にのよん 充実したギルドの設備

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 依頼主のチームのシリウスさんと合流した私達は、彼の案内でアクトアタウンのギルドに向かった。
 その途中で私達は、エーフィのシルクさん、それからアブソルのシリウスさん、この二人の秘密を知ることになる。
 そうこうしている間にギルドに着き、そこで会計士のフロリアさんの歓迎をうける。
 部屋が空いているみたいだから、彼女達の厚意で部屋を貸してもらえる事になった。
[Side Kyulia]



 「…じゃあキュリア、僕は先に行ってるよ」
 「ええ、分かったわ」
 それにしても、いい感じの部屋ね? フロリアさんはもう下に降りているけど、私は持ってきた荷物を適当にばらしていた。まだ歴史が浅いギルドって事もあって、今いる二階の部屋にかなりの空きがある、てシリウスさんが言っていた。だから私達はチームで一部屋でなく、一人に一部屋ずつ貰えている。だから私とランベル、それからシルクさんも別々の部屋…。ちょうどランベルが荷物の整理を終えたらしく、小さめのウエストポーチだけを持って、私の部屋を覗いて声をかけてくれる。そのまま右手で会釈して、一足先にロビーの方へ降りていった。
 「ええと、ひとまず財布とこれさえあれば大丈夫かしら? 」
 アクトアタウンは水の都って言われているぐらいだから、もしかするとあったら役に立つかもしれないわね。私は大きい荷物から目的のもの、長財布と水色の結晶のネックレスを取り出す。先に小さめの鞄は出してあるから、そこに尻尾で片付けていく。ネックレスの結晶に触ると私は氷タイプになるけれど、さっきは紐の部分を持ったから、炎タイプのまま。ダンジョンに行く時と比べると物凄い軽装だけれど、多分行くのは街だけ。だから、これだけで十分よね?
 「…キュリアさん、どうですか? 」
 「シリウスさん。ええ! 丁度いい広さで、結構くつろげそうだわ」
 アクトアタウンらしい造りだから、もし旅行客として泊まるなら、最適な部屋かもしれないわね! 準備が出来たから、私は下ろしていた腰を上げ、スッと立ち上がる。部屋から出てから真ん中の尻尾で扉を閉め、左から二番目の尻尾で掴んでいる鍵で施錠する。その時に左の方から、丁度シリウスさんが歩いてきた。そこで彼は私に、手短にこう訊ねてきた。
 「どういう仕組みなのかは分からないけれど、気に入ったわ。二階の部屋なのに水路が通っていて、顔を洗う時とかは便利そうね」
 「気に入ってもらえて嬉しいですよ。ハクのアイデアなんですけど、水車で二階に水を上げているんです」
 水車? そういえば、建物の陰にチラッと見えた様な気がしなくもないわね。私はありのままの感想を、副親方のシリウスさんに伝えてあげる。他の部屋はどうなのかは分からないけれど、入り口の反対側に十五センチぐらいの水路が通っていた。流石に足の付け根までつけて水浴びする気までは起こらない…、というより炎タイプだから激痛が走るけれど、足先をつけるくらいなら何とか耐えられる。タオルを浸して尻尾で硬く絞って、それで顔を拭くのが私の洗顔方法。四十八度ぐらいのお湯なら、普通に浸かっても平気。たまに温度を下げ忘れて、後から入るランベルに注意される事があるけれど…。
 「ハクさんの、なんですか? 」
 「はい! 」
 話している間に私達は、螺旋階段で下のフロアに降りる。螺旋階段とは別に太めの水路が廊下に沿って通っていたけれど、これは多分水中で住む種族用の通路なんだと思う。途中で行き止まりの壁の下に潜っていていたけれど、下に降りたら同じ太さの水路があったから、そこから続いていたんだと思う。そして下のロビーに降りたら、先に降りていたランベル、シリウスさんが、フロリアさんと、多分ハクさんと話していた。話がまだ途中みたいだから、私は…。
