壱弐 オドロキ

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読了時間目安:8分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 調査団のお膝元として有名なワイワイタウンを訪れた僕、ミズゴロウのウォルタ。
 心の中でレシラムのシロと話しながら目的地を目指していると、そこの団員だって言うニャビーとアシマリの二人に出逢う。
 訳を話して連れて行ってもらおうとしたけど、信じてもらえず、それを証明するためのバトルが勃発する。
 だから僕は軽くあしらい、危なげなくそれを証明してみせた。
 [Side Wolta]



 「俺達と同じ、進化してない種族なのに、こんなに強いなんて…」
 「ニヒトと一緒だったのに、一発も当てられなかったのは初めてだよ」
 「こう見えて僕も、色んな経験積んでるからねぇ~」
 あまり見た目で分かってくれないけど、並のチームよりは多くの修羅場をくぐり抜けてきてるから、負けない自信はあるよ。へなへなと崩れ落ちた二人に、僕は笑顔で前足を差し伸べる。準備運動程度にしかならなかったけど、僕はこういうのは嫌いじゃあない。僕自身、弟子を持って色々教えているから、かな? 駆け出しの子とかはもちろん、バトルを観たりする時はいつも、相手のバトルにおける持ち味とか欠点を探ってしまう。
 「僕が見た感じだと、基礎は出来てるけど、技の性質を上手く利用出来てないって感じかなぁ~。連携技も、片方が遠距離技、もう片方が近距離技で仕掛けてみるよ、うまくいくかもしれないよ? 」
 「技の、性質? 」
 「うん。例えばニャビーのきみなら、最初に発動させた火の粉。きみは僕に向けてだけ放ってたけど、同じエネルギー量で縦とか横方向にも放つと、成功率が上がると思うよ~。アシマリのきみなら、アクアジェット。纏う系の技は、攻撃だけじゃなくて守りにも使えるんだよ~。…弱点の草とか電気タイプが相手だと、逆にダメージが増えるけど…」
 これぐらいしか分からなったけど、アドバイスするなら、こんな感じかな? 僕はこの短時間で見極めた事を、そのまま彼らに伝える。バトルの影響で息が切れてるけど、これを二人は真剣に聴いてくれた。そんな彼らに感謝しつつ、僕は彼らへの助言を続ける。幼なじみが使ってた事と照らし合わせ、それを基にこう教えてあげた。
 『ウォルタ殿、上機嫌ですな』
 『だって久しぶりにキノト以外の子に教えれたからね~』
 ベリー達は頻繁に後輩に教えてるみたいだけど、考古学者の僕は、そういう事はあまりないからなぁー。久しぶりの感覚に胸を躍らせていると、これがシロにも伝わったらしい。彼自身もかなり嬉しそうに、僕に訊いてきた。だから僕も、心の中でこう答える。目の前にいないから分からないけど、多分シロも、僕と同じで症状を緩ませていると思う。
 「そんな使い方があったなんて…」
 「考古学者って言ってたけど、きみって本当に考古学者なの? 」
 まぁ、僕の戦い方でこう思うのも無理ないかなぁ…。心の中でシロと会話していると、ニヒトって呼ばれていたニャビーが呆気にとられたように呟く。見た感じレーヌっていう彼女もそんな感じだったけど、彼女は僕への興味の方が勝っているらしい。気になって仕方がないって言う感じで、僕を問いただしてきた。
 「うん。名乗るのが遅れたけど、考古学者のウォルタ、って言えば分かるかな~? 」
 「えっ? ウォルタって、三年ぐらい前に幻の大地を発見したっていう、あのウォルタだよね? 」
 「最近じゃあ別の諸島の事件の解決にも関わった、っていう、あの? 」
 「そうだよ~。三、四年昔になるけど、草の大陸の悠久の風と一緒に行動してた事もあるよ。それ以外の事は、きみ達の調査団のアイナさんも知ってるんじゃないかな? 」
 彼女には協会の方でお世話になってるから、話してもらえば信憑性も上がるかもしれないね。結局タイミングを逃しただけだけど、僕の名前を言うと、二人はあまりの事に素っ頓狂な声をあげてしまっていた。協会内にも僕についてあまり良く思ってない人もいるけど、世の中は見た目とか家柄が全てじゃないと思っている。…一応僕の母さんはギルド協会に勤めてるけど…。
 「アイナさんが? 」
 「そうだよ~。…っと。つい忘れそうになったけど、アイナさんにちょっと用事があるから、案内してくれるかな~? 」
 「アイナさん…、あっ、そうだったな! 」
 僕もバトルに夢中になってたけど、そもそもこのためにワイワイタウンに来たからね。その後でキノトと合流しないといけないし…。僕は一通り言って、そのお陰で本来の目的を思い出すことが出来た。直接口に出して言ったから、二人も本題を思い出してくれた。
 「うん、じゃあ案内するね! ついてきて! 」
 「よろしくね~」
 そうと分かると、活発そうなアシマリの彼女は元気いっぱいに言い放つ。そういう訳で、僕は彼らにこの街の主要機関、調査団の支所に案内してもらうことになった。


