誰かの為に強くなる 5

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:7分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「うーん、クイックファイアも小さく濃いエネルギーでやってるけ…ど!」

ルーナは試しに昨日の魔術を放つが、赤い板には届かない。

「もっと小さくしなきゃダメ、かな…。それと、速度にエネルギー使っちゃったから射程が短いのかな」

大まかなヒントしか聞いてないので、色々と思考錯誤をしながら魔術を放つ。が

「…まだまだだね…ふーむ」

あまり上手くは行かず、まだまだ先は長そうだった。

………

「やはり、ここか」

ヤイバはベルセルクと共に、再び仮想戦闘室へと着く。

「いい時代になったものだ。この空間のおかげで、マテリアも特性も存分に使えてしかも死なない。まぁ、今回特性を使うのはヤイバだけだが」
「ほう?貴方は使わないのか」
「手加減されて不満か?」

ベルセルクに挑発されるが、ヤイバは微笑を浮かべて首を横に振る。

「不満といえば不満、だが…実力差が分からないほど馬鹿ではない。甘んじて受け入れよう。…が」
「…?」
「私と訓練し、特性を使うに値すると感じたら見せてくれないか?ご褒美に、な」
「フフ、変わった奴だ。良いだろう、約束する」
「感謝する」

二人は笑い、ベルセルクが機器を操作する。

「設定はシンプル。一対一の戦闘を繰り返し行う。当然死にはしないし怪我も無いが、疲れは残る。私から見てヤイバの体力が限界になるまで何度でも戦う。ここまではいいか?」
「ああ」
「良し。…で、最終目的はヤイバの剣術…落葉の完成だ。私から見るに、落葉は数ある剣術の中でも特に対応力に優れた流派だ。故に、私は一戦毎に戦い方と得物を変える。あらゆる相手との全力での戦い、を擬似的に行うという事だ。…まァ、剣術に完成というモノは無いが…意味は分かるだろう?」

ヤイバは頷く。

「ああ。要はどんな敵とも渡り合えるだけの実力を身に付ければ良いのだろう?落葉はそれを可能にする柔軟性がある。父から教えられた所だけではなく、その先をこの戦いで見付ける。…胸を借りるぞ、ベルセルク・エーネル」
「良いとも。…楽じゃ無いぞ、覚悟しろ」
「愚問だな」
「フッ…」

ベルセルクとヤイバは共に、戦闘室へと入る。景色は一瞬にして、無機質なモノから道場の内部のように変化していく。

「…良いセンスだな」
「形から入るタイプでな。…さぁ、マテリアを抜け。私はまず、これで相手になる」

ベルセルクは腰に着けた鞘から、紅色に光る刀を抜いた。ヤイバはそれを見て驚いた。

「…『紅雲』…!大昔の名匠が打ったとされる、世界に数本しかない刀だな」
「ああ。ジャロス家はそのうちの一本を所有しており、兵士長になったときに渡された物だ。…ここまで、手に馴染む刀は中々無い。手足のごとく操れるぞ」
「…俄然、楽しみになってきた」

ヤイバも、両手にマテリアを握った。

「…来るがいい、ヤイバ」
「では…!」

ヤイバは足に力を込め、突きの姿勢になる。同時に、特性も発動した。これで身体能力は更に上がる。

「『電光石火』!」

一瞬にして前へ跳びだし、ベルセルクの眼前まで刃の切っ先が迫る。ベルセルクは予想外の速さに驚きながらも、姿勢を下げて突きを避ける。そして、手を下に落とす。

「ハッ!」

そのまま斬り上げ、ヤイバの刀を上へと弾いた。上へと飛んでいく刀を見た後、ヤイバは後ろへ下がる。が

「『村雨』」

ベルセルクは一歩前に出て、横凪ぎに大きく刀を振り、分厚い衝撃波をヤイバへと飛ばす。ヤイバは咄嗟にもう一方の小さい刀を前に翳す。

「ぐ…!」

なんとか衝撃波を防ぐも、横腹に切り傷を負う。痛みも血も出ないが、ダメージを受けてしまっていた。

「…ふむ。硬いな。そちらの小さな刀は防御用か」
「そうだ。小さい分、折れにくく硬い。盾の代わりだ」
「なるほど、面白い」

少し言葉を交わし、お互いが後ろに下がる。
ヤイバは平然とした表情だが、内心では驚いていた。

「(…奇襲のつもりだったが、こうもあっさりと対処されるとは。やはり強い)」

奇襲をなんなく防がれ、次の手を考えるヤイバ。だが、今度はベルセルクが前に出る。

「ふっ!」

ベルセルクは下から上へ刀を振り、ヤイバは小刀でそれを防ぐ。ヤイバは反撃すべく、左手の肘をベルセルクに向ける。

「『リーフブレード』

腕に生えた葉を鋭く尖らせ、ベルセルクの腹を目掛けて伸ばす。ベルセルクはそれを見て、小さくジャンプして避けた。空中に浮いたまま、ベルセルクは刀を強く握り締めた。

「ハッ!」」

そして、刀をヤイバへと投げた。予想外の行動に驚くも、ヤイバは冷静に小刀で紅雲を弾き飛ばす。…が、目の前にベルセルクが迫っていた。

「『インファイト』」
「くっ…!」

ベルセルクはヤイバの懐へと潜り、腹を連続で殴った。ヤイバが怯んだ隙に、ベルセルクは刀を拾って構える。

「『村雨』」
「まだだッ!」

再び横凪ぎに振られた刀をヤイバは何とか小刀で防ぐ。だが、ヤイバの腹を横一線に斬撃が走っていた。

「な…!防いだ…筈…」
「……『サイコカッター』だ」

ヤイバはベルセルクを見ると、ベルセルクの肘に付いた刃のような突起がエネルギーを帯びていた。ヤイバは小刀で刀は受けたものの、連続で放たれたもう一発の攻撃を防げなかった。二重に放たれた剣撃を、猛攻に焦ったヤイバに防ぐことは不可能だ。
ヤイバの体に走った光の様な仮想の傷が、徐々に戻っていく。

「…まずは一戦、だな。予想以上に防ぐじゃないか、ヤイバ」
「…礼を言う」

満足気に笑うベルセルクに、ヤイバは苦笑いを溢した。
━最初から最後まで、ベルセルクは上を行っていた。しかもまだ全力を出しきってはいない…呆れた強さだ。底がまるで見えない。…だからこそ、その全力が見たい…!なんとしても!

敗北に落ち込みながらも、ヤイバは心から楽しんでいた。遥か格上との戦闘。ヤイバにとっては最高の経験だ。

「ま、始まったばかりだ。これから幾重にも刃を交える事になるだろう。…私に特性を使わせてみろ、ヤイバ」
「臨むところだ」

ヤイバの返事にベルセルクは笑い、今度は細い槍を手に持った。片手で持てる、軽い槍だ。

「…次は長物で行こう。先程とは間合いが違うぞ。適応しろ」
「心得た」

ベルセルクは片手で器用に槍を回し、ヤイバに穂先を向けた。

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想