 「キュリアさんも来たみたいね? 」
 「えっ、ええ」
 私達は、偶々鉢合わせになったフロリアさんと話すことにした。
 「水の都だけど、炎タイプの私でも過ごしやすい所なのね」
 「やっぱりそう思うわよね? アタイもこの街に来た時に一発で気に入ったのよ」
 「流石、住みたい街、第二位に選ばれるっていう事はありますよね」
 確かにようよね。水は私にとっては命取りになるけれど、それでも過ごしやすい、って思えた。何故かは分からないけれど、多分この街の空気がそう思わせてくれているんだと思う。それに巷では、アクトアタウンは過ごしやすい街としても名が知られている。流石に私みたいな炎タイプとか、水が弱点の地面とか岩タイプは少ないけれど…。けれど私は、氷タイプになれる、って分かったからかしら? この街を好きになれた気がした。
 「そうね! …あっ、ランベル達も話終わったみたいね」
 「そのようね? …ハク、全員揃ったから、そろそろ始めましょう? 」
 「あっ、そうやな。キュリアさん、すまんね、待たせてしまって」
 「そんな事無いわ。…ええっとあなたがハクさんね? 」
 「そうやで! 」
 …うーん、独特な訛りね。この訛りは、風の大陸の方かしら? 丁度私達の話が終わったところで、ランベル達の方もキリがついたらしい。だから私はパッと明るい声で呼びかけ、一番右側の尻尾でもその方を示す。するとフロリアさんも気づいてくれたらしく、彼女はギルド親方のハクリューに声をかけてくれる。すると呼ばれたハクさんは、活発そうな笑顔でこっちの方に来てくれた。
 『私よりも二つ年上だけ…』
 「しっ、シルクさん? ハクさんよりも年上って…」
 『あっ、そう言えば言ってなかったわね』
 そっ、そうだったの? と言う事は、私よりも結構下、って事よね? ハクさんに続いて、白い服を着たシルクさんも駆け寄ってきてくれた。この二人を見ると、本当に仲が良いのね、って真っ先に思えてくる。同性でこういう関係の友人がいるのは、少し羨ましい。だけどこの想いは、ポロっと出たシルクさんの一言で、どこかへ行ってしまった。何しろ私は、しっかりしていて大人の女性っていう感じだったから、シルクさんは私と同じくらいか、その少し下の歳かと思っていた。だけれど話を聞いた感じだと、三つぐらい下の世代のハクさんより更に年下、ということは確実。その事に私は、思わず声を荒らげてしまった。
 「シリウスから訊いてなかったんやな? シルクはウチの二つ下の二十三。…やけど二年ぐらい前に戦った時はウチより強かったんよ! 」
 「はっ、ハクさんよりも? 」
 ハクさん以上って事は、探検隊なら普通にマスターとかハイパーぐらいの実力、って事よね? それも、二、三年前の時点で…。すぐにハクさんが教えてくれたけれど、私はその年齢が予想外過ぎて頓狂な声をあげてしまう。おまけにギルドマスターのハクさんに昔勝った事がある、って言っていたから、その事が私を更に驚かせる。だけれどその反面、今朝のシルクさんの様子にも納得も出来た気がする。リアンさんもそうだったけれど、その彼以上にサイコキネシスを使いこなしていた。
 「そうアタイは聴いているわ。…さぁて、ハク? そろそろ本題に入ったらどうだぃ? 」
 「あっ、そうやな」
 「ですね」
 私もついうっかりしてたけど、ここに来たのは観光じゃなかったわね? フロリアさんはうんうん、って頷いていたけれど、思い出したようにハクさんに問いかける。それにハッとしたらしく、ハクさん、シリウスさん、それからシルクさんも表情で、短く声をあげてしまっていた。
 「はい。では気を取り直して…、ランベルさん、キュリアさん、今回は自分達、明星の依頼を請けていただき、ありがとうございます」
 「こちらこそ。わざわざ部屋まで用意して下さって、僕達の方こそありがとうございます」
 「そうね。これまで何回も直々の依頼はあったけれど、流石はギルド代表のチームね。ここまで良い対偶の依頼は無かったわ」
