誰かの為に強くなる 4

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読了時間目安:9分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

遅くなりました
「ぜぇ…ぜぇ…」

ヤイバは残り少ない体力で、辛うじて刀を握る。既に戦闘は七時間半経過し、疲労は限界近くまで溜まっていた。

「残り…三十分…!気張るよ、ヤイバ!」
「あぁ…!やるぞ、ルーナ!」

ルーナも疲れ果てているが、気力はまだ残っていた。
そして、休む間もなく仮想ポケモンが襲いかかる。

「せぁ!」

ヤイバは鋭い突きを放ち、ルーナは銃弾のように炎の魔術を打ち込む。疲れは手先まで来ており、手が震えている。
それでも、二人は止まらない。

「ルーナ!左は任せた!」
「了解!」

二人は息の合った連携で、疲れ果てた体でもスムーズに敵を倒していく。その光景に、ベルセルクは笑う。

「仕上がった、な。鍛えるのが楽しみになってきた」

思った以上に成長した二人に、ベルセルクは満足したようだ。

………

機械音と共に、無機質なドアが開く。そこから、フラフラとした足取りでヤイバとルーナが歩いてきた。
近くにある椅子へと座り、項垂れる。

「ぜぇ…クリア…したな…」
「うん…はぁ…」

試練にはクリアしたものの、喜びよりも疲れが上回っていた。仮想戦闘室から出た時に、浴びた返り血は全て消え去っていた。

そこに、ベルセルクが歩いてくる。…何故か、睨み付けるような目をしていた。

「良くやった二人とも。文句なしの合格だ」
「礼を言う…が、…なにか怒らせたか?」

ヤイバはベルセルクの表情を見て思わずそう尋ねた。ベルセルクは呆気に取られた顔になり、微笑を浮かべた。

「ああ…お前達が戦っている間、モニターを見ていたからな。少し目が疲れただけだ」
「ずっと…!?暇なんですか…?」
「…む、失礼な。試練をけしかけた以上、私がここから離れる訳にはいかないだろう」

ベルセルクは不満気な顔になり、その真面目さにヤイバとルーナは笑った。

………

「とりあえず今日は休むといい。歩くのすらままならんだろうからな。…正直、予想以上の成果だった。ヤイバはともかく、ルーナまで合格するとはな。侮っていた事を謝ろう」
「いえ!そんな…。私だって、自分がここまで戦えるとは思っていなかったですから…」

ミラウェル内にある休憩所にて、ベルセルクはヤイバ達にコーヒーを奢りながらそう話した。
三人は椅子に座る。

「身体能力と剣術が優れているヤイバと、パートナーのメンタルと戦闘のサポートをこなすルーナ。私が思っている以上に良いコンビだな。お前達の力なら、ディザスタとも戦える。…懸念していたポケモンとの戦いにおける心構えも…先程の試練で大分様になっただろう。…荒療治だがな」

そうベルセルクが話すと、二人は複雑な表情を浮かべた。

「…未だに慣れはしない。だが、戦わなければならないのなら、せめて苦しませずに殺す。甘いのかもしれないが…そうしようとは心に決めた」
「私も同じです。いくら敵でも、イタズラに命を奪うような真似はあまりしたくはない…だからって逃げるつもりも無いですけど」

二人の答えに、ベルセルクは目を瞑りながら頷いた。

「それでいい。それが正常だ。いかなる理由があろうとも、簡単にポケモンを殺せるのは既に狂っている。第一ディザスタとの戦いでも敵を無力化出来るのなら殺す必要は無い。ただ」
「殺さなければ仲間が死ぬ。殺さなければ終わらない…そうなった時に、躊躇をしない事が大切だ。戦いにおける躊躇いは致命的だ。これだけは肝に命じておけ」

ベルセルクの真剣な表情に、二人は頷いた。
満足そうに微笑をした後、ベルセルクは更に続けた。

「…十歳になる頃…だったか。私が初めてポケモンを殺したのは」
「え…」

ベルセルクの言葉に、二人は驚く。

「捕らえた敵兵を、私が殺した。これは新兵が皆行ってきた儀式のようなモノでな。この儀式を突破した者だけがジャロスの正式な兵士として認められた。…震える手で命を奪った時、盛大に嘔吐したものだ。…しかし慣れというのは怖いもので、戦う内に殺すことに躊躇が無くなる。十五歳にもなれば、一切の躊躇いが消え去っていた。私は、とっくに狂っていた」

「急な自分語りになってすまない。…お前達を最初に見たときに思い出したんだ。殺すことを怖がっていた、青く幼い自分を。お前達は狂うな。私のように残酷にはなってくれるなよ。私には無かった慈悲の心を、どうか無くさないでくれ」
「…ああ!」
「はい…!」

ベルセルクの心からの言葉が、二人を激しく揺さぶった。

………

次の日、二人は再び支部長室へと足を運んだ。中にはベルセルクとミロカロスがいた。

「来たな。約束通り、修行を手伝ってやる。ヤイバは私が」
「そんでルーナは私、ミロカロスが手伝うわ。私は忙しいから一人でも出来るメニューを組んであげたわよ」
「ミロカロス様まで手伝ってくれるんですね…!」

