45話 刃物の絆
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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
〜全壊したアジト付近〜
シャルル(…今まであいつがあんなもの使うとこは見たことない…アブソルの作り物とは派流の違いが大きすぎるし…それにこの空気…何をしようとしてやがるデンリュウ…!)
捨て身の覚悟でシャルルを下がらせ、デンリュウは取り出したナイフをヴェレーノに構える…逃げろと叫んでいたシャルルもいつの間にかその口を黙らせていた…理由はもちろん…異質な雰囲気を作り出したあのナイフだ…。
ヴェレーノ「……ホウ…マダ…。」
デンリュウ「………。」
肩掛けのカバンを放り投げて身軽になったデンリュウは逆手持ちにしている紫のナイフを前に構える…集中しているからかヴェレーノの言葉には反応すら示さない…。
デンリュウ「…………ラスターパージ……!」
シャルル「何…!?」
目を急に見開いてデンリュウが放つ技ににシャルルは自分の耳を疑った…そして目の前で起こった変化にも驚く…ナイフを振ると共にバチッと電気の塊のような障壁が現れたと思うといつの間にかヴェレーノが後ろへと派手な音と共に吹き飛ばされていた…。
ヴェレーノ「グッ…!?」
シャルル「え?あ……は?」
イーブイ「…ぶい?」
起こったことに脳が解釈を上手く受け付けず理解が追いつかない…シャルルとイーブイはしばらくヴェレーノが吹き飛んだあとの土煙を見ていることしかできなかった。
ヴェレーノ「……コノ…ガラクタ…ゴトキニ…!」
デンリュウ「ガラクタ…?違う…!これは私の宝物…そんな言葉でまとめるな…!」
ゆっくりと少ない触手で起き上がるヴェレーノにデンリュウは言い放つ…そしてまたナイフを前に出すとヴェレーノに照準を合わせようと構えた。
デンリュウ「それにガラクタはあんたの持つそれのほう…そんな力任せの機械なんかじゃ…私「達」は止められないわ…。」
ヴェレーノ「イワセテオケバ…!!」
デンリュウの言葉にヴェレーノは反応し、触手が地面をはじくと同時に一気に間合いを詰め始める…しかしデンリュウはその眼光をヴェレーノから外さない…そして二回目の触手の音でヴェレーノはもう既に攻撃態勢に入っており、デンリュウの距離を縮める…振りかぶる触手の勢いで大量に流れる血の一部がデンリュウの左頬を赤く染める…その時だった…。
……クスッ。
シャルル「!?」
蛇に睨まれた蛙とはこのことを言うのか…その小さい笑い声を聞いた瞬間…シャルルの背筋はゾクッと凍えるように寒くなり呼吸がしづらくなる…周りの風景が青く染まり、その場の時間が止まったしまったかのような…いつの間にかそんな錯覚に陥っていた…。
ボトッ…!!
ヴェレーノ「グオォ!?」
デンリュウ「…うまく…ひっかかってくれた…。」
目の前を何かが落ち、シャルルの意識は元に戻る…飛んできたものは今呻き声を上げるコイツ(ヴェレーノ)の触手だろう…そして…その触手は只の身体の一部じゃない…。
ヴェレーノ「キサマ…!コノ…!?」
ドシャッ!