 「まぁウチらのギルドは分け前も多い、って自負しとるでね! インフラにも自信があるで、そのくらい当然やよ! 」
 酷いと報酬が数百ポケ、って事もあったから、ここまでの待遇は嬉しいわね。仕切り直しっていう感じで、シリウスさんが咳払いをしてから話し始める。元々丁寧な話し方だっから違和感はないけれど、依頼だからって事でかしこまった話し方で語り始める。その彼にランベルも、つられるような敬語で応じ始める。そのまま彼は、ぺこりと頭を下げて感謝の意を伝えてくれた。
 そこへ私も続き、楽な話し方でこれまでの事情を話す。直々の依頼はピンからキリだったけれど、今回の依頼はその中でもかなり上の方だとは思う。そんな風に言うと、ハクさんは相変わらずの訛った喋り方で、胸を張ってこう言い放つ。長い尻尾でもその自信を表すかのように、せわしなくそれを動かしていた。
 『私もそう聴いてるわ。…ええっと、近くのダンジョンの調査をするのよね? 』
 「はい。お手紙でもお伝えした通り、最寄りのダンジョン、参碧の氷原、その奥地の調査になります」
 「そやな。…やけど流石に今日からやと時間が足りやんから、調査は明日する予定やよ」
 「明日…、そうね。もう午後の二時を回ってるから、その方がいいわね」
 未開のダンジョンとなると、何が起こるか分からないからね…、時間も十分に見越して損はないわね。私が上で準備している間に聴いていたらしく、シルクさんもテレパシーで話に参加する。先生をしているシルクさんにはあまり関係がない気もするけれど、私の考えに反して、シルクさんは楽しみ、っていう感じで声を伝えてきている。ハクさんを負かした、っていうぐらいだから実力は十分だと思うけれど、やっぱりまだ未知数だとは思う。何しろ実力はあっても、シルクさんは五千年も前の世界から来ている。だからダンジョンの中となると、どうなるか分からない。…本人は、行く気満々みたいだけれど…。
 「そうですね。…ですけどハクさん? シルクさんも入れると五人になるんですけど、シルクはどうするんですか? 」
 「うーんと、そうやな…」
 ついてくるとなると、そこが気になるわね。ダンジョンに慣れてないはずのシルクさんも加わるとなると、その分彼女を守らないといけなくなるから…。シルクさんも参加するのは予想外だったから、私はリーダーのハクさんに、その事を聞こうとする。だけどその直前、ほんの一瞬の差で、ランベルに先を越されてしまう。結局は同じ事を聞こうとしてたから良かったけれど…。…それで、ランベルに訊かれたハクさんは、尻尾の先をあごに添えさせ、少し上を見ながら考え始める。そしてすぐに考えがまとまったらしく…。
 「とりあえず中間点までは、男子と女子で別れて見るのもええんとちゃうかな? そうすればお互いの戦略とか連携も確認できる訳やし、シルクも久々のダンジョンに慣らせるやろ? 」
 『そうね、それは良いかもしれないわね! 参碧の氷原はブロンズレベルって聴いてるけど、喋れなくなって一発目のダンジョンだから、そうしてもらえるならありがたいわ』
 「と言う事は、私とハクさん、シルクさんの三人と、ランベルとシリウスさんの二組に分かれるのね? 」
 「そうなりますね」
 分かりやすいチーム配分ね? それにブロンズレベルなら、私も氷タイプの姿の練習に丁度いいかもしれないわね! いい案を提案してくれたから、パートナーのシリウスさん、依頼請負人の私達、それから同行するシルクさんも、満場一致で賛成する。普段の炎タイプならそんな必要はないけれど、折角リアンさんから“氷華の珠石”を貰ったから、それを試したい、っていうのも事実。だから私は、そういう理由で大きく頷いた。





  つづく

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