ルーナは驚く。王族が直々に手伝ってくれるのだから当然の反応だ。ミロカロスは微笑み、尾をヒラヒラと動かした。

「ベルセルクが認めたポケモンよ?そりゃ手伝うわよ。私はベルセルクを信頼してる。そのベルセルクが認めたのなら…断る理由は無いのよ」
「フ、買い被りじゃないか?」
「んなこと無いわよ。信頼してるわ」

ベルセルクは照れ臭そうに頬を掻き、咳をする。

「…ヤイバは私と模擬戦闘をしながら、落葉を形にする。今のヤイバなら、必ず自分の技を作り出せるだろう」
「…ああ。約束する」

良し、と頷きベルセルクはヤイバを連れて仮想戦闘室へと向かう。それを見てからミロカロスはルーナと共に外へと向かった。

………

「…ここは?」

ルーナ達が着いたのは、大きな木の板が無数に並んだ広い荒野のような場所だった。

「元はジャロス兵士の訓練場でね、今はミラウェル兵士の魔術練習場として使ってる。ほら、あっちで練習してる兵士がいるでしょ?」
「あ、本当だ」

良く見ると、あちこちに兵士がいて木の板を狙い魔術を放っていた。

「それで…私はどういう訓練を?」
「簡単に言えば、通常魔術の範囲を伸ばす訓練かな。本当はもう一つ訓練を組む予定だったけど…昨日の試練で君はそれを身に付けた」
「…あ、もしかして…」

ルーナは昨日の事を思いだし、頷いた。

「そ、『クイックファイア』。速く威力の高い通常魔術だね。実はあれも結構難しいのよ?小さく濃いエネルギーを込めて近距離だけど高威力の魔術。魔術の範囲を狭める事で格段に威力が増す高等技術さ」
「そうだったんですね…あの時は必死で…」
「アハハ、みたいだね。…で、今回やるのはそれを更に応用したモノさ」

ミロカロスは口を開け、小さな水のエネルギーを空中に浮かべた。

「遠くに、赤い板があるのはわかるかい?」
「えと…はい。見えます」

ギリギリ目視出来るほどの遠さに、一際目立つ赤い板が見えた。

「今からあれを撃ち抜くね」
「えっ!?」

━━そんなバカな。100メートルや200メートルなんて距離じゃない…!それを、こんな小さなエネルギーで…!?

ミロカロスが浮かべた水のエネルギーは、1センチ程の大きさしかない。

「まぁ見てて。『ネロショット』」

ミロカロスは魔術名と共に、小さなエネルギーからレーザーの様な魔術を放った。そして…ミロカロスは望遠鏡をルーナに渡す。

「はい。多分当たったよ」
「…!うそ…」

望遠鏡で赤い板を見ると…中心にほんの小さな穴が空いていた。信じられない、という表情のルーナを見てミロカロスは笑った。

「嘘じゃないよ。これが、対アンノウンでもポケモンでも使える戦闘技術さ」
「という事は…今からこれを練習すると?」
「そう。まぁ最初はもっと近い距離から初めて良いけどね。最終目標は赤い板だけど」

ルーナはその言葉に、渇いた笑いがこぼれた。

「その…コツとかありますか?」
「コツねぇ…いかに小さく濃いエネルギーを込めるか、かな」

ミロカロスは説明を始める。

「エネルギーを多く使いつつ、サイズを小さくすればそれだけエネルギー密度の高い弾が出来る。言ってしまえばそれだけなんだけどね。小さく濃い通常魔術は威力が高い。威力の高さはすなわち、持続力の高さとも言えるね」
「へぇ…」

興味深そうにルーナは頷く。

「…あァそれと、魔術のタイプで超射程魔術の得意不得意があるよ。ルカリオやガイラルが使う波動弾は、対象に当たると爆発する。そんで私やルーナは対象を貫く。貫通力に優れた私達は超射程魔術をやりやすいんだ」
「どうしてですか?」
「貫通する事にエネルギーが込められているからね。それはつまり威力を一定に保ったまま遠くまで距離が伸ばしやすいってこと。一方爆発するタイプは射程よりも爆発することにエネルギーが込められてるから、その分距離が短くなる。…ここまではいいかな?」
「はい、大体は…」

ミロカロスは良しと頷く。

「じゃ、とりあえずやってみてね。エネルギーが枯渇するまで思考錯誤しながら、赤い板に当てる事に集中して。大丈夫、君なら出来るよ」
「はい!」

ルーナの返事にミロカロスは笑い、その場を後にした。

超射程魔術
別名「スナイプ」。小さく威力の高い通常魔術を遠くまで飛ばす高等技術。向き不向きがあるので誰でも使える訳ではない。
サーナイトが使った「サイコバレット」も射程は長いが、あれはエネルギーで作った銃弾を銃で撃ち出しているので厳密には「スナイプ」ではない。

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