デンリュウ「ふふっ…。」
ヴェレーノを笑うデンリュウにもう一度攻撃しようとした瞬間…ヴェレーノの身体は大きく体制を崩して倒れる…そう…デンリュウがナイフで斬ったのはいわば大黒柱…身体を安定させる支柱の最後の一本だったのだ…今のコイツにはもう立ち上がるための触手が足りない…もし残りの触手で立てたとしても体力や斬られた触手のリーチの問題、それに明らかに流した血の量の格が違う…どちらが勝利かは一目瞭然だった…。
ヴェレーノ「コンナ…!コンナ…ハズデハ…!!」
デンリュウ「ボスゴ…じゃなかった…シャルル…大丈夫?」
シャルル「あ、あぁ…大丈夫…なんとか立てるくらいまでは回復できた…お前もありがとな。」
イーブイ「ぶいぶい〜♪」
デンリュウ「どう…私も結構やる…でしょ?」
シャルル「あぁ…大したんだよ…聞きたいとこは沢山あるがな…。」
デンリュウ「………これのこと?」
シャルル「あ、あぁ…ナイフの切れ味もそうだがさっきラスターパージって言ったろお前…その技はお前には使えない技のはず…ましてや幻のポケモンとまで謳われたラティオスの技だぞ…?」
デンリュウ「……入ってるの…。」
シャルル「は?…何がだ?」
デンリュウ「ラスターパージ…このナイフを使えばできるようになるの…わかりやすく言うとこれはドーブルの筆のようなもの…スケッチ…と言ったところ…かな?…他にもいろいろできるよ…。」
シャルル「は、はは…規格外だな…反則だろそれ…アブソルもとんでもないもの作りやがる…。」
デンリュウ「違う…似てるけどこれは別の人の…。」
シャルル「なんだと!?じゃあアブソルと…!……いや、なんでもねぇ…あまり深くは知られたくないみてぇだな…。」
デンリュウ「…うん…そう言ってくれると助かる…かな。」
他にもいろいろ聞きたかったのだがデンリュウの目が下に向いていたのをシャルルは見逃さなかった…いつか自分と同じことにならない事を祈りつつ、目の前の動けなくなった敵に目を戻…。
イーブイ「イブ!」
シャルル「どうした?あいつなら……いない!?」
デンリュウ「えっ!?」
イーブイに促されて二人はヴェレーノに目を向ける…そこには動けなくなったはずのヴェレーノの姿は血だけを残して音もなく消えていた…。
シャルル「くそっ…どこ行きやがった!」
デンリュウ「…シャルル危ない!」
ブンッ…!……バシィンッ!!
岩陰を上手く死角に利用され、先に気づいたデンリュウはシャルルとイーブイの代わりに前にでて吹き飛ばされる…使われたのは間違いなく触手だろう…。
ヴェレーノ「勝者の…油断…だな…。」
シャルル「デンリュウ!…貴様ッ…何故…!」
ヴェレーノ「何故…?愚問だな、回復の手段など誰でも一つは構えておくもの…冒険者の基本だろ?」
シャルル「だがお前はきのみも道具も何も……じこさいせいか!」
ヴェレーノ「ご名答…だが気づくのが少し遅かったな…そいつの利き腕は暫くは使い物にはならんよ…。」
シャルル「まさか…デンリュウ…!?」
デンリュウ「…ごめん…折られた…!」
そこには腕の骨を折られた痛みに耐えてうずくまる彼女の姿があった…なんとかナイフを使おうと立ち上がろうとするが両手で触手を防いだのが失敗だった…衝撃で痺れてしまい上手く持てなくなっていたのだ…。
ヴェレーノ「クククっ…これでは自慢の宝物も形無しだな…。」
デンリュウ「ヴェレーノ…くっ!」
シャルル「デンリュウ動くな!イーブイ、その鞄の中に包帯があったはずだ!持って行ってくれ!」
イーブイ「ぶい!」
シャルル「メタルクロー…!」
肩からイーブイが飛び降りると同時にシャルルはヴェレーノに技を仕掛ける…だがそれをヴェレーノは目で追うことなく、まるで軌道が分かっているかのように容易く避けていた…。
ヴェレーノ「…ここだな…!」
シャルル「うぐっ!?」
隙をついた触手の重い一撃が腹部を叩き、その場に倒れる…その姿を見てヴェレーノは不気味な笑い声を漏らし…回復した触手でシャルルを押さえつける。
ヴェレーノ「緑の目の力さえなければこちらのもの…コードの地獄を身体に染み込ませた私は見事にその苦しみを乗り越えた…いまやこの力は本物…!これが私だ!こうなったらもうコードの副作用など関係ない…取り外したところで無駄だ…この意味が分かるよな…シャルル?」
シャルル「く…そっ!」
イーブイ「ブーイッ!」
キラン…!……ピシッ…!
