第111話 ポケモンリーグ・シロガネ大会 第二予選

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「そこまでっ!」

 タカヤマの声がリーグ試験会場に響きわたる。五十分があっという間に過ぎて行ってしまった。それぞれに満足げな顔をする中、ひどく沈むような、浮かない顔をしていた人物が一人。ガラス越しの日差しをモロに受けているのにも関わらず暗い。
 十時五十分と指している時計にマイは絶望して背もたれに身を預け天を見上げていた。『とりあえず答えを全て書いてみたものの、全く分からなかった』そんな顔だ。青ざめて生きている気配がないマイにいち早く気づいた自称マイの将来の花嫁のアヤノが心配して席を立ち、マイの横でちょこんと腰を下ろし、膝立ちの状態であごを机に乗せ話しかける。

「もしかして体調不良?」
「ウン」
「いや、問題が解けなかったんだろ?」
「ウン」
「ウンしか言ってないぞー?」
「ウン」

 上から順にアヤノ、コウ、ソラ。再起不能のマイは勢いよく顔を机に突っ伏した。コウは顔を見せないマイの頭をちょん、ちょん、と指先で触っていて、励ましているようにもみえた。
 十一時、採点が終わった用紙が配られる。仕事が早いぞ!

「わっ九十八点!」
「すごいじゃないか、アヤちゃん!」

 マイを除く三人が歓喜の声を上げる。で、マイは? と一斉に視線はマイに。

「こ、これっス」

 ガタガタと震える手で解答用紙の端っこをつまむマイに三人は目を丸くした。

「じゅ、じゅうさん点……!?」

 読み上げたコウの声は震えていて、怯えすら感じ取れる。一瞬だけ、これは何点満点だっけ、なんて現実を反らしたくなる四人だったが、ここで天使の一言が部屋に届いた。

「先程の試験と、今からやる一般トレーナー試験、そして面接で予選は終了します。ですが、いい点数と取ったからと言って合格できるわけではないですよ。気を抜かずに最後まで頑張ってくださいね」
「もうこれしかない……。わたし、次の試験で満点取るしかない……」

 合計点数が高いのが合格ではない、そう聞いてマイは少しだけ安堵した。そして、前回同様配られる問題用紙に目を向けると『トレーナー試験:ポケモン知識』を確認。今度こそ大丈夫だ、マイは気合を入れなおす。頬をぺちぺちと両手のひらで叩いて気合を入れると合図と共に問題用紙とバトル開始!

『問一.ポケモンには様々なタイプが存在する。例:炎タイプ、水タイプ、草タイプなど。では、近年見つかった新種のタイプとは何か。タイプとそのポケモンの名前を答えよ』
(あ、これは分かる。鋼タイプ、ハガネール、と)

 先程のように慌てることなくペンが進んだ。『ハガネタイプ・ハガネール』女の子らしい丸文字で書いている途中にマイは旅の途中で出会ったジムリーダー・ミカンを思い出した。灯台にいるアカリちゃんと元気にしているのかな、またジム水没させるようなトレーナー出てないかな、なんて余裕まで出てきている。(ジムを水没させたのは後にも先にもマイだけです)

『問五.ポケモンの進化条件には、特別な力を持つ石を使ったり、朝と夜の時間差を利用して進化したりするポケモンがいるが、中には石も時間も関係ないもので進化するポケモンがいることが近年の研究で分かった。その進化条件とは何か?』

 ずいぶんと長文で書かれているが、ようは懐き進化という訳。マイはちゃんと答えが分かっているが、その答えと理由をどのようにして書こうか悩み、下唇を指先でとんとん触る。

(ポケモンにいっぱい大好きな気持ちをこめて接してあげる、でいいかな!)

 なんともファンタジーな答えになった。それからもつまずきながら答えを書いていく。そして、ついに最終問題。

『問二十.君にとってポケモンとは何か?』
(ポケモンとは何か? わたしにとってのポケモン……)

 短い、たった一言で終わるような最終問題に頭を抱えるマイ。今まで当たり前すぎて考えたこともなかった。試験の残り時間はあと三分。

(仲間、友達。それはそうだけど、ちょっと違うな。ゴールドにとってポケモンは相棒だって言ってた。けど、わたしにとったらポケモン……それは)

 最後の最後まで粘ってだした答えにマイは照れくさそうにしていた。タカヤマの声が響いて試験は終了。採点が終わるまで、あと二十分。緊張した空気に誰一人とも口を割らなかった。

◆◆◆

「みなさん、お待たせしました。採点が終わりましたので問題用紙を返します。解答用紙もついているので、昼食を食べた後、ゆっくりと答え合わせをどうぞ。面接は午後二時からですので、この部屋にまた集まっていてくださいね」

 解答用紙を配るタカヤマに我先にと挑戦者達が点数を確認、あっちこっちで歓喜する声や落胆する声が聞こえる。試験の結果は午後の五時にリーグ外の掲示板に張り出す予定だ。

「うーん、満点じゃなかった……」
「俺もです。ん、アヤもそうみたいだな」
「ええ、ここ凡ミスしてる。で、マイ?」

 次々と挑戦者が昼食のため部屋から出て行く中、サニー組の四人はマイの机に集まった。問題用紙をぐしゃ、と手で縦につぶした手は震えていて、顔が赤くなっていた。ソラがごめんな、と一言入れてから問題用紙を開く。