―――

 [Side Wolta]



 「着いたよ。ここがわたし達のギルドだよ」
 「へぇ~、ここがそうなんだね~。やっぱり聴くのと見るのとでは違うねぇ~」
 噂には聞いてたけど、ここまで凄かったんだ~。調査団の二人に案内してもらった僕は、ある建物の前で立ち止まる。その建物は、僕の背丈では見上げるような高さの天文台…、って言ったらいいのかな? 街一番の高さって言っても良さそうな建物に案内されたから、僕は思わずそれを見上げてしまう。こうなると田舎の出身だってまるわかりだけど…。
 「そうだろ? 」
 「草の大陸だとここまでの高さの建物ってないから、つい見入っったったよ」
 強いて言うなら、幻の大地の時限の塔くらい、かな?
 「本当に? 」
 「うん。それにきみ達のお蔭で来れたから、助かったよ。ありがとね~」
 「どうも。…んじゃあ俺達は調査があるから、そろそろ行くよ」
 地図も買わずにこの街に来たから、本当に助かったよ。ひとまず目的地に辿りつけたから、僕は案内してくれた二人にこう感謝の気持ちを伝える。ストレートに伝えたから少し照れてたけど、その甲斐あって思いは伝わったと思う。それから一通りを挨拶をすると、会話を切り上げて二人はこの場を発つ。もしかするとまた会えるかもしれない、僕はそう感じながら、彼らの後姿を見送った。
 「さぁてと…、すみません、考古学者のウォルタです! 」 
 二人の姿が見えなくなると、僕は回れ右をして建屋に向き直る。そして一息ついてから、喉に力を込める。結構大きな建物だから、腹の底から声を絞り出した。
 「はいはいー、今いくよー! 」
 すると建物の奥の方から、一つの声が響いてくる。聞き覚えの無い声だから、答えたのはアイナさんじゃないと思う。
 「ええっとアイナだよね? 」
 「えっ、ええっ? きっ、きみって、もしかして…」
 ちょっ、ちょっと待って! 彼の種族って、こういう所にいるものなの? すぐに建物から出てきてくれたけど、その彼の種族に、僕は思わず言葉にならない声をあげてしまう。これまで何人も会ってきたけど、シードさんとチェリー以外には聞いた事が無い。何しろ奥から出てきた彼? の種族は…。
 「じっ、ジラーチ、ですよね? 」
 「うん」
 シードさん達と同じ、幻の種族って言われているジラーチ。文献とか資料でしか見た事が無かった種族だったから、僕は思わず驚きでとびあがってしまった。
 『しっ、シロ? ワイワイタウンにジラーチがいるって、知ってた? 』
 『いや、拙者も初耳だ』
 『そっ、そうなの? 』
 シロも知らなかったの?
 「きみの事はよく知ってるよ。きみは水の大陸の探検隊ギルドの親方と、知り合いなんでしょ? 」
 「そっ、そうですけど、何…」
 「それにレシラムとも知り合いなんだよね? 」
 「っ! なっ、何で、その事まで…」
 「何しろボクは天才だからね、天体の軌道を読めば、知れない事は何もないよ」
 まっ、まさかここまで言い当てられるなんて、この人、何者? 伝説の繋がりで知ってるのかもしれないけど、流石にハク達の事までは知らないはずだよね? 驚く僕に更に追撃ちをかけるように、彼は僕の交友関係を次々に暴露していく…。ただでさえびっくりしていてそれどころじゃなかったから、僕は彼の勢いに、何も返せない…。ただ、陸に打ち上げられたコイキングみたいに、茫然と口をパクパクと開閉する事しか出来なかった。



   続く

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