イーブイ「イブッ!?」
父親の危機を理解したのか、イーブイはデンリュウの応急処置を中断し、即座にあの時の閃光…切り札を仕掛ける…しかしヴェレーノはその光を目に捉えた瞬間、目を細めて塊となった光を触手の一部で破壊した…。
ヴェレーノ「切り札か…強力だがまだ未熟だな…!」
シャルル「ガァ……ッ!?」
デンリュウ「そんな…!」
ヴェレーノ「そら、そろそろ腕と足が千切れる頃合いだ…無残な父親の姿をその目に焼き付けるが良い…!」
シャルル「グアァァっ!」
デンリュウ「シャルル!!」
どんどん強くなる触手の締め付けに比例するかのように、シャルルの悲鳴も強くなる…デンリュウの努力も虚しく、立ち上がろうとした身体は倒れ、ただ見ていることしかできなかった…死…その言葉が頭によぎってしまい、デンリュウの頬を雫が伝う…千切れる四肢の音を覚悟した…その時だった…。
?「ったく…世話の焼ける…。」
ヒュンッ………ドサッ…!
デンリュウ「……え…?」
上から見知らぬ声がしたと思うと、一本のナイフがデンリュウの涙を払いながら横を掠め、締め付ける触手を二本同時に音もなく切り落としシャルルを救い出す…触手を落とされたヴェレーノは無言で鋭い眼光を声の主へと向けた…。
?「毎日くれる手紙を最近寄越してくれないから…こうして仕事ついでにギルドまで飛んできたというのに…あろう事か道中で会えるとはな…オマケに腕も折られて絶体絶命の大ピンチと来たものだ…。」
ヴェレーノ「……。」
空を泳ぐように降りてきた声の主は大きく白い綿の翼を広げるとゆっくりと地に足をつける…チルタリスと呼ばれるそのポケモンは右頬の十字傷を翼で拭うと目を閉じてそう告げた…そしてその姿を見た時、デンリュウの目は大きく見開かれる。
デンリュウ「……師匠!?」
チルタリス「…暫く見ないうちに随分と丸くなったなデンリュウ…涙を流すまで情を持てるようになったか?」
デンリュウ「なっ…!」
指摘されて恥ずかしくなったのか、デンリュウは涙腺の後を折れた腕で必死に擦る…チルタリスはフッと笑みをこぼすとヴェレーノには目もくれず今度はシャルルに声をかけた。
チルタリス「立てるか…少年?」
シャルル「…なんとか…!救援感謝する…!」
チルタリス「そう来なくてはな…む?」
ヒュンッ……ズバッ…!!
ヴェレーノ「なにっ…!?」
コードの付加があるというのにチルタリスはその触手を左手だけ素早く動かすことであっけなく切り裂き対処する…。
チルタリス「まぁそう慌てるな…貴様を見逃さないことは既に俺の決定事項だ…下手な動きは死に急ぐだけだぞ…?」
ヴェレーノ「どういうことだ…さっきから何を言っている…。」
チルタリス「デンリュウ…それを…。」
デンリュウ「…はい…!」
痺れが取れた左腕で紫のナイフをチルタリスに投げ渡す…白い羽毛にぽふっとナイフを隠すと、ヴェレーノに向き直り…。
……よくやった…。
シャルル「…!」
小さくてよく聞き取れなかったが…たしかにそういった気がした…同時に目付きを先程の威圧感溢れる目に戻し、口を開く…。
チルタリス「ドククラゲのヴェレーノ…依頼書の通り…貴様を殺させて貰う…。」
ヴェレーノ「ほぅ…?では死ぬ前に聞かせてくれ…貴様は一体何者だ…?」
チルタリス「俺か?…俺はな…。」
チルタリス「…ただのしがない殺し屋さ…。」