「えー!?」
「ままままままマイ!?」
「おい、まじかよ!」

 三人が驚くのは無理もない。一般試験で十三点だったマイが、あれだけ熱心に教えたマイが。

「満点どころかプラス五十点だと!?」
「極端な子!!」
「おめでとうマイちゃん! これなら絶対試験合格だ!」

 ぽろぽろと涙を流すマイにアヤノも鼻を赤くして抱き付いた。髪から女の子らしいシャンプーの匂いに覚醒したマイはリュックを机に置いて弁当を取り出した。

「さっそくお昼ご飯かよ! ゴールドさんに連絡しろよ!」
「だってぇええこんな泣いてるのに無理だよぉおお」
「泣きながらご飯食べてると余計に悲しい子に見えるわ……」

 可愛らしい弁当箱を広げるとメモが入っていることに気づいた。ゴールドらしいガサツな字にマイはそこではじめて笑った。

「えへへっゴールド……ありがとう。でも、なんて書いてあるか読めないよぉ」
「貸してごらん、俺が読むよ」
「なに、その口調。えっ、コウちゃん?」

 漢字の文章にコウはにらめっこをした後に感情を込めて読み上げた。

「マイ、試験お疲れ。結果は残せたか? ちったぁ俺が教えた所も出ただろ、あとで問題用紙見せろよな。デザートは最後に食べろ! だってよ、マイ」
「うううっ言うのが遅いよおおお」
「さっそくデザートから手を付けてる……」

 ゴールドのメモに感動させられて更に涙が溢れてくる。マイは弱っているととことん弱くなる。情に弱い。
 四人で昼食を食べ終わるとマイはポケギアの電源を入れ直してゴールドに一般試験はボロボロだったが、トレーナー試験は満点以上の成果を残せたと報告をした。残りは面接のみだが、大人を自分のとりこにするのが上手なマイは余裕な顔をして面接に臨むのであった。

◆◆◆

 午後四時五九分、別室で行われた面接を終え準備室にいた受験生達三六人とバッジ所有者四人、合わせて四十人が掲示板の前に今か今かと待ち構えていた。掲示板の周りには柵がしてあって一般人は近づけない。
 そして一分後の五時。時間を告げるホーホーが大きな掲示板の上に四匹とまっていた。掲示板には試験結果が見えないように白いカーテンがされていたので、それを引っ張り上げるためのホーホーだったらしく、四匹は時間になると上に運び飛び去り、カーテンが外された。

「「「「 ――! 」」」」

 四十人の瞳が掲示板に集まる。一体誰の名前が掲示板に書かれているのか。

「あった! 私の名前!」
「俺の名前も!」
「おー、みんな揃ってるな!」

 アヤノが自分の名前を見つけて、その下にコウの名前が、さらにその下にソラの名前が書かれていた。しかし、書かれているのは七名。残りの一名の名前が空白のままだった。
 騒然とする中、ポケモンリーグの中から現れたのはオーキド博士。突然の大博士の登場によって会場はさらに騒然とする。まるでここは、数年に一度しか行われないようなお祭り会場みたいだ。

「さあ、残りの一人。最優秀選手を発表するぞ!」

 その中でマイだけが騒げずにオーキド博士の口をじっと金色の瞳で一点だけを逃さないように見つめていた。

「最優秀選手、それは……マイ! 君だ! 最後の問題の答えといい、他の答え、全て斜め上の解答じゃった! 君はポケモンリーグ・シロガネ大会に相応しいトレーナーじゃ!」

 オーキド博士はリーグの十段程の階段を降りてくると、あまりの驚きに息をするのを忘れているマイをすぐに見つけて握手を交わした。

「君にとってポケモンとは何か、素晴らしい解答。ワシからも礼を言わせてくれ。ありがとう!」

 大きな声を出された事でようやくハッとして目の前にいる、このまえ研究所で見たままのオーキド博士を見て呼吸ができた。

「あ、ありがとうございます……えへへ」

 力強く握られる手をマイはしっかり感じ取り最高の結果で終わった。これから八人で行うトーナメントは試験以上に難しく、厳しい戦いになる。戦士の休息を、とオーキド博士はトレーナー達を拍手で送った。

◆◆◆

「マイ、おめでとう! やったじゃねぇか! さーて、試験問題を見せてもらおうじゃねぇの!」
「ありがとう! ゴールドのおかげだよ! いっ一般試験はアレだけど……トレーナー試験なら見てもいいよ! 完璧だからねっ!」

 柵から出るとゴールドがお出迎えをしてくれた。頭を思い切り撫でまわされてくしゃくしゃになった髪も今ではどうもいいみたいだ。視界の端に見えたタカヤマさんは涙を流してウツギ博士に電話をしていた。

「うぐっ! ばがぜ! あなたの娘さんはよくやりまじだぁ! 帰ってきたら褒めてあげてぐだざっ!」

 おそらくこの会場の誰よりも泣いているタカヤマ。

◆◆◆

 帰り道、マイとゴールドは家が近いのでポケモンセンターや選手村(と言っても簡易的なカプセルホテル)に行く事なくゴールドの家に向かっていた。
 午後の六時は過ぎた頃、彼らを柔らかく包んでいた夕日はとっくにどこかに行ってしまった時刻。

「なあ、マイ。君にとってポケモンとは何かって答え、なんて書いたんだ?」

 ソワソワとした様子でズボンのポケットに手を入れて落ち着きのないゴールドに、オーキド博士の言っていた「君にとってのポケモンとは何か」の答えるが気になっていたようで、それを聞かれた。
 マイはとくに恥ずかしがる訳でもなく言う。

「家族、それがピッタリだと思ったの。わたしにとってポケモンは家族なんだよ!」

太陽に真っすぐ向き合う向日葵みたいな笑顔でマイは高々に宣言をするのであった。

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