い出した。
白い光の中で鮮やかな桃色の花が舞っている。
そんな景色の中で誰かと誰かが何か大事な話をしている。
片方は寂しいのを隠すかのように明るく振舞った声で、もう片方は気持ちを隠すことなく涙声で会話をしている。
そんな不思議な夢をハルキは昔からたまにみる。
その夢をみると、毎回、胸が締め付けられるような気持になり、いろんな感情がごちゃ混ぜになって、気が付くと朝になっている。
何かを約束しているということはわかるが、いつも大部分の声が聞こえなくて何が何だかさっぱりわからない。
そんな不思議な夢。
ベッドの上で天井を見ながら不思議な夢について考えていると、ハルキの瞼はだんだん重くなりはじめた。
今日は色々あったし明日は休みだから、このまま眠ってしまってもいいかな。
ハルキはそう考えると、睡魔に身を任せて瞼を閉じた。

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「・・・キさん。 ・・ルキさん! ハルキさん!!」
「はいぃぃ!! な、なんでしょう!?」

大声で名前を呼ばれたハルキは慌てて返事をした。
急に呼ばれたものだから、うっかり変な声を出してしまったが気にしないでおこう。

「急に起こしてしまってすみません。 ....といってもここは夢の中なのですがね」

そう話しかけてくる声の方向に顔を向けると、そこには鮮やかな朱色と黄色の羽をもつ、
1匹の大きな鳥と思われるポケモンがいた。

「え? ホウオウ!? あのゲームに登場する伝説のポケモンの!? なんで…」

――ポケモン、それは世界的に大ヒットしたゲームに登場する架空のキャラクター。ハルキのいた世界では少なくともそういう認識であった。

「そうでしたね...今のあなたにはそういう認識でしかないですよね....」
「あの、どういうことです?」
「いえ、なんでもありません」

ハルキの反応に少し寂しげな表情を見せた目の前のポケモン――ホウオウは表情を瞬時に切り替えると、ハルキを改めて見据えて話し始めた。
色々と聞きたいことはあるが、そのただならぬ真面目な雰囲気をハルキは感じ取り、今は真剣にホウオウが話す言葉に耳を傾けることにした。

「突然ですが、ハルキさんには我々ポケモンの住む世界、ファンドモストに来ていただきたく、こうして夢の中にお邪魔させてもらいました」
「えっ、ポケモンの世界? ファンドモスト? そこに僕が行くってことですか?」
「ええ。 驚くのは無理もありません。 順を追って説明します」

そこからホウオウはなぜこんな頼み事をしにきたのかを丁寧に説明してくれた。
説明の内容を大まかにまとめると、

・人間との世界とは別にポケモン達が暮らす世界があり、その世界の名前は『ファンドモスト』と呼ばれていること。
・ポケモン達の暮らす世界に悪しき心を持つものの脅威が迫っていること。
・脅威を退けるにはポケモンだけでなく人間の力が必要であること。
・ハルキが選ばれたことは、今は話すことはできないがちゃんと意味があること。

といった内容であった。

「もちろん強制するつもりはありませんが、それでもいいとおっしゃるならば...
「わかりました。 いいですよ」
「ええぇっ! そ、即答ですか!?」

もっと迷うと思っていたのか、真剣な顔つきから一転し、間の抜けた表情になったホウオウが気の抜けた声をだしたが、咳ばらいを1つしてすぐに表情を戻した。
しかし、やはり少し恥ずかしかったのか、翼で口元を少し隠している。

「オホン...失礼しました。 私としたことが取り乱してしまいました。 そうですよね。 あなたは、昔からそういう人でしたね」

ホウオウがハルキに懐かし気な視線を向けつつ、勝手に納得し始めた。
そんなホウオウのリアクションが少し気になるが、ハルキにとってはそれよりも、ゲームの世界では、お堅いイメージのあった伝説のポケモンが目の前で、人の言葉を話し、恥ずかしそうに照れている姿を見て、テンションが少し上がっていた。
架空だと思っていた存在に出会い、言葉を交わせば誰だって、テンションが上がってしまうものだろう。

「あの、本当にいいのですか? 頼んどきながらアレですが、人間の世界で暮らすことはもうできない...つまりこちらの世界には戻れないんですよ?」
「あっ、やっぱりそうなるのか」

ホウオウの説明を聞いていた時に、薄々感じていた事だが、ここで僕がポケモンの世界に行くことを選んだら、2度とこちら側の世界には戻ってこられないというわけだ。
だが、こうして僕の目の前にホウオウが現れ、僕が選ばれたことには意味があると言っていた。
ハルキにとって、今のあまり必要とされず、精神をひたすらすり減らす世界で暮らしていくよりも、子供の頃によく夢に見た架空だと思っていた世界に行けるという事とハルキに明確な役目があるポケモンの世界の方がとても魅力的で輝いて見えた。

「人間の世界で何か気がかりな事はないのですか?」
「ない....って言えば嘘になるのかな。 でも選ばれたことにはちゃんと意味があって、こうしてわざわざ僕の夢にまで来てくれて選択肢まで与えてくれるという時点で、僕がポケモンの世界に行く理由としては十分すぎるよ」

ホウオウの質問をきいてハルキの脳裏には、2人の友達の姿がよぎったが、不思議と心配や不安はなかった。
友人として2人を心から信頼しているからなのか分からないが、なんとなく大丈夫な気がした。
それに、何の根拠もないのだけど、なんとなく2人には、また会えるような気がする。
今のホウオウの質問で、ハルキの覚悟が揺らぐことはなく、ただ無言でホウオウをハルキは見つめた。

「......どうやら覚悟は決まっているようですね。 あなたの協力に感謝します。 それでは、ポケモンの世界に適応するために姿をポケモンに変えさせてから、我々の住む世界、ファンドモストに来てもらいますね!」
「え!ちょっ..それは聞いてなっ....
「ご武運を祈っていますね! またいずれお会いしましょう! ハルキさん!」

ハルキが重要な部分について質問しようと思ったが、有無を言わさぬスピードで話をすすめられホウオウの言葉を最後に、ハルキの意識は遠のきはじめた。

(そういう大事な話は、最初の説明の時に言ってよ..)

こうしてハルキの意識は完全に途絶え、夢の空間からハルキの姿も同時に消えた。

――――――――――――――――――――

「行ったか」
「行きました。 あなたが懸念していた事は杞憂に終わったようで良かったじゃないですか」
「フン。 まだわからん。 あの魂は確かに我らと共に奴と戦った存在で間違いないだろう。 だが、人間という者は簡単に汚れ、歪んでいくものだ。 たかが二十数年とお前は思うかもしれんが、その短期間で歪むほど、人間の心は醜く汚れている」
「はぁぁ...人間によって命をもてあそばれた、あなたが人間嫌いなのは知っていますが、そもそもこの決断をしたのはあの戦いでリーダーを務めた・・・とあなた自身なんですよ?」
「まあいい。 あいつが変わっていようが、変わっていまいが、いずれ私の元に・・・と一緒に来るだろう。 その時を私は待つだけだ」

突然現れた声は、そう言い残すと夢の空間から去っていった。

「今の私にできる事は、あまりありませんが信じています。 ハルキさん。 頑張ってください」

伝説のポケモンらしくない、祈るような声でホウオウは呟き、夢の空間から消え去った。

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