One-Third 気がかりな事

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 いつもの朝礼を終えたウチ、ハクリューのハクは、弟子のフレイにおつかいを頼んで行動を開始した。
 彼と同じチームのリルは、会計士のフロリアに頼んで水中での戦闘を想定した特訓を始めとった。
 一方のウチはというと、水中区画を通って行きつけの喫茶店に向かった。
 そこで待ち合わせしとった友達のチェリーと合流し、ランチの時間帯を過ごそうとしていた。
 [Side Haku]



 「お待たせしました、こちらがビアーコーヒーとパイルソーダ、それとトーストが二点になります」
 「ありがとな! 」
 「ハクって本当に好きなのね」
 「チェリーもいつもそれやんね? 」
 「そういえばそうね。この爽やかな酸味が癖になるのよねー」
 チェリーといえば、コレやでな! 少しの時間待ったところで、ウチらが座るテーブルに注文したものが運ばれてきた。飲み物やから慎重に運んできとったけど、その彼は一つずつ読み上げながらテーブルに置いていく。一つはウチが頼んだビアーコーヒーで、ほろ苦い香りと共に白い湯気があがっている。もう一つはチェリーが注文した炭酸飲料で、ほんのりと黄味を帯びている。ウチもたまに飲むんやけど、強めの炭酸がパイルの実の酸味と辛味を更に引き立てている。更にウチとチェリー、二人の前に置かれたのは、こんがりと焼かれたトースト。バターとマゴの実のジャムが添えられていて、これもウチのお気に入り。チェリーも気に入っとるみたいやから、定番と言っても過言やないかもしれないね。
 「そやな」
 「…そういえばハク、最近災害が多いって思うのよね…」
 「確かに、そうやな。そこの参碧の氷原も少し雪が強く降る時があるし、最近やとニアレビレッジで土砂災害があったばかりやでなぁ…」
 聞いた話やと、壊滅的な被害をうけたみたいやでなぁ…。ストローを使ってドリンクを飲みながら、チェリーは次の話題を持ち出してきた。いつもチェリーは明るいけど、今回ばかりは少し暗くなっていた。自然災害は最近よく聞くようになったことやから、チェリーも心配になってきとるらしい。もちろんウチもそうやから、尻尾で持ったカップのコーヒーを嗜みながらこう答えた。
 「聴いた話によると、ラテ君達が近くにいたみたいだから、心配なのよね…」
 「そっ、そうなん? まっ、まさかラテ君達が? 」
 「そうなのよ。…だけど、三人ともパラムタウンにいたみたいだから、被災する事は無かったらしいわ」
 しっ、知らんかったよ…。ウチは土砂災害の事までは知っとったけど、まさか親友達のチームがその近くにいたことまでは知らなかった。やからウチは、思わず大声をあげて驚いてしまった。それで他のお客さんを驚かせてしまったけど、ウチは驚きの方が大きくてあまり気付けなかった。そやけどすぐに彼らの無事を教えてくれたで、ウチは何とか落ち着きを取り戻すことができた。
 「…なら、良かった」
 「…だけどハク? エアリシアからも近いはずだけど、親御さんは…」
 「あの二人やから、しぶとく生き残ってるやない? 興味ないけど。…そんな事より、チェリーの方は大丈夫なん? 」
 あの二人の事やから、また権力にモノを言わせて何とかしとるんやろうな…。小さな手でトーストを持ちながら、チェリーは心配そうにウチに訊いてくる。やけどウチには関係ない話やから、適当に流して別の話題に切り替える。ウチはウチで気になっとる事があるから、ジャムの塗られたトーストをかじりながら訊ねてみた。
 「えっ、そっ、そうね…。この時代のセレビィから聴いた話だけど、最近“時の回廊”の状態が安定しないらしいのよ…」
 「“時の回廊”が? そんな事、今まで無かったやんね? 」
 「そう聴いてるわ」
 それって、大変な事やんね? 興味本位…、話題を変えるために無理やり訊いた事やけど、この感じやと状況はあまり良くないらしい。彼女も直接確認して…、いや、確認できないけど、伝え聞いた事を神妙な様子で教えてくれる。あのチェリーがこんな表情をしたのは、多分“星の停止事件”の時以来やと思う。やからそれだけで、事の重大さが直接伝わってきたような気がした。
 「わたしがグラスさんとラテ君と来た時…、あの時はダークライの妨害に遭ったけど、今回はそれとはどこか違う気がするのよね…」
 「それが原因でラテ君は記憶を失って、イーブイになってたって聞いたけど…」
 「ええ。記憶を失う、みたいな事は今のところ無いみたいだけど、予定通りの場所と時間に“渡り”にくくなってるらしいのよ」
 「それって…」
 「そうよ。もしかすると、シードもこの時代に来る時に、その影響を受けるかもしれないわ」
 嘘やろ…。って事は…。前に似たようなことがあった事は知っとるから、ウチはてっきりそれが起きてるんやと思ってた。やけどウチが知る限りでは、封印されとるはずの“時の歯車”についての話しも全く聞かないし、もしそういう事があったらウォルタ君が真っ先に知らせてくれるはず…。知らされた事と言えば、ギルド協会からの通達。昨日の朝聴いたばかりやけど、ダンジョンに潜入する時は十分に注意するよう勧告されている。
 やけどチェリーから知らされたのは、それと似て少し違う事…。チェリーはその“チカラ”を失ってしまっとるけど、この時代、七千年代のセレビィが影響を受けてるとなると、かなり重大な事…。おまけにウチらにとっても、“時渡り”関係の事となると他人事じゃなくなる。何しろウチらの親友のうちの二人、それと一人の友達が、五千年も前の時代の出身。たまにウチらの時代に遊びに来てくれとるから、そうなると彼女達にとっては死活問題…。
 「シードさんまで? 」
 「ええ。四千年代の同族に最近会ったけど、砂の大陸に“渡る”つもりだったのが、別の諸島に地点が逸れてしまったらしいのよ。五千八百年代以降のセレビィ達に相談したらしいんだけど、この時代に“渡る”時だけ、こうなるって言ってたわ。原因も分かってないみたいだし…」
 そんな事が…? 親友が教えてくれた種族ならではの事に、ウチは開いた口が塞がらなくなってしまう。偶然そうなるのならその人の実力の問題って事もあるけど、この時代に限っての事だから、尚更唖然としてしまう。チェリー自身は七千二百年代の出身やけど、七千年代の住民って言って過言やないから、彼女にとってもただ事ではないはず…。おまけに原因も分かってないみたいやから、どうにかしないといけない、ウチはそう強く感じずにはいられなくなってしまった。ギルドの親方として、“星の停止事件”に関わったチームのリーダーとして…。



  つづく……

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